信州カラマツの家

椎野潤ブログ(塩地研究会第六回) 信州カラマツの家

 

文責:文月恵理

昨年、ウッドデザイン賞を受賞した「ドローンtoハウジング」構想が、「新しい林業」に向けた経営モデル実証事業の一環として実現しようとしています。長野県の木島平で皆伐が予定されている林分を、信州大学と、そこから発したベンチャー企業の精密林業計測がドローンと地上レーザーで計測し、立木の状態で利用可能材積を算出、設計図書と照合して最適な伐採・造材をシミュレーションします。森林組合がそれに基づいてハーベスタで造材し、その木材を使って松本市内に住宅を建てる計画です。森林直販に向けた大きな一歩になることは確実で、詳細な分析を通じて事業化への課題を拾い上げ、克服する道を探ろうとしています。

長野県の人工林の多くを占めるのはカラマツです。国の木材統計によると、長野県の2021年の素材生産量は46万㎥、その55%がカラマツで25.5万㎥、次がスギで23%(10.6万㎥)、次がアカマツ・クロマツで10%(4.7万㎥)、ヒノキが9%(4.2万㎥)となっています。しかしカラマツは無垢で使われることが少なく、ほとんどが合板用に買い取られていきます。強度も高く梁桁に使えそうな立派な木が合板になるのは残念ですが、カラマツは乾燥後にも狂いが生じやすく、無垢材を建築に使うのは難しいとされているからです。それを大型パネル化することで抑え込み、山と住宅を直線で結ぶことで流通コストを下げ、原木の価値を上げる、そんな夢を描いての挑戦です。

カラマツの製材が成否の鍵になると、先日関係者が、三代続くある製材所を訪ねました。年間の原木使用量は約3,000~5,000㎥、扱う材の9割はカラマツだそうです。カラマツは地域によって性質が大きく変わると言われ、この製材所では佐久地域の北斜面で育った木という条件をつけて市場から原木を仕入れているそうです。たまに違うものが混じっていると、目利きの専務さんがすかさずクレームを入れるとのこと。そんなやり取りを重ねてきたせいか、仕入れた原木で製材品にならないものは100本に1本程度という話でした。製材所の敷地内には、断面が120㎜×240㎜といった見事な平角も出荷を待っており、技術の高さが伺えます。今回の伐採予定地は木島平ですが、地形を確認したところ、幸い北斜面でした。

ここの乾燥庫は80℃程度で、構造材は約2週間入れた後、3ヵ月養生してからモルダーをかけるそうです。杉の場合は一週間から長くても1か月ですから、カラマツがいかに乾燥後も曲がりやすいかがわかります。また、カラマツは堅いので、打った釘が曲がってしまい、間柱などの羽柄材には向かないと聞いていました。しかしこの製材所では羽柄材の生産も行っています。使えるかどうかは家を建てる大工さん次第、今回は大型パネル工場との調整になるでしょう。住宅の質を落とすことはできないので、カラマツをどこにどれだけ使うのかは、関係者間の慎重な検討を経て決まるはずです。

地域の材を使うと言っても、それまでできなかった事には幾つもの理由があり、一筋縄ではいきません。今回も、製材所が他地域のカラマツを受け入れてくれるのか、カラマツの無垢材が金物工法に耐え得るのかもまだ未確定です。それでも挑戦することで、何がどこまで可能なのか、ダメなものはその理由が明らかになり、次に進むべき方向が見えてくるでしょう。

今月中には雪の残る森で現地調査を行い、林業関係者の立ち合いの元で伐採木を選定、どのように造材するか、ハーベスタへのワークオーダーを作るといった作業が進む予定です。世界初の、設計図書から逆算した伐採・造材による住宅建築が、信州の森で始まろうとしています。

 

まとめ 「塾頭の一言」 酒井秀夫

誰しも一度は鳥のように自由に空を飛べたらと思うことがあったと思います。飛行機やヘリコプターで空を飛ぶことはできますが、所詮は箱の中です。ドローンは人類が夢にしてきた機能を少しずつ代替してくれてきています。

今までは、丸太を市場に出荷して、欲しい人が買っていくという産業構造でした。あるいは、住宅に必要な資材を得るために、製材屋さん自ら山中を歩き回って調査していました。精度を高めようとすれば、人手もかかりました。設計図書に基づいて伐採・造材を逆算して住宅建築に直結させていくという試みは、まさに林業のコペルニクス的転回です。

カラマツは、1本の木から製品が11にも13にもなると聞きます。無駄のない木ですが、その分、採材は手間がかかります。しかし、AIを搭載したハーベスタなら瞬時に処理が可能です。カラマツを適材適所で余すところなく使っていただければと思います。ただ、材がまっすぐか、腐れはないかなど、まだ課題があると思いますが、解決できない課題ではないと思います。

カラマツは適応性が高いという反面、病虫害などに弱い樹種です。しかも種子の豊凶差が大きく、周期も5年から7年で安定していません。かつてはとにかく種子が欲しいということで、採りやすい場所で素性のよくない木からも種子を採らざるをえなかったことがあったと聞きます。そんな木がカラマツの評判を大きく落とした可能性もあるかと思いますが、今は乾燥技術も長野県の試験研究機関のおかげで確立されています。ドローンの調査結果からカラマツの適地を抽出し、さらに環境に強く、長命で素性のよい木を見つけ出し、その種子を保存しながら毎年継続して育てていくことができればと思います。種子もドローンで採種できるようになればと思います。息の長い話しになりますが、100年後の建築士や林業技術者が今を振り返った時に、カラマツ革命があったのだと驚かせたいものです。今年がそんなカラマツ元年になればとわくわくしてきます。

 

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