□ 椎野潤ブログ(芦田拓弘) Eco Forest Friendlyが描く未来と地域循環の構想
株式会社Eco Forest Friendly/株式会社あしだ
代表取締役 芦田 拓弘
これまで、家業に戻った理由、林業の現場で見えた課題、そして木材流通システム開発について書かせていただきました。最終回となる今回は、私が立ち上げた株式会社Eco Forest Friendlyが描いている未来について書きたいと思います。
Eco Forest Friendlyという名前には、「人と森が、よりよい関係を結べる社会をつくりたい」という思いを込めています。林業は、山の中だけで完結する産業ではありません。木材は建築や暮らしにつながり、森林は水や空気、防災、生物多様性、景観、観光、教育、地域文化につながっています。しかし現代社会では、多くの人にとって森林は少し遠い存在になっています。山が荒れていても、日々の暮らしの中では気づきにくい。木材を使っていても、その木がどこの山から来たのか分からない。企業が脱炭素に取り組もうとしても、地域の森林整備とどう接続すればよいのか分からない。消費者が環境に良い行動をしたいと思っても、具体的に何をすれば森につながるのか分からない。この「分からない」を少しずつ解消し、人と森の距離を近づけることが、Eco Forest Friendlyの役割だと考えています。
私が描いている未来は、森と街が切り離された社会ではありません。森で育った木が街をつくり、街で生まれた資金が森を育てる。その循環が、地域の中で当たり前に回っている社会です。
具体的には、「植林 → 林業 → 製材所 → 木造パネル建築 → 植林」という流れを地域の中で実装していくことです。
植林によって未来の森を育てる。
林業によって森を守り、資源を活かす。
製材所やプレカットによって地域材を建築部材へ加工する。
木造パネル建築によって、地域材を街の建物として活用する。
そして伐採して空いた森林に、また植林を行う。
この循環が動けば、木材利用は森を減らす行為ではなく、森を育てる行為になります。もちろん、ただ木を使えばよいわけではありません。大切なのは、森林資源の状況を把握し、過度な供給や森林資源の枯渇を防ぎながら、適切に使い、また植え、育てることです。そのために必要なのが、DX化です。
膨大な建築データから、AIが最適な木造建築を導き出す。建物の概要を入力すると、木造の3Dモデルや概算積算を自動で作成する。さらに、その建物を建てるために必要な地域材の供給サプライチェーンや、活用可能な補助金情報を可視化する。これにより、地域材建築は「理想」から「実行可能な計画」へ変わります。施主は、建てたい建物の完成イメージをその場で確認できる。工務店は、地域材を使った提案をスピーディーに行える。製材所やプレカットは、建築需要に合わせて必要な規格を把握できる。林業側は、必要な丸太をどの山から供給できるのかを計画できる。このように、設計と供給が同時につながることで、地域材は「使いたい材」から「使える材」になります。さらに、私はこの仕組みを単なる木材流通の効率化で終わらせたくありません。地域材が使われることで、植林や間伐などの森林保育活動が促進されます。森から街へ木材が運ばれ、街で地域材の建物が建ち、その収益がまた森へ戻っていく。これによって、森の循環が生まれます。そして、その循環をさらに強くするために重要なのが、森林由来J-クレジットとEcoPayの活用です。
森林保育や森林管理によって生まれるCO₂吸収の価値をJ-クレジットとして可視化し、それを地域の決済や企業活動の中で活用する。たとえばEcoPay Visaを通じて、地域での消費や企業の福利厚生、観光、イベントなどと森林保全をつなげることができます。
決済が行われる。
森林由来のJ-クレジットでCO₂をオフセットする。
その資金が地域の森へ還元される。
次の植林や間伐、森林保育につながる。
これは、単なる環境活動ではありません。
地域でお金が使われ、その一部が森へ戻り、森が整備され、地域材が建築に使われ、また地域経済が動く。そうした循環をつくることが、EcoPayの目指す姿です。EcoPayで目指しているのは、単なる決済手段の提供ではありません。地域の商店、行政、企業、森林所有者、林業事業体、金融機関、学生、消費者をつなぐ地域循環のプラットフォームです。例えば、地域のイベントでEcoPayを使う。参加者は地域のお店で買い物をする。店舗には売上が生まれる。決済の一部やJ-クレジットの仕組みを通じて森林保全に資金が戻る。森林整備が進み、地域材が活用され、木材流通や建築にもつながる。さらに、その取り組みが企業の脱炭素や地域貢献の証明にもなる。
このように、お金、木材、環境価値、人の関係性を地域の中で循環させることが、私たちの構想です。
特に重要だと考えているのが、森林の価値を「木材価格」だけに閉じ込めないことです。森林には、CO₂吸収、水源涵養、防災、教育、観光、文化、景観など、さまざまな価値があります。しかし、それらはこれまで経済的な循環に乗りにくいものでした。J-クレジットや企業の脱炭素ニーズは、こうした森林の環境価値を社会に届ける一つの手段になります。ただし、制度だけが先行しても、地域の現場に資金が戻らなければ意味がありません。大切なのは、森林の環境価値を、地域の林業や森林整備の継続にどう結びつけるかです。EcoPayや木材流通システムは、そのための道具です。道具そのものが目的ではありません。目的は、山に資金と人の関心が戻る仕組みをつくることです。
もう一つ、私が大切にしているのは、地域内の事業者が連携し、クラスターとして生産できる世界をつくることです。現在、林業、製材所、プレカット、工務店、建設会社は、それぞれの現場で努力しています。しかし情報が分断されているため、個々の利益主張が距離を広げてしまう場面もあります。誰がどの価値を担い、どの利益を得るのかが見えにくい。どの木材を、どの規格で、どの建物に使うのかが見えにくい。結果として、地域内にある資源や技術が、建築全体の最適化につながりにくい。そこで、DX化によって利益配分の透明化と適正化を進める必要があります。地域の森林資源状況、木材在庫、プレカット能力、建築需要、3Dモデル、木材流通状況を一つのデータでつなぐ。そうすることで、地域の木材コーディネーターとして、どの森林資源をどの建築に使うべきか、どの製材所やプレカットが対応できるか、どの工務店が施工できるかを可視化できます。これにより、林業同士が連携する。製材所・プレカット同士が連携する。建設・工務店同士が連携する。地域内でクラスター生産が行われる。分断された供給網を、DX化でつながる供給網へ変えていく。これが、Eco Forest Friendlyが描く地域木材サプライチェーンの未来です。
私は、環境貢献は特別な人だけが行うものではなく、日常の中に溶け込むべきものだと思っています。「今日は環境のために何かをしよう」と意識しなくても、地域でご飯を食べる、買い物をする、イベントに参加する。その行動が自然と森を育てることにつながる。地域の建物に地域材が使われることで、その建物を利用する人もまた森とつながっていく。そうした仕組みをつくることができれば、森林保全はもっと多くの人に開かれたものになります。
Eco Forest Friendlyが描く未来は、決して大きな資本だけで森林を管理する世界ではありません。地域の小さな事業者、森林所有者、学生、行政、企業、消費者が、それぞれの立場で森と関わり、その関わりが経済的にも社会的にも循環していく世界です。山を守る人だけに負担を押しつけるのではなく、山の恵みを受けている社会全体で支えていく。そのための接点を増やしていく。それが、私たちが目指す地域循環です。
家業に戻った当初、私はここまで広い構想を持っていたわけではありません。現場で課題に向き合い、人と出会い、地域の声を聞く中で、少しずつ考えが形になっていきました。林業は古い産業ではありません。長い時間軸を持つからこそ、これからの時代に必要な産業です。森を育てるには時間がかかります。だからこそ、今の世代が次の世代へ向けて仕組みをつくる必要があります。私は、林業アトツギとして、そしてEco Forest Friendlyの代表として、人と森をつなぐ新しい循環をつくっていきたいと思います。
地域材建築を通じて、地域の森を未来へつなぐ。
EcoPayを通じて、地域の消費を森の保全へつなぐ。
J-クレジットを通じて、森林保育の価値を社会へつなぐ。
DX化を通じて、分断された供給網をつながる供給網へ変えていく。
森で育った木が街をつくり、街で生まれた資金が森を育てる。
そんな循環が当たり前になる社会を、地域からつくっていきたいと考えています。
以 上