□ 椎野潤ブログ(芦田拓弘) 木材流通システム開発と森林・建築をつなぐ挑戦
株式会社Eco Forest Friendly/株式会社あしだ
代表取締役 芦田 拓弘
林業の現場に入ってしばらくしてから、私が強く感じた課題の一つが、木材流通の見えにくさでした。山には木があります。製材所には原木の需要があります。工務店や建築会社には地域材を使いたいという思いがあります。行政も地域材活用を進めたいと考えています。しかし、それぞれの思いがあるにもかかわらず、実際にはうまくつながらないことが多くあります。
山側から見ると、どのような材が、いつ、どれだけ必要とされているのかが分かりにくい。川下側から見ると、必要な材が、どこから、どれだけ、安定的に調達できるのかが分かりにくい。結果として、原木は出してから売り先を探す、建築側は必要になってから材料を探す、という後追いの構造になりがちです。この構造では、山側も建築側も計画が立てにくくなります。
山側は、価格が見えないまま伐採しなければならない。建築側は、地域材を使いたくても納期や品質、数量の不安から採用しにくい。製材所も、安定した原木調達と販売先の確保に苦労する。それぞれが努力しているにもかかわらず、全体としては非効率が生まれている。ここに、木材流通システムを開発する必要性を感じました。
私が考えている木材流通システムは、単なる受発注システムではありません。山の情報、施業計画、原木の出材予定、在庫、製材、プレカット、建築需要をつなぎ、川上から川下までの情報をできるだけ一気通貫で見える化する仕組みです。私が目指しているのは、「植林 → 林業 → 製材所 → 木造パネル建築 → 植林」という循環を、実際の地域の中で動かすことです。森で育った木を伐り、丸太を山から街へ運ぶ。製材所やプレカットで建築に使える部材へ加工し、地域材を使った木造建物として街に建てる。そして、伐採して空いた森林に再び植林し、次の森を育てる。この循環が生まれれば、木材利用は単なる建築材料の調達ではなく、地域の森を未来へつなぐ行為になります。
しかし、現実にはこの流れはまだ十分に実現していません。理由の一つは、これまで非住宅の中規模木造建築に取り組むための制度面や技術面のハードルが高かったことです。ただし、この点については近年、法改正により大きな追い風が生まれています。非住宅・中規模木造の可能性が広がり、地域工務店が住宅だけでなく、店舗、施設、事務所、公共的な建築などの非住宅分野で活躍できるチャンスが拡大しています。現在、一軒家の住宅需要は減少傾向にあります。その中で、地域工務店が新たな市場を開拓するためには、中規模木造や非住宅木造に取り組むことが重要になってきます。地域材を活用した非住宅建築は、工務店にとっても、製材所にとっても、林業にとっても、新たな可能性を持っています。
しかし、そこには大きな課題があります。一つ目は、建築側が施主の要望をその場で可視化しにくかったことです。施主が「こういう建物をつくりたい」と考えても、それをその場で木造の3Dモデルとして見せることは、これまで簡単ではありませんでした。設計図面を作成し、打ち合わせを重ね、修正し、再提案する。その過程には時間がかかります。大きなゼネコンであれば対応できることも、中小の地域工務店にとっては大きな負担になります。
そこで重要になるのが、AIを活用した3Dモデルの自動生成です。建物の概要を入力すると、AIが木造の3Dモデルや概算積算を自動で作成する。施主の要望をその場でヒアリングし、AIボットに入力することで、目の前で建物のイメージが立ち上がる。これにより、施主と工務店の会話が変わります。施主は、自分が建てたい建物をその場で確認できます。工務店は、会話をしながら提案を進めることができます。完成イメージが早い段階で共有されることで、合意形成も早まります。これまで時間がかかっていた「施主のイメージを設計に落とし込む作業」が、より直感的で、スピード感のあるものになります。
二つ目の課題は、その3Dモデルに必要な木材が、どこから供給できるのかが見えにくかったことです。地域材を使いたいと思っても、どの地域の森に、どのような丸太があり、どの製材所がどの規格に対応できるのかが分からない。地域ごとに供給しやすい樹種、サイズ、規格は異なります。それを一つ一つ工務店が把握し、設計図面に落とし込むことは現実的ではありません。結果として、建築側は商社や建材メーカーに依頼し、安定して大量に供給できる輸入材や既製規格の木材を使うことになります。地域に木があるにもかかわらず、その地域の木が建築に使われない。ここに大きな分断があります。この分断を解消するために、3Dモデルと木材流通システムを連携させる必要があります。建物の3Dモデルができた時点で、その建物に必要な木材の量や規格が分かる。さらに、それに対応できる地域の製材所やプレカット、木材在庫、供給可能な丸太の情報が可視化される。どの森から、どの製材所を通じて、どの部材が供給できるのかが一目で分かる。これにより、地域材は「使いたい材」から「使える材」になります。
三つ目の課題は、山側の情報がアナログであることです。建築側で必要な木材が分かったとしても、その原料となる丸太が、地域の山のどこに、どのくらいあるのかが分からなければ、供給計画は立てられません。そこで重要になるのが、FMSS、森林経営支援システムです。FMSSによって、山のどこに、どんな樹種の、どんなサイズの丸太があるのかを把握する。これにより、建築需要に応じて必要な原木を供給し、製材所やプレカットが必要な規格へ加工することが可能になります。つまり、建築側の3Dモデルと、山側の森林資源情報がつながることで、注文を受けてから、必要な丸太を供給し、製材・加工し、建築へ届ける流れが見えてきます。
四つ目の課題は、大工不足と現場負担です。現在、木造建築において大工不足は大きな課題になっています。これまで木造建築は、現場で高い技術を必要とする部分が多くありました。特に中規模木造や非住宅木造では、現場での施工負荷、工期、コスト、納期リスクが大きくなります。そこで重要になるのが、木造パネル化です。3Dモデルをもとに、建物を構成する部材を木造パネル単位に分割する。必要なパネルを工場や製材所、プレカット側で事前に加工する。そして、建築現場ではクレーンで木造パネルを吊り上げ、設置していく。この方法であれば、現場で一からつくるのではなく、あらかじめ加工されたパネルを組み立てる形になります。現場施工を省力化し、工期を短縮し、コストや納期リスクを分散することができます。
特に国際情勢が不安定化し、海外から材料が入ってこないリスクが高まる中では、地域内で木材を調達し、加工し、施工できる体制をつくることは、建築リスクの低減にもつながります。ここで重要なのは、建築側のDX化と、林業・木材供給側のDX化を同時に実現することです。建築側だけがDX化されても、地域材の供給情報が見えなければ、結局は輸入材や既存流通に頼ることになります。山側だけがDX化されても、建築需要とつながらなければ、地域材の活用先は広がりません。だからこそ、設計、木材供給、製材、プレカット、施工が、一つのデータでつながる必要があります。
私は、木材流通システムは「地域の木材コーディネーター」の役割を担うものだと考えています。森林資源の状況、木材在庫、製材・プレカット能力、建築需要、3Dモデル、木材流通状況をつなぐ。そうすることで、建物全体で最適な部材構成を考え、地域に最適な木造建築を提案できるようになります。これまでプレカットは、木材と建築をつなぐ重要な結束点でした。しかし現実には、柱加工、梁加工、部材ごとの個別最適に留まりやすく、建物全体での部材最適化を行うためのデータや見える化の仕組みが十分ではありませんでした。DX化によって、プレカット、製材所、林業、工務店が同じ情報を見られるようになれば、建物全体での最適化が可能になります。誰がどの価値を担い、どこに利益が配分されるのかも見えやすくなります。これにより、利益配分の透明化と適正化が進みます。現在は、林業、製材所、プレカット、建設・工務店が分断され、それぞれが個別に利益を主張することで距離が広がっている面があります。しかし、情報がつながり、建物全体の価値や供給工程が見えるようになれば、地域内で役割分担しながら連携することが可能になります。
林業同士が連携する。
製材所・プレカット同士が連携する。
建設・工務店同士が連携する。
そして地域内でクラスター生産を行う。
これにより、地域材の供給は、分断された供給網から、つながる供給網へと変わります。
木材流通システムの目的は、単に業務を効率化することではありません。地域の森林資源を過度に使いすぎることなく、森林資源の枯渇を防ぎながら、持続的な地域木材サプライチェーンをつくることです。
地域の森で育った木を、地域の建築に活かす。
建築で生まれた価値を、地域の林業や森林保育に戻す。
その循環によって、地域の林業、製材所、プレカット、工務店を守る。
これが、私たちが取り組んでいる木材流通システム開発の挑戦です。
山で育った木が、地域の建物になり、暮らしを支え、その収益が再び山の整備に戻っていく。
地域材建築を通じて、地域の森を未来へつなぐ。
その循環をつくることができれば、林業はもっと強く、もっと開かれた産業になるはずです。
次週に続く