林業アトツギに贈るエール

□椎野潤ブログ 東京大学名誉教授 日本木質バイマスエネルギー協会会長 酒井秀夫

4回にわたり掲載された「林業のアトツギを生きる」は、家業である林業の跡を継いだ芦田さんの林業に対する思いです。
私の家は勤め人でしたので、子どもの頃は、家業の家庭の同級生は将来の進路も決まっていてうらやましいと思ったことがあります。しかし、今、家業は経営統合されたり、そのままの継続は減少傾向にあると思います。
芦田さんも家を継ぐことは当初考えていませんでしたが、家業や林業について考えるきっかけになったのは、家業の手伝いとして始めたホームページ作成時に、「このホームページを誰が見るのだろうか」です。すべての森林所有者が所有林に常に関心を持っているわけではありません。林業の存在を知らない若人も多いと思います。家業が地域の森や人の暮らしと深く結びついて、森林・林業には公共的な価値が詰まっていることに気づかれました。
林業の世界に飛び込んでみると、森林保育の収益性、再造林の継続、木材流通のあり方、担い手不足など、直面する課題が山積みしていて、自分の原点がどこにあるのかを考えるようになりました。これからAIが社会に浸透してくると思いますが、自然と対峙する林業には、「経験や感性、責任感が必要」と述べておられます。そして、若い人にとって林業を魅力ある産業にし、林業の可能性に思索を巡らす中で、まだ十分につながっていない価値の存在が見えてきました。
今、「良い森」を作っても、木材としての価値が社会に受け入れてもらえず、必ずしも収益と結びつかなくなっています。手を掛けて育てた分、収益をどう上げたらよいのか。あるいは良材の需要をどうやって維持し、開拓していくのか。林業は今まで他産業のように開発競争をしたり、営業活動をしたりしてきませんでした。
芦田さんは、林業では、情報の分断、部分最適が木材流通システムの構造的課題であるとし、トレーサビリティと情報の見える化に取り組もうとして、株式会社Eco Forest Friendlyを創業されました。非住宅・中規模木造の可能性にも言及し、地域工務店は住宅だけでなく、公共的な建築などの非住宅分野でも活躍できるチャンスがあるとしています。地域材を使いたいと思っても、地域の森にどのような丸太があり、どの製材所がどの規格に対応できるのかが分からないという現状を指摘されています。そこで、建物の概要や施主の要望を入力すると、AIが木造の3Dモデルや概算積算を自動で作成することにより、目の前で建物のイメージが立ち上がり、地域材は「使いたい材」から「使える材」になります。その循環をさらに強くするために重要なのが、森林由来J-クレジットと地域循環のプラットフォームとなる「EcoPay」の活用です。EcoPayで決済することにより、地域の森林クレジットを購入でき、カーボンオフセットにつながります。CO₂吸収の価値をJ-クレジットとして可視化することが企業活動の中で活用され、その資金が地域の森へ還元されて次の植林や森林保育などの未来につながっていきます。森林のさまざまな価値を、地域の林業や森林整備の継続に結びつけ、山に資金と人の関心が戻る仕組みをつくろうとされています。このDX化によって地域のプレーヤーの利益配分の透明化と適正化を進めることができます。この可視化が、Eco Forest Friendlyが描く地域木材サプライチェーンの未来で、市民生活の日常の中に溶け込むべきものだとされています。そうすることで、森林保全を開かれたものにし、山の恵みを受けている社会が全体で林業を支えていくことになります。
これから芦田さんの新たな闘いが始まります。そもそも林業はまだ本気で闘っていたことがありませんでした。林業と社会が目覚めるときがきました。

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