ドローンToハウジングの実践から見えたもの ①地域材を使うことの意義

椎野潤ブログ(塩地研究会第14回) ドローンToハウジングの実践から見えたもの ①地域材を使うことの意義

文責:文月恵理

2023年11月9日、長野県松本市内で、後の歴史に残るかもしれない、ある住宅の上棟が行われました。設計図書を元に必要な部材を算出、そこから最適な造材を割り出し、立っている木とマッチングさせるという試みを実現したのです。大量に伐って3m・4mで造材し、いつ誰が何に使うかわからない状態で木材が市場に流通するプロダクトアウトが大半を占める林業の世界に、真のマーケットインを持ち込んだ企画です。ここに至るまでの歩みと意義について、4回に分けてレポートしたいと思います。

始まりは昨年の2月、信州大学でリモートセンシングを研究するチームが、木造大型パネルを手掛けるウッドステーション株式会社を訪れたことでした。建築図書から逆算して木材へ、そして伐採・造材の方法まで変える「仮想木材」を提唱していたウッドステーションの塩地会長と信州大学の院生との交流が始まり、この構想をウッドデザイン賞に応募することになりました。二人の学生は、学んできたリモートセンシング技術を建築につなげることがどんな意味を持つのかを考え抜き、塩地会長の厳しい指導の下で応募内容を磨き上げました。その結果。見事に研究部門での受賞を果たしました。

それならこの構想を、信州大学が採択されていた「新しい林業」プロジェクトの実証事業として実現しよう、そう決まったのが昨年秋のことです。伐採された木を使った住宅を建ててくれる施主様・工務店も決まりました。そうして昨年の冬、連携する北信州森林組合管轄内のカラマツ林で、ドローンやモバイルレーザを使用した計測がスタートしたのです。

この続きは次回以降に詳しく述べるとして、今回はまず、地域材で家を建てることの意義を確認しておきたいと思います。そもそも、昔は地元の木材を使って家を建てるのは当たり前でした。それが崩れ、木材資源が豊富な地方ですら住宅に海外材が使われるようになったのは戦後のことです。戦時中に、日本は燃料その他に利用するため大量の木材を伐採し、終戦後は、焼け野原になった都市を再建したくても伐れる木が無い状態に陥りました。拡大造林と言って、建材になるスギやヒノキの植林を進めましたが、木は育つのに何十年もかかります。そのため、木材は1960年から段階的に関税を下げてほとんどゼロになり、海外からの輸入が進みました。社会は大量生産・大量消費の時代を迎え、高度成長に伴う円高もあり、安く品質の安定した海外材が日本の住宅市場を席捲する時代が続いたのです。その間、日本の林業は小規模零細のまま近代化に乗り遅れ、木材が不足していた時代に高かった木材価格は5~10分の1にまで下がりました。その結果、所有者もわからず放置される山林が増え、林業の産業化を阻害する要素の一つになっています。

しかし時代は変わりました。拡大造林期に植えられた木は大きく育ち、マテリアルとして大きな可能性を持つようになったのです。そして日本の経済も大きく変わり、何でも海外から買ってくればいいという状況ではなくなりました。激しい人口減少、特に労働力人口の激減が目の前に迫る中で、国土を守り国力を維持するためにも、森林を資源として活かそうという機運が高まっています。大量に伐って製材し、買い手を求めて遠くまで運ぶ、ただでさえ少ない利益が運送費で消えるような苦しい生産・供給体制を、林業・木材産業はずっと続けてきました。それは海外から港に着く木材との競合上、やむを得ない仕事のやり方だったのです。そこに新しく登場してきたのが、リモートセンシングによる資源の調査、しかも単木ごとの太さや曲がり、樹高などを正確に補足できる技術と、木造大型パネルによる施工に必要な、設計図書のデジタル化でした。この二つを結合させることで、地元の木材を使い、高品質な住宅を比較的安価に建設できる道が開かれようとしています。

現在の木造住宅は、施主の支払ったお金が都市部の本社や広告代理店へ、そして外材の材料費は海外に流出し、地元に落ちるお金はわずか、ということが少なくありません。できるだけ地元の木材を使って家を建てることは、山主さん、木を伐る人、製材工場、そして工務店と、顔の見える範囲の人々にお金が回ることを意味します。木造住宅の着工戸数は2021年度で約50万戸、戸建てが減っていくとしても、公共施設やマンションなどの低層建築が鉄筋から木造に替りつつあり、木材需要は今後も無くなりません。むしろ、地元の木材を生かすことがその地域の経済を活性化させ、新たな需要と、そこに住み続ける人々の暮らしを支えるでしょう。先端技術を使って、少ない人数で山の資源を無駄なく使い、生えていた場所の近くで住宅にする、付加価値を他に逃さず山に返すことで、伐採跡地に再造林を行い、資源を維持しながら利用し続けることが可能になるのです。

そんな木造建築の在り方を追求する試み、次回はデジタル技術の現状と課題について、詳しくお話します。

 

 

まとめ 「塾頭の一言」 酒井秀夫

拡大造林期には林業従事者は40万人ほどおられました。いまは4.4万人ですから、当時植えた木が育ったからといって、これを順次伐って、再び植えて保育していくとなると、労働力が足りません。そこで、どうやって木を伐って更新して育てていくかが大きな課題です。

木材は価格の割に重量があり、流通も多段階ですので、山元から最終消費者までの供給コストのうち、トラック運送費が半分近くを占めるといわれています。地元の木材を使うということは、輸送費を縮減できるだけでなく、付加価値を外に逃さず、山元還元を増やすことで、更新費用を捻出し、持続可能な林業を可能にします。

フィンランドは公共建築物の3割は木造で、しかも地元素材を使うことにしています。森林と建築を結ぶ木材のバリューチェーンができています。主伐には皆伐と択伐がありますが、1996年には皆伐と択伐の面積はほぼ同量の約20万haでしたが、その後皆伐面積は変化がないのに対して、択伐面積は2倍以上に増えて、択伐により森林の質を高めています。地元の木材を生かすことによって、その地域の経済を活性化させるだけでなく、森林の質も高めていくことができます。

今回は、木造大型パネルによる施工に必要な、設計図書を元に必要な部材を算出し、そこから最適な造材を割り出し、リモートセンシング技術によって立っている木とマッチングさせるという試みです。リモートセンシングで資源を正確に把握し、必要な物だけを取り出す、山の倉庫化です。地元の木材を使って、高品質な住宅を比較的安価に建設できる道を実証しようとしておられます。大学の新しい世代の研究が、地域の社会と経済に直接貢献して実を結び、さらに各地に波及していくことが望まれます。

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