地域共感型のバリューチェーンをつくる

椎野潤ブログ(伊佐研究会第四回) 地域共感型のバリューチェーンをつくる

令和4年11月8日、一般社団法人JBN全国工務店協会(注1)の15周年記念大会が「変化する時代と共に~地域工務店の「ちから」を未来につなぐ~」というテーマで開かれました。その大会の中で、日本の地域エコノミストである日本総合研究所調査部主席研究員の藻谷浩介氏によるこれからの地域工務店のあり方についての基調講演がありました。世界規模で森林が減少し砂漠化している中、我が国日本の森林、木材資源の豊かさが世界の中で稀に見る特異性を念頭に置きつつ、現代の社会変動による資源の変革(脱炭素、原油高)、世界レベルでの少子化も影響する大量生産ビジネスモデルの縮小と減少、国内においては物価高騰、ウッドショックなどを指摘され、これからの家づくりにおいて国産材活用は当たり前で、ことに地域産材、その中でも集成材などではなく製材をしっかりと活用できる地域工務店がいよいよ見直される時代が到来し、地域工務店はサプライチェーンによる木材流通を構築し、さらに消費者との共感につながるバリューチェーンを形成して成長していかないといけない、という趣旨のご講演でした。

さて、これまでの石油依存型の工業化住宅から、林産地連携に基づく自然素材型住宅、地域産業としての家づくりが見直され、地域工務店が注目される時代になりつつあると実感しております。建材商社が過去最高利益を出している中、地域工務店が物価高騰、住宅着工件数減で疲弊しているというアンバランスな流通の現状を整えることも含め、今こそ地域工務店連携による需要情報を起点とした流通変革を、地域材のサプライチェーン構築から始める必要があると考えております。

消費者と価値を共感する取り組みとして、先日11月12日、毎年恒例になっている植樹祭を「秩父FOREST」主催で行いました。森林パートナーズ㈱の森林再生プラットフォームに参画する地域工務店の伊佐ホームズ、大野建設の家づくりのお施主様を中心とした都市生活者の方々と、構造材原料であるスギ生産地である埼玉県秩父市の山での植樹です。今までは実際に伐採した山での植樹でしたが、今年は秩父市と協定を結び、市の所有する旧野外活動センターの敷地内体育館跡地での植樹をすることが出来ました。環境芸術家の坂口寛敏東京藝術大学名誉教授による将来の森をイメージしたグランドデザインに基づき、西野文貴林学博士(生態学者故宮脇昭先生の弟子)の指導のもと、その地域の本来の植生を重視し学術的に生み出された「鎮守の森」づくりを、紅葉真っ盛りの木々に囲まれた空き地の中で幼稚園生、小学生を含む総勢約70人で行いました。二十数種類の苗木を植えた植樹地は色とりどりで美しく、木材資源産地だけではまったくない森の豊かさを、また植えた苗木たちが森になるのに数十年、数百年かかるという時間軸を含めて、参加者皆様と感じることができました。植樹ツアーはその後製材所である金子製材に移り、柱梁の製材品ができるまでの加工の流れ、品質の管理を見てもらい、また直接工務店が山元から原木を適正価格で購入する森林パートナーズの仕組みの意義をご説明し、参加したお施主様には、森と住宅のつながりを実感してもらい、また地域に対しての心の結びつきを強めて頂けました。またツアーでは秩父神社に参拝し、薗田稔宮司(宗教学者、京都大学名誉教授)による、秩父の森と人の関り、神々と祭り、地形によるについての講話を頂戴しました。このツアーで消費者である木造住宅のお施主様に、地域の植生、産業、宗教観を植樹という行為を通して実感していただき、地域材を循環的に活用することの価値を共感、また共創することができました。

国産材活用による山元への利益循環という大きな社会課題を、地域材を活用する地域産業の連携と地域の消費者の共感する家づくり、木材流通のプラットフォームを通して解決して参る所存です。

(注1)一般社団法人JBN全国工務店協会:全国の地域工務店を、技術、人材、品質、事務、情報等の面からサポート、関係省庁や各機関、関連事業者と協力・連携し、地域の良好な住環境と、木造建築物の整備や維持で、地域社会に貢献することを目的とした全国組織

 

まとめ 「塾頭の一言」 酒井秀夫

まさに日本の森林資源は非常に恵まれていて、無数の選択肢があります。日本の森に入ると必ず祠があったり、しめ縄が張られたりしています。私たちは本来、森林に対して高い精神性を持っています。にもかかわらず、人と森、森と住宅のつながりは希薄のままに過ごしてきました。施主さんの親身となる相談相手は地域工務店です。工務店の相談相手は材木屋であり、製材所です。材木屋さんあるいは製材所がハブ、中継点となって、施主さんと森林の多層のネットワークが構築できればと思います。若い施主さんが気軽に工務店のドアを開けて、その向こうに神棚を通して森林が見えるようになればと思います。工務店が山元から原木を適正価格で購入している森林パートナーズの仕組みが消費者に理解され、施主さんが原木の由来に誇りを持つことで、森との心の結びつきが一層強まっていければと思います。

 

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