森林直販の具体化

□ 椎野潤ブログ(塩地研究会第四回) 森林直販の具体化

文責:文月恵理

森林列島再生論において、私は山の資源情報と建築の部材データを連動させ、中間流通を省いて直接施主に販売する「森林直販」を提唱しました。その具体化に向けたプロジェクトが、信州大学の加藤研究室とウッドステーション株式会社を中心に動き始めました。山の資源情報の詳細な捕捉は、ドローンや地上レーザーを利用した計測と解析により、外形に基づく利用材積の算出が可能になっています。建築の情報は、在来木造のデジタルデータ化を実現した木造大型パネル(https://woodstation.co.jp/service/product.html)の技術によって、部材から必要な製材品・丸太への逆算ができるようになる見通しです。伐採から造材・製材・乾燥・加工に至る各工程で、従来のプロダクトアウトの生産方法と比べ、どのような内容の、どの程度のメリット・デメリットが生じるのか、そこは森林組合・製材・工務店などの事業者に協力を仰ぎながら調査・分析を行います。住宅一棟では費用対効果が望めないことはすぐ想像がつきますが、では何棟ならペイするのか、住宅部材のうち地元材で賄えるのはどの部分で、いくらになるのか、そういったことを細かく検証していくのです。そうしてはじめて、地域・近隣の住宅需要の範囲内で、どの程度の棟数をまとめれば、施主に対する圧倒的な訴求力と生産者の十分な利益を両立させられるのかをはじき出すことができるでしょう。
現行の木材生産はプロダクトアウトですが、住宅は究極のマーケットイン商材です。一生で一番高い買い物と言われる住宅は、顧客(施主)の希望をとことん叶える自由設計の場合、何十回にも及ぶ打ち合わせと変更のコストが上乗せされ、一般庶民の手の届かない価格になりつつあります。主に外材を使い、高い利益率を誇る大手ハウスメーカーの住宅も、内装や機器類の選定に伴う積算に、多大なコストをかけていると聞きます。それは生産者・消費者双方にとって本当に望ましい姿なのかという疑問が湧いてきます。
ならば、地元の木材を使った高性能な躯体に電気や水回りの設備を備えた、低価格の「住める半完成住宅=ハーフ住宅」という規格型商品は、これまでにない価値を提供できるのではないでしょうか。そこはプロダクトアウトとマーケットインの汽水域という、山の価値を最大化できる新しい領域です。施主には、皆伐の場合は再造林を、間伐・択伐の場合は山を痛めない施業の履行を約束し、山を守る住宅に住むという誇りも提供します。
恐らく、森林直販を駆動させるために最も重要になるのは、どうやって住宅購入希望者にアクセスし、その価値を訴え、納得して購入してもらうのか、そのための仕組み作りになるでしょう。住宅販売というレッドオーシャンから、山(自然)と住宅(工業)という二つの水が混ざり合う汽水域に施主をどう導くのか、その道筋を探ることが成功の鍵になりそうです。

☆まとめ 「塾頭の一言」 本郷浩二

本来、森林資源の利用はプロダクツアウトにならざるを得ません。山に生えている木の樹種、太さ、長さ、曲がり具合、過去の履歴(傷や曲がり、枝残り)を変えることはできませんから。それをマーケットインにしようというのですから工夫が要ります。需要に応じてとは言っても、伐採個所を頻繁に変えたり、伸び(縮み)させることも難しいです。
住宅部材については、従来、一定規模の棟数の需要にまとめてしまうことで 供給する木材の規格の最小公倍数的な統一を図り、需要の多様性を封印することがマーケットイン対策として行われてきました。丸太のレベルでは、いわゆる定尺と言われる長さの規格です。どのような太さのモノならどの長さで切る(造材)、という作業になり、住宅部材の需要を意識せずに、機械的に造材作業をしてきました。
これからは、デジタル技術を組み込んだ機械の発達により、逆に、住宅の需要と現実の立木資源の伐採を関連付け、最適な伐採個所や伐採木の選定、造材の長さの決定はもとより、大量で多様なサプライチェーンの需給情報を処理して、最適な製材工程、材料加工・供給を決定するといったマーケットインが段々と可能になっていくものと思います。関係者の方々に、使える技術、時代の変化に対応する心があれば大丈夫です。
あとは、施主の心を開く、向けることが鍵ということですね。需要力の発火を促してください。

 

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