上流の森林調査をデジタル連携に生かす

椎野潤ブログ(加藤研究会第三回) 上流の森林調査をデジタル連携に生かす

 

 森林資源の有効活用のためには、上流(森林・林業)と下流(建築)の国産材の情報分断を繋いで、適正に手入れされた人工林が正当な評価を受けて、高く販売する仕組み、サプライチェーンを構築する必要があります。先頃、WOODx研究会が発足し、その大きな目標に向けて踏み出しましたが、情報連携の基礎となる森林(資源)調査の重要性について提起します。

 

☆アバウトな森林調査で満足していませんか

学問や仕事として人手で森林調査をする場合、毎木調査とサンプリング調査の標準地調査があります。

毎木調査は、調査対象森林のすべての樹木について、ラベリング、樹種、胸高直径、樹高(樹高曲線)を調査します。正確ですが労力を必要とします。対して、標準地調査は、広範囲の森林で事前の現地踏査等から平均的な林分内で、小面積のプロットを選定します。プロットはコンパスと距離メジャーを使い円形や正方形、長方形に区画します。プロット内のすべての樹木を調査して、野帳に記録します。帰学後に野帳からパソコンに入力して、単木ごとに樹種別の樹高曲線や材積式から資源表を作成します。複数のプロットの集計値から平均値を計算し、面積を乗ずることで調査地全体の資源量を推定します。

標準地調査には大きな欠点があります。調査精度に人為的なバラツキや誤差を生じることです。調査者によって、標準地の選定場所やプロット面積が異なります。標準地の選定場所は林分や林道の近くなど条件の良い場所から選ばれやすいこと、プロット面積は小面積(半径4m、10m×10m)にする傾向にあります。急傾斜、笹の高さや密度の高い地域では、見通しや足場が悪いため、樹木の見落としや調査効率、安全性と信頼性が低くなります。

木材の供給元となる上流(森林)の正確な情報は必要とされていますが、経験と勘、目視が重視されがちな自治体や林業事業体が行う森林調査の現状は、デジタル情報として記録に残す意識が低い、その場限りの調査になります。アバウトな森林資源情報は下流(建築)のニーズに対応できていないため、一山いくらの安価な山元立木価格の一因であると考えています。

 

☆科学的で精密なデジタル森林調査

加藤研究室の森林調査は、ドローンを使用した調査地全域の全数木調査です。研究室全員が3年次から操縦トレーニングを行い、国土交通省のドローン操縦の有資格者です。

スマート精密林業で1本1本の樹木情報を解析するノウハウを持つので、空撮された調査地全域を科学的で精密なデジタル情報として、毎木調査や標準地調査の代替が可能です。

事前調査はグーグルアースやグーグルマップなどで人工衛星や空中写真で森林概要を把握します。その際にドローンの離陸候補地を確認します。航空レーザが撮影されている場合はデジタル地形モデル(DEM)を利用して等高線に沿った対地高度撮影に活用します。ここまでは研究室のパソコンで行う作業です。ドローン空撮のために、各自がパソコン上で飛行計画をたて、ドローンに転送して、撮影します。1回の飛行で10~20haを撮影し、面積が大きい場合は、バッテリーを交換して計測します。撮影面積が広ければ広いほど、ドローン空撮の威力は倍加します。さらにドローンレーザ計測を加えることで、製材・建築で重要なデジタルの幹情報から丸太情報(径級、細り、曲がり、品等)を追加できます。

現在、一般市民の方が利用できる普及版システムを信州大学発ベンチャーの精密林業計測㈱が開発しています。

 

☆上流と下流の国産材情報をデジタル連携で繋ぐ

現場で働く人が減る中で、精度が低くデータ保存が期待できない人手による調査から先進的で科学的なデジタル計測手法に変えて、データのオープン化、見える化、他産業や異分野とのDXに参画して、魅力のある森林データに変えていく必要があります。上流のデジタル化された精密な樹木情報は異分野・異業種とのデータ連携の肝(キモ)です。特に下流の建築ニーズをつかみ、付加して情報共有を行い、木造建築との連携、地域資源の循環、山元還元が必要です。

そして、加藤研究室の学生たちは、椎野塾やWOODx研究会への参加を通して、上流の山元立木価格と下流の木材価格の大きな格差と利益の違いを学び、解決策の一つとして、林業と建築がデジタル連携する地域循環サプライチェーン構築に向けて、目を輝かしています。ご支援の程、宜しくお願いします。

 

まとめ 「塾頭の一言」 酒井秀夫

森林調査は、大変な手間がかかり、しかもそれが必ずしも正確ではありませんでした。立木の買い手にとって、見積もりの精度は収益に響きます。売る方も損したのか得したのかわかりませんでした。スマート精密林業で1本1本の樹木情報を解析することができるようになり、しかも面積が広いほどその威力が発揮されるとのことです。森林データがオープン化、見える化されて、製材・建築の最前線とデータ連携ができれば、森林データそのものに価値が生まれ、森林資源も多方面で計画的に有効利用されていくと思います。加藤研究室の卒業生が各地でイノベーションを起こすことができるように応援していきましょう。

 

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