林業再生・山村振興への一言(再開)
2021年1月(№73)
□ 椎野潤(続)ブログ(284) シンガポール「食品テック」育む 培養肉などの人工食品開発を政府が支援 技術開発でアジアを先導 2021年1月29日
☆前書き
シンガポールが、「食品テック(フードテック、注1)」の最新技術の集積地として台頭しました。2021年1月5日の日本経済新聞(参考資料1)が、これを書いていました。今日は、これを取り上げてブログを書きます。
☆引用
「シンガポールが最新技術を活用する『食品テック、(注1)』企業の集積地として台頭している。政府が研究開発から生産・販売まで一貫支援し、培養肉などの人工食品を開発する新興企業の進出を促している。人工食品は、環境負荷の低減が期待される。シンガポールは新な産業に育成し、技術開発でアジアを先導する。(参考資料1、日本経済新聞、2021年1月5日から引用)」
☆解説
米国の新興企業のイート・ジャストは、2020年12月、シンガポール政府から、世界初となる人工培養鶏肉の承認を受け、地元レストランに、供給を開始しました。また、同年10月には、植物由来の代替卵を生産する工場を、シンガポールに設ける計画も、表明しました。1億2千万ドル(125億円)を投じ、中国やタイ、韓国などアジア各国に、代替卵を輸出する計画です。
ASTRAは、2020年11月に、シンガポール政府系の投資会社、テマセク・ホールディングスと、新たに研究センターを設立する構造を打ち出しました。新センターは、実験室やテストキッチンなどを備え、自前の設備を持たない新興企業が利用できるようにします。テマセクは「食品テック(注1)の商業的成功を加速するためだ」と狙いを説明しています。
シンガポールに、食品テックを支援する、これらの仕組みが整備された結果、地場企業も育ち始めています。2人の女性研究者が設立したショーク・ミーツは、2020年11月、ロブスターの培養肉を開発しました。同社によりますと、ロブスターの培養肉の開発成功は、世界初ということです。同社は既に、エビの培養肉の開発にも成功しています(参考資料1を参照して記述)。
☆まとめ
2020年に、植物肉の普及元年を迎えた米国(参考資料2)に比べると、シンガポールは、立ち遅れています。この後発のシンガポールは、食品テック(注1)を重点産業の一つに定め、研究開発から進出、製販まで、政府機関が一貫して支援しているのが特徴です。シンガポール政府が、2019年に整備した新食品に関する安全評価指針には、培養肉専用の項目も含まれていました。指針の初の適用例となった、イート・ジャストの人工鶏肉の承認前には、培養方法など製造過程や有害性の有無を細かく審査しています。人工鶏肉が世界で初めて販売された国が、シンガポールだったのは、こうした指針や専門家を交えた審査体制を、事前に整備していた面が大きかったのです。
シンガポールにとって、食料自給率の向上は国家的な課題です。農業や畜産に使う土地が、極めて限られるシンガポールの自給率は、10%に止まっています。政府は、2030年までに、30%に引き揚げる目標を掲げています。それだけに、植物肉の生産は、国家にとって重要なのです。
テマセクによりますと、世界では人口増加などで、2050年には、現在より4割多い食料が必要になります。一方、農業や畜産は水を大量に消費し、温暖化ガス排出の主な要因になります。食品テックは、環境への悪影響を抑えつつ、需要を拡大していける重要な施策なのです。
でも、当面の課題は、販売価格の引き下げです。例えば、ショーク・ミーツのエビの培養肉の製造コストは、1あたり5千ドルです。同社は2022年までに、製造コストを100分の1に引き下げ、商用販売を開始したい考えです(参考資料1を参照して記述)。
シンガポールの意気込みは凄いです。日本民族が生き残る道を築くため、製造コストを2年間で、本気で1/100に下げる熱意が、日本の官民にあるでしょうか(参考資料1を参照して記述)。
(注1)食品テック(フードテック):最新のテクノロジーを駆使することによって、まったく新しい形で食品を開発したり、調理法を発見したりする技術。
参考資料
(1)日本経済新聞、2021年1月5日。
[付記]2021年1月29日。