山村で地域を守っている人達にとって、最も大事なものは何だろうかを考えたとき、私は「祭」だと思い当たりました。ここでは、長野県の諏訪大社に伝わる「御柱祭」を取り上げて書きます。
□諏訪の祭りと歩む人生 命懸けの祭りにかける山村の若者の生涯
「先人が渾身の力を込めて守ってきたものだから、後世につないで行かねばならない」というものを持っている山村は強いのです。
私は過去に、命懸けの祭りと共に生きる山村の若者についてのブログを書きました。これは、2019年5月19日のブログです。今日は、これを引用します。
□椎野潤ブログ(231)諏訪の祭りと歩む人生 山村の人々の人生と祭り 2019年5月19日
☆前書き
高度成長時代の昭和が終わって、迎えた平成の時代になって、一体、何が変わったのかと言えば、人々が生きている目的が不明確になり、生涯に一度という感動に出会えることが、少なくなったことではないかと思います。
激動する世界で、世界の先進企業と激しく闘っている人は別にして、山村で地域を守っている人達にとって大事なものは、何だろうかを考えたとき、私は「祭」だと思い当たりました。若い頃、訪ねた山村の祭の熱気と若者の眼の輝きを鮮明に思い出したからです。
2019年(令和元年)5月4日の日本経済新聞に、有名な長野県の諏訪大社の「御柱(おんばしら)祭」のことが書いてありました。今日は、これを取り上げてブログを書きます。記事は、以下のように書き出しています。
☆引用
「長野県の諏訪地方の神社では、数えで7年(実際は6年)に一度、社殿脇の4本の柱を建て替える「御柱祭」が開かれる。諏訪大社の祭は平安時代から続くとされ、山から切り出した柱を急坂の上から落とす『木落とし』には多くの観客が集まる。」
☆解説
モミの大木を削った柱を、急斜面から滑り落とす。これに若者がしがみついて一緒に落ちる。この勇壮な祭は、見るものにとっては凄い迫力があり、大きな感動が与えられるのです。でも、なんとしても、危険なのです。この記事の主人公、平田伸也さんの兄は、2010年の祭の事故で亡くなりました。柱を引くワイヤーの一本が切れたのです。ですから、安全対策は、万全に行わねばなりません。ただ、それでも「危ないからやめる」ということにはならないのです。
2016年、伸也さんは念願の華乗りに選ばれました。関係者の間には、「兄ちゃんが亡くなった分、今回は伸也にという思いがあった」ようです。
ラッパの音が響き、衝撃とともに柱は一気に滑り出しました。伸也は迫ってくる坂の下をにらみ、歯を食いしばりました。柱が地面に突っ込み、体は振り落とされましたが、縄をつかんだ手は、最後まで離しませんでした。
その日の夕暮れ、同じ担当地区の氏子らの前で伸也は「兄と一緒に華乗りを果たせました」と深く一礼しました。大きな拍手が沸き起こり「万歳」が響き渡りました。
御柱となるモミは、樹齢150〜170年の大木です。未来の御柱は、同県下諏訪町にある森で、その時を待ち、静かに育っているのです。「ゆくゆくはこれも御柱になるかもな」。伸也は特に太い1本に目を留め、コケに覆われた幹を見上げていました。先人たちが命を懸けて守ってきたものは、なんとしても、後の世につないで行かねばならないのです。
☆まとめ
諏訪大社の「御柱祭」は、極めて危険な祭でした。ですから読者の方々に、「各地で、このような祭を遺して行って欲しい」とは、お願いできないのです。でも一方で、「一生忘れることができない一日」を自分の人生の中に、なんとしても残して欲しいのです。「先人が渾身の力を込めて守ってきたものだから、後世につないで行かねばならない」というものを持って生きていく人達に支えられる山村は、永続して生きていける社会なのです。
私は、若い頃に訪ねた、東京の母なる川、多摩川の源流、丹波川の集落の盆踊りの夜のことを思い出します。焚き火の揺らぐ灯(あかり)のもと、太鼓を精魂込めて打ち続けていた若者の眼の輝きを、いつまでも忘れません。あの時の若者の眼は、生きている眼でした。ということは、この若者が住んでいる山村も「生きている山村」なのです。それから、数十年が経過していますが、今も生きていると思います。
山村振興とは、山村を永続的に生き続けさせることです。ここには、生きている若者の眼を光輝かせ続ける「盆の夜祭」が、ありました。(参考資料1、2019.5.4、日経を参照して記述。「 」内は引用)
参考資料
(1) 日本経済新聞、2019年5月4日
[コメント]
文化庁が2016年に全国の18歳以上を対象に行った調査(有効回答1831人)では、90.1%が「伝統的な祭や歴史的な建物などの存在が、地域への愛着や誇りとなる」と答えていました。地域の文化的な環境の充実に何が必要か、複数回答で尋ねたところ「子供が文化芸術に親しむ機会の充実」(40.5%)、「地域の芸能や祭などの継承・保存」(36.8%)が上位を占めていました。(参考資料1から引用)