鹿児島県大隅半島での「林山業再生・村振興」の動き(その1)南大隅町の森田俊彦町長からの手紙 

林業再生・山村振興への一言(再開)

2020年12月(№59)

 

□椎野潤(続)ブログ(270)鹿児島県大隅半島での「林業再生・山村振興」の動き(その1) 南大隅町の森田俊彦町長からの手紙 2020年12月11日

 

☆前書き

鹿児島県大隅半島の南大隅町(注1)の森田俊彦町長から、お便りをいただきました。このお手紙には、かねてから、ご相談していました鹿児島県大隅半島での「林業再生・山村振興」運動の、これまでの経過と今後の予定が丁寧に書かれています。ここでは私が、これを一連のブログとして、読みやすいように、言葉の流れを直す加筆をしました。そして、これを元にしてブログを書きます。

 

☆本文

鹿児島県南大隅町の町長、森田俊彦です。町は九州本土最南端、大隅半島の先に位置しており佐多岬があり種子島、屋久島が眺望できます、また昨年のNHK西郷どんのタイトル映像で、滝を紹介されました。高齢化率は県№1、過疎化が進み森林率78%等、地方創生の地方を絵に書いたような町です。

この度、突然椎野先生からお電話頂き、「森林経営管理制度、環境税、入会林野等について、行政としての愚痴をお聞き頂きつつ、結局自ら行動を興さねば成らないのか!」と痛感した次第でした。町行政としてはどこかで、国や県から指導や指針があるものと待ちの姿勢であったことはいなめません。

私は、町政に付く前は民間の林業関係者で、森林管理データベースを持って川上川下を繋ぐサプライチェーンの構築を志した者でした。そして、どこかで頓挫した志を、今こそ奮い起こさねばならないと、椎野先生のお誘いを受け、「ぎふフォレスター協会」を設立された小森胤樹さんと、東京でお会いしました。

小森さんとの出会いは新鮮なものでした、今の時代に、まだこのように、森林林業を考えてくれていた方がいたのかという思いを、強くしました。

お会いする前に、私としてはやっておかねばならない事がありました。まずは、地元の体制づくりとして、流域内首長と林業関係者の官民意志統一です。それと1市町村では非効率です。ある程度の森林面積と意欲と能力のありそうな林業事業体の、参加を固めて置かねばなりません。さらに現状での問題点の把握も重要です。

ここで流域首長というのは、鹿屋市、肝付町、錦江町と、私の町、南大隅町です。すなわち、南大隅町を加えて1市3町です。

相談しなければならない市町を、それぞれ個別訪問して、森林林業経営管理制度や環境税について、市町がこれから抱えるであろう問題点を理解して頂き、組織設立の了解を得ました。

その後、町職員を含め森林組合、民間林業事業者、製材、建築等9人で、意見交換会を開催しました。意見としては、早くの設立を望む。最終目的を明確にしたい。官民共同でやるべき。スマート化デジタル化の導入等、前向きな意見でした。

小森さんとお会いして、行政へのアドバイスや森林林業の人材育成をお願い出来そうな段取りになりました。

各市町の首長と民間林業事業体が、2020年度内に目的をきちんと固め、環境税本税施行前に、組織をしっかり充実させたいと考えています。また、2021年2月には、鹿児島県内の町村長さんに、小森さんの森林経営管理制度の講演を、お願いするつもりです。場所は、鹿児島県町村会館を考えています。

さらに、伊佐ホームズの伊佐裕社長、森林パートナーズの小柳雄平社長には、近いうちに流域内組織設立に向け、森林パートナーズの講演をお願いしたいと思います。

2020年内に(仮称)大隅流域森林経営管理推進協議会の事務的作業を進め、メンバーの意志統一を図ります。年明けには1市3町での協議会を設立します。新年度には、3町とも選挙を控えておりますので、タイミングを見て、本会を正式に設立させ、補正予算を計画したいと考えております。(参考資料1、鹿児島県南大隅町の森田俊彦町長からの手紙、2020年11月18日)

 

☆まとめ

このブログでは、南大隅町の森田町長が先導してすすめられてきた、九州大隅半島南部地域の「林業再生・山村振興」の改革の準備状況と2021年の計画について、述べていただきました。来るべき新年2021年からは、この計画が、ひとつひとつ、具体的に進展します。このブログでは、その活動の前進を、ひとつずつ取り上げて報告します。すなわち、このブログの(その1)に続く(その2)は、来るべき新年の発信になります。(まとめは椎野潤が記述)

 

(注1)南大隅町: 鹿児島県の東南部、大隅半島の南部にある町。肝属郡に属する。日本本土最南端の佐多岬を有する。

(注2)TDI(Technical Data Interchange):つくられる製品(ここでは建築物,資材,部品)の内容を示す技術データ(形状・寸法・位置などとこれを示す図形データ)のコンピュータによる交換の仕組みのこと。

 

参考資料

(1)鹿児島県南大隅町の森田俊彦町長からの手紙、2020年11月18日。

(2)椎野潤(続)ブログ(247)なぜ、一般社団法人 ぎふフォレスター協会を設立したのか(その5)、九州木材ロジステティクス改革プロジェクト(1)林業と国産材を復活させる活動 2020年9月18日。

(3)椎野潤(続)ブログ(248)なぜ、一般社団法人 ぎふフォレスター協会を設立したのか(その6)、九州木材ロジステティクス改革プロジェクト(2)実証実験 2020年9月22日。

 

[付記]2020年12月11日

 

[コメント] 17年前の先進的な大実験、その時の相棒と再会

今から17年前の2004年、早稲田大学アジア太平洋研究センターにいた私は、産学共同研究会「建築市場(けんちくいちば)」で、壮大な実証実験を行いました。これが、九州木材ロジスティクス改革プロジェクト(参考資料2〜3)です。

このブロジェクトは、「杉が北欧のホワイトウッドに負けていた諸要素」を大幅に改善し、立木価格を復活させることをめざしたものでした。このときの林業側の相棒が、鹿児島県肝属(きもつき)郡根占町にあったベネフィット森林資源協同組合で、その組合長が、森田俊彦さんだったのです。

この森田さんと再会しました。再開したとき、森田さんは、南大隅町の町長になっていました。再会した森田さんに、小森さんの活動を話し、一緒に「林業再生と山村振興」を進めてくれないかと頼みました。快諾してくださった森田さんが、地元の人達と相談して準備をし、送ってくださったのが、ブログの冒頭に掲げたお手紙です。

 

このブロジェクトは、品質保証、品質・コスト情報の透明性、調達の確実性と容易性、流通コストの改善とあわせて林業における杉生産の経営再建を目指し、その頃、5,000円/まで下落していた立木価格を、15,000円にまで復活させることを目指していたものです。そのために、木材のロジスティクスを大改革し、サプライの連鎖の上にいる関係者が連携して、全体最適をめざすサプライチェーンマネジメントを、実践しようとしていました。

 

このプロジェクトが目指していたところは、顧客起点サプライチェーンマネジメントの実現でした。その流れは以下です。まず、顧客の建てたい住宅が確定すると、その住宅を構成する柱、梁、大引、根太、垂木などの構成部材の寸法、形状、数量が、CADで明確に示され、これがTDI(注2)データ(技術情報伝達データ)に変換され、納品の2カ月前までに、素材生産者の伐採者へ送られます。

伐採者は必要な立木を必要なだけ伐採し、ただちに、製材所へ運びます。ここで燻煙処理し製材し人工乾燥させた木材は、品質の等級付けを実施し、強度、含水率などを計測して表示した上で、プレカット工場へ搬入します。搬入された木材はプレカットされ、鹿児島市内の工事現場へ搬入されます(参考資料2〜3)。

2棟の木造住宅を建設する実験をおこなった結果、5、000円/に止まっていた山主の手取りは、13、000円にまで回復させることが出来ました。建築市場が69、000円で買っていた杉材は、63、000円で買うことができました(参考資料3)。この実験は、大成功だったのです。

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