塩地博文の大型パネル事業(4) 大型パネル事業とは何か(その5)大型パネルにより国産材は海外材に勝てる

ウッドステーションの塩地博文さんが、凄い論文を発表してくれました。国産材(注2)は海外材(注3)に必ず勝てると明言し、その具体策を明示してくれました。私は、このような人を、これまでは知りません。

戦争で疲弊し山に樹がなくなって以来、植林し育ててきた日本国民が、やっとその念願を達成しようとしている時、この改革の達成には、先導者が必要です。しかも、この先導者は、「政府がやってくれれば」ではなく「皆が自分でやれば」出来ると言っているのです。

ですから、ここでは、皆が勢い良くスタートして頑張らねばなりません。2021年「林業再生と山村振興」の改革は、勝負の年になりました。

 

林業再生・山村振興への一言(再開)

 

2021年1月(№68)

 

□ 椎野潤(続)ブログ(279) 塩地博文の大型パネル事業(4)

「大型パネル事業とは何か(その5)」大型パネルにより国産材は海外材に勝てる 2021年1月12日

 

☆前書き

塩地博文さんから、貴重な追加論文が送られてきました。「大型パネル事業とは何か(その5)(参考資料1)」です。2020年12月22日、25日、29日の塩地論文を引用したブログを読まれた方は、今回いただいた、この貴重な追加論文も熟読されることを強くお薦めします。

この論文も、塩地さんに、出来るだけわかりやすく書いていただきました。私も、可能な限り付注をつけました。それでも、林業分野を中心とする、私のブログの読者には、わかりにくいかもしれません。林野分野と建築分野は、言葉が違うからです。また、説明されている内容が、極めて先進的で遠大だからです。でも、頑張って読んでください。2021年の新春の新たな重い宝物が見つかるはずです。(椎野潤記述)

 

☆引用

「大型パネル事業とは何か」その(5)大型パネルにより国産材は海外材に打ち勝てる   文責 塩地博文

 

いよいよ最後のテーマを書いていきます。大型パネル事業(注1)を推進することで、国産材(注2)の価値向上が進むのか、それとも海外材(注3)優位をより加速させるのか、という極めて重たいテーマです。

 

先ず、海外材(注3)と国産材(注2)を冷静に比較する事から始めます。品質、強度、物量共に海外材は高く、国産材は低いという一般的な評価は、的を得ていると思っています。但し、細部に目をやると、海外材の調達は難易度が高いのです。

 

海外材(注3)とは住宅分野においては、北米材(米松、注4)、欧州材(注5)の二つが市場を占有しています。両者共に、柱や梁(注6)といった主要構造材(注7)のデファクト(注8)を握っています。デファクトを握るとは、絶え間なく供給し続ける責任も背負っているという事を意味しています。

 

欧州材(注4)は山元から伐りだされて、製材、乾燥、集成材化などを経て、主要港まで運ばれ、コンテナー(注9)に詰め込まれた後、日本に海路輸送されます。従って、欧州材を調達しようと思ったら、それらの期間を考慮しなくてはなりません。最短でも6か月は必要でしょう。6か月後の建築物を想定して、欧州材を輸入しているのが実情なのです。バイヤー(注10)と言われる商社は、このリスクを背負いながら、供給しているのです。これはサプライチェーン(注11)とは言えません。見込み発注、見込み生産、長期在庫などの損失を招くロスを、生んでいく旧来型の供給スタイルなのです。

 

一方で、国産材は需要地に近接した場所で、製材、乾燥、プレカットなどの木材加工生産が行われています。米松、欧州材には不可能な、国産材にしかない絶対的な価値、『場所メリット』を持っているのです。確実な需要が分かってから、木材の伐りだし、製材など行っても、間に合うのです(参考資料8)。大型パネル(注1)は通常の作図過程より早く、情報処理を完成し、ジャストサイズ情報を抽出します(参考資料7)。そのジャストサイズの木材情報を、山元や木材加工工場にまでデータを戻せば、無駄のない伐採、調達、加工が行われるはずです。無論、伐採業者や木材加工業者にすれば、住宅1戸の小さな需要に対して、一本一本を紐付けする作業は手間かもしれません。大型パネルの生産量が上がれば、供給されるデータ量も上がっていきます。そのデータを組み合わせて、伐採業者にも木材加工業者にも採算に見合う量を見つけるシミュレーションは行えます。この場合、規模の小さな方が、早く採算分岐点の量を見つけられます。国産材関係者にとって、規模の小ささが一つの課題でした。スモールイズベスト(参考資料9、注13)。小さな需要、小さな伐採、小さな製材が却って有利になると思います。

 

またこの流れが定着化すれば、木材流通に関わる、無駄なコストは一掃されます。山元から街まで一直線に繋がり、コストは下がり、海外材(注3)への対抗力は増した上、原木価格を高く買う余裕が生まれてきます(参考資料10)。

 

建築物に提供される木材は、その生命をギリギリまで山で過ごし、建築物の規模、形、日時が明瞭になった後、伐りだされて街に提供される。これこそが、自然界の一部を大切に活用する道筋だと思います。

 

国産材(注2)は、その規模の小ささ、場所メリットの最大化で、ごく自然に、海外材(注3)を凌駕せしめるでしょう。海外材に対抗する意識ではなく、付加価値を分散させず、流通に依存せず、木造建築知識を身につけ、そして大型パネル事業(注1)を自ら行う事で、勝利者となりえるのです。解決策は自らに存在していると思います。その勝利は、原木価格の再上昇を招くと予想します。

 

☆まとめ

この論文を熟読して、塩地さんが進めておられる「大型パネル事業(注1)」を、良く理解できました。特に痛感したのは、日本人が、高い外材を買っていることです。欧州から6カ月もの時間のかかる調達をしているのです。バイヤー(注10)は、6カ月後の建築物を想定して、欧州材(注4)を輸入しているのです。大きなリスクを背負っているのです。

これは、私が提唱しているサプライチェーン・マネジメントとは、全く違います。見込み発注、見込み生産であり、長期在庫、不良在庫などの損失を招きやすい、旧来型の供給スタイルなのです。コロナの悪魔に急襲された2020年は、産業の隅々に想像を絶する不良在庫が溜まっていることでしょう。

 

日本の国産材は、住宅建設地に近い場所で、製材・乾燥・プレカット(注14)などの木材加工が行われています。建設工事には、「確認申請」という各工事ごとの設計図の公的審査がありますので、一軒一軒の家の木材の寸法別の使用量が、明確に確定してから、木を伐り出し、製材などをおこなっても、住宅の建設工事には間に合うのです。

今から17年前の2004年に、鹿児島で、壮大な実験をしました(参考資料8、注15参照)。この時は、2カ月前に発注しましたが、1カ月ほどで納品できる状態になりました。時間の上では余裕がありました。

しかし、この時は、「顧客の要望で、住宅の平面は自由にできる」と言っていましたが、やはり、制約は多かったのです。一方、塩地さんの大型パネル事業は、ほとんど自由になっています。

 

「住宅の一戸一戸の小さい需要ごとに作れば、能率があがらず高くなる」と、仕事のベテランほど、強く主張するはずです。でも、量産を経験している製造業では、ダイレクト・ツウ・コンシューマー(D2C、注16)が、今、急速に進んでいます。つまり、顧客一人一人ごとで作っても、量産で大量に作る場合と、ほとんど同じコストで作れるようになってきているのです。それは人工知能(AI、注18)とIoT(全てのモノがネットでつながる、注19)の最先端技術のたまものです。塩地さんの大型パネル事業(注1)は、施工図(注20)の自動生成システム(WSPanel、参考資料7)の開発成功で、先進産業に、追いついてきたのです。小さな需要(家一軒ごとの注文)、小さな伐採、小さな製材が、有利になる世界が、実現してきたのです。

 

伊佐裕さんが、住宅の年間生産戸数(受注限度)を決めて、寸法別の使用木材量を算出し、一年分を山主に1立方メートル1万7千円で、一括発注し、従来に比べて1.5倍〜2倍の利益を、育林費として、山元に還元しました(参考資料10)。また、製材・プレカットも材料支給で直接発注し、中間の流通(サプライチェーン、注11)の中の経費の支払いを最少にしました。すなわち、山元に還元したコストを、サプライチェーン(注11)内から捻出したのです(参考資料10)。

塩地さんの大型パネル事業(注1)では、これと同様の流れが形成されているのです。無駄なコストは、一掃されています。山元からお施主さんまで、一直線につながり、これによりコストは下がり、海外材(注3)への対抗力は増大し、ここで生まれた余剰金で、山主に、育林費を支払えます。塩地さんが主張されているように、国産材(注2)は欧州材(注4)に、確実に勝てるのです。

 

塩地さんは、大型パネル事業(注1)の実施で集めたデータを使って、森の山主にも、伐採者にも、木材加工業者にも、採算の合う量を見付けるシミュレーションを、どんどん実施すると明言されていますが、これを断固実施すべきです。17年前の実験の頃は、これが欠けていました。これを今、皆がやらねばなりません。山主も伐採事業者も製材加工業者も工務店も、皆、自分でシミュレーションをやるのです。誰かが、やってくれるのを待つのではないのです。そうなれば2021年の新年は、希望に満ちた未来へ向けた出発の年になります。「シミュレーションが誰でも出来る各分野別のスマホアプリ(注17)」を、「作ってくれるスタートアップ」を探しています。その方々に、このブログをつないでください。

 

(注1)大型パネル:あらかじめ工場において、構造材(注7)・面材・間柱・断熱材・サッシを一体化したパネル。従来のパネルと異なり、柱・梁(注6)などの構造材まで一つのパネルに組み込んであり、現場での組立ては通常の金物工法とまったく同じ。大幅な工期短縮等、数々のメリットが生まれる。

(注2)国産材:日本国内の山林で育てられた樹木を国内で加工した木材。

(注3)海外材:海外から輸入される木材。主として、欧州から輸入される欧州材(注4)、北米から輸入される北米材(米松、注5)、ニュージーランドから輸入されるニュージーランド材、ロシアから輸入されるロシア材である。

(注4)欧州材:ホワイトウッドが主力。

(注5)北米材:米松が主力。

(注6)柱:直立して上の加重を支える材。梁:上部の重みを支えるため柱上に架する水平材。

(注7)構造材:家の骨組に使われる材料のこと。具体的には、土台・柱・梁(はり)・桁(けた)・母屋(もや)などの材料のこと。

(注8)デファクト:デファクトスタンダードの略語。デファクトスタンダード(de facto standard)とは、「事実上の標準」を指す語。デファクト化:事実上の標準にすること。

(注9)コンテナー (container):内部に物を納めるための容器のこと。鋼鉄・アルミニウムなどで製造され、規格化された形状の箱で、その中に輸送物を積み込み航空機・鉄道・トラック・船舶などで輸送を行う。

(注10)バイヤー (buyer) :商品を仕入れ、支払う者のこと。買い手、買人とも称する。

(注11)サプライチェーン: 商品やサービスの供給の連鎖のこと。狭い意味では、製品が消費者に渡るまでの供給の連鎖を示しており、広い意味では、原材料からリサイクルにいたる広大なサプライの連鎖を示している。近年では、流通一般をサプライチェーンと称することもある。

(注12)シミュレーション:何らかのシステムの挙動を、それとほぼ同じ法則に支配される他のシステムや計算によって模擬すること。

(注13)参考資料9、pp.162〜177、「スモールこそ飛躍の可能性」。

(注14)プレカット:言葉の本来の意味は、事前に加工しておくこと。木造住宅の柱・梁(注6)の仕口の加工は大工が現場で実施してきた。近年、工場に加工機を置いて、木材の現場への搬入前に,事前に加工するようになった。このことから、木造住宅の柱、梁の仕口の加工をプレカットと呼ぶようになった。

(注15)参考資料8、コメント欄参照。

(注16)ダイレクト・ツー・コンシューマー: D2C(Direct to Consumer):製造から販売までを垂直統合したビジネスモデルのうち、実店舗を介さず、インターネット上の自社ECサイトでのみで販売するモデル。インスタグラムなどのSNSを通じた消費者(コンシューマー)と生産者の情報交換が主力になる。近年は、「製造から販売までを垂直統合したビジネスモデル」そのものを、D2Cと称することもある。

(注17)スマホアプリ:スマートフォン上に搭載されたアプリケーションソフトウエア。アプリケーションソフトウエア(application software):ワープロや表計算など、使用目的に応じたコンピュータプログラム。

(注18)人工知能(artificial intelligence、AI):「『計算(computation)』という概念と『コンピュータ(computer)』という道具を用いて『知能』を研究する計算機科学(computer science)の一分野を指す語。参考資料9、pp.25、44、69、87、162、176。

(注19)IoT(Internet of Things):モノのインターネット:あらゆる「モノ」がインターネットで接続され、情報交換により相互に制御する仕組み。

(注20)施工図:設計図書を元に建築物を施工する過程で、工場や施工現場の状況や、建具・設備などの収まりを反映させた生産設計派生図面の総称である。施工:建設現場での生産。

 

参考資料

(1)塩地博文著:大型バネル事業とは何か(その4)、2021年1月5日。

(2)塩地博文著:大型バネル事業とは何か(その1)、2020年12月10日。

(3)塩地博文著:大型バネル事業とは何か(その2)、2020年12月11日。

(4)塩地博文著:大型バネル事業とは何か(その3)、2020年12月12日。

(5)椎野潤(続)ブログ(273)木材建築 無形文化遺産に登録 塩地博文の大型パネル事業(1)木造住宅の次世代に向けた大改革 2020年12月22日。

(6)椎野潤(続)ブログ(274)塩地博文の大型パネル事業(2)塩地博文「大型パネル事業とは何か(その1〜3)」原文 2020年12月25日。

(7)椎野潤(続)ブログ(275)塩地博文の大型パネル事業(3)塩地博文「大型パネル事業とは何か(その4)」施工図自動作成システム 2020年12月29日。

(8)椎野潤(続)ブログ(270)鹿児島県大隅半島での「林業再生・山村振興」の動き(その1) 南大隅町の森田俊彦町長からの手紙 2020年12月11日。

(9)椎野潤著:続・椎野先生の「林業ロジスティクスゼミ」、IT時代のサプライチェーン・マネジメント改革、全国林業普及協会、2018年3月15日。

(10)椎野潤(続)ブログ(236)木材トレーサビリティで流通改革 原木原価を引き上げ林業再生に貢献(その2)2020年8月11日。

 

[付記]2021年1月12日

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