☆巻頭の一言
今日は塩地ブログ第2号の報告です。塩地さんの林業における一番弟子の佐伯広域森林組合は、日本を襲ったコロナ危機のさなかで、急発展をとげられました。今日は、その報告です。(椎野 潤記)
林業再生・山村振興への一言(再開)
2020年11月(№154)
□ 椎野潤(続)ブログ(365) 大型パネル事業の進展(その2)佐伯型循環林業と大型パネル 2021年11月5日
☆前書き
今日は、佐伯型循環林業と大型パネルについてお話しいただきます。
☆引用
「大型パネル事業の進展」〜佐伯型循環林業と大型パネル 文責 塩地 博文
大分県南部に位置する佐伯広域森林組合は、とてもユニークな森林組合です。大型の製材設備を導入し、サプライチェーンの川下展開を意図しています。その一方で、佐伯型循環林業を標ぼうし、再造林事業を徹底しています。時代と共に「動いている森林組合」です。数年近く前に、「お隣に巨大な製材工場が進出してくる。バイオマスを含めた複合林産業に対抗する方法はないのか?」との相談を受けたのが、大型パネル技術移転のきっかけでした。この技術移転の詳細については、別途、客観的な視野をいれて、レポートとして纏めていくつもりです。しばらくお待ち頂ければと思います。
佐伯型循環林業とは何か。その詳細を理解したいと、先ずは解析に着手しました。そこで以下の欠落点を見つけました。
この循環型林業には「出口戦略が無い」
循環型・閉鎖型であるのにも関わらずライバルを圧する「歩留まり改善」という視野が無い。
サプイチェーンが広域過ぎて、地場需要を見落としている。
以上の三つです。この欠落を埋め合わせるのに相応しい事業として、大型パネル事業の技術移転を提案し、同組合ではそれを『地域材パネル』と称して、2018年に販売を開始しました。
誤解を承知で、あえて申し上げれば、大型パネル事業とは、「小売り価格で売れる」、「地場で売れる」、「歩留まりを改善する」事業なのです。最も高値で、歩損を極力減らして、運賃のかからない地場で売る事なのです。
循環型を標榜するならば、出口を持つ事が必要最低条件です。なぜやらないのですか?と、佐伯さんに質問しました。高く売れて、コストもかからないし、歩留まりも改善する事業なのに、どうして進めないのか、どうして今までチャレンジしなかったのか、不思議です。結局、佐伯さんは提案を受け入れて、スタートする事になったのです。でも、道のりは平坦ではありませんでした。
佐伯さんとの過去に於ける主なやりとりを参考までに詳述します。
塩地:歩留まりを上げようと意識していますか?
佐伯:意識の順位は正直低いです。理由は「売れる製品を作る」事を優先するからです。売れる在庫ならば、資金回収まで早いので、資金繰りを圧迫しないのです。それらの売れ筋製品を作るための材料(原木)入手を先ずは考えます。それが歩留まり改善だと思っています。
塩地:大分県内、または近隣県で売ろうとしてますか?
佐伯:市場が小さくて考えた事もありません。製材機の能力からすると、首都圏などの需要地を念頭に販売計画を立てています。
このやり取りを何度も行いました。佐伯さんだけでは無いでしょうが、いわゆる刷り込み現象のように、思考が硬直して、解凍する必要があると実感しました。そこで、以下の投げかけの質問に移していったのです。
塩地:森林組合として大径材の価値暴落をどう考えますか?
佐伯:中国や米国への輸出に回しています。
ここで私は、以下のようにいいました。
塩地:「それでは問題を解決した事にはなりません。自分の製材機にとって有利(高歩留まり)の丸太(小径木)を集めることは、加工にとって不利な大径木の価値を棄損する事になります。それは製材機の歩留まりは下げませんが、山林価値を棄損する行為になるのです。歩留まりを狭義に理解する事は、フードロスと同じ現象を引き起こします。貴方の歩留まり意識は、加工歩留まりであって、資源歩留まりではないのです。その意識は、原材料調達価値の偏在を加速します。原材料が材料ではなくなり、製品化した事を意味します。原木は、材料ではなくなり、製品の一形態に過ぎず、製品化が進むと、山林の多様性とマッチングしなくなります。それは森林組合の基本原則に干渉してしまうでしょう。森林価値への自傷行為にも等しいと思われます」。そう伝えて、意識改革を求めたのです。
塩地:大分県の木材需要を調査した事はありますか?
佐伯:当組合の得意製品は間柱です。県内にはそれだけの間柱需要が固まって存在しないのです。バラバラと多数に売るしかないので、グロス市場は調査していいません。
また、私は以下のようにいいました。
塩地:「どうして間柱に固執するのですか?たしかに製材機の特徴はそうかもしれません。でも、間柱への偏在が、原木集材への偏在を加速させている原因です。原木集材への偏在は、原木の「疑似製品化」を進めているのです。疑似製品化は内部付加価値の低下を招いています。面倒でも、歩留まりを意識した木取を行い、製材の効率化に挑戦してください」、と迫りました。
この結果、佐伯さんの決断は一気に進みました。全てのパネル材料を佐伯材で賄う事を決意したのです。肝心の大分県内需要を調べた結果、4000戸近くの木造住宅需要があり、その総需要は100,000に近い事、佐伯さんの総生産は、製材規模で50、000と半分程度だという事が分かり始めたのです。すなわち、足元に十分な需要があったのです。間柱専業、小径木偏在の刷り込みは、思考の自由を阻害していたのです。
大分県には需要がない。間柱が最も生産効率が高い。間柱への生産集中には小径木を集材すること。間柱を作っていれば売れ残りが少なく運転資金の回転を阻害しない。このような硬直した思考は、自らの行動を自縛してしまいます。この結果、バイオマスを最終受け手とする、表層的効率製材が繰り返され、大径材は価値を失い、資源全体の歩留まりを棄損し続けていました。その一方で、間柱偏重は、輸送距離を長くさせ、サプライチェーンは肥大化していきます。忙しいのに儲からない林業になっていたのです。
そこにウッドショックがやってきました。この3年間、鍛えてきたサプライチェーン意識は、佐伯さんを一気に開花させていきます。梁や桁が入荷しづらくなった工務店から、問い合わせが続出するようになったのです。「急にプレカット工場から梁や桁の入荷が難しいと連絡がありました。佐伯さんのパネルは大丈夫ですか?」と聞かれるようになったのです。佐伯さんは「全く問題ありません」と答えました。加えて「サッシや断熱材の取り付け、温熱計算や構造計算、さらには建て方施工まで、全てを行います」と、回答したのです。これで受注は一気に2020年比の10倍になりました。
梁桁という一部の部材が欠けただけで、大騒ぎをする世間をよそに、佐伯さんは、今、大成長中なのです。さらに驚くのはその収益です。既述した通り、大型パネルとは「小売り単価で売る」事を意味しています。間柱を40,000円〜50,000円で販売してきましたが、ウッドショックもあって、梁桁柱の主要構造材として売るようになりますと、当たり80,000円〜90、000円と倍増していると思われます。仕入れも原木価格が上がっていますが、末端小売市場上昇の比ではありません。大きな付加価値が佐伯さんの手に入っているはずなのです。
これは喜ばしい事態です。高収益化は木材買い付け価格を引き上げて行きます。山に利益が戻っていくのです。林家から木を高く買えるのです。再造林費用を拠出出来るのです。森林組合はその収益を山林に戻していく使命を帯びた団体です。戻された収益は、再造林を促す最大のエンジンです。好循環が開始されていくのです。
この事業成績は佐伯さんの協力を得て、レポートに取りまとめて行きたいと思います。販売が好調となり、佐伯さんの製材量の大半がパネルとして販売するようになると、莫大な利益が山に還元されるようになるでしょう。しかもその場合、大分県内の総需要の範囲であり、サプライチェーンはコンパクトに強固になっていくのです。
ウッドショックは好循環を開始する契機なのです。ウッドショックにかき回されて、その解決策ばかりに目がいっている人達には、この重要事項に目が止まりません。
繰り返します。ウッドショックは見直しのチャンスです。そしてその慢性的な体質を改善しない限り、何度でもウッドショックはやって来るのです。体質改善を行えば、一気に好循環が始まります。佐伯広域森林組合は、今、その好循環を身をもって、社会に示しているのです。(参考資料1、塩地論文を引用)
☆おわりに
この論文の凄い結論に驚きました。日本の林業は、慢性的な体質改善をおこなって行けば、好循環が一気に始まります。佐伯広域森林組合は、今、身をもって、その好循環を日本の産業・社会に示しています。これを日本全体に転換できれば日本の未来は、一気に明るくなります。(椎野 潤記)
参考資料
(1)塩地博文著:「大型パネル事業の進展」〜佐伯型循環林業と大型パネル:2021年11月5日。
[付記]2021年11月5日。