救急空白地帯 薄氷の搬送  消防のない山間部 自治体職員が奮闘 

林業再生・山村振興への一言(再開)

2021年3月(№84)

 

□ 椎野潤(続)ブログ(295) 救急空白地帯 薄氷の搬送

消防のない山間部 自治体職員が奮闘 2021年3月9日

 

☆前書き

消防本部や消防署がなく、救急隊員もいない、そんな「救急空白地帯」で村職員が救急活動に、必死で取り組んでいます。近年、そのような地域を救済する民間企業も現れました。宮崎県諸塚村の13人の村職員は、コロナ危機の到来で困難が高まる中で、1400人の村民の命を守るため、必死の活動を進めています。

一方、その支援が出来る民間企業「日本救急システム」は、諸塚村の隣町、美郷町にあるのです。すぐ近くですから、救援を頼んだらよいと思えるのですが、13人の決死隊は、それは絶対にいやなのです。そんなことをしたら、今、絶好調の隣町、美郷町に吸収され、「おらが村は消えていく」と恐れているからです。

今、全国で消滅の危機に瀕している地域で、消滅させないで支えているのは、このような人達の必死の思いです。ですから、山村振興活動では、このエネルギーを減退させる行動は取れません。「救急空白地帯」の解消には、支援しなければなりませんが、取り扱いは難しいのです。

日本経済新聞の2月1日の朝刊は、以下のように書き出していました。

 

☆引用

「消防本部や消防署がなく、救急隊員もいない。そんな「救急空白地帯」が全国に30近く存在する。新型コロナウイルスの感染拡大で、住民の不安が高まる中、役場の職員が本業の傍らで病院への搬送などを担う状況が続く。離島や山間部では広域消防体制を整えるのは難しく、民間に業務委託する動きもある。」(参考資料1、2021年2月1日、日本経済新聞、大城夏希から引用)

 

☆解説

宮崎県北部にある諸塚村には消防署がなく、役場職員が年間70件の救急搬送を担っています。夜間や休日も、役場近くに住む職員13人でシフトを組み、村民1400人の命を守っています。多い時は、週3回ほど出動します。これは1979年に始めました。

 

諸塚村のように、消防本部や署がない自治体は、「消防非常備自治体」と呼ばれます。総務省消防庁によりますと、このような自治体は、離島や山間部を中心に、全国で29町村あります。多くは役場職員や委託された住民が搬送を担いますが、資格がないため、点滴などの医療行為は行えず、対応が遅れるケースも起こりやすいのです。

国は空白解消のため、複数の自治体による広域消防体制の整備を促してきました。2006年に、消防組織法を改正して整備費用などを支援し、これまでに11町村の非常備が解消されました。ただ、消防庁の担当者は「最終的には自治体の判断。消防職員の採用も必要で財政的に難しいところもある」と指摘しています。諸塚村も近隣自治体との共同で消防設置を検討しましたが、「費用に加え、山間部で面積も広く共同運営は難しい」という結論に至っているのです。

他に手立てはないのでしょうか。目立つのが救急業務を民間に委託する動きです。諸塚村に隣接する美郷町に本社を構える「日本救急システム」は、2015年に同町、2017年に徳島県勝浦町から救急搬送業務を受託しました。同社の救急救命士が、各町内の事務所に常駐しています。それで自治体職員には担えない搬送中の応急処置も可能になりました。

 

多くの島からなる沖縄県竹富町も、2020年の夏に、同社への委託を始めました。町の119番通報件数は、年間1000件に上ります。これまでは、各島の消防隊員の町民が、昼夜を問わず搬送に駆け回っていました。

委託の対象は、人口が比較的に多い西表島の西部地区の平日の日中です。石垣島などへの転院に伴う搬送も同社が担い、地区に一人ずつしかいない医師と看護師の負担も減りました。将来は、町全域に拡げる方針です。

民間委託は、新型コロナ対応にも一役買っています。宮崎県美郷町では、感染の拡大後、患者を救急車に乗せるたびに、1時間ほどをかけて車内を消毒しています。町の担当者は、職員だけでは対応できない。感染防止策の専門知識も教えてもらえるので、助かっている」と話しています。

でも、費用負担は小さくないのです。同町の委託費は、年間1億円です。他の非常備自治体からは「うちの財政状態では、導入は難しい」との声が漏れています。(参考資料1、2021年2月1日、日本経済新聞、大城夏希を参照して記述)

 

☆まとめ

このブログを読んでおられる読者の中には、隣町の「救急システム会社」に委託したら良いのではないかと、思われる方も多いと思われます。すなわち、諸塚村の隣町、美郷町には、救急システムの委託を受託できる立派な会社「日本救急システム」があります。同社は、今や、遠く離れた徳島県勝浦町や、さらに遠方の沖縄県の竹富町で、救急業務を受託して処理しています。諸塚村は、すぐ隣ですから、委託したら良いのではないかと思われるのは当然です。でも、諸塚村の人たちは、それを絶対にしたくないのです。そんなことをしたら、力をつけてきている美郷町に、諸塚村は吸収され消えてしまうと恐れているのです。

明治から平成にかけて、全国の市町村の大合併がありました。この時、多くの町村が合併し、多数の市が生まれました。これにより、消防の非常備をはじめとて、多くの不便が解消されましたが、多くの悲劇も起こりました。多数の村の実体が消滅したのです。村のあった場所の多数は、人が殆ど不住の地帯となったのです。

先祖から守ってきた「おらが村を消さないために頑張る」諸塚村の13人の役場職員消防隊は、必死で頑張ってきたのです。このような人達の地域消滅を防ぐ「頑張る力」は、地方振興の最大のエネルギーです。その気力を削ぐような施策は、山村振興策としては、決して行ってはならないことです。

「消防非常備自治体」の解消は、今となっては、もはや自治体まかせにせず、国が強力に推進しなければならない課題ですが、諸塚の13人の戦士側の気持ちに立って進めねばなりません。大変、難しいテーマです。(参考資料1、2021年2月1日、日本経済新聞、大城夏希を参照して記述)

 

参考資料

(1)日本経済新聞、2021年2月1日。

 

[付記]2021年3月9日。

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