林業テック スタートアップ スカイマティクス 生産性を高める ドローン計測 人工知能(AI)と組み合わせる

☆巻頭の一言

私が待望していた、林業スタートアップが、ようやく、登場しました。ドローンと人工知能(AI、注1)を本格的に組み合わせた、ドローン森林解析を実施するスタートアップです。熊本県で、実証実験を開始しました。

 

林業再生・山村振興への一言(再出発)

 

2022年4月 (№196)

 

□椎野潤(新)ブログ(407) 林業テック スタートアップ スカイマティクス 生産性を高める ドローン計測 人工知能(AI)と組み合わせる 2022年4月5日

 

 

☆前書き

2022年3月2日の日本経済新聞は、このことを記事に書いていました。今日は、これを取り上げてブログを書きます。記事は、以下のように書き出しています。

 

☆引用

「林業の生産性向上を後押しするスタートアップの取り組みが広がってきた。ドローンを活用した事業を手掛けるスカイマティクス(東京・中央)は、ドローンと人工知能(AI、注1)を組み合わせて、森林の資源量や生育状況を計測するシステムの開発に乗り出した。林業の担い手不足が深刻化するなか、振興勢が技術で現場を支える。脱炭素への貢献に向けて森林活用を後押しする狙いもある。」(参考資料1、日本経済新聞、2022年3月2日から引用)

 

☆解説

日本の国土の7割は森林が占めています。森林が産み出してくれる木材は、日本の数少ない、貴重な天然資源です。この活用は、日本の未来にとって、極めて貴重な課題です。 でも、その国産材は戦中・戦後の乱伐で疲弊し、その後、産官共同での植林の努力が続けられてきました。ようやく最近、伐採に適した太さに、杉・檜が育ったのです。

しかし、日本の木材は、長らく、海外材に依存してきましたので、その伐採、製材、製品化、販売などは、順調に回復しているとは言えないのです。これを、進化が著しいAI(注1)など先端技術を活用して、一気に活性化するのは、今の日本の喫緊の課題なのです。

私は、このような状況の中で、林業再生・山村振興において、AIなどの先端技術を駆使した開発をしてくれるスタートアップの登場を待望していました。その期待の星が、いよいよ、登場してくれたのです。今回、日本経済新聞が、関連する情報を丁寧に集めて、整理し報告してくれています。今日は、これを参照ならびに引用させていただいて、ブロクを書きます。

 

ここで、登場した期待のスタートアップは、スカイマティクス(東京・中央)です。スカイマティクスのシステムでは、ドローンの撮影画像を基にAIが樹木の本数や生え方を解析します。効率的に育てるために間伐すべき場所を見付け出します。さらに、植林の進捗状況を確認します。

このほど熊本県の森林組合などと連携し、実証実験を始めました。撮影に適した高度や画像認識の精度を検証し、課題を解決した上で2023年の正式投入を目指しています。

現状は、航空機を使った撮影や現地の歩行調査が必要で、数億円の費用がかかります。でも、これを数十分の一に低減したいと、同社の渡辺善太郎社長は述べておられます。

スカイマティクスは、これまでは野菜の生育状況を把握するドローンシステムを手掛けてきました。この蓄積した解析技術を森林分野に応用します。この事業拡大に充てるため、農林中央金庫やフェムトパートナーズなど4社を引き受け先とする第三者割り当て増資で13億円を調達しました。

 

☆まとめ

私も、2020年10月30日のブログ(参考資料2)で発信しましたが、和歌山県田辺市の植林スタートアッブの中川は、ドローンメーカーと共同で、資材運搬用ドローン「いたきそ」を開発しました。これは植林に必要な苗木や獣害防止柵などを運ぶものです。人力で1時間かかる距離が、20分に短縮できました。それまで多発していた、重量物運搬による、腰を痛める労働災害は、見事になくなっており、植林量も、1.2倍に拡大できました。

林業の生産性向上には、大手も取り組んでいます。コマツは、伐採などに使う機械からデータを集め、業務の進捗を管理するシステムを開発中です。木材流通分野で、森未来(東京・港、参考資料3)が、木材専用の電子商取引(注2)eTREE(イートリー)」を運営しています。ここでは、国内外80産地で販売された計1万点の木材情報が閲覧・活用できます。競りで価格が変化した従来の取引にくらべ、関係者は、先の見通しをたてやすくなりました。(参考資料1、2022年3月2日、日本経済新聞(松浦稜)を、参照引用して記述)

 

林野庁は、現在、5年に一度の「森林・林業基本計画」の改定を実施しています。林業では、今、大事な時期に来ていますから、その後の改定で、さらに内容を一新していると思いますが、ここで引用している平成23年版の「森林・林業基本計画」(参考資料4、注4)においても、その内容は既に、私が経営戦略用語で「林業・国産材産業長期国家戦略」と呼んでいたもの、そのものになっています。これは100年の長期にわたる計画であり、それは単なる計画ではなく、国をどのように変えていくのかについての戦略を示しています。

 

林業は多様な機能を持っています。それが同計画で明確に定義され、達成すべき機能、目標が明示されています。それは、以下の7機能です。

(1)水源かん養機能

(2)産地災害防止機能/土壌保全機能

(3)快適環境形成機能

(4)保険・レクリエーション機能

(5)文化機能

(6)木材等生産機能

(7)生物多様性保全機能(属地的に発揮される一部の機能)

この多くの機能を見てわかるように、森林に関する産業である林業は、他の産業に比べ、著しく重要な産業なのです。トヨタ自動車や日立製作所が切り開こうとしているサービス製造業はもとより重要な産業ですが、人々の生活の一部を支える産業です。これに対して林業は、国土・地域社会を包含する産業だからです。(この項、参考資料5、注5から引用)

 

少子高齢化が進むわが国では、林業でも、担い手を維持し増強していくことは、大変に困難です。私が、今、努力している「林業再生・山村振興」の推進をとっても、これに従事する人たちの生産性向上が、まさに、火急の重要事です。この解決のために、近年進化が著しい、AI(注1)・IoT(注3)などの最先端技術を、森林・林業・山村の改革に活用する「林業テック」は、今後、重要度を急速に増大させて行くはずです。

 

(注1)人工知能(AI):人工知能=AI(artificial intelligence):「計算(computation)」という概念と「コンピューター(computer)」という道具を用いて「知能」を研究する計算機科学(computer science)の一分野」を指す語。言語の理解や推論、問題解決などの知的行動を人間に代わってコンピューターに行わせる技術。計算機(コンピュータ)による知的な情報処理システムの設計や実現に関する研究分野。

(注2)電子商取引=eコマース(e-commerce):コンピュータネットワーク上で電子的な情報通信により商品やサービスを売買・分配すること。

(注3)IoT(Internet of Things、IoT):様々な「モノ(物)」がインターネットに接続され(単に繋がるだけではなく、モノがインターネットのように繋がる)、情報交換することにより相互に制御する仕組みである。それによるデジタル社会の実現を指す。人とモノの間、およびモノ同士の間の新しい形の通信を可能にする。

(注4)森林・林業基本計画(平成28年板)は、平成28年5月に閣議決定されていますが、ここでは、平成23年板を引用しています。

(注5)参考資料5、pp.65〜66から引用。

 

☆参考資料

(1)日本経済新聞、2022年3月2日

(2)椎野潤(続)ブログ(257)森林パートナーズ 俄かに活性化 スタートアップ続々参入(その1) 2020年10月30日

(3)椎野潤(続)ブログ(258)森林パートナーズ 俄かに活性化 スタートアップ続々参入(その2) 2020年11月3日

(4)森林林業基本計画、林野庁、平成23年7月

(5)椎野潤著:椎野先生の「林業ロジスティクスゼミ」ロジスティクスから考える林業サプライチェーン構築、林業改良普及双書№186、全国林業改良普及協会、2017年2月20日

 

[付記]2022年4月5日。

 

 

 

[追記 東京大学名誉教授 酒井秀夫先生の指導文]

[指導を受けたブログ名:椎野潤(新)ブログ(406) 堀澤正彦ブログ 新たな林業再生への挑戦 仮想木材に挑戦する 2022年4月1日]

 

大谷恵理様

 

ブログ配信ありがとうございます。

 

今回は堀澤さんが森林組合で森林情報のデジタルデータベース化に取り組んでこられて突き当たった壁に対して正確に分析され、その間の沈黙を破って投稿された貴重で重要な渾身のブログです。

森林資源の把握の重要性は大谷さんも指摘しておられますが、堀澤さんはいち早く航空レーザ計測による森林資源解析をされ、実用性を実証され、「何が、何処に、どの位」あるかの「デジタル森林木材倉庫」を構想されました。

林業界は、ストックヤード確保や長期保管が現実的ではなく、製品在庫は避けたがっているとのことですが、それならば、先行注文を受けて、ストックヤードをインフラとして整備し、長期保管に対するファイナンスが確保できれば、サプライチェーンの在庫情報のネットワークが武器になります。このことは伊佐さんがウッドショックに打ち勝ったことで実証されています。

堀澤さんが、原木の直送システムの管理にICTを導入したところで行き詰まったのは、考え方が間違っていたのではなく、業界に変革する情熱がなかっただけだと思います。

需要側を突き動かすには至らなかったとのことですが、伊佐さんが強調されるように需要側からサプライチェーンを興す必要があります。

製材所が山を買うとき、元玉4mが何本とれるかをまず見極め、それに2番玉、3番玉を推定する極秘の係数をかけて材積を求めます。番頭さんはデータを蓄積して勉強していました。今なら、ITとAIで木取りを想定したデジタル森林倉庫が可能でしょう。手入れをしてきた良い山は先行投資できます。

堀澤さんのブログを読んで、わくわくしてきました。

 

酒井秀夫

 

 

なお、この一連のことを良く理解するのに、参考資料5が参考になります。読んでみてください。

 

椎野 潤

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