堀澤正彦ブログ 新たな林業再生への挑戦 仮想木材に挑戦する

☆巻頭の一言

私の林業界の一番弟子、北信州森林組合の堀澤正彦さんから、待望の次世代林業の創生を目指した改革の再発信について、力強いブログが投稿されました。

今日は、これを、椎野ブログの読者に、広く読んでいただくように、ここに掲載します。いよいよ、ここでもう一つ、楽しみな改革の新展開が出発します。

 

林業再生・山村振興への一言(再出発)

 

2022年4月 (№195)

 

□椎野潤(新)ブログ(406) 堀澤正彦ブログ 新たな林業再生への挑戦 仮想木材に挑戦する 2022年4月1日

 

☆前書き

堀澤正彦さんは、この寄稿文を送って下さったメールで、以下のように書かれていました。「仮想木材」に叩き起こされました。身が震える思いです。心機一転、この原稿を送ります。

林業で一番弟子の堀澤さんは、今、未来に向けた強い希望で沸き立っています。その熱い心を原文から読みとってください。以下、引用します。

 

☆引用

「ウッドステーション塩地さんが椎野塾ブログに記された、「仮想木材」の構想に衝撃を受けました。これは提唱する大型パネルによる林業サプライチェンマネジメントを、集約した言葉です。

椎野先生と出会ったのは6年前です。以来、林業界の一番弟子を自認し、木材流通の構造変革、林業サプライチェンの確立を目指して取り組んできました。しかし、これは大きな改革であるため、やはり思うようには進まず、次々と壁に突き当たりました。何度も壁を乗り越えてきましたが、次第に疲れて、活性を失ってきた矢先でした。

ここで、「仮想木材」に叩き起こされたように感じました。心機一転、本ブログでこれまでを振り返りながら、自らを覚醒に向けたいと思い寄稿しました。

 

所属する森林組合の業務として、森林情報のデジタルデータベース化に取り組んできました。原初は、森林境界の明確化でした。日本の森林の多くは、所有単位が零細分散型であり、長きにわたり管理放置された森林は所有界が不明瞭となり、森林の利活用の足かせとなっていました。そこで、これは喫緊の課題でした。

並行して取り組んだのが、森林資源のデータベース化です。様々な方法を試行しましたが、作業量の割に精度、保存性が低位で実用に至らずにいました。ここで飛び込んできたのが航空レーザ計測による森林資源解析です。導入コストは高額でしたが、実用に耐えうる精度と高い保存性がありました。森林境界、レーザ森林資源解析を、森林GIS(注1)のデータソースとして管理する「デジタル森林木材倉庫」を構想しました。

 

林業サプライチェン実現には課題が多くありました。その一つは、ジャストインタイムのために、どの時点で(≒誰が)在庫を持つのかということです。ストックヤード確保や長期保管による品質劣化の問題で、原木での在庫は現実的ではありません。製品在庫も経営的に避けたいと誰もが考えるでしょう。

「成熟期を迎えた人工林が活用されず放置され・・・」どちらかというとネガティブに捉えられがちな森林の現状ですが、見方を変えれば、使えるものがすでにストックされているということです。森林境界、レーザ森林資源解析をもって「何が、何処に、どの位」あるかを、知ることが出来るのです。その在庫管理ができていれば、Amazon在庫管理センターのフルフィルメントセンター(注2)のごとくに、天然の森林が、在庫センターに変貌すると考えました。当時、椎野先生に「森林は林業界のAmazonになる」と確言したことを思い出します。

 

明示した素材生産計画に対して、用途それぞれで先行注文を受けて、計画的に生産を行えば需給双方にメリットが生まれると考えました。これを長期計画に落とし込めればさらに効果が増大します。しかし、これは思うようには運びませんでした。自組織には、流通のイニシアチブがなかったのです。

依存する仲介団体は、原木を集めて売りさばく、いわゆるプロダクトアウトの手法に止まっていました。これを変革する情熱は生れませんでした。そのため、原木の直送システムの管理にICT(注3)を導入したところで行き詰まってしまったのです。

 

すなわち、需要側を突き動かすには至らなかったのです。買い手と売り手を超越し信用で成り立つ、真のサプライチェンの理解を得るには至らなかったのです。

山側の供給責任だけが求められ、モノが水平方向に動くごとに発生する無駄を、原木価格にしわ寄せされる構造は変わりませんでした。

でも、もちろん、こちら側にも大きな問題がありました。それは森林経営が、全面的な補助金依存であったということです。補助制度の縛りが足かせとなりました。それで思い切った事業展開をすることができなかったのです。

 

この反省をもとに思い描いたのは、林材業の垂直統合経営です。仔細を抜きにすれば、かつて自動車メーカーが展開していた「ケイレツ」のようなイメージでしょうか。椎野塾事務局長の大谷さんは寄稿のなかで垂直協調と表現をされています。同軸で目標に向かうことで、真のサプライチェンマネジメントを実現できます。

 

そして、そこでは、椎野先生が提唱する「濁りのない透明情報」に基づいた取引が必要です。川上が最も重要なことは言うまでもありませんが、真のサプライチェンは、流れのままに下るだけでは成立しません。川下から情報が遡上して連携を図る必要があるのです。塩地さんが手掛けておられる大型パネルでは、WSパネルというCADシステムから必要な断面情報の抽出が可能であるとのことです。これを原木まで逆流させて、レーザ計測による精密な森林資源情報と融合することで、木取りをデジタルデータで再現することが可能になります。

 

かつて、大工の棟梁が自ら立木の見立てをしたり、棟梁が示した木取りから山主や伐採業者が見立てをすることがありました。それらは全て彼らの脳内作業により成り立っていましたが、仮想木材はそれらをデジタルデータとして情報化できるのです。木取りの想定までが内在するデジタル森林倉庫として森林資源情報利用の合理化が進み、塩地さんが目指す木造建築の近代化、工業化が実現すると理解しています。

 

仮想木材は、川上にもう一つの大きなメリットを生み出します。明確なデータにより建築と紐付いた森林では、透明情報により中間ノイズを省いたフェアトレード(注4)が期待できます。適正な価値で立木の先物売りをすることもできます。塩地さんは先行予約と表現されていましたが、とにかく山側に先行資金が投じられることになるのです。川上側の在庫管理コスト、造育林の資金確保に繋がるのです。

頑強な資本関係はなくとも、デジタルデータというエビデンス(注5)に基づいた垂直協調を形成する。当然、供給責任は果たさなければなりませんが、林業の弱点である脆弱な経営資本が改善するのです。

 

仮想木材への道のりには高い壁があることは確かです。でも、取り憑かれたように魅力を感じています。しかし、現在の職場内の立場からみれば、現職として直接立ち向かうことは叶いません。とても残念ですが、なにかの形で関わることができればと考えています。そして、その進展をこのブログに記すことで、復活の狼煙を上げたいと考えてこれを書きました。

 

☆まとめ

この「まとめ」を書く前に、読者のみなさまに、ご報告したい嬉しい報告があります。堀澤正彦さんが、この熱の籠もった投稿原稿を、送ってくれたのは3月上旬でした。さっそく、ブログ編成をして発信したかったのですが、3月中のブログ発信計画は、すでに満杯でした。それで、4月始めの発信を予定して準備を進めました。この間に、嬉しい情報が入ってきたのです。

この嬉しい情報とは、堀澤さんが先導者として開始していた「ドローンによる航空レザー計測」における、森林資源解析について、待望の人工知能(AI、注6)を登載した実証実験が、熊本県で始まったという情報です。

この詳しい情報が入手できれば、今日の堀澤ブログと併せて報告したいと熱望していたのです。それが天恵のように、2022年3月2日の日本経済新聞に掲載されたのです。私は、さっそく、これをグログに書きました。これは次回のブログとして、読者のみなさまに公開します。この堀澤正彦さんの嬉しい情報と、人工知能(AI)を本格利用した、ドローン森林解析の実用開始の嬉しい情報を、読者に同時に読んでいただけるのです。

 

さて、ここで「まとめ」の本論に入りましょう。堀澤さんは、以下のように述べておられます。ここで要約して示します。

(1)森林組合の業務として、森林情報のデジタルデータベース化に取り組んできた。まず、森林境界を明確化した。

(2)次に、森林資源のデータベース化を進めた。

(3)航空レーザ計測による森林資源解析を行った。導入コストは高額だが、実用に耐えうる精度と高い保存性があった。森林境界、レーザ森林資源解析を、森林GIS(注1)のデータソースとして管理する「デジタル森林木材倉庫」を構想した。

(4)林業サプライチェン実現には課題が多くあった。(その1)ジャストインタイムのために、どの時点で(≒誰が)在庫を持つのかということ。

(5)(その2)森林境界、レーザ森林資源解析で「何が、何処に、どの位」あるかを、知ることが出来るのこと。それで在庫管理ができていれば、森林がAmazon在庫管理センターのフルフィルメントセンター(注2)になる。これは酒井秀夫先生が提唱する「森林は知的ビジネス」でもある(参考資料1)。

(6)明示した素材生産計画に対して、用途それぞれで先行注文を受けて、計画的に生産を行えば需給双方にメリットが生まれる。これを長期計画に落とし込めればさらに効果が増大する。

(7)原木の直送システムの管理にICT(注3)を導入した。壁にぶつかって頓挫した。

(8)森林経営が、全面的な補助金依存であった。補助制度の縛りが足かせとなり、思い切った事業展開ができなかった。

(9)思い描いたのは、林材業の垂直統合経営。椎野塾事務局長の大谷さんが垂直協調と表現をされているもの。同軸で目標に向かうことで、真のサプライチェンマネジメントを実現できる。

(10)「濁りのない透明情報」に基づいた取引が必要。真のサプライチェンでは、川下から情報が遡上して連携を図る必要がある。塩地さんの大型パネルでは、WSパネルというCADシステムから必要な断面情報の抽出が可能である聞く。これを原木まで逆流させて、レーザ計測による精密な森林資源情報と融合することで、木取りをデジタルデータで再現することが可能になる。

(11)かつて、大工の棟梁が自ら立木の見立てをしたり、棟梁が示した木取りから山師が見立てをすることがあった。それらは全て、彼らの脳内作業により成り立っていた。仮想木材は、それらをデジタルデータとして情報化する。木取りの想定までが内在するデジタル森林倉庫として森林資源情報利用の合理化が進み、塩地さんが目指す木造建築の近代化、工業化が実現すると理解している。

(12)仮想木材は、川上にもう一つの大きなメリットを生み出す。明確なデータにより建築と紐付いた森林では、透明情報により中間ノイズを省いたフェアトレード(注4)が期待できる。適正な価値で立木の先物売りをするこができる。塩地さんは先行予約と表現されているが、山側に先行資金が投じられることになる。川上側の在庫管理コスト、造育林の資金確保につながる。

(13)資本関係はなくとも、デジタルデータというエビデンス(注5)に基づいた垂直協調が形成する。供給責任は果たさなければならないが、林業の弱点である脆弱な経営資本は改善する。

 

堀澤正彦さんとは、最近は、ブログ上での情報交換は、途絶していました。でも、この論文は、最近の椎野潤ブログ上の議論を良く反映しており、私にとっては、まことに貴重な論文でした。これで、今、このブログ上で議論しているみんなの議論は、また、一歩前進するでしょう。

 

さらに、この一歩前進の堀澤論文の発信と、時を同じくして、AI登載ドローンによる森林管理の大きな一歩の前進を、ブログの読者に、一緒に読んでいただけたのは、まさに、幸甚でした。私は、これは天命だと思います。日本の未来を背負って行く、「林業再生・山村振興」プロジェクトは、天が牽引してくています。ここで「空気」が大きく動くだろうと期待しています。

 

☆参考資料

(1)椎野潤(新)ブログ(404) 「酒井秀夫ブロク」3月ブログ(その2)森林は知的ビジネス 2022年3月25日

 

[付記]2022年4月1日。

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