眠る空き家が地域を再生に導く 

林業再生・山村振興への一言(再開)

2021年6月 (№113)

 

□ 椎野潤(続)ブログ(324)眠る空き家が地域を再生に導く2021年6月15日

 

☆前書き

空き家に着目して、うまく管理していけば、地域再生につながるのです。2021年5月29日の日本経済新聞は、これを記事に書いていました。今日は、これを取り上げてブログを書きます。まず、記事の「書き出し」を引用します。

 

☆引用

「人口減少に伴って増える空き家。放置すると防犯や景観面で周囲に悪影響を及ぼす一方で、空き家率(注1)のデータを分析すると、移住者の呼び込みに空き家を生かしている地域もあることがわかった。自治体と住民との連携、規制緩和などがカギになる。(参考資料1(日本経済新聞、2021年5月29日(編集委員 谷隆徳、地域再生エディター 桜井佑介)を引用)。

 

☆解説

総務省の住宅統計調査によりますと、日本の空き家は、2018年で、849万戸と5年前に比べて3.6%増加しました。なかでも借り手も買い手を募集していない「市場で流通していない空き家(未流通の空き家)」が9.5%も増えたのです。

都道府県別にみますと、空き家率の高いのは、人口減少が著しい四国や九州です。この空き家には、別荘も統計上含まれるので、山梨や長野も高いのです。

一方、2018年と2013年を比べてみますと、市区町村の37%は、空き家率が低下しました。ここで、その空き家率が低下している処を明確にするために、その増減幅を「改善幅(注2)」として算出してみました。こうしてみますと、「改善幅」で上位にくる自治体は、空き家をうまく活用して転入者の増加を達成しています。

山梨県富士河口湖町は、全体の空き家改善が全国10位、未流通の空き家で2位になりました。町の空き家バンクだけでも、成約物件は、この5年で、130件に上ります。移住者に手頃な賃貸物件の確保に努め、地元住民らが「富士山暮らし応援隊」を結成して相談に乗っています。この効果で、町の人口は2019年度、2020年度と転入者が転出者を上回る転入超を維持しました。

未流通の空き家の改善が1位になった北海道三笠市も、2020年に転入超を達成しました。衰退が著しい旧産炭地では、異例の健闘です。子育て支援や住宅購入の助成が厚く、近隣で仕事をしたまま転入する人が多いのです。遠距離通勤の助成制度もあるので、札幌からの移住者もいるのです。

全体の空き家改善が1位の鳥取県の大山町も、2018年度に転入超になりました。空き家は、うまく使えば資産になるのです。(参考資料1、2021年5月29日の日本経済新聞(編集委員 谷隆徳、地域再生エディター 桜井佑介)を参照して記述)

 

☆まとめ

空き家を巧く生かすカギは、幾つかあります。そのカギの第1は、民間のノウハウの活用です。未流通で9位の埼玉県毛呂山町は、2018年度に、不動産鑑定の住友システムアプレイザル(東京・千代田)と連携して調査員を育成し、「空き家トリアージ(注3)」を実施しました。これは家屋を分類して改善策を提案する試みです。これは眠る物件を市場に戻す取り組みです。

カギの第2は、移住者の需要に応じた規制緩和です。未流通空き家改善3位の兵庫県作用町は、2017年、空き家バンクの物件を対象に、取得できる農地面積を、従来の3000平方メートル以上から、1平方メートル以上に、一気に規制緩和しました。家庭菜園を求める人が多いためで、その後の成約物件の4割は農地付き空き家になっています。

第3は、まちづくりとの連動です。改善の上位には、全体の空き家で3位になった福島県猪苗代町のように、郊外開発を抑える立地適正化計画(注4)を策定済みの地域が目立ちます。立地適正化計画が策定してあれば、住宅等の立地誘導に支障がある場合には、市町村長が立地適正化のための勧告を行うことができます。

 

私は、今後の地域創生の推進において、「空き家トリアージ(注3)」に、格別の注目をしています。トリアージは、もともと、大規模地震で大量の避難者が出て、避難所が大幅に不足する場合、避難所の利用者に優先順位をつけるために用いられてきた手法です。多くの検討すべきことが存在する状況の中で、総合的に適正な判断を迅速に行うために、使われてきた方策でした。ここでは著しく多様な顧客の要望と多彩な空き家を、マッチングさせるために、トリアージ(注3)を活用することを考えた着想は、とにかく素晴らしいのです。

 

でも、私は、ここで、もう一歩踏み込んで考えたいのです。まず、大規模地震災害等のときも、空き家の在庫を使うべきです。大災害の後、一時避難所にいた被災者たちは、大混乱が一息ついたころから、倒壊した自宅を、もとの場所に、あらたに建て直すのが難しく、悩む現実があります。この行き先の一つに、市町村が保有する空き家バンクを加えるのです。

さらに、もう一歩踏み込みたいのです。私は、次世代の地域創生に向けて、「民泊」が重要だと感じています。日本人の家庭の温かさ、優しさは、世界の人々から高く評価されています。日本人の人格・生活態度を尊敬する世界の旅人たちに、積極的に宿を提供するのです。

世界の人達の著しく多様なニーズに応えるには、さまざまな生活者を支えてきた空き家のストックが、凄く重要だと思うのです。ここでは、このような外国人が憧れる「家庭の空室」も、空き家と考えたらどうでしょうか。

さらに、もう一歩すすんで、外国人に対して空き家を貸し出して、民泊の家族のようにお世話をする人を、市町村の職員にすると、さらに高い地平が見えてきます。すなわち、これにより世界の旅人たちを本当に満足させることができたとき、その村・町の人格・人柄が世界から絶賛されたということになるからです。ここでは人ではなく、村・町自体の人格・人柄が絶賛されるのです。これが、未来に向けた地域創生・山村振興の究極の目標です。(参考資料1、2021年5月29日の日本経済新聞(編集委員 谷隆徳、地域再生エディター 桜井佑介)を参照して記述)

 

(注1)空き家率:空き家の総住宅数に対する比率。空き家の数を総住宅数で除した数値。

(注2)改善幅:2018年の空き家率を2013年の空き家率と比較した増減値。改善幅の数値+=改善。−=悪化。

(注3)救急搬送トリアージ:大事故、大規模災害などで、多数の傷病者が発生した際、救命順序を決める標準化された手順。避難所トリアージ:大規模地震等で大量の避難者が出て、避難所が大幅に不足する場合、避難所の利用者に優先順位をつける手段。空き家トリアージ:空き家の状況を、適切に分類・整理しておき、多様な顧客の希望を良く聞いて、適切な空き家改善策を提案する。

(注4)立地適正化計画:都市再生を図るために、都市機能の立地を誘導するべく作成されるマスタープラン。「「都市再生特別処置法」に基づき、市町村が作成する。住宅等の立地誘導に支障がある場合には、市町村長が立地適正化のための勧告を行うことができる。

 

参考資料

(1)日本経済新聞、2021年5月29日。

 

[付記]2021年6月15日。

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