秩父FOREST・伊佐ホームズ・森林パートナーズの3事業を関連づけて高める 討論 

林業再生・山村振興への一言(再開)

 

2021年6月(№112)

 

□ 椎野潤(続)ブログ(323) 秩父FOREST・伊佐ホームズ・森林パートナーズの3事業を関連づけて高める 討論 2021年6月11日。

 

☆前書き

森林パートナーズの小柳雄平社長の提案で、ネット討論を実施しました。その結果、大変、重要な論点に達したと思います。

 

☆討論

[討論のはじめに]

ネット討論は、私が聞き手になり、伊佐裕さんと、小柳雄平さんに、自由にお話ししていただきました。大変、貴重な討論になりました。(椎野潤記述)

 

椎野  秩父FORESTを設立以来、一年間の報告文を読みました。いよいよ構想が具体化してきましたね。改めて秩父FORESTと伊佐ホームズ、森林パートナーズの関係、その3つの事業をどのように関連付けて高め合っていくおつもりなのかを、本日はお聞きしたいと思います。先ず、伊佐ホームズの家づくりについてお聞かせください。

 

伊佐  住宅とは、経済活動上の商品としての住宅ではなく、「私」の視点からの家づくりが大切だと考えております。福岡市内にある、国の登録文化財になっている明治期から建つ家に生まれ、人生折々の中で、その家の風景を思い出し、家が私を支えてくれたという実感をもっております。人が家をつくるのですが、家がまた人をつくる、住宅とはそのように大切な場所です。ですから、簡単に産業というのはどうかと思います。人は記憶を頼りにしていく動物です。懐かしさのような記憶に関わる情報を抜きにしては、人生を生きていくことは出来ません。「私」の中にある懐かしさによって五感を伴った記憶が呼び起され、それと向き合うことで、今の自分の肉体、存在、歴史、居場所を肯定できるのです。住宅には機能がとても大切です。しかし機能以上に大事なのがこの様な情緒だと思います。それはやはり家族の歴史が刻まれるかどうかです。懐かしさを失ってしまうと文化の継承もできないし、愛着もなくなり、家族の愛情もないでしょう。

日本の歴史に対する共感、日本の環境に対する尊敬と感謝の念もなくなると思います。この情緒と機能を大事にして、当社は美を追求しながら、私が信じる家をつくるという一念で、住宅づくりをやっております。

 

椎野  そのような家づくりを通して、木材資源を支えるべき林業の低迷をお知りになって、森林パートナーズを起こされたのですね。そのイノベーション(注1)についてお聞かせください。

 

伊佐  約8年前、50年生の杉の木が約7〜8000円と木材価格があまりにも安く、林業家に利益がほとんど還っていないことに驚愕しました。普通の住宅の構造材のコストが、システムキッチンより安いという実態に強い違和感を覚え、それならば我々工務店が、山が維持できる森林再生の適正価格で、直接山元から丸太を買う決意しました。ちょうど椎野先生とロジスティクスの勉強会を、当社主催で15年ほど前から実施させて頂いており、このなかで埼玉県秩父の山主であり林業家の角仲林業山中氏と出会い、既存の流通の無駄を省き、製材所・プレカット工場と連携した業界初の新しい流通形態、ICTを活用する木材のサプライチェーンの構築を始めました。

私がもともと商社マンだったこともあり、価値を高めながら無駄を省くという仕組みづくりの意識が根付いております。そのうえで文化と経済を両立するような事業をやっていきたい。伊佐ホームズを設立した時は、美しい住宅をつくりたいという思いと同時に、工務店の無駄を省きたいと思ってやってきました。このとき林業・木材の流通を見て、これを一層感じました。

イノベーション(注1)とは技術改革ではなく、社会改革であると教えられました。東京大学野城教授のお言葉ですが、技術があって改革が起こるのではなく、理念の改革に技術がついてくると。社会的イノベーションにおける価値創成網の形成は、社会的価値を実現するという共通の広がり、理念の共有が核になると。社会問題を解決緩和する新たな取り組み、その具体的内容が触媒となり仕組みを設計、構築運営しようとする主体が現れ、その主体が連携することによって、価値創成の核が形成されるということです。イノベーション(注1)のためには、思いや感情、理念だけではなく、やはり、きちんとした基盤、プラットフォームが必要です。

森林パートナーズは、工務店、山元、製材所、プレカット工場の連携による、ITによる情報共有で、一つの会社のようになっているのです。

 

小柳  このサプライチェーンは、当初は伊佐ホームズの中で、試行的に運営していました。その中で、森林パートナーズ株式会社は、サプライチェーンをより円滑に使いやすくするために設立されました。会社の株主構成は、木材の一次、二次、三次産業から構成される、他に例のない文字通りの六次産業です。

事業目的は、

(1)森林の維持再生と地域材の活用促進という国民的課題である事業を行う。

(2)地域工務店と林業、木材加工業の連携による六次産業化を実現するため、「森林再生プラットフォーム」を提供し、新木材流通コーディネート事業を行うことです。

事業内容は

(1)QRコード、ICタグを活用したトレーサビリティシステム(注2)を有するプラットフォームの提供を行うこと。

(2)一次、二次、三次産業の協同により工務店の、山元への還元を確保する原木調達を原則として、合理的な加工/流通/透明な価格を実現する。

(3)都市生活者と山元を繋ぎ、エンドユーザー(建て主)に森林の維持・再生の共感を得る活動を行うことです。

三方良しの理念で木材の価値を高めながら、ICTによって無駄を省き、見える化することで、お互いがフラットな関係が成り立つ仕組みです。そして地域工務店の連携によって需要を拡大します。

森林林業、木材二次産業、地域工務店、そして何より価値を共感する消費者、お施主様を巻き込み、大きな社会的組織として、社会資本、自然資本の統合活用で消費者が求めるものをマーケットイン型産業として生産し供給するという形の形成が狙いです。

この仕組みを、現在、福岡県などでも採用していただき、動き始めており、他地域への展開も始まっております。またカーボンニュートラル(注3)、ウッドショックの影響もあり、いよいよ国産材、地域材の安定的で持続可能な木材流通のために、当社のシステムの商流整備、技術の向上を加速する必要を感じております。

 

伊佐  そしていくら流通が出来ても、やはり木材価値を高めるということが大事なので、出口戦略「森を育てる家づくり」のモデルとして伊佐ホームズにて「田園都市の家」を設計、施工し、背景のサプライチェーンと合わせてグッドデザイン賞を獲得しました。

 

椎野  「田園都市の家」については、私は、2020年2月25日、8月18、21日のブログで取り上げました(参考資料2〜4)。そして、これが消費者の価値共感を取り込み、秩父FORESTの活動に繋がり、森林パートナーズの設立に至っていますね。

 

小柳  今まで森林パートナーズは、地域工務店、山元、製材所、プレカット工場、それぞれの間をシステムでつなぎ情報の見える化をし、消費者へはトレーサビリティ情報(注2)を提供してきました。これからはそれに加え、山元への利益還元、環境問題への貢献の数値化などを、具体的に示す必要があります。約38坪の木造住宅を建てた場合、すべて欧州材を使用した場合と、100キロ圏内の地域材を使用した時の輸送過程での二酸化炭素排出量は、20倍の差があり、その差が二酸化炭素約4000キログラムと言われています。例えば家を建てたお施主様に、一般流通に比べ約5000円の資金的還元を山元にでき、二酸化炭素排出量は一般材と比較して1000キログラムの削減が出来ているなどのその物件毎の資料を提供し、こういった面でも見える化をして行かねばならないと思っています。

 

伊佐  伊佐ホームズ独自でも毎年一回は、秩父産材で建築されたお施主様や、関係者と秩父へ植樹をしに行き、スギを間伐した山に、将来の森林環境を考え、そのための知恵を取り入れ、カエデなどの広葉樹を植えてきました。植樹をすることで森林の尊さを皆で共感する活動でした。この活動をもっと多くの都市部の人々と行おうと、さまざまなかたちで森林に関わる複数の団体に声をかけ賛同して集まってできたのが秩父FORESTです。私は森と都市、消費者を結ぶことの大事さ、総合的な森の魅力を皆で表現し、森、地方に人が来るように付加価値をつくっていきたいと思います。

地域工務店は、地域文化、地域環境の担い手として、地域森林と取組むことがブランドとなります。また、横連携による材の共通化、標準化をすることで、無駄がない木材生産になります。

本当に森林環境、山あっての我々住宅産業だと思います。消費者だと思います。伊佐ホームズ、森林パートナーズ、秩父FOREST、三位一体で日本の誇るべき文化としての産業を広げていきます。

 

椎野 2021年4月22日の日本経済新聞は「住宅木材、13年半ぶりの高値」という記事を掲載していました(参考資料1を参照)。2021年4月3日、塩地博文さんから、貴重な論文が送られてきました。論文の題名は「塩地博文の大型パネル事業〜急変した木材需給バランス」です(参考資料5、注4参照)。

この論文の中で、塩地さんは「戦後、何度か経験したウッドショックと、今回のウットショックは、その主因が違っています。今までのウットショックは、特定産地の輸出規制が引き金でしたが、今回は、世界的な木材需要の拡大です。代替え産地があるわけではないのです」と述べられています(参考資料5、注4参照)。なお、この論文は、2021年6月4日に、国土緑化推進機構、フォレスト・サポーターズ研究報告に登載しました。参照されることを、お薦めします。

私は、このウッドショックは、林業のみならず、日本国全体にとっても、大きな危機であるとともに、巨大なチャンスだと認識しています。これで外国産材のコストは急騰しています。国産材のコストも上昇するでしょう。これをチャンスと国産材の中間流通などがコストを拡大すれば、日本の国産材の世界での競争力は、さらに低下します。日本の未来に対する唯一の期待は、これで失われます。逆に、伊佐さんが進めておられる、再造林と育林に必要な金を、完全に山元に返すという取り組みが、ここでさらに強化されれば、日本の未来に明るい灯が灯るはずです。伊佐さん、ここで思い切って動いてください。再造林・育林の手段を明確にして、コストを試算し、このウッドショックの危機に乗じて、山元還元額を上積みしてください。そして、山元側も、この金を受け取ったら、確実に、再造林・育林を実施することを国民に確約し、その実施経過を永続的に、透明に開示し続けてもらわねばなりません。

 

伊佐  椎野先生力強いお励ましのお言葉をいただき有難うございます。先生と最初にご面識をいただいた時より、先生は森づくりにつながる住宅産業であるべきだと度々説いておられましたが、ここに来て私共のこの取組も、理念、共通の価値観、ルール、ICT活用等の一体化により、少しずつ成長、拡大して来たように思います。森を育て、美しい日本の住まい、文化のつながりによる新しい産業体系の確立を目指して今後とも我が使命として取り組んで参りたいと思います。

 

☆まとめ

私は、この討論で、現在の日本で、一番大事なことを述べました。伊佐裕さん、小柳雄平さんに、この大事を託しました。

 

(注1)イノベーション(innovation):物事の「新機軸」「新結合」「新しい切り口」「新しい捉え方」「新しい活用法」(を創造する行為)のこと。新しいアイデアから社会的意義のある新たな価値を創造し、社会的に大きな変化をもたらす自発的な人・組織・社会の幅広い変革を意味する。

(注2)トレーサビリティ(traceability): 流通において生産者情報等を伝達するための仕組み。

(注3)カーボンニュートラル: (carbon neutral、炭素中立) :環境化学の用語の一つ。何かを生産したり、一連の人為的活動を行った際に、排出される二酸化炭素と吸収される二酸化炭素は同じ量であるという概念。

(注4)参考資料5、2021年6月4日に、国土緑化推進機構、フォレスト・サポーターズ研究報告に登載。

 

参考資料

(1)日本経済新聞、2021年4月22日。

(2)椎野潤(続)ブログ(237)美と性能を極めた家「田園都市の家」2018年2月25日。

(3)椎野潤(続)ブログ(238)美と性能を極めた家 「田園都市の家」 家具も超重要要素 (1) 2020年8月18日。

(4)椎野潤(続)ブログ(239)美と性能を極めた家 「田園都市の家」 家具も超重要要素 (2) 2020年8月21日。

(5)椎野潤(続)ブログ(323) 塩地博文の大型パネル事業〜急変した木材需給バランス 2021年4月3日。

 

[付記]2021年6月11日

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