林業の再生と山村復興への挑戦 対談 大谷恵理VS塩地博文 周辺事業利益を取り込む国産無垢材大型パネル(その2)

林業再生・山村振興への一言(再開)

 

2022年4月(№198)

 

□ 椎野潤(新)ブログ(409) 林業の再生と山村復興への挑戦 対談 大谷恵理VS塩地博文 周辺事業利益を取り込む国産無垢材大型パネル(その2) 2022年4月12日

 

☆前書き

前回のブログの続きです。周辺事業利益を取り込む国産無垢材大型パネル(その2)です。私の喜びの言葉が「まとめ」になっています。

 

☆引用

対談 大谷恵理 VS 塩地博文 周辺事業利益を取り込む国産無垢材大型パネル (その2)

塩地博文 大谷恵理

 

大谷 : (その1)の続きを教えてください。建材取引までも取り込んでいった場合、建材側の加工で仕事をしていた人達が、職場を失う可能性はないのですね?

 

塩地 : 殆ど影響無しと見ています。木材にはプレカットという中間加工業が成立しています。木材関係者は、これが普通だと、建材も同様だと思っているかもしれません。しかし、実際は大きく違います。建材は未だに「未加工の製品取引」が通常です。段ボールに入った「製品」が取引単位なのです。ケース単位とも言います。未加工の状態で、段ボールに梱包されたまま建設現場に入荷されています。それを職人さんが開梱した後、現場寸法に合わせて加工・切断しながら、取り付けていきます。これを採寸、切断作業と称して、職人さんの時間を消費しているのです。現場には大量に梱包材が残りますし、切断粉も残ります。だから、始終、掃除しているのです。採寸、切断、後片付け、掃除。これが職人作業時間の大半を占めてしまっています。

 

大谷 : そうなのですか。一般人には見えない世界で、そんな風に住宅は作られていたのですね。そういえば、ブルーシートの中で職人さんが働いているので、中の様子は伺えません。

 

塩地 : 木材は重量物なので、いち早くプレカットが進みましたし、当局も支援を重ねてきました。しかし、建材は未だにこの状態です。それを大型パネル情報から生み出される副次的な情報で、事前に加工切断が行えます。外装材では、この情報をCAM情報までに進化させています。データさえ渡せば、自動で機械切断してしまいます。それも、北側、西側といった場所別、トラック別、仮置き場所別、歩留まり優先別にと、自在にデータを組み替えて、施工手順、輸送手順に合わせて、切断加工してしまいます。大谷さんの「仕事を奪う」との懸念は杞憂です。そもそも仕事が前近代的だったのです。大型パネルを契機に近代化すればいいだけです。それを取り込めばいいだけです。

 

大谷 : それは、大型パネルの建築物だけが対象なのですか?大型パネルに適しない狭小地などはサービス範囲外なのでしょうか?

 

塩地 : いいえ。大型パネルでなくても、このサービスは可能です。僕の口からは言いたくないですが、大型パネル以外の建築物も何の問題もありません。無論、大型パネルにして欲しいのは山々ですが(笑)。

 

大谷 : という事は、大型パネル工場に名乗りを上げた事業者は、大型パネルは元より、大型パネルで無い場合も、建材加工という仕事を獲得できるということですね。山主や森林事業者がそれを行えば、利益を山々へ還していく事が可能になります。地域で起きる住宅という需要を地域内で取り込み、お金を外に逃がさず、地域の山々へ還していく、「森林直販」がより現実的に見えてきました。

 

塩地 : 大谷さんへの質問ですが、大型パネルを核とする森林直販事業が成立し、それが地域利益を最大化した場合、どのような方法で、再造林へ繋げるのですか?森林組合の様な非営利団体ならば、理論的には可能かもしれません。一般的な企業の場合、受け取った利益は、そのまま懐に収めてしまいます。現場労働者への分配も、その経営者の懐三寸です。また、木材は相場で価格決定しています。わざわざ高く買う事は、特段の理由が無い場合、利益喪失行為です。森林直販事業は成立するかもしれませんが、森林利益分配は至難の業と思わざるを得ません。

 

大谷 : だから、協同組合だと思っています。森林事業者、製材事業者、建築事業者などが集まって、利益を透明化し、かかった経費や付加価値に応じて公平に分配する方式を取り入れたいのです。再造林しない、再造林へ協力しない事業者は、参加出来ない仕組みにしていきたいと思います。ただ、現場労働者への待遇改善や報酬の向上などには、更なる知恵が必要なことは承知しています。

 

塩地 : もしも、次回の対談があるならば、その点をもっと深堀してみたいですね。やや大げさですが、資本主義も然り、サプライチェーンも然りで、富の偏在に寄って行きがちです。森林は沈黙した資源です。黙っているからと、競争社会のツケを払わされやすいのです。沈黙しているからと、礼節をわきまえないと、二度と富として成立しなくなるでしょう。

 

大谷 : 私は、森林が牙をむく予感がしています。都市は、森林を含む地域があって初めて成立しますが、現代人はそれを忘れ、都市部だけで生きていけると勘違いしているように見えます。食料生産やエネルギー、流通インフラの多くは地方に依存しています。人が関わらなくなった自然は、災害や獣害・病気の発生など、様々な形で都市住民の暮らしを脅かすようになるでしょう。日本の国土の豊かさを維持するためにも、地域の木材の価値を最大化できる無垢材が大型パネル化し、その周辺事業までも取り込めるよう、力を貸して頂けないでしょうか。ウッドショックで一時的な値上がりをしている今が最大のチャンスですし、残された時間は短いと感じています。次回は、森林直販の具体化について、ご意見を承りたいと思います。

 

☆まとめ

私は、世界に誇る日本の美術建築、伝統的な和風住宅と和室を、大型パネルシステムで、実現したいのです。それには、まず、柱を本物の無垢の国産杉檜で作ることが前提だと考えていました。集成材の上に貼り物をしたのでは駄目なのです。本物でなければ駄目なのです。

この討論原稿を読んだ後、私は、塩地さんに電話して、これは本当に出来るのですかと、訊ねてみました。その結果、お答えは「勿論、できます」でした。私は喜びました。私は若い頃、建設現場にいた時期がありました。ですから、本物にするには、大工だけでなく、左官や電気工などの技術が必要になると思いました。この高度技術を持った職人と膝詰め議論をして、具体的なモデルルームを、一日も早く作って欲しいと思いました。

そこで、森林パートナーズの小柳雄平社長に、「これは実現できるのですか」と問いました。小柳さんの答えは「出来ます」でした。越えなければならない壁は、幾つかあるでしょう。でも「必ずできます」でした。私は、今、この「本物のモデルルーム」への訪問を、凄く楽しみに待っています。また、さらに、次のステップの対談が行われるのを、強く期待しています。]

 

[付記]2022年4月12日]

 

 

 

[追記 東京大学名誉教授 酒井秀夫先生の指導文]

[指導を受けたブログ名:椎野潤(新)ブログ(408) 林業の再生と山村復興への挑戦 対談 大谷恵理VS塩地博文 周辺事業利益を取り込む国産無垢材大型パネル(その1)2022年4月8日]

 

大谷恵理様

 

ブログ配信ありがとうございます。

 

塩地さんとの対話を通じて、大谷さんの今まで培われてきた知識と業界の課題をうかがうことができ、その解決策の流れの上に国産無垢材大型パネルがあることがよくわかりました。JAS材が集成材のためになってしまっているという現状も指摘されています。

山元立木価格が下がり続けてきたのは、人工乾燥のコストとラミナの増加による歩留まりの低下を、結局は山元が負担しているからに他ならないと思いますが、ラミナとちがって無垢材大型パネルの加工が少ないということは、歩留まりが高く、利益率が格段に高いということがわかりました。無垢材大型パネルにより、今風に言えばSDGsの家や店舗を地元で安く建てることができます。

植林は、欧州では貴族の義務とか王者の業とか、為政者が国土のために資金を提供し、林業でもうけようという考えはそれほどなかったのではと思います。植えること自体が善であり、森林は濃霧の発生防止とか、気候緩和機能も当時すでに知っていたのではないかと思います。もちろん、城の建築材とか艦船材、燃料材の確保などの木材の物質的価値も副次的に求めていたと思います。日本でも、国有林の植林の賃金は現金収入として魅力だったと思います。薪炭林を伐って針葉樹を植えた戦後の拡大造林は、幸いにも伐った材は製紙会社に売れました。根底では木が売れれば金になっていました。飢饉などもあって自然が厳しかった時代とちがって、現代社会は効率よくお金を稼ぐことが価値の基準になっています。当たり前のことかもしれませんが、木がお金になれば植えると思います。北米や北欧ではグリーンゴールド(緑の黄金)という言葉があります。是非ともグリーンゴールドを目指したいです。

しかしながら、ご指摘のように林業従事者の減少は喫緊の課題です。待遇と同時に年間を通じた雇用の維持も必要です。林業や農業には季節性があります。加工業まで含めて雇用の稼働率を上げていければと思います。パネルを核に、これからは林業だけというのではなく、林業もやります、苗木なども含む造園業もやります、リフォームもやります、環境教育もやりますというような総合産業化が必要になってくるのではと思います。

日本では無節とかにこだわりますが、いつからそのようになったのかわかりませんが、意外に作られたあたらしい概念かもしれません。ヨーロッパでは、家具についている自然にできたシミなどを愛玩する人もいます。とはいえ、日本では木材のシミや節を気にする人も多くいると思います。大型パネルも工場の段階で、節を埋めるなど無垢材の欠点を補修すれば歩留まりもかなりあがると思います。その補修跡を景色として自慢する人が出てくればいいと思います。

 

酒井秀夫

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