日本の新エネルギー産業の展開を目指す(その2) おおすみ半島スマートエネルギー ネット討論 

林業再生・山村振興への一言(再開)

 

2021年5月(№104)

 

□ 椎野潤(続)ブログ(315)日本の新エネルギー産業の展開を目指す (その2)おおすみ半島スマートエネルギーネット討論 2021年5月18日。

 

☆前書き

このブログは、前回のブログの続きです。小森胤樹さんが司会する村上博紀さんとの、ネット上での直接討論です。

 

☆ネット討論

[討論のはじめに] 小森胤樹紀

森田南大隅前町長とのご縁から、今年2月に、広域での森林監理の重要性を考える勉強会を開催し、大隅半島の鹿屋市、南大隅町、肝付町、錦江町の行政、民間そして国有林の方まで、三十数名を集めていただき、2時間にわたってお話させていただきました。

その時、地域の森林監理は、林業関係者だけで話していても解決しない時代になっていることから、大隅半島に、おおすみ半島スマートエネルギー株式会社が有ることを知り、代表の村上さんに、勉強会にご参加頂きたく連絡を取りました。

というのも、私は森林総合監理士として、行政のバックアップの仕事もしていますが、地元では、郡上エネルギーという地域新電力(電気の小売業)も運営しています。目的は地域内の循環のためです。村上博紀さんと同じ、電力の地産地消を目指しているのです。

 

[ネット討論]                司会者 小森胤樹 話す人 村上博紀

 

小森

村上さん、肝付町に、おおすみ半島スマートエネルギーが出来ることになったきっかけを教えてください。

村上博紀

肝付町の状況から説明します。肝付町の人口は約1万5000人で、面積の8割を山林が占め、太平洋に面しているため通年で強い風が吹きます。水力発電や風力発電に向いている土地柄を活かし、町内には多くの再生可能エネルギーの発電所が立地しているのですが、現在すでにある水力、風力、太陽光を合わせて50MWを超える発電規模で、 町で使用する電力を自給自足するのに十分な量があります。ですが現存の発電施設は県外の企業による運用であるため、発電に適した自然環境という「資源」があるにも関わらず、町が得られる収益は固定資産税のみなのです。

これは非常にもったいない。そこで肝付町は2017年1月、再エネルギーを活用した電力の地産地消で注目されている福岡県のみやまスマートエネルギー株式会社と共同で、電力会社を設立しました。それがおおすみ半島スマートエネルギー株式会社です。なぜパートナーに福岡の自治体新電力を選んだのか。みやま市は、エネルギー事業を地域の活性化に生かしているドイツの「シュタットベルケ」を標榜していました。肝付町が目指す姿と同じだったのです。

小森

なるほど、私も5年前にドイツに林業の視察に行ったのですがその時にシュタットベルゲを知り、日本の地方に必要な仕組みだと思い、郡上エネルギーを作りました。

肝付町が出資している会社なのに、なぜおおすみ半島が社名についているのでしょうか?

村上博紀

肝付町は小さな町です。肝付町だけのエネルギーの地産地消では限りがあります。この状況は周辺の市町も同じで、小さな行政区画だけで対策を打っても効果は限定的だと考えます。

そこで、近隣の4市5町(鹿屋市、垂水市、志布志市、曽於市、肝付町、錦江町、南大隅町、東串良町、大崎町)で連携を取りながら課題解決に挑もうと考えました。4市5町の電力料金は年間約500億円になると考えます。これを地域内にとどめることができれば、経済が活性化するのではないか。発電量に余剰が出れば、都市部への売電も可能になります。名前を「肝付」ではなく「おおすみ半島」とすることで、電力会社の立ち上げをきっかけとして、大隅半島全域で地方創生を推進したいと考えたからです。

小森

年間500億円、その10%でも、おおすみ半島スマートエネルギーから電力を供給できれば、大きなお金を地域内にとどめることが出来ます。

エネルギー代を地域にとどめるということ以外に、この会社を通じて実践していきたいことがありますか?

村上博紀

地域の防災という視点に取り組みたいと考えています。大隅半島は台風銀座のため、停電の頻度が他の地域に比べて多いのです。災害に強い町を、地域単位で作るための仕組みを、発電で実現したいと考えています。具体的に言うと、公共施設に太陽光発電設備を当社の費用で設置し、一定期間当社で運用したのち町に寄贈するという、第三者所有モデルによる発電設備の設置を、検討しています。さらには、発電設備を設置した施設で余剰になった電力を、近隣の公共施設で使用できるようにするところまで、持って行きたいと考えています。(このような仕組みをマイクログリッドと言います。)

これが実現すれば、災害時に地域一帯が停電したとしてもこの仕組みで回っているところは停電しないことになります。

小森

私は郡上で、まだまだ、そこまで進んでやれていませんが、どの地域でも一定規模でその仕組みになることが必要です。地域の市民の方の反応はいかがでしょうか?

私自身、地域内循環のため、エネルギーの地産地消の為と日々伝えていますが、中々理解は進みにくいです。

村上博紀

こちらでも状況は同じです。「地域新電力、自治体新電力って何?」「電力を地産地消して、何が変わるの?」「大手企業じゃないと災害時に停電するのでは?」という反応です。

行政とも連携して、PR活動を地道にしています。

「地域がどう変わるのか、未来の町の姿を、みんなで共有することが大切」だと考えています。事業を通じて地域が良くなっていっていることを、実感してもらうことが必要だと感じています。

小森

先日伺った際、ご案内頂いたバイオマス発電所についてお聞かせください。

錦江町のバイオマス発電所は、おおすみ半島スマートエネルギーさんの提案から始まったのでしょうか。

村上博紀

いえ、元々錦江町が地域の森林資源の活用という面で、昔から検討していたようで、木場町長が実現に向けて立案したようです。2018年に環境省の補助事業のうち、木質バイオマス資源利用活用計画策定事業を受けて、可能性の検討を始めました。翌年2019年、北海道のブラックアウト(注1)を受けて、事業目的に防災も加えて、売電から自家利用型に変えて、進めてきたという経緯です。

2020年 1月から、運転を開始し、(ドイツ スパナ―社製45kW)、町近辺からの針葉樹チップを燃料に利用し、公共施設で電力を消費する試験運転が始まりました。運用には設備メンテナンスの業者さんがいますが、日常のチェックは役場の担当者の方とメンテナンス業者さんが一緒に試行錯誤して運用されています。これが、この発電所の強みでもあると思っています。弊社として、発電電力の運用に協力しています。

小森

先日お伺いした時に、案内していただいた荒木義文さん(錦江町役場田代支所 産業建設課)ですね。小規模なバイオマス発電施設の運用は難しいと聞いていますが、日常隣にある役場の方と業者さんが一緒に対応しながら運転出来ていることに、このバイオマス発電施設の意味を強く感じました。

そのような元々のベースがある町だったということでしょうか。

村上博紀

そうですね、この辺りの自治体はどこもやりたい思いは持っていると思います。ただ、自治体で運用するにはハードルが高いため、すぐに手が出せないのだと思います。そのような意味でも錦江町のバイオマス発電が上手く運用できれば、他の自治体にも広がると思います。そのお手伝いが出来ればと思っています。

 

[討論のおわり]

村上さんは、「木質バイオマスは、FIT(注2)で売電するのではなく、発電電力を自家消費で消費できる小規模発電所のほうが、地域への経済効果も高く、エネルギーの地産地消を実現しやすい。一方で、海外製の発電機は不具合が出たときにすぐに対処できないため、稼働が不安定になりやすい」とおっしゃっています。

今後は、自家消費を前提にした太陽光、小水力、バイオマス、バイオガス発電所の建設や提携を行い、小売電気事業以外でも地元に根差して利益を還元できる事業を目指したいと言う事でした。

 

肝付地域は国有林もあり、また志布志港がそばにあり、今の日本における大規模な木材流通の中にある地域です。地域の森林を、大規模な木材流通のための供給地と言う事だけでなく、地域の持続可能な発展に、森林・林業がどのようにコミットしていくのか、大きな座組の中に、地域エネルギー会社の参画も私は必要だと考えています。

 

☆まとめ

これは、地域活性化活動、そのものだと思いました。今回参集した、大勢の方が協力してすすめれば、九州の南端の地域は、日本の山村新興のモデル地区になると思いました。ご発展を強く祈ります。

 

(注1)ブラックアウト:災害時の全域停電。

(注2)FIT:固定価格買い取り制度(Feed-in Tariff, FIT):エネルギーの買い取り価格を法律で定める方式の助成制度。

 

参考資料

(1)鹿児島錦江町、「未利用資源活用」と「防災」を両立する木質ガス化発電、鹿児島県錦江町。

 

[付記]2021年5月18日、この一文を記す。

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