山村振興 青ヶ島に探る 「市町村の自立」

自治体として存立可能な人口は、一体、何人なのか。その問い(とい)に、ずばり答えるのに、格好な姿をしている自治体があります。東京都青ヶ島です。

 

林業再生・山村振興への一言(再開)

 

2021年12月 (№168)

 

椎野潤(続)ブログ(379)  山村振興 青ヶ島に探る「市町村の自立」2021年12月24日。

 

☆前書き

2021年10月21日の日本経済新聞が、このことを書いていました。今日は、これを読んでブログを書き始めます。記事は、以下のように書き出しています。

 

☆引用

「東京都には人口1万人以下の町村が11ある。そのひとつが伊豆諸島の最南端に位置する青ヶ島だ。2021年9月1日現在で人口は172人だ。日本一少ない市町村である。八丈島と結ぶ定期船やヘリコミューター(注1)はあるが、悪天候時には孤立する「絶海の島」だ。2重カルデラ(注2)地形は世界的にも珍しく、米国の非政府組織(NGO、注3)から、「死ぬまでに見るべき世界の絶景13」のひとつに選ばれたこともある。」(参考資料1、2021年10月21日、日本経済新聞(谷隆徳)から引用)」

 

☆解説

この村で2021年9月5日、8年ぶりに村長と村議の選挙戦がありました。村長選では、7選を目指す現職を、26票の差で破って、立川佳夫氏が当選しました。定数6人に7人が立候補した村議選は、激戦になりました。6番目の当選者の得票数は15票で、落選した候補は14票と、僅か1票差でした。

狭い島ですから、選挙カーやポスターはありません。村民は、おおむね顔見知りというなかで、当落を左右したのは、学校の教師や医者、駐在所の警官など、一時的に赴任している「島外の人」の票でした。

そもそも、人口の3割以上は、村外の出身者なのです。村長を含めて28人いる村の職員の多くも、実は地元出身ではないのです。かっては「赴任者は棄権するか白票を投じるのが暗黙のルールだった」と言われています。でも、住民である以上、投票権を行使するのは当然でしょう。

島の外に依存しているのは、人材だけではないのです。2021年度の村の一般会計予算は13億3千万円です。歳入に占める村税の割合をみると、僅かに3%なのです。財源の柱は、都の支出金や国の地方交付税なのです。

一方、歳出で最も多いのが土木費で3割を超しています。「青酎」と呼ばれる焼酎などの特産品はありますが、村の最大の産業は公共事業です。そもそも、この島は人口の3分の1は公務員とその家族という官需依存の島なのです。島には現在、小中学生が合計10人いますが、教員は、その倍の20人います。

人口の規模だけをみれば、八丈町と合併した方がよさそうですが、村として自立しているからこそ、島で人が暮らせると言えるのです。合併すれば役場は支所に縮小されて職員は大幅に減ります。公共事業がなければ島の経済は回りません。

台風の襲撃が頻繁な、この島では、村長がこの島にいるかどうかは、村民の生命の安全に、きわめて重要なのです。村民が安心して暮らせて、島に暮らす人がいるからこそ、この絶海の離島が守れるのです。

自治体として存続可能な人口は、一体、何人なのか、青ヶ島は、そんな疑問の応えを探れる島であると私は思います。(参考資料1、2021年10月21日、日本経済新聞(谷隆徳)を引用して記述)

 

☆まとめ

でも、青ヶ島の存在目的は、領海の維持確保・国防目的だけではないのです。日本列島は、コロナの悪魔に侵略され、人々は家の中に閉じ籠もることを余儀なくされましたが、これは世界中の人々が、皆、同じ状態だったのです。人々は、SNS(注4)、インスタグラム(注5)にしがみつき、憧れの的だった観光地に行ける日の来るのを、待ちこがれていました。ですから、憧れの観光地では、今、ツイッター(注6)などで、フォロワー(注7)が満ち溢れています。

この状況下で青ヶ島は、フォロワー数(注7)の増加数で全国トップでした。青ヶ島は、フォロワー数が人口の21倍とダントツになりました。私は、2021年7月2日のブログ(参考資料2、注9)に、これを書いています。

コロナの襲来前には、人口の8倍の年間1400人の訪日客が訪れていました。コロナが終息して、訪日規制が解除されたら、その客は、瞬く間に戻ってくるでしょう。でも、今のままの受け入れ体制では、とても足りないと思われます。二拠点居住(注8)で観光客へのサービスの仕事につくことを目指す都市部の人達の受け入れを、積極的に増やすなど、体制拡充を急がねばなりません。この活況は、コロナ危機で起きた、一時的な現象ではないと思います。次世代世界の到来が、コロナによって早まったのです(参考資料2、注9、2021年6月12日、日本経済新聞を参照引用して記述)。

 

コロナ危機の最中(さなか)、小中学校に通う年少人口を増やした地域のランキングを見ますと、その第1位も第2位も離島でした。

その増加率のトップは、新潟県の離島、粟浦島村でした。ここでは牧場で馬の世話をしながら、小中学校に通ってもらう「しおかぜ留学」を、2013年から設けていましたが、これがコロナの基で、強い共感を受け、人口を倍増させました。2021年4月入学の募集では、20人の公募に60人以上の応募が首都圏などから殺到したのです(参考資料3、注10)。

ここでは、コロナの悪魔が来たのが追い風になったのです。でも私は、コロナを考えると島が安全だと思って集まったばかりではないと考えています。島で馬の世話をしながら子供を育てるのが、子育てとして理想だと考えるのは、次世代の社会で親が考えることだと、私は思っていました。コロナの悪魔の襲来は、その実現を、大幅に前倒ししたのです。

2位の鹿児島県十島村は、1991年に創設した小中学生「山海留学」の、苦節30年の努力が、コロナの追い風でようやく開花しました。これまで、毎年10人程度の参加でしたが、2021年は42人に増えて全校生徒の半数を占めました。お蔭で教員の割り当ても増えて70人になりました。これは地域の人達の意欲と活性を呼び起こしてくれているのです(参考資料3、注10、2021年10月9日、日本経済新聞を参照引用して記述)。

 

これは四方海に囲まれた離島に限りません。陸の孤島と言われた地域にも、同じ状況が起きていると思います。私は、2014年6月17日のブログに、青森県弘前市の沢田集落の「ローソク」祭りについて書いています(参考資料4、注11)。

沢田集落は、弘前市相馬地区(旧相馬村)に属する16の集落の中でも、特に山間の奥に位置する、10戸の小さな集落です。「ローソク祭り」は、この集落で、毎年、旧暦の小正月に行なわれていました。

屏風岩という巨大な岸壁の中央に社殿をおく、沢田明神宮で、冬の間に降り積もった雪を削ってつくられた階段状の参拝道を舞台に、数百本のローソクが、山村の虚空を焦がします。

この祭りも、2005年の弘前市との合併後は、補助金の削減と、少子高齢化の人手不足から、存続が危ぶまれていました。こんな沢田の人達を支えようと、旧相馬村民が立ち上がり、「実行委員会」を作りました。沢田も相馬も、歴史の異なる独立の「ムラ」であり、本来は、それぞれ独立の存在だったのですが、より大きい相馬が、沢田を助けに立ち上がりました。これが、弘前市を動かし、青森県も動かしたのです。マスコミも、この波に乗り報道しました。

これにより、10戸の小さな集落、沢田のローソク祭りは、青森県の代表的な文化遺産になり、全国レベルの観光地になったのです。まさに、「地域」から「中央」を巻き込んだ「地域伝統文化」の掘り起こしが、成功したのです。(参考資料4、注11、山下祐介著:「限界集落の真実」〜過疎の村は消えるか〜から参照引用して記述)。

 

このような地域は、各地にあると思います。コロナの追い風を受け、SNS、インスタグラムの、ますますの活性化もあって、全国何処の地域でも、活力を強めていると思います。また、各地の町村が合併して市になった頃、旧相馬村のような事態になるのを避けようと、合併せず頑張ったところも、その後、少子高齢化が進展し、村の縮小が進み、苦しんでいました。でも、コロナの危機で、今、元気を取り戻していると、私は感じています。これらの地域が、ポストコロナでの地域再生を支えてくれるはずだと、私は信じています(参考資料1〜4を参照引用して記述)。

 

(注1)コミューター航空会社(commuter airline):航空会社の定義のひとつ。小型航空機で近距離の2地点を中心に結ぶ航空会社のこと。ヘリコミューター航空会社=ヘリコプターの近距離航空会社。

(注2)カルデラ:(caldera):火山の活動によってできた大きな凹地のこと。「釜」「鍋」という意味のスペイン語に由来し、カルデラが初めて研究されたカナリア諸島の現地名による。単に地形的な凹みを指す言葉で明瞭な定義はなく、比較的大きな火山火口や火山地域の盆地状の地形を指す。

(注3)NGO:貧困、飢餓、環境など、世界的な問題に対して、政府や国際機関とは異なる民間の立場から、国境や民族、宗教の壁を越え、利益を目的とせず、これらの問題に取り組む団体のこと。日本では「非政府組織」と訳される。

(注4)SNS(Social Networking Service)=交流サイト:人と人との社会的な繋がりを維持・促進する様々な機能を提供する、会員制のオンラインサービス

(注5)インスタグラム:写真に特化したSNS (ソーシャル・ネットワーキング・サービス)。画像や短時間動画を、共有する無料のスマートフォン・アプリとそれを用いたサービスのこと。

(注6)ツイッター(Twitter):アメリカ合衆国・カリフォルニア州サンフランシスコに本社を置くTwitter, Inc.のソーシャル・ネットワーキング・サービス (SNS)。

(注7)フォロワー(観覧登録者): Twitterをはじめとするソーシャルサービスにおいて、特定のユーザーの更新状況を手軽に把握できる機能設定を利用し、その人の活動を追っている人のこと。自身のことをフォローしているユーザー。

(注8)二拠点居住:都会に暮らす人が、週末や、一年のうちの一定期間を農山漁村等で暮らす居住形態。近年では、さまざまな2拠点での居住が行われている。

(注9)参考資料2、2021年6月12日、日本経済新聞から引用。

(注10)参考資料3、2021年10月9日、日本経済新聞から引用。

(注11)参考資料4、山下祐介著:「限界集落の真実」〜過疎の村は消えるか〜、ちくま書房、 2012年1月10日から引用。

 

参考資料

(1)日本経済新聞、2021年10月21日。

(2)椎野潤(続)ブログ(329) 東京青ヶ島 フォロワー住民の21倍 島嶼部や山間部の自治体で上位  2021年7月2日。

(3)椎野潤(続)ブログ(367) 地域再生 独自な教育対策で移住促進 活性化地域が多数 「教育移住」の先進地を追う 2021年11月12日。

(4)椎野潤ブログ(232)弘前市沢田集落の「ローソク」祭り 2014年6月17日。

 

[付記]2021年12月24日。

 

 

[追記 東京大学名誉教授 酒井秀夫先生の指導文]

塩地博文寄稿ブログ「建築の近代化]大型パネル事業の進展(その6)林業・建築・バイオマスの均衡点を探る スモール&ローカルサプライチェーン

 

[引用文]

大谷様

 

ブログ配信ありがとうござます。

 

塩地さんの論文のまとめとして、冒頭で、取引に生じる「重なりシロ」の排除、椎野先生の仰る無駄を徹底的に排除して、取引単位を統一してワンプライスの相場取引を確立することが林業の近代化であるとされ、さらに、大型パネル事業によって、数字で明示できる透明性と客観性をもったファクトに基づいてプレイヤーの要素を無視することで、多重ノイズやノイズの共振を排除し、部位単位に陥ってしまっている現在の建築データを収集して、ここから復元される建築データが需要起点になるとされています。大型パネルが、木材と建築の境を連結する、情報交換装置となります(椎野先生によれば今まで木材市場がこの情報を分断していました)。在来木造に対応した大型パネルの情報連動力とファクトによって、木材と建築のサプライチェーンは完成し、林業・建築・バイオマスの均衡点が見えてきます。林業のサプライチェーンがもう20年以上も長い間叫ばれながら、どこもこの均衡点を見出せずにいました。業界は今までもがいて溺れかけていましたが、浮き輪が投げられた感じです。革命的な論文です。大工知能を有した生産システムによって森林と建築をデータ連携しなければ、在来木造も国産材も価値の向上は出来ないという危機感が伝わってきます。

 

今度お目にかかれるのを大変楽しみにしています。

 

酒井秀夫

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