塩地博文寄稿ブログ「建築の近代化]大型パネル事業の進展(その6) 林業・建築・バイオマスの均衡点を探る スモール&ローカルサプライチェーン

今日は、塩地ブログ第6号の報告です。これは塩地博文さんの2021年年末ブログの総まとめです。(椎野 潤記)

 

林業再生・山村振興への一言(再開)

 

2020年12月(№167)

 

椎野潤(続)ブログ(378) 大型パネル事業の進展(その6)林業・建築・バイオマスの均衡点を探る スモール&ローカルサプライチェーン 2021年12月21日。

 

☆前書き

今日は、林業・建築・バイオマスの均衡点を探る スモール&ローカルサプライチェーンについて書いていただきます。

 

☆引用

塩地博文ブログ 林業・建築・バイオマスの均衡点を探る スモール&ローカルサプライチェーン                            文責 塩地 博文

 

「大型パネル事業の進展」と題し、椎野ブログに5回に渡り掲載された上、大谷恵理さんによる大型パネル事業の具体的な展開例(大分県佐伯広域森林組合)を評価頂き、更にはそれらを総括する取り纏めの栄を授かりました。椎野先生のお心遣いに深謝申し上げると共に、その期待に沿うべき一文を書かせて頂きます。

 

時代は大きく変化し始めました。石油の国家備蓄の放出はその一例です。地球環境問題への対応は、多くの波乱を引き起こすでしょう。林業はその対応前線基地としての、一丁目一番地の役割を担うでしょう。時代をリードするためには、改革に真っ先に取り組まなければならない事業領域と思われます。

 

[スモール&ローカルサプライチェーン] 結論から、書き始めます。『スモール&ローカルサプライチェーン(注1)』を、国産材は業界設計すべきと考えています。国産材はサプライチェーンの定義が甘すぎます。我田引水です。プレイヤー(事業者、注2)主体から抜け出せていません。サプライチェーンとは、客先と仕入れ先を名寄せしただけの名簿作りではありません。途絶えることのない連鎖する取引です。システムとして連結しなければ、取引双方に同時に発生する売り買いのコストを引き下げることは出来ません。取引に生じる「重なりシロ(注3)」を省いてこそ、サプライチェーンが効果を発揮するのです。「重なりシロ(注3)」とは、売り買いの人件費、中間在庫コスト、品質確認のための出荷検品・受入検品のコスト、それらのデータ入力に関わる人件費などを指しています。名簿を名寄せしただけの未熟なサプライチェーンは、システム費に人件費が重なり、実行性は上がりません。

 

[ノイズの共振] 敢えて言いますが、サプライチェーンにとってプレイヤー(事業者、注2)とは、ノイズ(注4)でもあるのです。事業者毎に取引条件を変えるために、価格決定要素(注5)に統一性とロジックが欠けます。しかし、林業・林産業は、「相場(注6)」という市場価格に準じた価格決定が常です。価格については相対取引(注7)ではなく、相場取引(注8)で決定できるのです。品質、荷姿、決済条件などの取引単位を統一してしまえば、残る要素は価格だけ。その価格も相場で決定すればいい。駆け引きも量的値引きも腕自慢の営業もサプライチェーンの大敵です。ましてや国産材プレイヤー(注2)は家業と位置付けられる方々が多く存在しています。プレイヤー(注2)から発せられるノイズ(注4)に、家業からのノイズが重なり、ノイズが共振(注4)してしまいます。加えて、地域ブランド化(注9)は、品質にまでノイズを及ぼします。この多重ノイズこそが、国産材サプライチェーンを阻んでいる張本人だと考えています。

 

[兵站距離に自律条件を設定] 大型パネル事業(注10)とは、プレイヤー(事業者、注2)の要素を無視する事業とも言えるのです。ファクト(建築データ、注11)に基づき、大型パネルを生産し販売します。価格もワンプライス(注12)です。言い換えれば、設計図書、敷地条件などのファクト(建築データ、注11)が全てで、誰からの発注だとか、沢山発注してくれたからというプレイヤー要素(注2)は、考慮しません。この大型パネルの仕組みを取り入れた佐伯広域森林組合では、兵站距離(注13)に自律条件(注14)を設定しています。沢山の注文があるからと、兵站距離(注13)を超える受注は受けません。サプライチェーンを伸ばす事を禁じています。伸びきったサプライチェーンはリスクそのものです。スモール&ローカル。これは佐伯森林組合における事業設計の基本です。その結果については、大谷恵理さんの報告の通りです。

 

[新エネルギーへの代替加速 木材生産とバイオマスのシンクロニシティの創出] 林業の役割には、バイオマス燃料への、その安定供給も重要になってきています。新エネルギーへの代替加速(注15)は、国策の喫緊の中心テーマでもあります。また、林業・林産業では、ある一定量の廃棄品をバイオマス燃料として有償化しなければならいという側面があります。木材生産とバイオマスは双子の関係なのです。残念ながらこの双子には、シンクロニシティ(共時性、注16)が感じられません。サプライチェーンの距離や範囲において、双方のシナリオ合わせが出来ていると思えないのです。筋書きもない、台本もない中、双子が走り回っているようです。

 

[大型パネルの重要な役割] 大型パネルの役割が何故に重要なのか、それについても著述します。木材加工にはプレカット(注17)という木材と建築の境界線を形成する加工事業が、隆盛を極めています。日本中に500に上るプレカット工場(注17)があり、木材加工を担っております。一口にプレカット工場(注17)という言い方をしますが、その実態は、梁加工、柱加工、羽柄加工、合板加工のそれぞれの加工設備があり、プレカットとはその集合体を示した言葉です。建築一式のライン製造ではなく、部位単位の分業生産(注18)なのです。従って、部位一つ一つに効率性と合理性という競争原理が持ち込まれて、梁は梁としての競争、柱は柱としての競争と、部位競争(注19)が必然的に生まれてしまいます。木材の建築用途における競争とは、部位競争なのです。ウッドショックで明らかになったのは、この部位競争で海外材が圧勝しているのが、梁であり、海外から梁が入手できなくなったために、ウッドショックが木造建築まで及んでしまっています。大型パネルでは、これらの部位単位に陥ってしまった建築データを、一斉に収集して、建築データとして復元していきます。従って、大型パネルは建築データとして、木材部位という情報を伴った需要起点になりえるのです。大型パネルとは、木材と建築の境を連結する、情報交換装置(注20)なのです。

 

[システムが森林・建築のデータを連携させなければ在来工法も国産材も価値の向上は出来ない] 更に、我が国木造建築の特徴である「在来木造」についても言及します。在来木造とも木造軸組工法とも言われる古来より永続したこの建築工法は、未だに業界を席捲しています。正確な統計ではありませんが、60%以上、市場を占有していると思われます。2x4技術が導入された国では、瞬く間にその国固有の在来工法は駆逐され、2x4工法に単色化されています。それほど2x4は合理性の高い木造工法なのです。更には、ハウスメーカーと呼ばれる企業は、独自工法を取得しています。それらの競合者がいるに関わらず、在来木造は主役の座を譲っていないのです。それは、日本各地に存在している「大工」という職能資源(注21)があるからです。正確に言えば、「あったから」です。大工は急速な減少局面を迎えています。既述した通り、プレカット工場の隆盛が、大工による「刻み」という付加価値を奪ってしまったからです。

 

[大工知能をもつ生産システムを作れ 森林からデータを連携するシステムを作れ さもなくば在来木造・国産材の価値向上は出来ない] 大工不足による在来木造の後退は、国産材価値を激変させます。在来木造では、柱、梁、桁、束、土台、間柱、垂木、野縁と、多種の断面を必要とします。多種の断面を必要とする一方で、プレカット工場は単一部位を競争しており、点でしのぎを削り合っているのです。在来木造が縮小すれば、価値の低い、言い換えれば、安く売るしかない断面は、国産材が引き受けることになるでしょう。更に言えば、ラミナ化(部品化、注22)が進んでいくでしょう。ラミナ化(注22)が進めば、国産材の建築価値は落下します。従って、大工不足を補い大工知能を有した生産システムを作らなければ、そのシステムが森林から建築をデータ連携しなければ、在来木造も国産材も価値の向上は出来ないのです。

 

[在来木造に対応したシステムがなかった でも大型パネルの出現で懸念は一気に消えた] なぜに木造建築と木材情報が分離したままで、データ連携に伴ったサプライチェーンを生まないのかという一般的な疑問は、当然です。在来木造に対応した大型パネル並びにそのシステムが無かったからです。在来木造建築と木材は分離しまたまま放置されていたのです。大型パネルの出現で、その情報連動力で、この懸念は一斉に消え去ったのです。大型パネルの出現で、木材と建築のサプライチェーンは完成していきます。

 

もう全ては出揃っています。林業・建築・バイオマスの三位一体(注23)のローカル事業圏を形成すればいいのです。それを大型パネルが繋いでいきます。例え大型パネルを生産しなくても、そのシステムを通せば、建築データを正確に割り出していくのです。サプライチェーンをコンパクトに設定し、兵站を強化します。三位一体の協議会(注23)を地域に作り、サプライチェーンの中で、互いの需要を満たし合う、それこそが解決策だと思う次第です。

 

[ファクトを軸に均衡点を探すべし] プレイヤー(注2)を意識したサプライチェーンは、国産材に馴染まないでしょう。事業者要素を切り落とし、ファクト(注11)を軸に国産材業界を俯瞰し直すべきです。ファクト(注11)とは、兵站距離、品質、生産量、生産可能製品、バイオマス用チップの品質と量、中間在庫といった数字で明示できる透明性と客観性をもったファクトです。このファクト達を、スモール&ローカルサプライチェーンの中で、林業・建築・バイオマスの均衡点を探すべきです。それをただの理想論に終わらせない仕組みが、大型パネルでありそのシステムであると、自負する次第です。(参考資料1、塩地論文を引用)

 

☆まとめ

育った樹を売る人、素材生産に勤しむ(いそしむ)人、プレカットする人、家を建てる人(大工)。この人達は、みんなサプライチェーンの構成員(プレーヤー、注2)です。この人達(プレーヤー、注2)は、みんな自分の都合を持っています。でも、みんな一人ひとりの都合は、取りあえず考えず(事業者要素を切り落とし)、移動・搬送(兵站の最適化)、品質、生産量、生産可能量、バイオマス用チップの品質と量、中間在庫など、数字で明示できる、透明で客観性を持った 事実量(ファクト、注11)について、何をどのように収めたら最善かを、考えてみましょう。これを最善にする方策を作る場が、スモール&ローカルサプライチェーン(注1)の 実現と実行です。

数字で明示できる実体(ファクト、注11)について、どれをどの状態に納められたら最良かを皆で真剣に考えるのです。そして、それをただの理屈で終わらせないのが大型パネル事業です。大型パネルシステムでデータの発掘と連携を行い、パネル工場で大型パネルの製造・組立を行い、その後の建築を実施するのです。九州大分県の佐伯広域森林組合が、これを見事に実現させてくれました。大谷恵理さんが、その現場を視察し、その希望に満ちた進展状況を報告してくれました。

今こそ、これを全国で大展開すべきです。コロナの悪魔は、この大革命を応援してくれるでしょう。コロナの悪魔は、これまでの改革で、常に障害になっていた全ての高い壁を、夥しい(おびただしい)エネルギーで吹き飛ばしてくれるからです。読者のみなさん、どうか一緒に力を合わせてください。みんなで頑張りましょう。(椎野 潤記)

 

(注1)スモール&ローカルサプライチェーン:スモールで、ローカルなサプライチェーン。途絶えることなく連鎖する取引のチェーン。システムとして余分なものを削り取りとった連結。売り買いの双方に同時に発生するコストが、厳しく引き下げられている究極の姿をしているサプライチェ―ン。

(注2)プレイヤー:事業を行う者。事業者。

(注3)重なりシロ:売り買いの人件費、昼間在庫コスト、品質確認のための出庫検品検査のコスト、それらのデータ入力のための人件費などを指す。

(注4)ノイズ:雑音。本来明らかにしようとする情報に混在して、そのデータ活用を阻害するもの。

(注5)価格決定要素:価格を決定するための重要な要素。事業者が、家業の立場から発する情報が重大なノイズであり、国産材サプライチェーンの生成を阻んでいる。

(注6)相場:「このあたりが相場だ」と言う「相場」。

(注7)相対取引:一対一の直接の販売取引。

(注8)相場取引:一体一の相対取引をせず、市場の高下によって相互間で行う売買取引。

(注9)地域ブランド化:地域ごとのブランド化。ブランド(銘柄、brand)とは、ある財・サービスを、他の同カテゴリーの財やサービスと区別するためのあらゆる概念。

(注10)大型パネル:あらかじめ工場において、構造材・面材・間柱・断熱材・サッシを一体化したパネル。従来のパネルと異なり、柱・梁などの構造材まで一つのパネルに組み込んであり、現場での組立では通常の金物工法とまったく同じ。大幅な工期短縮等、数々のメリットが生まれる。

(注11)ファクト(fact):ファクトの英語の意味は「真実」。ファクトとは、兵站距離、品質、生産量、生産可能製品、バイオマス用チップの品質と量、中間在庫といった数字で明示できる透明性と客観性をもった事実(ファクト)。

(注12)ワンプライス:整理し統合させたプライス。プライス:あたい、値打ち、値段、価格。

(注13)兵站(Military Logistics):戦闘地帯からみて後方の軍の諸活動・機関・諸施設の総称。兵站距離:兵站物資の生産地から消費地までの搬送距離。

(注14)自律条件:自分だけの力で物事を行っていこうとする意識、決意。

(注15)代替加速:あるものを、他のものに代替することを加速すること。

(注16)シンクロニシティ(Cynchrocity):ユングが提唱した概念で、「意味のある偶然の一致」を指す。「共時性」と訳される。

(注17)プレカット:プレカット工場には、梁加工、柱加工、羽柄加工、合板加工のそれぞれの加工設備があり、プレカットとはその集合体を示した言葉。

(注18)分業生産:プレカット工場での生産では、梁加工、柱加工、羽柄加工、合板加工などの加工設備が設置されている。各設備ごとに分業して生産されている。

(注19)部位競争:柱、梁などの部位ごとの競争。

(注20)情報交換装置:大型パネルは、これまでの建築生産で、部位単位であったデータを、木材の「建築データ」として統合した。塩地は、大型パネルは、「木材」と「建築」の境を連結する情報交換装置にすることを提唱している。

(注21)職能資源:日本各地にいる大工は、日本社会が持つ宝だと塩地は考えている。塩地は、これを、重要な職能の資源として「職能資源」と呼んでいる。

(注22)ラミナ:集成材を構成している挽板や小角材のピースのこと。

(注23)三位一体(さんみいったい、英Trinitas):キリスト教において、父(=父なる神)、子(=神の子・子なるキリスト)、霊(=精霊)の三つが「一体(=唯一神)」であるとする教え。

 

参考資料

(1)塩地博文著:林業・建築・バイオマスの均衡点を探る スモール&ローカルサプライチェーン「大型パネル事業の進展」〜仮想木材の開発へ:2021年12月2日。

(2)椎野潤(続)ブログ(273)木材建築 ユネスコ無形文化遺産に登録 塩地博文の大型パネル事業(1)木造住宅の次世代に向けた大改革 2020年12月22日。

(3)椎野潤(続)ブログ(274) 塩地博文の大型パネル事業(2)塩地博文「大型パネル事業とは何か(その1〜3)」原文2020年12月25日。

(4)椎野潤(続)ブログ(275) 塩地博文の大型パネル事業(3)「大型パネル事業とは何か(その4)」施工図自動作成システム開発 2020年12月29日。

 

[追記 東京大学名誉教授 酒井英夫先生の指導文]

大谷恵理ブログ 大型パネル事業が導く林業再生(その2)・2021年12月17日)によせて

 

[引用文]

大谷様

 

今回もブログ第2弾、オータニショータイム、配信ありがとうございます。

 

冒頭、中国との貿易で始まっていますが、ニュージーランドのラジアータパインは、中国船で運ばれています。その中国向け船賃は安く、一方で日本への船賃は高くしています。足もとを見られているところに、貿易に頼るもろさがあると思います。そのNZも木材輸出に力を入れ、かつてプライスリーダだった北米を抑えて太平洋で一人勝ちしていましたが、中国のコロナ蔓延で一時需要が減り、中国だよりが仇になりました。

バイオマスで燃やすのは最後の手段です。いま紙の需要が落ちていますが、日本の紙の消費を国産材でまかなおうとすると、数ヶ月で日本の森ははげ山になるということで、各製紙会社は社有林を備蓄に回し、海外植林して資源確保に努力してきました。

小さな垂直型協同組合は斬新な発想です。かつてのライバルもビジネスパートナーと呼び名を変えるだけで、いろいろなチャレンジができると思います。例えば製品に互換性をもたせ、材料を融通しあえば、輸送などかなりのコスト削減ができます。垂直型協同組合は煎じ詰めれば椎野先生の仰る「無駄の排除」ではと思います。

今まで、大型サプライチェーンが海外も含めてどこもうまくいかなかったのは、利害関係者の利益配分ができなかったからと思います。解決の特効薬は、一人勝ちをなくす、そして持続性の確保だと思います。佐伯広域森林組合の小さな垂直型協同組合は、これからの日本のいいモデルになると思います。「雨後の筍」が足腰の強い日本を作り上げていくものと思います。

大谷さんの「山側の資源管理」は目からウロコです。

最後に椎野先生に小生の拙文に対して身に余るお言葉をいただき、恐縮、感謝です。

 

酒井秀夫

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