大谷恵理ブログ「林業再生と山村振興]大型パネル事業が導く林業再生(その2)佐伯広域森林組合の成長の軌跡と新たな展望(2)

☆巻頭の一言

今日のブログは、大谷恵理さんの2021年度のブログの「まとめ」です。(椎野 潤記)

 

林業再生・山村振興への一言(再開)

 

2021年12月(№166)

 

椎野潤(続)ブログ(377) 大型パネル事業が導く林業再生(その2)佐伯広域森林組合の成長の軌跡と新たな展望(2)2021年12月17日

 

☆前書き

今日は、佐伯広域森林組合の成長の軌跡と新たな展望(2)、「日本の林業再生について佐伯広域森林組合に学ぶこと」についてお話しいただきます。

 

☆引用

大谷恵理ブログ 大型パネル事業が導く林業再生(その2)佐伯広域森林組合の成長の軌跡と新たな展望(2)佐伯広域森林組合に学ぶこと 2021年12月3日。

文責 大谷恵理 監修 塩地博文

 

[佐伯広域森林組合は、経営が外部要因に左右される脆さを抱えている]佐伯広域森林組合は、今でこそ好調な業績を上げていますが、実は昨年の一時期、採算が厳しい時期があったのです。新型コロナによる需要の先細り予想から、原木の販売単価が立方メートル当たり7,000円にまで、暴落したためです。「前報(その1)」でも、お話ししましたように、組合の原木販売量は年間250,000立方メートルです。そのうち自前の製材所で購入するのは70,000立方メートルですので、残りは別の事業者に販売しています。その単価が下がれば、採算を維持するのは難しいのです。その後、ウッドショックによる木材価格の急騰があり、息を吹き返しましたが、現在でもまだ、経営が外部要因に左右される脆さを抱えているのです。

 

[佐伯港女島岸壁 中国輸入停止 輸出材港に滞留]経済全体の中で見れば、木材も鉄鉱石や原油のような原材料の一つに過ぎず、景気の動向や政治など様々な動きの影響を受けます。それを目の当たりにしたのが、佐伯港にある女島(めじま)岸壁でした。ここは九州でも数少ない、水深14メートルの、大型船が停泊できる岸壁で、ここから年間100,000立方メートルの木材が輸出されています。私達が訪れた際にも、一艘に2,700〜2,800立方メートルの木材を積むことのできる運搬船が横付けされていました。また、岸壁には、長さ4メートルの丸太を、高さ3〜4メートル、長さ20〜30メートルにわたって、うず高く積み上げた塊が、延々と連なっていました。佐伯からの出材は比較的少なく、九州各地から集まった、細かったり曲がったりのC材(注2)が中心でした。佐伯広域森林組合の製材機にそぐわない太い丸太も多く含まれていました。

 

その量の多さに目を見張る私達を、更に驚かせたのが、港湾の荷役を行う方の言葉でした。それは「普段は、荷役が終われば空いたスペースにすぐ丸太が運びこまれて、こんなに広い場所が空くことはないのです。今は中国がストップをかけていますから、搬入を断って(ことわって)いるのです」と言う言葉でした。

 

これを詳しく伺うと、北京オリンピックで二酸化炭素の排出やコロナ感染に神経を尖らせる中国当局が、中国人船長の船しか入港を認めないので、輸出が滞っているということでした。更に、コロナによる世界的な物流コストの高騰で、これまで40,000ドルだった船一艘の輸送費が、最近は150,000ドルに跳ね上がっていると言っていました。輸出できない丸太はバイオマスに向かっているようですが、そのバイオマス用に輸入されているパーム椰子の殻(PKS、注3)は、この港だけで月に250,000トンにも上ります。このような値動きの激しさ、相手国の都合で激変する取扱量、加えて為替の変動、これが国際貿易の普通の日常なのです。

 

弱肉強食で情け容赦の無い世界、そこで生き残るためのコスト管理やサプライチェーンの最適化といった諸課題への対応力を備えていたのが、外国産の木材でした。そのため今でも多くの外材が輸入され続けています。日本国内のみで取引するとしても、サプライチェーンが長いほど、輸送コストは高くつき、様々なビジネス環境の影響を受けます。佐伯では製材機の性能にマッチした間柱を大量に生産していたため、売り先は日本の各地に広がらざるを得ませんでした。そのため、単位当たりの収益が乏しい上、長距離輸送というハンディを抱えてしまっていたのです。

 

[地域材パネルは真逆の発想]佐伯広域森林組合が「地域材パネル」と呼んでいるパネルは、これとは真逆の発想です。サプライチェーンを極小化する商品です。地元の材を使い、地元の作業員が加工し、地元の人が購入する建築ですから、部材の輸送コストは限りなく削減されています。そして、作る人と住む人が、お互いに顔が見える、産地直送住宅が実現できるのです。実際に、組合は製材所で年間110,000立方メートルの木材を加工していますが、自社の共販所から購入するのは70,000立方メートルのみです。不足分の40,000立方メートルは他県などから購入しています。これは製材機の性能をフルに活かすため、丁度いい太さの丸太を揃える必要があったためです。しかし、製材機の都合を優先するために、地元の木材を使わず、わざわざ他所から購入するというのは、本来あるべき姿ではないのです。これまでは、そうするより他に方法がないと考えてきました。

 

[地域材パネルという武器を手にした今は、状況を変えることが出来る]でも、「地域材パネル」という武器を手にして、今は、それを活用して状況を変えることが出来るのです。住宅を一棟建てるのに必要な木材の量は、20立方メートル程度です。他所から購入している40,000立方メートル、これを自前の地場木材に切り替えたら大きな改革ができます。丸太の歩留まりを仮に50%とすれば、製材量の20,000立方メートルは、住宅1,000棟分になります。これを地域材パネルに加工して販売すれば、真の循環型林業を達成することができます。そうすれば他所から購入する必要もなくなります。丸太のままで売られていた大径材を自社製材工場で加工し、それをパネルに組み立てて販売すれば、付加価値が流出することはなくなり、内部に留まり利益は最大化します。

住宅用の部材として間柱を販売する場合の単価は、立方メートル当たり4〜5万円にしかなりませんが、地域材パネルにした場合、それが9〜11万円にもなる事が、既にわかっています。さらに、サッシや断熱材など他の建材の利益も加わるため、利益率はさらに高くなります。

 

[地元の工務店や設計事務所の仕事を奪う心配は無用]地元の工務店や設計事務所の仕事を奪うのでは、という心配は無用なのです。地域材パネルは、その工務店や設計事務所からの仕事を下請けする受託加工で、住宅そのものを販売する事業ではありません。工務店や設計事務所を下支えする仕事であり、ライバルではなく事業パートナーにあたります。佐伯広域森林組合は下支えの対価として、設計事務所と工務店に、佐伯産の木材を使ってもらうと言うウインウインの関係なのです。これは顧客のお手伝いをしながら、自社木材を販売する仕掛けとも言えます。これまでは、地元の木材で家を建てられるとは誰も考えていませんでした。しかし、もし自分が山主である場合を考えてみますと、地域の山の木を使った建築が利益を生み、自分もその分配を受けられるとしたら、全国規模のハウスメーカーなどの外国産の木材を使った住宅を、建てたいと思うことは、まず、ないと思います。

 

[公的な補助金への依存からの脱却が急務]とは言え、ようやく開拓した販売先や、慣れ親しんだ生産方法を、簡単に変えられるものではありません。さすがに年間1,000棟は相当ハードルが高いのです。今のままで上手くいっているのだから、しばらくはこのままで良いのではと、そんな佐伯の皆様の声が聞こえてきそうです。しかし、そうは言っていられない事情があります。理由の一つは、再造林にかかるコストの多くを公的な補助金に頼っていることです。佐伯では100%の再造林を実現しています。それは事実であり、素晴らしいことですが、費用を自前で完全に賄うことはできていないのです。日本経済が人口減少とともに縮小の道を辿るのは、ある程度避けられないでしょう。一刻も早く、補助金に頼らず、完全な循環型林業を実現させる努力に、力を注がねばなりません。

 

[国のエネルギー政策]もう一つの理由は、国のエネルギー政策に関わる問題です。女島岸壁に陸揚げされる、月間250,000トンものパーム椰子殻(PKS、注3)は、近くのバイオマス発電所で燃料として燃やされています。これがもしも、円安の進行や世界的な気候変動緩和策の影響で、日本に入ってこなくなった時、止めることのできない炉の中に国産材が投入されるとしたら、日本は数年で「はげ山」だらけになると言われています。それを防ぐには、製品に高付加価値をつけることで、バイオマスよりも遥かに高い値段で木材を買い上げることが重要です。そして、伐採や製材に伴って必ず発生する未利用材や端材をバイオマス向けに安定的に供給することです。全てを賄うには足りないかもしれませんが、持続可能な分岐点を測って線を引き、手を結ぶしかないのです。この状況は、佐伯広域森林組合だけでなく、日本の全ての地域の林業・木材業にあてはまるのです。特に、佐伯のような再造林の体制ができていない、全国の多くの組織では、なおさら深刻です、その費用を捻出し、人材やノウハウの手当てをすることが必要になるからです。

 

[垂直型協同組合の形成が必要]それを実現する方法として、私が提案するのが「垂直型協同組合(注4)」です。普通、組合というのは、同業者や同じ利害を持つ人々が集まり、利害の対立する勢力に対して交渉力を強めたり、数量をまとめることで有利な条件を引き出すために結成されます。「垂直型協同組合(注4)」は、山主、素材生産業者、製材、工務店、大工といった、いわゆる「川上から川下までの人々」で構成される組合です。その目的は、限られた森林資源の復元と維持をしながら、産出する木材の価値と、関わる人々の労働への対価を最大化することです。現在の資本主義の歪みは、時間という価値を無視し、切り捨てたことが要因の一つだと、私は考えています。

 

[何世代もかけて守られてきた森も、戦後植えられて70年かけて大きく育てた木も、消滅する危機]石炭も石油も、数千万年をかけて地球が地下に貯留した生態系の不要物です。それを掘り出して燃料に使うことがどのような意味を持つのか、国際社会がその重大さに気づき、直視するようになったのはつい最近のことです。同様の思想的背景から、木材もその価値を充分に理解されず、簡単に鉄やアルミに置き換えられ、それが価格の限界となってきたのです。その結果、何世代もかけて守られてきた森も、戦後植えられて70年が経ち、大きく育った木も、製材機にマッチしないから、バイオマスの方が儲かるからと、安く叩き売られ、簡単に燃やされる事態が起きているのではと、私は危惧しています。

 

けれど今、私達は、地球がこのままでは保てないこと、資源は有限だということ、従来の資本主義では富は一部の人に吸い上げられ、満足に暮らせない人を沢山生み出してしまうことを知っています。ならば、これまでの常識を覆し、産業界と生活者との同心円を描き、森林をまず中心に据え、利害が対立すると考えられてきた人々が手を組むべきなのです。これまでも、吉野などで垂直型の組合が試みられてきましたが、成果があがったという話を聞かないのは、十分な価値を生む販売先、良く言われる「出口」がなかったのが大きな要因と考えられます。

 

[大型パネルは、流通改革の資源]佐伯広域森林組合が地域材パネルと名付けた大型パネルの技術は、オープンで誰でも利用することができ、そして大きな利益を生み出します。それを流通改革の原資として、山や地域を守る人達で分配すれば良いのです。参加者は、佐伯のような大規模な組織である必要はありません。大型パネル工場は、200坪程度のスペースと立て起こし機があれば、工員3〜4人、二日で一棟の生産が可能です。必要な設備投資は、経産省が力を入れる業態転換の助成金を使えば自己資金の負担は大きく減少します。大型パネルの優位性は誰の目にも明らかになってきており、多くの企業が技術移転を希望していると伺っています。これから数年の間に、パネル工場は全国各地に沢山広がるでしょう。そこに、地域を守り、資源を生かしたいという人々が垂直型協同組合(注3)を作って連携していけば、大きな力が結集されます。暮らしの流域が、山から街まで繋がって行くのです。

 

[計測設備の標準配備でデータ化]これまでは、山側が資源の質や量を計測したとしても、そのコストを立木価格に反映することは、ほとんどできませんでした。だから積極的な資源管理が進まないのも当然だったのです。大型パネルの部材情報と見込める利益は、山側に、資源データ作成へのインセンティブを与えます。今は高額な森林の計測機器も、まとまった台数の販売予測が立てば価格が下がり、それを標準装備することで森林資源のデータ化が進むでしょう。そして皆伐ならば立方メートル当たり20,000円、択伐ならばそれに搬出費用を上乗せした価格で、立木を販売することで、再造林を確実に進め、林業を補助金に頼らない産業として自立させる道が開けるのです。

 

[国産材が力強く上昇する時代の到来]佐伯広域森林組合に話を戻しましょう。他所から購入している40,000立方メートルを、自前で生産する地域材パネルで消化するのは、確かに困難な目標です。しかし、有力な助っ人が力を貸してくれるはずです。AI(注5)を駆使して、まとまった棟数の設計図書から木材の最適な歩留まりを計算し、山のデータと結んで、素材生産の現場まで効率化することを目指す、最先端林業の実証実験が、これから始まっていくと期待できるからです。大分県の木造住宅の着工戸数は年間4,000棟と言われますが、CO2排出削減の流れを受けて、中高層のビルも含めた建築の木造化が進行していきます。マーケットは確実に広がっており、「佐伯スピリット」を育んだ皆様なら、必ず実現できるでしょう。長い低迷期を脱して、国産材が力強く上昇する時代がやってきました。ロケットの発射時に使用される「LIFT OFF」(リフトオフ、注6)という言葉のように、「垂直型協同組合(注3)」を勢い良く立ち上げ、様々な因習を振り切って、希望に満ちた未来に向けて旅立ちましょう。(参考資料1、大谷恵理)。

 

☆まとめ

大谷恵理さんは、塩地博文さんの愛弟子(まなでし)として、日本社会が激変している中で、佐伯広域森林組合が、今、これに対応している姿を的確にとらえ、森林の中で具体的に行われている、未来への「林業再生」と「山村新興」を、見事に読者に示してくれました。

大谷さんは、以下の諸点を、鋭く指摘されています。

(1)佐伯広域森林組合では、100%の再造林を実現しています。それは現実に実現されている事実であり、素晴らしいことです。でも、費用を自前で完全に賄うことはできていないのです。日本経済が人口減少とともに縮小の道を辿るのは、ある程度避けられないでしょう。一刻も早く、補助金に頼らず、完全な循環型林業を実現させる努力に、大注力しなければなりません。

(2)木を伐採した跡地に、100%苗木を植える。しかも、補助金に頼らず自費でこれを行うこと。育てた木を付加価値の充分に高い商品にして販売して、苗を植えた林家が、苗木が成木になるまで育てる「育林費」を、確実に先払いすること。つまり、育林が実現するだけの高値で、林家から立木を買い入れること。これが日本の次世代林業を自立した姿として実現して行く上で、必須のことだということは、皆が知っていたことです。でも、それを具体的に実現することは、いままで、誰も出来ませんでした。

(3)これが、いよいよ、出来そうになったのです。具体的には以下です。第一には、佐伯広域森林組合の戸高組合長の強い信念のもとで、100%再造林が実現したことです。第2には、ウッドショックという凄いチャンスが到来したこと。すなわち、海外材が急騰貴し、良質の国産材を高値で、国内で売ることが可能になったのです。これは正しいことを歯を食いしばって頑張って進めていた佐伯広域森林組合の人達への、神様のプレゼントでした。このウッドショックのお蔭で、高品質の国産材を提供すれば、抵抗なく外材の代わりに国産材を買ってもらえることになったのです。

(4)ウッドショックが、これまで、いつでも安定して供給されていた海外材の供給を途絶させたのです。そこで、ウッドショック下で、どの木材でも供給出来る佐伯広域森林組合に、注文が殺到しました。

(5)ここでは塩地さんが、かねてから提唱されていた「地産地消」の運搬距離の短さを生かした、国内産木材活用による、木材コストの大低減が、佐伯で実現できたのです。これで、「大型パネル」の利点を生かした「地域材パネル」で事業を進めれば、運賃の安い全ての材が、地元で調達できることになりました。これによって、地域の各社も地元の大手住宅メーカーも、地域材を加工して使えば、事業業績が上がることを発見したのです。

(6)これは塩地さんが進めてこられた「大型パネル」システムと佐伯広域森林組合の戸倉組合長が信念をもって進めてきた「佐伯スプリット」に、ウッドショックの危機(一般の人には大きな危機だが、佐伯グループにとってはチャンス)が重なって、大きなチャンスになったのです。でも、「今まで出来なかったことを、いよいよやる」のですから、実際の実施には、まだ多くの困難が現れるでしょう。でも、佐伯には、ここまでに多くの困難を乗り越えてきた「佐伯スピリット」があります。団結した人材がいます。さらに何よりも強いのは、伐採跡地に苗木を植え続けている「人達」の「地に足をつけた毎日の作業」が、確立しているのです。

(7)ここで一層、頑張らねばならないのは、これを全国に、一気に拡大することです。そこで、今、以下が重要です。その第一は、山主、素材生産者、製材、工務店、大工といった「川上から川下までの人」で構成された「垂直型共同組合」が、まだ出来ていない地域での、これの結成です。これは言葉を変えれば、「森林から家づくり」までのサプライチェーンを形成することです。そして、そこでのサプライチェーンマネジメントを軌道に乗せることなのです。ここでは、まず、山主から大工まで連鎖する各職のつなぎ目にある無駄を、厳しく排除することです。これを排除すれば、「各職の皆が得」になることを、みんなは共同作業で実感するでしょう。その第2は、補助金を貰わないで、自分たちだけでの完全循環林業が出来たら、自分たち自身に世界での競争力がついて、未来に向けて安泰になること。さらに、幸せな人間関係の中で生きる、幸福な生涯を送れることを、みんなが実感すると思います。その上、事業の収益は拡大するのです。

(8)スモールこそ、ベストです。大谷さんは、最小単位の大型パネル工場を推奨され、以下のように述べておられます。「大型パネル工場は、200坪程度の敷地と立て起こし機があれば、工員3〜4人、二日で一棟の生産が可能です。必要な設備投資は、経産省が力を入れている、業態転換の助成金を使えば自己資金の負担は、とても小さくなります。」また、サプライチェーンの無駄の排除も、最小人数のサプライチェーンの形成で実行してみた方が良いのです。その方が楽なのです。すぐ、効果が実感できます。でも、多人数で集まってやる方が良いと思われることが多いのは、誰でも知っているでしょう。それは、小さく産んで、大きく育てた方が良いのです。その方が、大きな組織が持つ弊害を避けて大きくすることが出来ます。産業全体の改革のような大きな改革は、小さいグループが、雨後の筍のように、沢山、一斉に興るのが理想なのです。大谷さんは、その道筋を、読者に丁寧に教えて下さいました。

(9)私は、今、このブログで、日本の「林業再生」と「山村新興」に、大きなチャンスが来たと、希望に満ちた未来について書きましたが、実は日本は、大変な危機に直面しているのが現実なのです。大谷さんは、以下のように警告してくれています。「パーム椰子殻(PKS、注3)は、近くのバイオマス発電所で燃料として燃やされています。これがもしも、円安の進行や世界的な気候変動緩和策の影響で、日本に入ってこなくなった時、止めることのできない炉の中に国産材が投入されるとしたら、日本は数年で「はげ山」だらけになると言われています。」

この危機は、我々が「ちょっと気を緩めていたら、すぐ、そうなるに決まっている」重大な危機なのです。日本国、日本人全員は、一致団結して、この危機を乗り越えねばなりません。この危機に対する対策は、結局、この「まとめ」で述べた全ての改革を、全力で実施することに帰するのです。読者の皆さん、どうか一緒に力を合わせてください。みんなで頑張りましょう。(椎野 潤記)

 

(注1)C材:木材の品質等級としてA材、B材、C材が定められている。A材:主に建築用の製材用丸

太となり、末口(木の枝先に近い側)と元口(根元に近い側)の直径の差があまりない直材。木で1番品質の良い製品が取れる確率が高い部分。住宅の部材で言えば、構造材および内装材(鴨居、敷居、天井板など)として使われる。 B材:床板や家具に使われる合板用材・集成材などを製造するための丸太。A材の規格にあてはまらないものとされ、小曲材も含まれる。C材:チップ加工用の大小径木。

(注2)パーム椰子殻(PKS):パーム油生産の副産物であり、天然バイオマスエネルギー産業で主に

使用されている。

(注3)垂直型協同組合:山主、素材生産業者、製材、工務店、大工といった、「川上から川下まで」の

人々で構成される組合。その目的は、限られた森林資源を復元・維持しながら、産出する木材の価値と、関わる人々の労働への対価を最大化すること。

(注4)AI(artificial intelligence)=人工知能:「計算(computation)」という概念と「コンピュータ(computer)」という道具を用いて「知能」を研究する計算機科学(computer science)の一分野」を指す語。言語の理解や推論、問題解決などの知的行動を人間に代わってコンピューターに行わせる技術。計算機(コンピュータ)による知的な情報処理システムの設計や実現に関する研究分野。

(注5)「LIFT OFF」(リフトオフ):ロケットなどの打ち上げ、発射、発進。航空宇宙産業用語。

 

参考資料

(1)大谷恵理著:大型パネル事業が導く林業再生(その2)佐伯広域森林組合の成長の軌跡と新たな展望(2) 佐伯広域森林組合に学ぶこと 2021年12月3日。

(2)塩地博文著:「大型パネル事業の進展」〜佐伯型循環林業と大型パネル、2021年11月5日。

 

[付記]2021年12月14日。

 

 

[追記 ブログ読者へのお願い]

東京大学名誉教授 酒井秀夫先生は、私のブログを、日常の仕事として、毎回欠かさず、お読みくださり、いつも適切な、ご指導文を大谷事務局長に、お送り下さっています。私は、これを毎回読ませていただいて、「ブログ書き人」の仕事ぶりの修正をしています。

このたび酒井先生は、前回のブログ発信での大谷理恵さんの、私のブログへの初投稿に際して、誠に適切で貴重なご指導文を、実に丁寧に書いて、著者の大谷さんに送って下さいました。

私は、これを読んで、強く感動したのです。そして、これを、私のブログを日常のものとして読んで共感して下さっている読者の皆様に、読んで、共感を共有していただきたいと熱望しました。

それで、酒井先生に、この一文を、今日のブログの末尾に、掲載させていただきたいとお願いし、ご快諾をいただきました。それで、これをここに掲載いたします。

ここで、このブログの読者のみなさんに、お願いいたします。この貴重な一文を、是非読んで下さい。私の感動を共有していただきたいのです。どうか、よろしくお願いいたします。この情報共有が、日本の林業再生と山村振興を、大きく前進させると思いますので。

 

椎野 潤

 

[引用文]

大谷恵理様

 

ブログ配信ありがとうございます。

 

今回は大谷さんご自身の文章で、全国の林業関係者に是非読んでいただきたい内容です。

「なぜ再造林できるのか、なぜ再々造林ができるのか」、佐伯のその取り組みを理解できない人には答えが見つからないと思いますが、日本に実在したことに感激いたしました。

造林が失敗した理由に動物の食害があげられますが、実際は他にも夏の日照りとか、苗木の選択とかいろいろあります。佐伯森林組合は山主に寄り添っています。将来、投資として還ってくると思います。

セルビアで見た苗畑では、専門の技術者は1人でした。しかし、常に何人もの女性をパートで雇って、女性の就労の場をつくっていました。そのうち技術も平準化していき、責任者がいなくても、仕事が回っていくのではと思いました。

佐伯森林組合は、広域合併のリスクをスケールメリットに変えて、製品の付加価値を高め、見事に消耗戦から脱却していますね。ウッドショックも味方にしています。丸太の品質管理もできているからだと思います。

オーストリアに、マイヤーメルンホフ社という林業会社があります。3万ヘクタールの森林を所有し、1000人近い従業員がいますが、伐採から製材、建築までを手がけ、デザイナーまでいます。地域材パネルもデザイナーが多用してくれるようになるとすごいことになりそうです。輸出できるようになると、夢が膨らみます。

立木在庫は林業のリードタイムを解消したり、注文材生産に応えていく上でもメリットがあると思います。

多くの林業再生のヒントがちりばめられて、珠玉の論文ありがとうございました。

 

酒井秀夫

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