林業・山村スタートアップの先導者たち(その1) 株式会社中川 

林業再生・山村振興への一言(再開)

 

2021年3月(82)

 

□椎野潤(続)ブログ(293)林業再生・山村振興ブログ 林業・山村スタートアップの先導者たち(その1)株式会社中川 2021年3月2日

 

☆前書き

2021年の新年になって、コロナウイルスは、世界に、ますます蔓延し、世界の人たちは、窮屈な生活を強いられています。産業活動も沈滞を続けています。この中で、新しい産業を開発するスタートアップ(注1)は、すこぶる元気なのです。

私は、新年になって、スタートアップを中心にしてブログを書いてきました。今回は、林業スタートアップの牽引者として、私が注目している、株式会社中川(注2)の創業者中川雅也様に、ブログに登場していただくことになりました。このブログは、一緒に仕事をしておられる、森林パートナーズ株式会社(注3)の小柳雄平社長に、まとめて、いただきます。(椎野潤記述)

 

☆本文              森林パートナーズ株式会社 取締役社長 小柳雄平

私は、森林パートナーズにおきまして、森林の維持・再生という理念のもと、地域工務店、山主・林業家、製材所、プレカット工場と連携して、経済性の高い仕組みの実現を目指して活動しております。しかし、ここで最も頼りにしているのは、全国のスタートアップ・ベンチャーをはじめとする同志の協力と知恵です。

このブログでは、椎野潤先生のご指導のもと、現在、森林パートナーズが、お世話になっている林業スタートアップの牽引者を、一人ずつ取り上げて、お話を聞いていきたいと思います。

今日のブログでは、「木を伐らない林業」というテーマを掲げ、育林事業を展開しておられる造林ベンチャー中川(注2)の創業者中川雅也さんのお話をお聞きします。中川さんから、貴重な投稿をいただきました(参考資料1)。まず、これを掲載します。

 

[中川のビジョン]                株式会社中川 創業者 中川雅也

株式会社中川は、和歌山県田辺市を拠点に、育林業を営む林業ベンチャーです。現在社員数は21人で、令和元年度の植栽面積は97ヘクタール(ha)です。弊社は「地元の田辺市に貢献すること」、「林業の課題を解決していくこと」、「社員が働きやすい環境をつくること」という3つのビジョンを軸に事業展開をしています。

 

現在当社では、植栽だけでなく苗木の育成も行っています。苗畑を耕作放棄地につくっています。これにより、地域の耕作放棄地問題の解決に繋げています。

また、植栽現場の作業を進める中で、作業員から「苗木や資材の運搬が重労働である。負担を削減しつつ、運搬作業の効率も上げられないか」という提案が出ました。

この提案を契機にして、当社では、苗木・資材運搬ドローン「いたきそ」を開発しました。すでに現場で運用されています。

 

現場作業員の運搬にかかる身体的負担は、大いに軽減されています。作業は凄く効率が上がりました。これまで、苗木や資材を植栽地まで運搬するために、片道40分ほど斜面を登っていました。これが、ドローンの利用で、同じ距離を3分で往復することができるようになりました。このドローンの開発は、「運搬業務の負担が大きい」という林業の課題を解決しつつ、社員が働きやすい環境をつくるというビジョンにも繋がる取組です。

このように、当社は新しい視点から林業を捉えなおした事業を行うことで、3つのビジョンの達成を進めています。

 

『30年後の和歌山に豊かな山を』。これが私たちの目指す世界です。時代の移り変わりと共に、林業のあり方も大きく変わろうとしています。このような時代だからこそ、山林所有者と林業従事者、さらに林業に興味を持って頂ける地域の方々と一緒に、将来を見据えた林業を行なっていく必要があると、考えています。

 

当社は社員が楽しく安全に働けて、林業という仕事を誇りに思える環境を整える。そして、私たちの仕事が地域や林業界の一助になる。そうすることで、地元和歌山、田辺市から植栽放棄地がなくなり、緑豊かな森が返ってくると確信しています。次の世代に生きる子どもたちに、この豊かな自然を残したい。それが株式会社中川の描く世界です。

 

☆討論                     司会 小柳  話す人 椎野 中川

 

小柳  ここで、椎野先生を交えて、中川さんと3人で、ネット討論をします。

椎野先生、中川さんのビジョンを読まれて、お聞きになりたいことはありますか。

椎野  「木を伐らない林業」というテーマを掲げられていますがユニークなキャッチフレーズですね。この内容を簡潔に教えていただけますか。

中川  林業の伐採業者は、伐採することが専門です。しかしその伐採業者が造林、育林をすることが実情になっており、作業に慣れておらず、手間がかかり過ぎになってしまっております。その現状を見て思ったことは「それであれば造林、育林業を専門とする業者があってもいいのでは」ということです。そこで伐採業者と作業を分担する「木を伐らない」林業の会社を設立しました。

椎野  コロナ禍で急速に変化したことはありますか。

中川  実は求職者が急増しました。新型コロナの流行の中、山の中で働きたいということで、多くの入社希望がありました。今年の春には5名を新規採用する予定になっております。

小柳  それは素晴らしいことですね。

椎野  「林業の課題を解決していくこと」と「社員が働きやすい環境をつくること」の具体例として苗木・資材運搬ドローン「いたきそ」の開発を挙げられていますが、その他に、林業改革における新規事業開拓として、今後やっていこうとお考えのことがありますか。

中川  林地残材の活用です。

小柳  バイオマスへの活用ですか?

中川  バイオマス発電所までガソリンを使って運ぶのではなく、もっと近いスモールエリアでの地産地消に結び付けたいと考えています。近隣の家庭で使う薪やサウナのたきぎとして活用できる仕組みをつくりたいと考えています。

小柳  山の資源の総合活用につながりますね。

中川  はい。

椎野  さらに大きな視野で、現在の日本の林業でこれから変えていかないといけない課題がありますか。

中川  先ず、広く日本国民に林業を、自分事の意識をもってもらうことが大事だと思います。林業事業者が働く山、ということではなく、木やドングリが生まれる場所、さらに山林は良い水や空気を生みだす処という意識を、もっと発信していくべきだと思います。

小柳  中川さんは活動で、地域の方と山でドングリ拾いをして、自分で育てて、それを山に植えに行く、ということをされていますよね。私も都市部の方々と山をつなぐ取組の中で、ドングリ拾いと育苗と植樹活動という構想を練っております。また意見交換をさせて下さい。

中川  喜んで。是非田辺市に遊びに来てください。

 

椎野 IT技術者ではない人をサポートするソフトに「ヤプリ」というものがありますが、ご存じですか。

中川  椎野先生のブログで知りました。

椎野  またその技術でどのようなことが出来るか、どのようなことをやりたいか、などご意見はありますか。

中川  既存の技術、今残っている技術の見える化、ソース化、データ化が出来ればと思いました。山の傾斜がこの程度であれば、このような造林が有効である、などのソースとして活用できれば良いです。

小柳  なるほど。建築の大工、職人のノウハウのデータ化のようなものですね。

中川  実は造林の専門書というものはほとんどありません。論文のようなものはあるのですが、手引きになるような書籍はないのです。今の技術が残っているうちに、その技術を難しくなくソース化できれば、これからの育林業の役に立ちます。

小柳  大きな文化感を持って、新しい技術を使いながら、森林資源の総合活用をそれぞれの立場で考え、山と都市がつながる共感価値の創造を、一緒に考えていきましょう。

 

討論のまとめ                            小柳雄平記

株式会社中川の創業者の中川雅也さんは、「地元である田辺市に貢献すること」、「林業の課題を解決していくこと」、「社員が働きやすい環境をつくること」という3つのビジョンに併せて、常に社会問題、社会潮流を意識しつつ、それをご自身の仕事に関連付けて、解決、改善しようとされています。それも枠にとらわれず、明るく取り組んでおられます。この度の討論でも椎野先生のご質問に対して、すぐに明確に回答されているご姿勢は、常に頭を働かせておられるからであろうと、とても頼もしい印象をお受けしました。

日本中で伐採後の植樹が進められていない状況ですが、逆にSDGsなどの意識が広がっている中、植樹、造林、育林業は益々注目されるものと思います。中川さんの技術、ノウハウを全国に広め、各地のその土地の生態系、産業に合った、育林を活性化していってもらいたいと思います。そうすれば雇用も生まれ地域創生につながります。

森林パートナーズとしてもこのような取り組みを消費者に伝え、共感してもらい、地域産材の活用に結び付け、山と都市の大きな循環をつくっていきたいと考えております。

また椎野先生が発信されるような情報を、意識が高い方々にお伝えすると、そこに新しい考え、事業が生まれると改めて実感しました。非常に楽しく未来につながる対談でした。

 

☆まとめ

山に生えている樹は、自然物であり、一つ一つ寸法形状が異なり、性質にもバラツキがあります。そのため、人工知能(AI、注4)、IoT(注5)などのIT先端技術を使って、これらの生産・販売を合理化するのは、極めて難しいと言われています。

私は、2月12日のブログ(参考資料2)に書きましたが、日本で、フリマアプリを創出したメルカリに、大変注目しています。そのメルカリを創業以来牽引してきた長沢啓さんが、昨年9月にメルカリの最高財務責任者を退任され、これから成長するスタートアップ(注1)を支援する投資ファンド「ミネルバ・グロース・パートナーズ」を設立されました。

小柳さん中川さんたちの林業スタートアップの先導者も、是非、相談に行かれて、ご指導を受けたら良いと思います。長沢さんは「改革が難しい産業の改革には、先行投資による赤字を適正に評価して、黒字化するまで忍耐強く、資金を供給し続けることが重要」と述べておられています。この基本を根本から、ご指導いただいておくのが大切だと感じています。(まとめは、椎野潤記述)

 

(注1)スタートアップ:「始める」「起こす」「立ち上げる」という意味を持つ英語表現。スタートアップ=スタートアップ企業。スタートアップ企業:新しく設立された会社のこと。特に、新規事業領域を開拓する会社のこと。

(注2)中川:「木を伐らない林業」というテーマを掲げ、育林事業(植栽などの森林管理業務)を展開する。本社、和歌山県田辺市、設立2016年8月。

(注3)森林パートナーズ:森林の維持・再生を掲げて伊佐裕が設立。本社、東京目黒区、設立2017年6月。

(注4)人工知能(AI:artificial intelligence):「『計算(computation)』という概念と『コンピュータ(computer)』という道具を用いて『知能』を研究する計算機科学(computer science)の一分野を指す語。参考資料3、pp.25、44、69、87、162、176。

(注5)IoT(Internet of Things):モノのインターネット:あらゆる「モノ」がインターネットで接続され、情報交換により相互に制御する仕組み。

 

参考資料

(1)中川雅也著:中川のビジョン、2021年2月15日。

(2)椎野潤(続)ブログ(288) コロナ危機の中でスタートアップ躍進(その2) メルカリの急成長を支えた人材 スタートアップの成長を支える側へ 2021年2月12日。

(3)椎野潤著:続・椎野先生の「林業ロジスティクスゼミ」、IT時代のサプライチェーン・マネジメント改革、全国林業普及協会、2018年3月15日。

 

[付記]2021年3月2日

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