林業・山村スタートアップの先導者たち(その3) 百森とのネット討論 

林業再生・山村振興への一言(再開)

 

2021年4月(95)

 

□椎野潤(続)ブログ(306)林業再生・山村振興ブログ 林業・山村スタートアップの先導者たち(その3)百森とのネット討論   2021年4月16日

 

☆序文

森林パートナーズ株式会社(注1)の小柳雄平社長から、また魅力溢れたブログが、送られてきました。そこで、これを紹介します。

 

☆前書き

林業を軸とした地域再生の成功モデルとして注目を集める岡山県西粟倉村(注2)。そこで活躍する株式会社百森(注3)について、2021年3月5日のブログ(参考資料2)で記述しました。今回は、その百森の共同創業者、中井照大郎さんとのネット討論を実施し、詳しく、お話しをお聞きすることにします。(椎野潤記述)

 

☆小柳雄平著のブログ、株式会社百森               (小柳雄平 記述)

 

[西粟倉村と株式会社百森の概要]

西粟倉町は、2008年に「百年の森林(もり)構想」をたて、明確なビジョンを設定して、それを地域内外へ発信しました。また林業の六次化などの構想を具現化する動きを起こしました。そして、その構想への共感が高まり、林業関連のローカルベンチャー事業などの起業が活性化しました。移住も増えており、山村活性化のもでるになっています。今では村人口の約1割が移住者となりました。総人口は、わずかに減っているものの、生産年齢人口は増加しています。

これは驚くべきことです。西粟倉村は、を新たな目標「百森2.0」を立て、森林資源のみならず自然資本の総合活用をも目指して活動しています。そして、それぞれに関わる事業を連携させ、社会資本を充実させ、持続可能な森林環境を実現して「上質な田舎」を目指しています。まさに、山村新興のモデルケースです。

そして西粟倉村内の事業者が一丸となってタッグを組み、2020年8月には、最先端の持続的林業を目指すチーム西粟倉「西粟倉百年の森林協同組合」を結成しました。そして、ここでは、林業、製材業、加工業、家具製作、バイオマスなど、木材産業の川上から川下までのメンバーが参加しており、緊密に連携しています。組合の活動は、極めてユニークであり、そのサービスや、結成されるまでの過程には、多くの苦難がありました。その熱意や苦労は、当組合のホームページに記載されております。

まさに顔が見える産業の連携を実践されており、組合自体が六次産業化された類まれな、最先端な組合です。その一員で森林の計画・管理を行っているのが株式会社百森です。

中井照大郎さんは大学卒業後商社でエネルギー関連の仕事に従事されました。その後、再生エネルギーベンチャーに転職しました。そして一念発起し、2017年に幼馴染の田畑直さんとともに共同代表として株式会社百森を設立。岡山県西粟倉村の「百年の森林構想」を受け継ぐ形で事業をスタートされました。

「新時代の山守」としてテクノロジーを駆使し、所有者700名を越える民有林および公有林を包括して受託管理し、間伐や植林などの事業を展開しています。そのかたわら木材の生産流通以外にも、森林を使った新規事業を支援し、既存の林業の枠組みを拡げることで日本の林業を産業として成り立たせようと活動されています。西粟倉から「森と人が豊かに交流する世界」を発信しています。

 

 

☆討論                    司会 小柳   話す人 椎野 中井

 

小柳  椎野先生、中井さんに、まず最初に、何をお聞きになりたいですか。

椎野  私は、2018年8月5日に、西粟倉村(注2)の「林業再生・山村振興」活動が素晴らしいと感動して、ブログを書いています(参考資料4)。ここでは、以下のように書いています。「過疎の山に起業が集結。IoT(注6)で木の管理も。村の面積の約9割が「山」である岡山県西粟倉村。この人口1500人ほどの小さな村では、林業の復活に取り組み、ここで「百年の森構想(注5)」を掲げた2008年から2018年までの10年で、スタートアップの起業が30社以上。総売上は年間15億円に上っている。

子ども用の家具や遊具の販売で約2億4千万円を売り上げる『木の里工房 木薫』や、これまで見向きもされなかった、間伐材を活用した事業や、ゲストハウス事業などで、年間約7千万円の売り上げを達成した『sonraku』など、ベンチャーが活躍。『ローカルビジネスのシリコンバレー』と呼ばれています(参考資料3から引用)。」

小柳  これは素晴らしいことですね。

椎野  中井さんが、西粟倉に入られたのは、何年頃ですか。2018年ですか。私が、丁度、ブログを書いた頃なのですね。

中井  西粟倉村に移住したのは2017年の4月です。椎野先生がブログを書かれた時より少し前ですが、先生がそのようなブログを書かれていたことは存じ上げていませんでした。

椎野  そうすると、ここで書いていることは、西粟倉村自身が、頑張って成し遂げたことなのですか。

中井  はい。西粟倉村が自治体として成し遂げて来られました。

椎野  この時、林業スタートアップが30社も集まっていると、以下のように書いています。「なぜ、この山に、林業スタートアップが30社も集結したのでしょうか。」そして、その理由を以下のように書いています。「それは、スタートアップがやりたいことを、誰にも邪魔されずに実施できたからです。全く邪魔をしないことが、実は、最大の支援なのです。そして、「これをやってくれますか」「○○を貸してくれますか」と、手伝って欲しい、貸してほしいというものを、言われた通り与えてやるのが良いのです。そうすると、スタートアップは、凄い世界を作ります。」でも、それをやりたいという人が現れなければ出来ません。最初は、どうやって集めたのでしょうか。

中井  私たちも集まった側の移住者なのですが、もともと西粟倉村の地元に人たちが、地域の要望、問題点を身内だけでなく外部に発信していたことが大きいと思います。例えば「うまいラーメン屋を誰かやってくれないか」ということから村の林業の「こういうことが問題になっている」ということまで。解決策を持っている人はどこかにいるという考えで。

小柳  どのように集めたかというよりも、課題を発信することで、その課題を解決しようというスタートアップの方々が集まってきたということですね。

椎野  この物凄いものを作り上げつつある処に、中井さんは入られた。それを見事に引き継いでいるというのは、凄いですね。現在、700名を超える民有林および公有林を包括して、受託管理をしているということですが、これは、ほとんど、中井さんが入られた後に実施されたのですか。どのように実行されたのか教えてください。

小柳  これも凄いですね。一番苦労したのは、どんな点ですか。

中井  最初は特に移住者という立場で村内の方々を一軒一軒まわって管理を受託しに行くことに苦労しました。そのときは、行政の協力や、意義を理解してくださっている地元の方々の協力が不可欠でした。

椎野  この凄い体験でえられたノウハウを活かして、全国で同様な問題意識を持つ、行政・地域の方々を支援するコンサルタントを始められましたね。

中井  はい。画像解析や森林所有者管理のソフトウェアの提供と、その運営のためのコンサルティングになります。

椎野  画像の撮影は、ドローンで行うのですか。森林所有者管理ソフトは、誰でも使えるものとなっているのですか。また、そのソフトは、自治体が使うもの、民間山主が使うもの、森林組合が使うものコンシューマー(お施主さん、市民)が使うものなどが、それぞれあるのですか。

中井  西粟倉村ではドローンではなくセスナ(注7)です。しかしコンサルティングをするその対象地域が行うレーザー測量の手法は問いません。そのレーザー測量によるデジタル画像解析に基づき森林資源量の把握と解析・ゾーニング(注8)のコンサルティングをさせて頂きます。汎用ドローンによる解析のアドバイスなどはしています。森林所有者管理ソフトは基本的には自治体や森林組合のような方々が使うことになると想定しています。導入前に放置林のビジョンづくりや業務整理、構築をして、そのあとソフトを導入します。そして業務遂行の段階に移るのですが、それぞれの段階でさらに細かく実施するタスク(注9)があります。

小柳  立派なものができていますね。西粟倉村内で行政、民間事業体が一緒につくり上げてきた貴重なシステムとノウハウをオープン化しています。全国の自治体、林業関係者から大きな注目が集まっています。

椎野  全国の市町村は、林業・山村の振興において、かなり進んでいるところと、全く白紙から始めるところと、大きなばらつきがあると思います。すでに、かなり進んでいるところを、さらに進化させることを目指すのか、全く白紙の小さい町村に、この改革を始めることを指導するのか、どのような処を中心に支援する計画ですか。

中井  先ずは西粟倉村と規模が近い地域をターゲットに考えています。ただお話をいただけましたら、事情を確認しその地域の状況に合わせるかたちでお受けしていきたいと思います。

椎野  かなり進んでいる処に、さらに、その先への道を示すのは、比較的容易だと思いますが、まだ白紙の小町村を指導することが、日本の未来を考えると、今、一層重要です。でも、これは西粟倉村(注2)が2008年から2018年の10年間で進めていた仕事と中井さんが入られてから進めた仕事と両方とも進めねばなりません。とても大変な仕事になるでしょうね。

中井  大変だと思います。でも今のうちにやらないと益々大変になっていきますので、その地元の人々とも協力してやっていきたいと思います。

小柳  これは限りなく難しい仕事だと思いますが、日本にとっては、今、解決すべき最大の課題のひとつだと思います。

椎野  この仕事は、白紙の自治体に入口を教えて「入口に入ったら、あとは自分でやりなさい」と言っても、うまく進まないでしょう。長期にわたる指導が必要になると思います。改革を始めたら「各地に残って指導する指導者」を育てて各地に遺していく必要があります。人材育成と地域への定着が大事業になります。これが動き出すことは、日本国の産業革命が動き出すという事です。この支援で、指導することになる中心人物は町村長などの首長ですか。自治体の林業・山村振興の担当部署の専門家ですか。民間の林家、森林組合、育林・伐採・製材・プレカット等の事業体および民間人ですか。

中井  ポジションは関係ないと思っておりますが、この大きな問題を深刻にとらえて動ける人だと思います。西粟倉では住民が減少し、このままでは地域そのものがなくなるという危機の中、現村長、行政担当者、地元の民間にそのような方がおられました。移住者はそのような現地で頑張っている人々に紐づいて一緒に頑張れます。

小柳  それぞれの立場が、それぞれの強みを活かし連携することが大事であることは、森林パートナーズの事業を通して私も強く感じます。そしてこれを持続的にするには、やはり消費者、国民にしっかり共感してもらう取り組みをする必要がありますね。

椎野  今、一番、動いてもらいたいのは、どんな人達ですか。

中井  地元にある課題、要望を周りにしっかりと発信できる人たちがそれぞれの地域に増えてほしいと思います。そのうえで地域外からのスタートアップ支援や官民連携の動きが起こればいいと思います。

椎野  そのような人達に、このブログを読んでもらえるように、相談してみます。

小柳  われわれ、林業・山村の振興をめざしている仲間たちで、協力して応援します。頑張ってください。

 

☆まとめ

700名を超える所有者の森林を受託管理し施業集約化を行っている西粟倉村の「百年の森林(もり)構想」。この構想の成立には並々ならぬ努力と技術力、関係者の連携がありました。この度の討論の中で学ぶべきことは、以下でした。

(1)自らが持つ課題を具体的に内外に発信し、その情報を受信したスタートアップ企業が技術を地域に導入する連携。

(2)情報発信や移住者の受け入れを行政が上手にサポートする連携。

(3)移住者を地元の方々が受け入れ、一緒に産業として成立させる連携。

(4)この連携の連鎖と、構築したノウハウとシステムの開示。

要点は、この諸点でしょう。また、森林所有者や敷地境界の特定が困難であり、施業集約が出来ないことは日本全国の課題です。林業再生のために、これを早急に解決しなければなりません。このノウハウを盛り込んだシステムを、各地に導入し、模倣し、その地域に合わせた仕組みに昇華し、そこの住民(移住者も含む)で持続的に運営できるようにしていく必要があります。

脱炭素が最重要視される現代、仕組みを自分の利益のために抱え込むのではなく、百森のようにオープンにする姿勢は見習うべきです。また同様の仕組みの横連携を柔軟にすることで、ノウハウの普及を更に加速して行くことが極めて重要です。

我が国日本の唯一最大の資源である木材を今こそ全国民で見直し、木材流通の川上である山元では西粟倉村「百年の森林(もり)構想」、百森を見習ってもらいたいと強く要望します。

そのうえで木材流通出口の木材需要情報を山元へと結び、連携産業とし(六次産業化)、消費者の共感を拡大してマーケットを創ることで、持続的にしていく必要があります。

でも、これを日本の産業改革として進めて行くには、木材需要創出側の大整理が必要です。木材需要を正確に発信させ、それを山元へ伝達することを目指す、夥しく多量なスタートアップの出現が求められます。すなわち、家づくり(工務店など)と、それをまとめる集団(木造住宅協会など)の強力な統合と改革が、今こそ必要になりますが、これをまとめる統合リーダーが、一層、重要です。上流の統合リーダーの百森の中井さんと同様な先導者が、下流の家づくりでも、必要なのです。

同時に、中井さんの活動を全面的に理解し、最大限の支援をしてきた、西粟倉村の人達のような支援者が、ここでも凄く必要になります。今、その重要性に気がつき動きだしている人たちがいますが、その人達を官民共同で、国民の総力もあげて、支援していかねばなりません。

そして、このような社会を作り出していきたいと念じて、設立されたのが森林パートナーズでした。その森林バートナーズの小柳雄平さんが、上流の改革の先導者、井川さんから、改革の貴重なノウハウの伝授を受けたこの討論は、限りなく貴重なものでした。日本の林業・山村サプライチェーン構築へ向けて、これは大きな一歩となりました。

さらに、サプライチェーン上流で、これを支援し、改革を進める姿を見せてくれた、西粟倉村に学んで、下流の家づくりに関連する市町村や木造住宅づくりの企業の団体、工務店などが、一層、積極的な改革の風に乗ってくれることを、今、私は熱望しています。(まとめは、小柳雄平が執筆、椎野潤が加筆修正統括)

 

(注1)森林パートナーズ:森林の維持・再生を掲げて伊佐裕が設立。設立2017年。

(注2)西粟倉村ホームページ。西粟倉村役場 (vill.nishiawakura.okayama.jp)。

(注3)百森2.0:森林資源のみならず自然資本を総合活用し、それぞれに関わる事業を連携させ社会資本を充実させ、持続可能な森林環境を実現し「上質な田舎」を目指す西粟倉村の新たな目標。

(注4)西粟倉百年の森林協同組合:最先端の持続的林業を目指す西粟倉村のチーム森林組合。

(注5)百年の森構想:西粟倉村が2008年に設定した構想。明確なビジョンを設定し、それを地域内外へ発信し、林業の六次産業化など、構想を具現化する活動方針を示す。その構想への共感が高まり、林業関連のベンチャー事業の起業が活性化し移住も増加した。

(注6)IoT(Internet of Things):モノのインターネット:あらゆる「モノ」がインターネットで接続され、情報交換により相互に制御する仕組み。

(注7)セスナ:セスナ・エアクラフト・カンパニー(以下セスナ社と略称する)が製造している 軽飛行機。代表的機種、セスナ スカイホーク(Cessna Skyhawk):4座席、単発プロペラ推進、高翼式の軽飛行機。1995年に初飛行し翌1956年に引き渡しが始まった。 近年、森林撮影に使用されるドローンは、無人飛行機だが、これは有人飛行機。

(注8)ゾーニング:森林所有者管理において、類似した性格の空間をまとめて計画していく行為。

(注9)タスク (プロジェクト管理):作業の目標に向けて、その期限までに達成する必要がある活動のこと。

 

参考資料

(1)椎野潤(続)ブログ(294)林業再生・山村振興ブログ 林業・山村スタートアップの先導者たち(その2)株式会社百森 2021年3月5日。

(2)中井照大朗、田畑直著:森林管理専門会社「株式会社百森」。地方自治体、森林組合向けコンサルティング事業を開始、2020年4月10日。

(3)椎野潤ブログ[山村振興] ギグワーカーの山村振興への導入を考える 過疎の村 岡山県粟倉村の改革を参考に、2020年6月26日。

(4)椎野潤ブログ(223)過疎の村に30社のベンチャー起業が集結 IoTで木の管理を実施、  2018年8月5日。

 

[付記]2021年4月16日

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