次世代水素社会へ向けて 燃料電池車のインフラ整備前進 

林業再生・山村振興への一言(再開)

 

2021年4月(№92)

 

□ 椎野潤(続)ブログ(303改) 次世代水素社会へ向けて 燃料電池車のインフラ整備前進  2021年4月6日

 

☆前書き

日本は、今、次世代に向けた産業・社会の改革で、大きく立ち遅れました。こんな中で、水素社会への改革では基本戦略の発信は、世界で最初でした。その後の規制緩和も、積極的に進みました。そのお蔭で、民間業者の水素ステーション(注1)の設置には、広がりが出てきたのです。これは、次世代に向けた進化において、苦境の底にある日本にとって、希望の灯です。今日は、これを取り上げます。2021年2月17日の日本経済新聞は、このことについて、以下のように書いていました。

 

☆引用

「脱炭素の切り札とされる燃料電池車(注1)のインフラ整備が、規制緩和で進み始めた。

石油元売り最大手のENEOSホールディングスは、これまで難しかった市街地の給油所で燃料電池車(FCV)向け水素充填サービスを展開する。国内水素販売トップの岩谷産業は、簡易型水素ステーション(注2)の建設を推進。欧州や中国が水素への取り組みを強化する中、日本は規制の見直しをテコに水素インフラ整備を急ぐ。」(参考資料1から引用)

 

☆解説

日本は4年前の2017年に、国の政策としては、世界初の水素基本戦略を策定しました。しかし、水素ステーションは、ガス保安や立地安全を巡る規定が厳しく、その設置は、コストや技術面で、難易度が高かったのです。しかし、ここへきて規制緩和の積極的な検討が進み、民間業者の水素ステーションの設置に広がりが出てきたのです。

日本の石油元売り最大手のENEOSホールディングスは、給油所内への水素ステーションの設置を進めています。まず、2022年の春から、神奈川県と愛知県の給油所2カ所で始めます。日本国内で、給油所内に水素ステーションが設置されるのは、これが初めてです。ENEOSブランドの給油所は、全国に1万3000カ所あります。これを考えますと、この水素充填事業は、新ビジネスとしても、大きな期待がかかるのです。

この規制緩和では、高圧ガス保安規定の省令も改正し、水素ステーションの無人営業も可能にしました。機器の材料、立地や運営面など、これまでに見直された規制は数十項目に及びます。政府は2021年度予算案に110億円を計上し、資金面でも民間の取り組みを支援しています。

岩谷産業も全国で、水素ステーションの整備を進めています。コストを抑えられる簡易型の水素ステーションを、現在、6カ所建設中です。

 

☆まとめ

日本は次世代に向けた産業・社会の改革において、今、世界の中で、大きく立ち遅れています。しかし、この水素基本戦略は、近年の日本の国家戦略の中では、発表当時世界で先行していました。国家戦略を策定した2017年には、その時点では、世界で最初だったのです。その後、4年が経過していますが、その間、規制緩和を思い切って実施してきました。そのお蔭で、今日の時点で国と民間企業が、全力投球で発進すれば、世界の先端との競争で勝てる見込みは大きいのです。ここは、なんとしても、勝たねばなりません。大苦戦の中で、必勝の玉を、一つは持たねば厳しいのです。

水素社会へ向けた脱皮では、自治体も、頑張り始めています。東京都中心に、全国で100台の燃料電池バスの普及が、今、見込まれています。ただし、水素供給のインフラ不足が課題になっています。札幌市では2030年までに、3000台の燃料電池車(FCV、注1)の導入を掲げていますが、現在、水素ステーション(注2)は、移動式の1台しかないのです。

政府は、2030年までに、燃料電池車(FCV、注1)80万台、水素ステーション9000箇所を目標に掲げています。これは3万店あるガソリンスタンドの3%にあたります。しかし、私は、世界の先陣争いに勝つためには、この目標では不十分だと感じています。

ですから、その実現に向けては、もっと相当に頑張らねば駄目なのです。

すなわち、ここでは、本日の出発時点でのスタート速度が何より重要です。「何年先までに」などと言わずに、今年度中に、どれだけの数の水素ステーションを作るか。その実数をただちに決めて、一刻も早く建設に入らねばなりません。

このように、リスクを積極的に受容して未来にかける改革をスタートさせるには、途中で「軌道に乗るまでの間に、相当な事業赤字の期間(これを「デスバレー(死の谷、注3)」と呼ぶ)が、必ず待ち受けています。ですから、これを乗り越える対策を、周到に考えて置かねばなりません。

前回のブログで、京都大学が、同大学発のスタートアップ達のために準備していた資金支援策等が、ここでは絶対に必要になります。

すなわち、次世代に向けた大改革へ、世界の先端と全力で闘って打ち勝っていくには、出発点の今、このブログの表題に書いた「前進」では駄目なのです。「スタートのピストルの号砲が鳴った」でなければ駄目なのです。

また、技術面でも、世界で先頭をきるものを積極的に増やさねばなりません。前回ブログで取り上げた「ディープテック(注4)」が重要です。次世代で水素社会として先頭に立つには、多くのディープテックの取り組みが必要になるでしょう(参考資料2、注4参照)。水素社会へ道を先頭で走ることを目指し、その産業・社会に、大きな影響を与える科学面での重要で深い発見や、超革新的な技術の研磨に、力をこめて励まねばなりません。

 

(注1)燃料電池車=燃料電池自動車(FCV: Fuel Cell Vehicle):搭載した燃料電池で発電し、電動機 の動力で走る電気自動車を指す。バッテリーに蓄電する電気自動車と異なり、燃料の補給が必要である。

(注2)水素ステーション:燃料電池車(FCV)で燃料となる水素を補給する設備。水素ステーションは水素を車両に供給するためのノズルを備えたディスペンサー、水素を蓄えておく水素タンク水素を適切な圧力に高めておく圧縮機などで構成されている。ディスペンサー(dispenser):自動販売機。

(注3)デスバレー(死の谷):ベンチャー起業が、製品開発を進めながら、事業化する段階で、資金が不足して成り立たなくなること。

(注4)ディープテック:科学的な発見や革新的な技術に基づいて、世界に大きな影響を与える問題を解決する取り組みのこと。産業・社会に大きな影響を与える科学面での重要で深い発見や、最先端革新技術の総称。

 

参考資料

(1)日本経済新聞、2021年2月17日。

(2)椎野潤(続)ブログ(302改) 京都大学発スタートアップ 脱炭素の潮流の中で頭角 「ディープテック」深い研究に裏打ちされた化学系立ち上がり、2021年4月2日。

 

[付記]2021年4月6日。

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