京都大学発スタートアップ 脱炭素の潮流の中で頭角 「ディープテック」深い研究に裏打ちされた化学系立ち上がり

□ 椎野潤(続)ブログ(302改) 京都大学発スタートアップ 脱炭素の潮流の中で頭角 「ディープテック」深い研究に裏打ちされた化学系立ち上がり   2021年4月2日

 

☆前書き

2019年7月11日の日本経済新聞(参考資料1)は、「大学発スタートアップ 京大、増加数で東大を超す」と大きな見出しで書いていました。2017〜18年度の増加数は、2年連続で東京大学を上回り、国内大学で首位になったのです。コロナ下の2020年も絶好調です。

今、読んでいる日本経済新聞の2021年3月8日の朝刊は、京都大学特有の、深い技術「デープテック(注1)」に根差す開発を、具体的に紹介しています。今日は、これを引用・参照して、ブログを書きます。

 

☆引用

「京都大学発のスタートアップが脱炭素の世界的な潮流の中で存在感を増している。『ディープテック(注1)』と呼ばれる深い研究に裏打ちされた技術を持つ化学系の企業が立ち上がり、電気自動車(EV)向け半導体や次世代太陽電池関連で大企業との連携も始まった。研究開発型は資金調達が課題とされていたなか、大学の支援が後押しする循環が生まれつつある。」(参考資料1から引用)

 

☆解説

[.電気自動車(EV)向け素材開発]

電気自動車(EV)向けの画期的な素材開発が、立ち上がってきました。日本電産の永守重信会長は「世界を変えるかもしれない」と高い評価をしています。それは、断熱材開発のティエムファクトリー(東京・港)が開発した新素材です。これは京大の中西和樹特定教授(名古屋大学教授)が研究してきた「エアロゲル」を基にして開発した断熱材で、グラスウールの3倍の断熱性能を持つ透明な素材「SUFA(スーファ)」です。

これは電気の効率利用の観点から、電気自動車(EV)の窓には、絶対に必要なものです。これまでに累計14億円を調達して、2020年には、茨城県に研究開発拠点を設けました。拠点増設へ新たに10億円の調達を計画し、今、自動車メーカーと折衝しています。

 

[.再生可能エネルギー 画期的な次世代太陽電池]

エネコートテクノロジーズ(京都市)が開発中の超薄型次世代太陽電池「ペロベスカイト(PSC)」も、凄く画期的です。次世代太陽電池PSCは、軽くて曲げることができ、低い照度でも効率良く発電することが出来ます。これは電卓に使うアモルファスシリコン太陽電池の2倍以上の電力を生みます。また、厚みは1マイクロ(マイクロは100万分の1)メートルと、太陽光パネルに使う「結晶シリコン型」の実に、150分の1なのです。これは太陽光発電の関係者ばかりでなく、時計やウエラブル端末の関係者が凄く注目しています。

 

[.電力の損失が8割も少ない 酸化カリウム半導体]

半導体についても、驚くべき開発が進んでいます。これは、京大工学部出身の人羅俊実社長が率いる半導体スタートアップ、フロスフィア(京都市)が開発した画期的な酸化ガリューム半導体です。シリコン製の半導体に比べ、電力の損失が、実に8割も減少するのです。

これは原料溶液を霧状にして基盤の上に吹きつけて、化学反応で酸化ガリュームの結晶を作るのです。工学部出身の人羅社長ならではの発想です。2021年秋、20億円を投じたマザー工場が、京都市に完成します。いよいよ、製品が市場に出ます。関係者は大いに注目しています。

 

[.水素社会を迎え 水素を運ぶインフラ 超軽量ボンベ]

アトミス(京都市)は、気体をコンパクトに運ぶ立方体のボンベ「cubiTan(キュービタン)」を開発しました。まず、プロパンガスのボンベの代替えを狙います。現行のボンベは60キログラムなのに対して、キュービタンは13キログラムです。同じ量のガスが入ります。水素を入れるタイプを開発し、「再生可能エネルギーで生成した水素を運ぶ中核インフラにする」と浅利大介社長は意気込んでいます。(参考資料2、日本経済新聞、2021年3月3日、藤野逸郎、村上由樹を参照して記述)

 

☆まとめ

京都大学の特徴の一つは、研究者3000人のうち、400人が化学系が占めている点です。吉野彰旭化成名誉フェラーらノーベル化学賞を3人輩出し、これがライフサイエンス系と並ぶ京都大学の顔なのです。

もっとも化学系の起業には壁があります。製造も伴うディープテック(注1)では、商品化までの赤字の苦しい期間「ディスバレー(死の谷)」が長くなるからです。一方で投資期間は10年が一般的です。すなわち、時間軸が合いにくいのです。

そこで京都大学では、独自の支援体制を充実させてきました。京大傘下のベンチャーキャピタル(VC、注2)「京都ICAP」の1号ファンドの運用期間は、最長20年でした。また、京大はこれは別に、事業化を意識した支援策として、最長3年間、年3000万円まで助成するブログラムを用意しています。京都大学の時任宣博副学長は「0から1を生み出す研究が京大の魅力だ」と述べています。(参考資料2、日本経済新聞、2021年3月3日、藤野逸郎、村上由樹を参照して記述)

 

(注1)ディープテック:科学的な発見や革新的な技術に基づいて、世界に大きな影響を与える問題を解決する取り組みのこと。産業・社会に大きな影響を与える科学面での重要で深い発見や、最先端革新技術の総称。

(注2)ベンチャーキャピタル(venture capital、VC):ハイリターンを狙ったアグレッシブな投資を行う投資会社(投資ファンド)のこと。主に高い成長率を有する未上場企業に対して投資を行い、資金を投下する。

 

参考資料

(1)日本経済新聞、2019年7月11日。

(2)日本経済新聞、2021年3月8日。

 

[付記]2021年4月2日。

 

[コメント](4月のブログ、次世代に向けた産業改革へ「林業・山村研究」を一歩近づける出発へ)

私の「林業・山村ブログ」では、2021年4月は一つの節目だと感じています。今、いよいよ、林業・山村のスタートアップの若者と一緒に、「次世代林業・山村」を考える活動を、開始したいと考えているからです。

今、百森の中井照太朗さんとネット討論を開始しました(4月16発信予定)。中井さんは、私が林業関係のスタートアップの中で、一番期待している人です。私が、中井さんと本当に議論したいのは、次世代林業・山村の未来についての、一番深いところにある肝(きも)です。一度に、そんな深いところに到達するのは無理だと思いますが、まず、扉を開きたいのです。そこでメインテーマに「ディープテック(注1)」を選びました。

現在、2021年4月〜5月のブログとして、「ディープテック」に関連する幾つかのブログを執筆中です。

(1)日本の伝統的工芸品産業でのディープテック技術を使った画期的な商品開発(4月9日発信)。

(2)食品産業の生産性向上を実現したキューピーのディープテック活用のロボット開発(4月13日発信)。

(3)地図大手ゼンリンの「地図卸し」からの脱却(5月発信予定)。ゼンリンは、地図の卸しから地図小売りへ転身します。でも、その小売り転身先に、林業は含まれないようなのです。私は、林業も対象にしてもらうには、どうしたら良いかを考えています。これを中井さんに、一緒に考えてもらいたいと思っているのです。中井さんとのネット討論は、次世代産業・社会へ向けた、私のブログ執筆において、重要な出発点になると考えています。

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