進化する工芸品 木の繊維で京焼・清水焼 使って際立つ「用の美(注1)」を追求した芸術品  先端技術に活路 

林業再生・山村振興への一言(再開)

 

2021年4月(№93)

 

□ 椎野潤(続)ブログ(304) 進化する工芸品 木の繊維で京焼・清水焼 使って際立つ「用の美(注1)」を追求した芸術品

先端技術に活路    2021年4月9日

 

☆前書き

前々回、前回のブログでは、次世代に向けた先端技術におけるデープテック(注1)について述べましたが、古くから伝承されている伝統的工芸品においても、ディープテックの取り組みが存在するのです。今日は、これを取り上げます。2021年3月8日の日本経済新聞は、以下のように書いています。

 

☆引用

「伝統的工芸品を巡る環境が厳しさを増している。新型コロナウイルスの感染拡大で、訪日外国人の需要が蒸発。後継者不足や価格競争力の低下も追い打ちをかける。苦境を打破しようと新素材を活用したり、海外に活路を求める動きが本格化。電子商取引(EC、注2)の利用が広がる。使って際立つ「用の美(注3)」を追求した工芸品が、伝統を絶やさない原動力になりつつある。」(参考資料1から引用)

 

☆解説

薄暗い空気の中で、ほんのりと光るグイ飲みは、妖しい光を放ちます。光にかざすと、注いだお酒が透けて見える不思議な器です。手にとると、和紙のようなざらりとした手触りです。この「ゆうはり」は粘土を使わず、木の繊維が原料の新素材「セルロースナノファイバー(CNF、注3)と釉薬(ゆうやく)だけで焼いた、全く新しい京焼・清水焼として誕生しました。

CNFは、直径3〜数十ナノ(ナノは10億分の1)メートルの繊維状の物質です。鉄鋼の5分の1の軽さで、5倍以上の強度を持ちます。自動車の車体や建材への応用が期待されていますが、伝統的工芸品への活用は珍しいのです。

「ゆうはり」は、京焼・清水焼の窯元、陶葊(とうあん)が、京都市産業技術研究所と共同で開発したものです。同窯元の4代目当主、土渕善亜貴さんは、「釉薬のガラス成分である長石とCNFとの相性が絶妙だった」と言っておられます。これは凄い着眼点でした。

この挑戦を支えたのは、熟練した職人たちの腕でした。CNFを使った焼き物は、焼成の際の繊細な温度管理が不可欠なのです。温度が低いと材料が溶けず強度が出ません。さらに平板なツルリとした感触になってしまいます。一方、温度が高すぎると、形が崩れてしまいます。ここでは、長い歴史の中で培われてきた職人の技が命なのです。

陶葊(とうあん)は、1922年創業の老舗です。これまで代が変わる度に、時代に合った製品を開発してきました。鬼瓦、土鍋、高級和食器と主力製品を柔軟に変えてきたのです。

京焼・清水焼は、焼成後に絵付けを施す上絵付け技法で、お花など雅び(みやび)な絵柄が特徴です。

でも、近年は、安価なプラスチック製品などに、押されがちでした。また、2008年にはリーマンショック、2011年には東日本大震災が発生し、需要の急減を体験しました。そのため土渕善亜貴さんは、伝統に固執せず、時代に合った新商品を常に考えてきたのです。

また、「ゆうはり」の開発では、高級品と思われがちな京焼・清水焼を、気軽に普段使いできる食器にしたいと言う強い想いが、籠もっていました。さらに今後は、光を通す特性を生かして、ランプシェードを商品化したい等、未来に向けた開発の夢は、果てしなく広がっているのです。」(参考資料1、日本経済新聞、2021年3月8日、日本経済新聞を、参照・引用して記述)

 

☆まとめ

伝統的工芸品の生産額は、ライフスタイルの変化などの影響で、1983年度の5410億円をピークに、2017年度には927億円にまで、落ち込みました。従業員数も、1979年度の29万人から、5万8千人にまで減るなど、経営環境は、きわめて厳しいのです。

このような、きわめて厳しい状況下でも、販路の多様化は打開策として有効です。手作り手芸品を、個人が売買できるサイトを運営しているクリーマは、伝統的工芸品の拡販を支援しています。同社のサイト「creema」では、創作活動に取り組む全国のクリエーター(注5)と消費者が、ネット経由で直接オリジナル作品を売買できるのです。約21万人いるクリエーターが、1千万点以上の作品を出品しています。2020年の工芸品の販売点数は、2019年比2倍以上になりました。コロナ危機のもとでも、好調なのです。

クリーマ社の丸森耕太郎社長は、「伝統工芸文化を継承し育てていくには、クリエータが評価される場が必要だ」「技術は光っているのに、正当に評価されていない例が多い」と強調しています。

でも「creema」を訪れるユーザーは、月間2000万〜3000万人もいるのです。このパワーを活用し新たな経済圏を確立すれば、クリエーターが好きなことをして生活できる環境は、整うはずだと私は思っています。

伝統的工芸品産業のような、古くからの歴史のもとにある産業でも、デープテック(参考資料2、注1)の取り組みで生みだされる新素材・新技術を用いて、新しい視点に基づく開発を進めていけば、大きな需要の開拓が可能なのです。「林業再生・山村振興」のような世界においても、これは全く同じだと、私は考えています。(参考資料1、日本経済新聞、2021年3月8日、日本経済新聞を、参照・引用して記述)

 

(注1)ディープテック:科学的な発見や革新的な技術に基づいて、世界に大きな影響を与える問題を解決する取り組みのこと。産業・社会に大きな影響を与える科学面での重要で深い発見や、最先端革新技術の総称。

(注2)電子商取引(EC: electronic commerce):コンピュータネットワーク上での電子的な情報通信によって商品やサービスを売買すること。

(注3)用の美:1926年(大正15年)にはじまった「民芸運動」で生まれた言葉。日本各地の焼き物、染織、漆器、木竹工などの日用雑器、江戸時代の遊行僧・木喰(もくじき)の仏像など、それまでの美術史が正当に評価してこなかった、無名の職人による誠実な手仕事による民衆的美術工芸を「民藝」と名づけ、世に紹介することに尽力した思想家の柳宗悦(やなぎむねよし)の提唱により生まれた概念。

(注4)セルロースナノファイバー(CNF):セルロース分子鎖が伸びきり鎖の状態で結晶を形成している繊維。木材は、その半分がCNF。パルプは、そのすべてがセルロースナノファイバーの集合体であり、一本のパルプ繊維に数百万本のCNFが含まれている。

(注5)クリエーター:作家、著作者、作る人、創作活動をする人。

 

参考資料

(1)日本経済新聞、2021年3月8日。

(2)椎野潤(続)ブログ(302) 京都大学発スタートアップ 脱炭素の潮流の中で頭角 「ディープテック」深い研究に裏打ちされた化学系立ち上がり、2021年4月2日。

 

[付記]2021年4月9日。

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