森林組合の行方―林業サプライチェーンの実現に向けて①迷い込んだ森林と集約化の価値

□ 椎野潤ブログ(塩地研究会第32回) 森林組合の行方―林業サプライチェーンの実現に向けて①迷い込んだ森林と集約化の価値
皆さんは「椎野塾」をご存じでしょうか。椎野ブログの始祖にして、サプライチェーンの権威である椎野潤先生が主催する勉強会です。私は、林業、森林組合関係者として初にして唯一の門下生として、林業サプライチェーンの実現に向け力を注いできました。結果として、思うような仕組みづくりに至らず、道半ば惰眠を貪るばかりでしたが、ブログ寄稿の声がかかり、目をこすりながら体を起こしたしだいです。
テーマのリクエストは「森林組合はどうある(なる)べきか」。どうも悲観論や批判論を想像してしまい、現役の森林組合の職員には酷な注文だと感じましたが、林業サプライチェーンを念頭にした提案に導ければと思いなおし筆を執ることにしました。
連載は、自分のこれまでを振り返りながらの答え探しなる予定です。どうぞお付き合いください。そして、一回目の今回はかつて「現代林業」へ寄稿したエッセイをもとに、私の取組みの前半を紹介します。

現代林業2023年12月号 現場からの声~チャレンジする林業現場の課題を追って
「GISとの出会い、記憶と記録、地域での信頼をつなぐ」より

迷い込んだ森林
私の出身地は埼玉県の富士見市というところです。関東平野のど真ん中、森林とは全くかけ離れた環境で生まれ育ちました。社会人となってほどなく、バブル経済の恩恵とその破綻を経験しました。当時、勤務していた会社の仕事に空虚感が募り、ある日突然、「田舎に行って環境を変えよう」と思いつきます。実に短絡的でしたが、妻に相談すると簡単にОKとの返答。一年の準備期間を経て、現在の住まい長野県木島平村へ転居。生まれたばかりの長女の首が据わろうかという時でした。
さあ暮らしていかなくてなりません。しかし、準備不足がたたり、当初の皮算用のとおりにいかず、雪融け間もなく近隣のハローワークへ足を運びましたが、なかなかこれはという職は見つかりません。あきらめて帰ろうかと思いながら牽いた求人票にふと目をやると「山ノ内町森林組合」。森林組合?業務内容には、「きのこの販売と 山の手入れ」とあり、これまた?(はてな)でした。帰宅後に連絡をとりましたが、何かの行き違いで求人は出していないと断られたのです。しかし、断られたことで火がついてしまい、「絶対に森林組合に入ってやる」と電話攻撃を繰り返し、「とりあえず履歴書を持ってきて」という言葉を引き出しました。とうとう自ら森林に迷い込んでしまったのです。

とんでもない所に来てしまった
それから季節雇用技能職員としてめでたく採用となり、忘れもしない平成九年五月二七日、山仕事キャリアの初日です。お決まりの紹介のあと、「堀澤です、埼玉から来ました。よろしくお願いします」などとあいさつをしながら先輩諸氏の顔をみて度胆を抜かれました。職人の世界だからベテランが多いのは当たり前とはいえ、平均年齢が高いなんてものじゃなく、さながら老人クラブの様相。場違いのところに来てしまったと思いました。
それでも、仕事に慣れてくると、見聞きすることの新鮮さも手伝って、仕事はけっこう楽しいものでした。とくに晴れの日の休憩でお茶を飲みながら眼下の景色を見渡すのは最高でした。
しかし、先輩達といろいろな話をするようになり、とある疑問に悩まされるようになったのです。「こんなの何の役にもたたねえ」「山はダメだ」スギ苗の植林をしながら皆が呟きます。「何のためにこの仕事をしているのだろうか」?が頭の中をぐるぐる巡ります。さらに、理事者までも「林業は厳しい。どうにもならない。」という言葉。謙遜の言葉ではない。この人たちは何のためにこの仕事をしているのだろう、老人ばかりで将来性もない、森林組合とは何なんだろうか。
疲弊しきって、業としての目標、目的を完全に見失っているように感じました。
「とんでもない所に来てしまった」と自問をしている間に季節は巡り、とうとう林業と森林組合の正体が解らないうちに雇用契約が満了となりました。

いくつかの発見
二度目の春がやってきました。なぜか森林組合が気になって仕方がなく、他を探す気にはなりませんでした。事務所に電話をすると、来てもよいとのこと。
その年には伐木造材の特別教育を受けて、チェンソーを扱えるようになりました。伐倒ができるようになると山での作業はさらに楽しく感じるようになりました。しかし、なぜ林業と森林組合が存在するのかというは疑問のままでした。
そんなある日、切り株に腰をおろし休憩をしていると、眼下の林道を走るトラックが目に入りました。その荷台にはスギの丸太が満載です。「あの丸太はどうなるんですか」隣にいる先輩に尋ねると、「あれはM林業が伐ったものだろうな、長野の市場に行くんだろう」との答え。仕組みは分からないが、とにかく市場に運ぶということは、お金が動くということです。林業も経済活動として成り立つということを発見しました。
そして、四年目となる平成一二年、山ノ内町主体の事業で搬出間伐をするという話が持ち上がりました。本体作業はM林業がやるが、所有者の要望により境界確認をするので森林組合が手伝うとのことで、私もその業務に従事することになりました。
現地での立会が始まると、意外な光景を目の当たりにすることになりました。興味を失ったはずの山林のことなのに、みんな案外に真剣です。「様子が変わって分らなくなった」「カラマツの境木があったはず」「おめえさんの山はあっちだよ」いろいろな言葉を交わしながら、皆で山をさまよいました。いよいよ、境界線が形になると「みんなで探せば分るものだな」「良かった、これで安心できる」と満足げです。こんな経験は林業に従事してから初めてです。
みんな諦めていたわけでなく、きっかけを逸していただけだったのです。地域林業を動かす潜在的ニーズがそこにある。私のキャリアを決定づける大発見でした。

集約化が地域林業を変える
その後、立場は現場作業員のままでしたが、成り行きで現地の測量やとりまとめ、精算までをやることになり、何となく事業の仕組みも理解できました。受託事業の精算では、所有者に精算金が戻ることもわかったときは、自分の懐に入るわけではないのに何となく嬉しくなりました。集約化と境界確認、これをやれば地域林業はきっと良くなるし、自分のモチベーションも保てる。頑張って続けて行こうと思いました。
はたして、狙いは的中でした。事業説明で所有者宅を訪れると、「山には関心がない」という消極的な言葉も出るものの、境界確認には皆さんが関心を寄せてきます。価値の大小は別にしても、財産を次世代に引き継がなくてはいけないということが重荷になっているようです。集約化施業のことも関連付けて話をすれば理解を得られました。なかには「俺はいつ死ぬか分らない、なるべく早くやれ」などと迫ってくる方もいました。
零細林ばかりのこの地域では、森林組合としても境界明確化と集約化施業は大きな財産になります。面的に効率のよい施業が進められることはもちろんですが、所有者のとの関係が密になる、管理の方法次第で顧客情報として長期的に活用できるなどのメリットがあります。集約化が地域林業を変えられるのです。
次回はGISとの出会いと、その効果について書きます。

☆まとめ 「塾頭の一言」 本郷浩二

集約化施業の推進のご努力を続けてくださり、たいへんお疲れ様です。
残念ながら、約40年間、伐れる木がなく育てるしかなかったことから、人工林の林業が儲からなくなっていました。森林所有者の所有森林への関心・施業意欲が落ち込んでいる状況において、森林所有者の協同組合である森林組合がやらなければならないことは、森林所有者がやらなくなった間伐を中心とした施業を自らが引き受けていくこと。そして、その中で、森林組合としての利益を上げるためには、間伐材の販売を活性化することが不可欠だ、と私は思っていました。補助金があっても100%補助されることはなく、色々やりようはありますが、一般的には2~3割は自己負担が生じるのですから、その分を間伐材の販売で賄うことができないと間伐は進みません。
施業地をまとめて間伐を実施することにより、林道・作業道を整備しつつ機械化した作業を行って、寸法ごとに一定程度以上の材の量を搬出することができるようになり、売る上でのメリットを求めていくことが大事なのです。売ることで、お話のように初めて林業としての補助金ではない収入を考えられることになります。高価・高品質な材ではなく、間伐材のような一般的な木材の需要については、製材工場等からも一定の量が求められますので、需要に応じた量を安定的に売ることで通常以上の価格で売ろうという林業の形の実現を図ってきました。売るための努力をすることが林業活動の活性化をもたらすはずだと思っていました。
間伐で収入が上がらなければ所有者との間に費用負担の軋轢が生じますが、所有者に利益を還元できる事例が出るようになれば、山のことはもうほっといてくれと言っていた所有者(組合員)も再び関心を寄せるようになります。後継者のいない組合員にとっては自己の山の管理を誰かにお願いしたいという話も出てきます。自ずと組合員と森林組合の間の意思疎通も熱が入ってきます。事なかれ主義の森林組合の役員も、これまで赤字が出ないことだけを目標にしていたものが、組合員の意向を感じ取り、作業機械、作業道などの設備投資や技術者育成などの人材投資に目を向けるようになるとも考えていました。
堀澤様をはじめ関係者のご努力で、この政策については少なからず、そのような効果はあったと思っています。ありがとうございました。でもやっぱり課題は山積。

 

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