大都市東京の災害時に必要な応急仮設住宅

椎野潤ブログ(伊佐研究会第13回) 大都市東京の災害時に必要な応急仮設住宅

 

椎野ブログで一般社団法人日本モバイル建築協会代表理事の長坂先生が連載中の「恒久仕様の木造モバイル建築とは」は非常に大事な研究内容であります。規格化され工場生産されたユニットを搬送し、迅速に建設することができ、それを木造で恒久仕様とすることで建築物自体が応急住宅の社会的備蓄になるという大事な研究開発です。先生を訪問し、より具体的に内容をお聞きし、実物の木造モバイル建築を見させていただき感嘆いたしました。災害が多い我が国日本にとってこの大事な研究開発を人生の命題として取り組まれている先生に敬意を表します。

現在、応急仮設住宅をプレハブではなく半恒久仕様で木造建設することは東日本大震災以降増えてきております。当社伊佐ホームズは所在地である東京で災害が起き、木造応急仮設住宅の建設が必要となったときにその施工を先導する大役を仰せつかっております。その立場もあり、応急仮設住宅建設については、行政や同じ立場の地域工務店などと様々な課題を協議、検討して参りました。東日本の大震災では劣悪で無機質なプレハブ仮設住宅に長く住み、ただでさえ困難な被災生活のなかで、その住まいでも心がやすまらずむしろ心を病む方が多くいたと聞きます。逆に木造軸組みでつくられた仮設住宅では、本能的な感覚からでしょうか、その住まいに安心感を持ち、長く住み続けたいという被災者の声が多くあったとお聞きします。このことが評価され半恒久的な木造仮設住宅が注目されていますが、やはり応急仮設住宅に先ず求められる迅速な施工性、それに関わるストックの在り方のためにも長坂先生が研究されている木造モバイル建築は重要な要素になると確信いたします。

そのなかで当社伊佐ホームズの所在地である東京世田谷近郊では大都市ならではの課題が大きくのしかかってきます。災害時における被災者の膨大な数と、応急仮設住宅の建設地の確保の困難さが、この問題に係る大きな二つの課題です。内閣府の資料によると、首都直下地震が発生した時の東京都における応急仮設住宅想定必要戸数は567,050戸、応急借り上げ住宅供与戸数(可能な限り賃貸用空き家で対応した場合の戸数を合計したもの。実際には、既存の空き家が全て応急借り上げ住宅として活用できるわけではない。)は489,600戸、差し引きして応急仮設住宅必要戸数は77,450戸、その戸数の供給完了までの時間は8ヶ月(プレハブ建築協会会員⦅企画建築部会⦆企業によるブロック毎の応急建設住宅供給能力⦅6か月以内累計⦆を踏まえ推計。)です。ただしこれは括弧内の注記と共に、建設予定地に速やかに着工できるものを想定したものであり、資材ストックヤードからの運搬道路事情や施工する職人手配を考慮すると、想像を絶するような困難な状況が想定されます。世田谷区内に限定してでは、その必要戸数は約25,000戸に上るであろうという見解をお聞きしたことがあります。そのような中で応急仮設住宅建設予定地の設定はほとんど出来ていない状況です。近郊地への避難生活者数や、被災によるけが人、死亡者の数が想定されているか分かりませんが、医療施設の仮出張所やご遺体の安置場などのために学校、公園などを使わざるを得ない状況になるとすると、応急仮設住宅の建築予定地はさらに限定されます。世田谷区の空き家問題(人口約92万人、世帯数約50万世帯、空き家数5万戸)とも連携して、空き家の応急仮設住宅としてのリフォーム活用、また他エリアでの応急仮設住宅の設計内容とは異なる、少しの空地(各住戸の庭など)に施工できる小型ユニット住宅などの開発も必要になるはずです。このような状況下で半恒久的に活用できる応急仮設住宅を検討すると、搬入の課題などがあるにしても益々長坂先生の木造モバイル建築の重要度は増すと考えます。そして先生が唱えられる「森林資源とつながる恒久仕様の木造モバイル建築のオフサイト生産化とオープンなサプライチェーンの構築」を応援し、また協同していきたいと願うところです。森林パートナーズの「森林再生プラットフォーム」を深化、展開し木材データベースをモバイル建築、地域の、特に首都圏での災害時木材利用に繋げていけるように努めて参ります。

 

まとめ 「塾頭の一言」 酒井秀夫

日本モバイル建築協会代表理事の長坂先生が連載中の「恒久仕様の木造モバイル建築とは」に関して、災害時における被災者の膨大な数と、応急仮設住宅の建設地の確保の困難さなど、大都市ならではの課題に言及されています。世田谷区といっても、人口約92万人ですから、大都市と同じです。空き家の応急仮設住宅としてのリフォーム活用、各住戸の庭などに施工できる小型ユニット住宅などの開発も必要になるというアドバイスです。

本稿では長坂先生の木造モバイル建築の可能性は大きくて重要との指摘ですが、行政サイドにはここで今一度「動くみなし仮設住宅」の意義に気づいてほしいです。国難下では、施工する職人さん、工場内加工設備、ロジスティクスなどが連携しながらどこまで機能するかも不安です。山も林道が崩れていたりするかもしれません。中小工務店も交えて地域内での日頃のコミュニケーションも重要です。木造モバイル建築は、仕事に季節性のある林業にとって、山元の平時の労働力の平準化・安定化、木材需給の変動解消にも極めて有用な考え方です。日本の国土の7割を占める森林を活性化させていく上でも、長坂先生が唱えられる「森林資源とつながる恒久仕様の木造モバイル建築のオフサイト生産化とオープンなサプライチェーンの構築」と森林パートナーズの「森林再生プラットフォーム」による木材の持続可能なサプライチェーンの構築に向けた協同展開により、公民あげて国難級レベルの災害に備えていくことが一刻も早く望まれます。

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