恒久仕様の木造モバイル建築とは(その3) ~ 公民連携によるモバイル型応急住宅の社会的備蓄 ~

椎野潤ブログ(長坂研究会)  恒久仕様の木造モバイル建築とは(その3)

~ 公民連携によるモバイル型応急住宅の社会的備蓄 ~

 

一般社団法人日本モバイル建築協会 代表理事 長坂俊成

1.モバイル建築の大型パネル化と国産材を利用した地産地消化

国内で普及しつつある木造モバイル建築には主に輸入木材が使用されています。経済産業省によれば、国内の住宅建築等に使用される木材の約7割弱が輸入木材であり、近年、違法伐採された木材の輸出規制や、新型コロナウィルス感染症の影響によるウッドショック(価格高騰)、ロシアのウクライナ侵攻によるロシア産木材の輸入禁止措置などにより、木材製品の安定供給が脅かされています。このように、輸入木材に過度に依存する我が国のサプライチェーンは脆弱といえます。

そこで、当協会は木造モバイル建築の安定供給を目的として、会員企業や関係団体等と連携して、国産材を利用した恒久仕様の木造モバイル建築の開発に取り組んでいます。開発中のモバイル建築は「木造大型パネル」をスケルトン(構造躯体)のユニットとして使用します。この木造大型パネルは、工場内の加工設備を利用して、大工等の熟練工ではない作業者が、柱や梁、耐力面材等の構造材にサッシや断熱材、透湿防水シート、胴縁、接合金物等を安全かつ正確に一体加工しパネル化するものです。

パネルを構成する木材や資材は、住宅メーカーや工務店が一般に流通している資材から自由に選択し指定することができます。また、木造大型パネルは、大手ハウスメーカーの型式認定工法などのクローズドな独自建築工法ではなく、在来軸組工法又は木造枠組壁工法に対応するパネルの受託加工方式です。木造大型パネルの受託加工事業者は全国に増えつつあり、全国の中小工務店は木造大型パネルを採用することで、工期短縮、コスト削減、品質向上、職人不足問題の解消、木材の安定的な調達が可能となります。

木造大型パネルの受託加工事業者は、国内の林業関係者や、製材業者、プレカット事業者、工務店等と連携し、木材の安定供給が可能な持続可能なサプライチェーンの構築を推進しています。当協会は、この木造大型パネルの持続可能なサプライチェーンと連携して、国産材を利用した地産地消の木造モバイル建築の普及に取り組むため、「令和5年度安定的な木材確保体制整備事業」(国土交通省住宅局)に「大型パネルを活用した森と建築を繋ぐ循環型サプライチェーン網構築事業」として応募したところ、残念ながら不採択の通知がありました。不採択の理由は「独自工法である大型パネルの普及推進のための仕組みづくりは、募集要領Ⅱ採択要件2①「グループ等を構成する中小工務店が安定的に木材を確保できるための仕組みの構築」と認められない。」とのことでした。上記で説明した通り、大型パネルは「独自工法」ではなくオープンな受託加工の方式であり、また、モバイル建築も在来軸組工法や木造枠組壁工法(ツーバイフォー)など排他性の無いオープンな建築工法に基づき設計されています。審査は事実誤認に基づくものですので、現在公正な再審査をお願いしています。

 

2.動くみなし仮設住宅の活用と本設移行の制度化

前回のブログ(その2)でも紹介しましたが、木造モバイル建築は恒久仕様の本設の建築物です。構造躯体の耐久年数は100年、耐震等級3、高い断熱性能や太陽光発電等によりネット・ゼロ・エネルギー・ハウスを推奨仕様としています。複数のモバイル建築ユニットを連結・積層させることで、戸建住宅や集合住宅、店舗や事務所、福祉施設、宿泊施設等様々の用途に利用することができます。当協会では、南海トラフ地震や首都直下化型地震などの国難級の災害に備え、この恒久仕様のモバイル建築を応急仮設住宅として利用することを提案しています。災害時の応急住宅には、災害救助法上、賃貸型応急住宅(民間賃貸住宅を借上げて供与するもの)と建設型応急住宅(プレハブ仮設住宅など現地で建設するもの)があります。前者は恒久仕様の住宅を仮設住宅としてみなすため「みなし仮設住宅」と呼ばれています。恒久仕様の木造モバイル建築は上記の2つのタイプの中間的な性格を有し、当協会では「動くみなし仮設住宅」と呼んでいます。恒久仕様の木造モバイル建築は一般住宅と同等の住宅品質を有しており、さらに、仮設住宅として使用した後は、本設の復興公営住宅に転用することや、被災者に払い下げ自宅再建を支援することができます。供給スピードについても、プレハブ仮設住宅は大工等の技能職が被災地で施工するため、国難級の災害時には職人不足により工期がかかります。一方、モバイル建築は全国の大型パネルのサプライチェーンと連携して、国産材を利用して、非熟練工によるオフサイト生産により、完成した住宅ユニットを大量かつ短納期で供給することができます。プレハブ仮設住宅は災害救助法上、戸当たりの建設コストが571 万 4 千円以内と定められていますが、平成30年北海道胆振東部地震では寒冷地対応などプレハブ仮設住宅が戸当たり1,350万円(40平米)と高く、2年後に解体されほとんどが廃棄処分となりました。恒久仕様でZEH対応の木造モバイル建築は本設移行も考慮すると、被災者の健康と人権を守り、かつ、本設と同等の耐久性を有するため、高い経済性を有することは明らかです。

内閣府は首都直下地震や南海トラフ地震等の大規模災害では圧倒的に住宅が不足することや、応急住宅の生活が長期化することを想定し、被災者の住まいを迅速に確保するとともに、住宅再建・生活再建を円滑に進めるため、「大規模災害時における被災者の住まいの確保策に関する検討会」を設置し、検討結果を「論点整理」(平成29年8月29日)として公表しています。

この論点整理では、「東日本大震災では、応急建設住宅について入居後にも外断熱工事や風除室の追加、玄関スロープ・住戸内手すり等の設置、風呂の追い炊き機能の追加など、数多くの追加工事が必要となり、結果的に多くの時間と多額のコストがかかった。」と応急仮設住宅の課題が認識されていて、供給スピードと品質、コストの改善が求められています。オフサイト生産により恒久仕様のモバイル建築を迅速に供給することによって、これらの課題のかなりの部分が解決きると思われます。

また、論点整理では、仮設住宅での生活の長期化や、建設資材や技術者が不足し本設の住宅供給が遅れること、仮設住宅の建設用地と本設の復興公営住宅の建設用地との競合などを想定し、応急対策と復旧・復興対策を連続して一体的に実施することが提案されています。具体的には、当初から建築基準法の本設の建築基準に適合した住宅を応急建設住宅として供給することと、それに伴う増加コストの負担のあり方について検討すべきであると国に提案しています。これは、恒久仕様の木造モバイル建築を「動くみなし仮設住宅」として使用し、仮設住宅として利用した後、本設の復興住宅に移行するという当協会が提案している趣旨と同じです。本設移行に際しては、恒久仕様の木造モバイル建築は既に建築基準法に基づく構造安全性等の単体規定に適合していますが、用途や形態等の集団規定への適合について、復興まちづくりの計画を踏まえ、国や自治体と事前に協議しておく必要があります。

国難級の災害への備えを高めるためにも、森林資源とつながる恒久仕様の木造モバイル建築のオフサイト生産化とオープンなサプライチェーンの構築が急務と考えます。木造大型パネルや同パネルを利用した恒久仕様の木造モバイル建築について関係省庁や地方公共団体等に理解を深めていただけるように、広報活動に努めて参りたいと思います。

 

 まとめ 「塾頭の一言」 本郷浩二

以前の私は、国産材の地産地消は輸入木材からシェアを奪還するためにはナンセンスな話だと思っていました。需要は森林のない大都市圏や都市部(マチ)に集中し、供給は森林のある山がちの地域から起こるものですから、地産地消と言って需要が少ない所に向けて供給を考えても、膨大な山の資源にはその需要の恩恵が広く行き渡らないからです。しかし、マチの需要の相当部分を賄えるように全国で国産材供給の態勢が形成されてきて、輸入材と伍して確かな品質、安定供給能力、安心価格の供給ができるようになってきた今日、日本中の資源が必ずしも遠くのマチを相手にしなくても良くなってきました。運送の経費や燃料消費の二酸化炭素排出の問題を考えると、ある程度の広がりの地域でその地域の材を使うことがSDGs上のメリットとなって、地場の林業から建築や木工までの木材のサプライチェーンが競争力を持つことができると思っています。

「動くみなし仮設住宅」はとても世の中のためになるアイデアだと思います。実行段階における運用には手間がかかりそうな感じがして、行政はまずは嫌がるかもしれませんが、一度、仕組みを国や都道府県が整えれば、そのハードルは意外と簡単に乗り超えられるかもしれません。誰も文句を言えない考え方だと思いますから。ただし、今の日本を考えるとお金の面でのハードルはなかなか高いかもしれません。行政の負担を減らし、恒常的な財源を確保する方法論を考えてください。すべて、増税あるいは国債・地方債で財源を調達するというわけにはいかないと思わざるを得ません。国産材サプライチェーンについては、安心価格(再造林も含めて山元から建築まで不都合を生じない価格)で、安定した需要に応じて供給するという話であれば、山元はちゃんと対応するのではないかと思います。

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