□ 椎野潤ブログ(塩地研究会第七回) 在来木造と2×4(ツーバイフォー)の融合
文責:文月恵理
先日、千葉市内で2×4木造アパートの上棟が行われました。100平方メートルの2階建て、大きな窓の数からみて、10戸程度が入居する建物でしょう。このアパートの建設には、いくつもの革新的なトピックが絡んでいました。
一つには、柱のほぼ全てに、国産の杉材を利用していることです。2×4で使われる木材の多くはカナダや欧州から輸入されており、国産材は1割程度と言われています。輸入されるSPF(スプルース・パイン・ファー)の木肌は白いので、通常の2×4建築には、どこか模型のような繊細さが伺えます。今回は杉がほとんどなので、内部には赤みを帯びた、生気溢れる空間が広がっていました。ある人が、SPFは寡黙、杉はおしゃべりだと表現していて、私もなるほどと深く頷いたものです。日本の住宅建築では在来木造が8割、2×4は2割に留まっており、しかもSPFが極めて安い価格であったことから、国産材を扱う事業者はこれまで、頼まれても中々2×4用の製材を引き受けませんでした。2×4規格の長さに切ってしまえば、もう在来工法向けに販売することはできないからです。しかし最近、ウッドショックや円安、新興国の需要増から、メーカー側に割高でも国産材の調達を進めようという機運が高まってきました。国産材を扱う側にも、住宅着工戸数の減少を見据え、リスクを取ってでも、外材が占めていた市場に進出しようという意欲が見られるようになっています。杉は強度が低いとされるものの、SPFに比べて曲がりや歪みが少なく、扱い易いという利点があります。今後、国産材比率が高まっていくことは間違い無いでしょう。
もう一つは、日本では恐らく初の、サッシをつけた2×4パネルであること、そして更に、そのパネルが在来木造用の大型パネル工場で作られたということです。もともと2×4は枠組壁工法で、工場でパネルを作り、現場に運んで組み立てるのが普通です。しかし、面材を含む箱型にすることで精度や強度を保つという考え方から、一枚のパネルの状態では必ずしも剛性が高いとは言えず、重いサッシを取り付けて運ぶことはできなかったと聞きます。今回、在来木造のパネル化に挑んできたウッドステーションは、独自の技術でその課題を乗り越え、欧州で実現しているような、2×4パネルの完全な建築部品化を達成したと言えるでしょう。そして最も特筆すべきことは、そのパネルが巨大な工場でなく、わずか20メートル程度の在来木造用の組み立てラインで生産されたという事実ではないかと、私は思います。大工の知恵から生まれた簡単な器具をラインに追加するだけで、これまで厳然と別れ、交わることのなかった「在来」・「2×4」の境界を軽々と超えて見せた、これが今回の挑戦の最大の意義ではないでしょうか。
在来でも2×4でも、物流の2024年問題と言われるトラックドライバーの働き方改革で、一か所で大量に作り、遠くへ運ぶというビジネスモデルは終焉を迎えます。その後に来るものが、小規模・分散型の生産・流通システムだとすれば、その時こそ国産材の強みを生かせるチャンスでしょう。在来と2×4の両方に対応できれば、生産インフラは一か所で済み、両方の需要を取り込むことが可能です。山と暮らしを最短で結ぶスモールサプイライチェーンの実現、それを後押しする今回の成功を、関係者の皆様と共に喜びたいと思います。
☆まとめ 「塾頭の一言」 本郷浩二
ご報告くださいましたような新しい画期的な住宅の上棟が行われましたことをお慶び申し上げます。
国産材にとって、2×4は国内に唯一残されたフロンティアなのだと思っていました。一部の国内製材事業者の中で、スギの部材(スタッド材)の開発はかなり以前から取り組まれましたが、ご報告の通り、なかなかモノにならなかったのです。
結局は値段の問題に収斂するのだと思いますが、技術的には、若いスギ(間伐材しかなかった)を使う際の乾燥による部材の捻じれや曲がり、釘の支持力などが、SPFと言われるそこそこ年齢を重ねた米加材を使用材の標準としてきた建築工法に合わなかった、ということだったのではないでしょうか? スギを使うためには工法も進化させる必要があったので、部材生産側の努力だけでは困難で、部材利用側の努力も合わさってようやく一般化しつつあるのではないか、と思っています。今や、スギ材が軽いということがSPF材に比較する利点にあげられることもあるようです。
今までの物事を変えようとすることに消極的なのは、農林水産品を扱う人の特性なのか日本人の特性なのか、あるいは、単に半世紀近く縮小・停滞してきた産業故なのかは私にはわかりませんが、世の中の様々なことの変わるスピードが速くなっていることに対応して、変わる・変える努力を続けてくださる皆様に感謝と最大級の敬意を表したいと思います。