□ 椎野潤ブログ(伊佐研究会第七回) 地域木材流通デザイン・地域林業デザイン
樹木は種類によって容姿が全く異なり、適した生息地がそれぞれにあるのと同様で、木材は樹種によって性質が異なるため、適材適所でつかってこそその性質が活かされ、木材の用の美に繋がります。また同じ杉の木であっても品質の個体差があり材質が均一でなく、同じ1本からも根元に近い部分と枝が多い部分での品質差、丸太断面の中心部と外周部の強度差、加工の仕方によって発生する反りの向きの差異などがあり、製材、合板用、パルプ、バイオマス用など様々な用途に分けられ、それぞれが基本的には別の販路で流通されます。製材の需要があるから伐採したが製材に適した部分は売れたが、他のところは売れないのでは仕方がありません。林業の収益構造を改善するには、森林資源の総合的な活用が必要になり、特定の売り先との連携だけではなく、複数の需要情報と連携していく必要が有ります。
先日、森林産業コミュニティ・ネットワーク(FICoN)の第6回ウェブ検討会に参加しました。このウェブ検討会は「森林ニュービジネスの可能性を探る」と題しての会でした。内容は「樹木香り成分の特徴と利用の可能性」、「トドマツ枝葉の産業利用の現状とその可能性」、「地域の森林発の新素材「改質リグニン」のポテンシャル」、「木材チップからのパルプ製造とセルロースナノファイバーとしての利用」、「国産材需要、林業活性化、山村振興を目指した木から酒を造る新産業創出への取り組み」のご講演、ならびにそれを受けての総合討論で、具体的な内容に触れると長くなるのですが総じて付加価値の高い木材用途、社会的ニーズに即した利用技術という要素をもつ内容でした。聞きおよんでいた技術も益々進歩しており、どれも今後が楽しみです。これらのニュービジネスを視野に入れ、森林資源流通を地域循環型の産業として構築し、川上から川下までの一貫体制を構築するビジョンを地域内で共有し実装していくことが肝要です。
当社、森林パートナーズは地域工務店の構造材需要情報を地域林業家と共有し生産し、工務店が直接適正価格で購入し、また木材加工業も合わせ六次産業化する新しい木材流通モデルを構築し運営してきました。これからは協議会を形成し、構造材だけではなく、木質内装、木製家具、建具、合板、バイオマスなどに係る地域内の需要情報を集約し、地域内森林資源データと連携し、木材流通の将来像を関係者と共有し、そのビジョンを踏まえての総合的な課題解決をめざし、流通デザインをしていくことを先ずは埼玉県内を中心に計画する構想を立てております。これはもちろん地域行政、アカデミアとの産官学連携が必須になります。また合わせて地域林業のデザインも並行して行う必要があります。森林所有者の合意形成、現状の地域森林のデータ化と木材成長率による将来の森林状況の把握、地域森林ビジョン形成・ゾーニング計画、効率的伐採搬出、収益化、再造林、安定した素材生産業形成、森林サービス産業の創出、J-クレジット制度(注1)、・・・これらをやはり消費側を意識した需要を鑑み、施業シミュレーションをしながらビジネスという物差しで数値化してデザインしていかなければなりません。原価構成が掴みづらいことも影響し適正価格が不明瞭な林業、またブラックボックスだらけの木材流通を総合的に可視化、デザインして産業の地域循環、流通の一貫体制をつくり、それを拡大、横連携することで、我が国日本全体のバイオエコノミー(注2)、サーキュラーエコノミー(注3)の実現に繋げていきたいと思います。
(注1)J-クレジット制度:省エネルギー設備の導入や再生可能エネルギーの利用によるCO2等の排出削減量や、適切な森林管理によるCO2等の吸収量を「クレジット」として国が認証する制度
(注2)バイオエコノミー:バイオテクノロジーや再生可能な生物資源等を利活用し、持続的で、再生可能性のある循環型の経済社会を拡大させる概念。再生可能な生物資源とデータサイエンスを融合させた持続可能な経済のこと。
(注3)サーキュラーエコノミー:従来の3Rの取組に加え、資源投入量・消費量を抑えつつ、ストックを有効活用しながら、サービス化等を通じて付加価値を生み出す経済活動であり、資源・製品の価値の最大化、資源消費の最小化、廃棄物の発生抑止等を目指すもの
☆まとめ 「塾頭の一言」 酒井秀夫
樹木の香りには薬理作用があり、古来より人々はその効果を経験知としていました。上記FICoNのウェブ検討会によれば、日本の特産樹種であるスギのリグニンは他の樹種に比べて世界レベルで安定しているとのことでした。これは奇跡といえます。
森林パートナーズは地域工務店の構造材需要情報を地域林業家と共有し、工務店が直接適正価格で購入し、木材加工業も合わせ六次産業化する新しい木材流通モデルを運営してこられました。現在、森林や木材の多面的、多角的利用に向けて、地域内森林資源データと連携し、ビジネスとして流通デザインを構築していく計画にあるとのことです。
日本の森林は各地に均等に分布し、それぞれ地域の特色があります。樹木のセルロースやリグニン等のあらたなマテリアル利用による森林資源の総合的な活用によって、地域循環型の産業が各地で構築されれば、日本のバイオエコノミー社会が実現できると思います。