大学発ベンチャーによるスマート林業の社会実装

椎野潤ブログ(加藤研究会第六回) 大学発ベンチャーによるスマート林業の社会実装

 

 ☆はじめに

加藤研究会を母体にしてスマート林業の社会実装に取り組む大学発ベンチャーについて紹介します。精密林業計測株式会社は2017年に設立された信州大学認定の大学発ベンチャー企業です。森林計測・計画学(加藤)研究室では林業現場の作業効率の向上、DXの推進に貢献すべく森林資源の計測や解析に関する研究開発に長年取り組んでいます。当社は、大学で研究開発したスマート精密林業の知的財産技術を、関心を持つ企業、自治体、森林管理署、林業事業体(森林組合)に導入、国産材の林業が元気になること、地域貢献を目指しています。

 

☆大学発ベンチャーは技術の信頼性と安心感

大学の役割は、次世代の若者が入学して、勉強して、研究室に入り、現場のニーズと課題解決を目指した専門の研究開発に取組み、新しい技術が創造され、知財登録、産官学連携による社会実装を行うことによる地域貢献です。大学発ベンチャーは、大学の持つ知の集積と人材を生かし産業への技術移転、産学官連携で実社会への社会実装を目指しています。大学の研究室と産学官連携推進本部(URA)から支援を受けることで、技術の信頼性とお客様への安心感があります。信州大学URA室の詳細はこちらです。

 

☆スマート林業による情報提供

スマート林業に関する技術は多岐にわたっていますが、当社ではリモートセンシング(遠隔探査)、ICT、AIのデジタルデータを使用した森林情報の見える化と情報共有に関するサービスを扱っています。リモートセンシングの計測には広域の森林を対象とする人工衛星や航空機、ドローン、身近な森林を対象とするハンディ、モバイル(携帯)までさまざまなモノがあります。当社ではこれらの幅広いリモートセンシングのモノに対応しており、お客様のニーズに合わせて最適な計測と解析、森林情報を提案しています。2月17日打上げ中止で3月に打上げ延期されたJAXAの先進光学衛星(ALOS-3)の林業的利用について、森林資源調査や松枯れ被害木の抽出で信州大学と連携して実施してきました。地上分解能力0.8m、観測幅70km、レッドエッジなど植生抽出に有効な観測波長帯もあり、県レベルの森林情報の精度向上に期待しています。当社が特に注力しているドローン計測では、数cm程度の解像度の画像データや高密度な点群データを1フライト約10haの規模で取得できるため、立木位置、樹種、樹高、胸高直径、立木材積、傾斜、等高線といった林業では必須となる森林と地形情報(特許第6570039号、特許第7157434号)を立体的に提供することができます。令和5年度には普及型ドローンによる安価な情報提供サービスを開始する予定です。また、椎野塾の事務局の塩地さん、文月さんと連携し、付加価値の高い森林経営や構造用木材生産を目指している大手企業や森林所有者に対し、ドローンレーザと背負子(バックパック)のモバイルレーザ計測を併用して、森林を高精度に、立木の計測データから詳細な樹幹情報、建築や製材で必要な利用材積を推定し、供給予測情報を提供する「ドローンtoハウジング」に研究参画しています。

 

☆知財によるオリジナル技術で社会実装

当社では、大学で開発した知財技術を林業現場に使えるサービスを行っています。例えば立木位置の情報を活用した間伐木の自動選定(特願2018-215554)や、間伐前後のドローン計測による伐採木の自動抽出(特願2019-001419)による照査業務支援です。東北や高標高地の長野県で大規模な森林被害であるマツ枯れやクマ剥ぎ被害木の自動抽出(特許第6544582、特願2022-006647)、再造林や下刈り作業の工程の省力化に対応する植栽木の自動検出(特願2021-70641)を提供しています。

日本の森林の半分は広葉樹です。広葉樹は家具や工芸など多方面でニーズはありますが、現状はチップやバイオマスの低価値利用になっています。木材として利用できる広葉樹林は奥地や急斜面の尾根、笹薮で覆われて人手による調査困難地に多く存在しています。そこで、現地調査を実施せずにドローンレーザ計測から、独自のアイデアと分類法から三次元空間上に広葉樹の樹種分類と樹形把握する国際的にオリジナルな新技術(特願2021-105040)を開発しました。広葉樹資源の有効利用を目指す自治体や企業のみなさまと連携して、技術の社会実装に取り組んでいます。当社で扱っているサービスの詳細につきましては

当社ホームページをご覧ください。

 

☆これからの抱負など

現在、林業現場におけるスマート林業の普及はまだ十分であるとは言えませんが、以前よりスマート林業に関する技術は広く知られてきています。林業DXを通して現場の負担を軽減し、日本林業の活性化に貢献できるように、今後もスマート林業の普及展開と現場での有用性が高い技術の開発に産学官連携で取り組んで参ります。会社は、毎年1~2名のスマート林業の研究で鍛えられてきた大学院生が入社予定です。希望に燃える社員が社会や林業現場の課題解決に力を発揮できるように、日々学び進んで参ります。

今後ともご指導ご鞭撻のほどお願いしたく、何卒よろしくお願いいたします。

 

まとめ 「塾頭の一言」 本郷浩二

「ドローンtoハウジング」のアイデアは、プロセッサーを自動化することなどにより、この立木樹幹データを利用してコンピュータ制御で(個別の)住宅用の建材として販売するのに最適な採材をするような生産システムへ進化させることも可能になると思います。そこまではできなくても、人がプロセッサーを操作する場合に、生産結果のフィードバックによりデータに応じた最適な丸太生産に近づけることが可能になると思います。このデータの活用により操作する方の判断を磨くことも評価することもでき、価値の労働生産性(一人一日あたりの売上)の向上が図られるようになると思います。

単木でデータが管理できれば、根曲がりの大きな森林でも伐根の高さや一番玉の位置を想定して搬出材積を予測するとか、安全な伐採搬出作業に必要な木の重心の位置や伐倒方向を想定することも可能になるでしょう。土場作業だけでなく作業仕組み全体へのアシストにより安全性、信頼性、効率性を高めることができるかもしれません。このことは間伐、択伐の場合に、より効果を高めることができると思います。まさに精密林業です。

広葉樹林については、難しかった樹種の判別を克服し、樹幹の曲がり、枝の分岐などの樹幹情報を得ることができる技術の社会実装はまさに夢のような話です。ぜひ現場で実用した事例を増やしてください。

ドローンそのものや画像処理、レーザー計測などの技術の展開と深化はまだまだ進んでいくものと思います。他産業に比べて技術革新が遅れていた森林管理、林業生産の分野は、一気にDXでその遅れを乗り越えて欲しいです。

 

返信を残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です