儲かる林業の実現

椎野潤ブログ(金融研究会第六回) 儲かる林業の実現

 

文責:角花菊次郎

林業は儲からないものなのか。世代を超えて山から生活の糧を得られるように、林業経営で利益を出したい。そのように山林所有者や素材生産事業者は願い、木材資源の自給と国土保全に責任を負う国もそのような林業経営にすべく政策を次々に繰り出しています。しかし、今のところ林業の収益化は夢のように語られ続けるだけで実現しそうな気配はありません。

何が問題なのでしょうか。私有林の世界において、良かれと定めた国策に叶う私的な取り組みは、残念ながらあまり成功していないようです。なぜ、国の掲げる理想に民間がついてこられないのか。それは、静かな時を刻める国有林経営と違い、商売として木材を扱う以上、民間は徹頭徹尾、商いの原則に従って行動しているからだと思います。

「儲け」の獲得は、「独占」を実現することで達成できます。「独占」により競争相手を排除し、価格を自由に決めることができるのです。モノの売り手からすれば、必ず売れる商品を高い値段で売れるので効率的に利益を得ることができ、「独占」は商人にとって理想的な状態となります。

経済学では、「経済とは、市場等を通じて、様々な希少資源を生産に向けて配分するメカニズム」と定義しています。近代経済学の父とも呼ばれ『国富論』(「諸国民の富」)を記したアダム・スミスは「富の分配がうまくいけば国は豊かになる」と述べ、その分配を阻害するやっかいな要因として「独占」を挙げています。また、このアダム・スミスの有名な言葉に「神の見えざる手」というものがありますが、これは「市場の自動調節機能」(需要と供給の関係によって価格が自動的に決まるメカニズム)のことを言っていて、「見えざる手」によって最適配分を実現する市場価格が自ずと調整されるので「市場を自由にさせておけ」との主張です。ただ、その背景には、商人が独占状態を獲得するために国の役人と結託し、国の規制や介入を利用して公的に「独占」を認めてもらうような「仕組まれた独占状態」を排除したいという思惑があったようです。

「独占」は良からぬこと。強欲な資本主義は「市場の自由」を嵩にかけ、ありとあらゆる手段で市場を独占し、高い利益を上げようとします。したがって、「独占」には弊害が付きものとなり、結果として「独占」はネガティブワードとなってしまうのは理解できます。

しかし、「独占」は本当に排除すべき悪しき状態なのでしょうか。確かに、独占企業が過剰な利益を得ることは消費者が不利な状態に置かれるということでもあり、独占は市場の失敗をもたらし経済的に好ましくないと言えます。だから独占禁止法により過度な集中が起きないようにしているのだ、という意見には賛成です。ただ、売る方にしてみれば自らの「独占状態」の形成は商売の基本だと思うのです。特に立ち上げ期の市場、新しい市場では「独占」がむしろ自然な状態です。

「儲ける」ということは、確実に売れることと同時に価格の支配権を握ること。そのためには、不完全競争状態を作り出すこと。つまり、競合を排除し、独占するということです。

「山元への利益還元」を実現しなければ再造林費用が捻出できず、永続的な林業は成立しません。つまり、山林所有者が立木の販売で儲けられる構造を作り出さなければならないということですが、そのためには伐採原木の供給を一部で「独占」したいのです。今は逆に素材生産事業者に立木の買取・伐採・搬出を「独占」されてしまっています。また、ウッドショックで国産材の需給構造が変化したとはいえ、基本的に木材サプライチェーン上の製材・加工事業者との関係では買い手市場(供給>需要)の傾向が強い状況だと思います。これでは、構造問題として山元に利益は還元されません。

地域の山林所有者は一致団結し、経営権を集約し、原木供給の「独占」状態を創出すべきだと考えます。加工・流通段階で不要なマージンを取られないこと、近距離輸送で横持ち費用を抑制すること、受注に即応できる出荷体制の構築、この3点セットで木材サプライチェーンを構築できれば、一定エリアの原木供給を「独占」できる可能性は十分にあります。何としても原木の売り手市場(供給<需要)を形成し、価格支配権を握って、林業における収益化の夢を実現していこうではありませんか。

以 上

 

まとめ 「塾頭の一言」 酒井秀夫

林業が儲かって投資の対象になりうるのか、この「儲け」を獲得するために、「独占」により競争相手を排除し、価格を支配しようということで、今回は「独占」に焦点をあてておられます。独占によって、いまの買い手市場を売り手市場に代えていかないことには山が元気になりません。

林業では山元に利益が還元されていないとのご指摘ですが、サプライチェーンでむずかしいのは利益配分です。盗賊や宝探しの映画の後半では、きまって奪った宝を巡る殺し合いです。それほど利益配分はむずかしいです。「加工・流通段階で不要なマージンを取られないこと、近距離輸送で横持ち費用を抑制すること、受注に即応できる出荷体制の構築」の3点セットで木材サプライチェーンを構築できれば、一定エリアの原木供給を「独占」できる可能性が十分にあるという提言です。利益の一局集中を排除して利害関係者が共存共栄していくためには、正確な情報に基づくバルブの開け閉めによる原木供給側の主導権付与です。

松下幸之助氏は、ラジオの特許を無償で公開しました。まずは社会に価値の醸成をはかり、その上でパナソニックというブランドを立ち上げていきました。これを林業にあてはめれば、まずは国民に木材の復権をはかり、その上で産地を生かしたオンリーワン、あるいは地域内流通でしょうか。ただし、独占が過剰な利益を得ると消費者にそっぽを向かれ、代替品に代わられる可能性もあります。高級材に関してはなぜ高級材なのかの価格の説明やPRも必要です。

独占によって濡れ手に粟で利益を得ようということではありません。理想は、定常状態の仕組みの中で常に利益が還元されることではないかと思います。

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