ウッドデザイン賞2022を受賞して

椎野潤ブログ(加藤研究会第四回) ウッドデザイン賞2022を受賞して

 

 ウッドデザイン賞2022受賞に貢献した加藤研究室の学生、信州大学農学部森林計測・計画学研究室修士1年の唐澤亮君と農学部4年生の光門舞花さんからの報告です。

 

この度「ドローンtoハウジング〜建築と森林のデジタル融合〜」と題した異分野連携の取り組みで、信州大学、精密林業計測(注1)、ウッドステーション、森林連結経営はウッドデザイン賞2022を受賞しました。椎野ブログ事務局の塩地研究会と文月様にご指導いただきましたこと、この場をお借りして感謝申し上げます。

塩地さんとの出会いは2022年3月でした。北信州森林組合の堀澤さんのご紹介で加藤先生とともに千葉県のウッドステーションを訪問しました。修士、卒業研究テーマをそれぞれ決めようとしていた時期であり、塩地さんの仮想木材構想には大いなる刺激を受けました。「森林の資源データ、それを建築業界で使いたい、データを繋げるんだ、そうすれば森林そのものが木材倉庫となる。加藤研究室がこれまで積み上げてきた森林解析技術が国産材サプライチェーンの抱える需給情報分断を解消する一翼を担うのだ」と激励をいただきました。お陰様で、森林と建築のデータ連携を目標とした研究を進めていく方向が定まりました。

2022年4月中旬、塩地さんからの一通の電話で、ウッドデザイン賞への応募が決まりました。この賞は、森林や木材の利活用によって社会課題を解決する製品や活動、研究に与えられるものです。森林側―信州大学および精密林業計測、建築側―ウッドステーションが取り組むデジタル技術で一気通貫な情報共有を目指す共同研究のストーリーを、ウッドデザイン賞2022に応募することとなりました。

2022年6月下旬に募集要項が発表され、1ヶ月をかけて応募資料の作成を行いました。A4用紙5枚に森林の資源データと建築の必要部材データの融合の研究の概要と、データ連携が実現した先の未来像を詰め込みました。

・ドローンtoハウジングの概要

共同研究の中心に来るのは丸太情報です。森林側からは、ドローンや地上レーザによって捉えた立木情報を元に建築側にとって利用可能な丸太情報を推定する技術研究を進めます。建築側からは、住宅の必要部材情報の集約と木取りの最適解から算出される最終的に必要な丸太情報を導く技術研究を進めます。立木から丸太へ、部材から丸太へ。これまで各々が補足してきた情報を”丸太情報”に発展させることで木材需給情報のデジタル融合を図ります。

データ連携の先に描くのは、森林をデジタル資源倉庫とした受注生産の実現と、地域材の家づくりの促進です。森林倉庫の照会により、丸太の質と量を早期に確定できる他、地域材利用により輸送コストも削減され、資材調達が安定します。また、需要に合わせた伐採木および採材方法の決定により、立木価格の向上と、森林の健全性を維持した持続可能な森林管理を可能にします。さらには、建築界にとどまらず他産業にまで森林データが使われるようになる未来も想像しています。デジタル技術によって需要情報と結びつけられた森林は富として評価されやすくなります。森林を活かしたビジネスに乗り出す人々が増え、里山の恩恵を感じられる社会を創ることができるかもしれません。

このような内容を詰め込んだ資料と、2次審査で提出した研究経過報告書、イメージ動画を評価していただき、ウッドデザイン賞2022を受賞することができました。国産材を活用し日本の山を良くしていく取り組みとして、自分たちの研究の意義が認められたことは大変嬉しく、研究によりやりがいを感じるようになりました。

・今後の抱負、ドローンtoハウジングの具体化

現在は、「ドローンtoハウジング」の具体化に向けて森林側からの研究を進めています。ドローンとモバイル型レーザーの計測から幹の細りをモデル化し、立木の樹高と太さに合わせた丸太材積の算出を試行しているところです。

和歌山県の山長商店、山長林業にご協力をいただき、推定値の精度検証も行っています。来年度には、立木の伐採から住宅の建設まで行う実証実験が予定されています。今年度算出した丸太情報の有用性が検証されていきます。

実際の生産基盤やビジネスの中で活用できるものにするには、データの信頼性、解析速度、汎用性等、解決すべき多くの課題が存在しています。立木を伐らずして、丸太情報を抽出することへの難しさを感じます。先人たちが実際に山に入り高性能の五感で収集してきた情報を補うには、さらなる計測精度の向上や解析の工夫が必要です。

「答えは自分で見つけるのが君たち二人の人生です。」塩地さんに言われた言葉です。

この研究会に寄稿されている方々にご指導いただきながら研究できることを有り難く思っています。加藤先生、研究室の卒業生であり精密林業計測の技師である先輩方とともに、本研究を進めて参ります。研究成果が得られた先の世界を脳内に描きながら、日々学び進めていこうと思います。

今後ともご指導ご鞭撻のほどお願いしたく、何卒よろしくお願いいたします。

・受賞概要

[受賞作品名]

ドローンtoハウジング~建築と森林のデジタル融合~

[受賞部門・分野]

ソーシャルデザイン部門・コミュニケーション分野

[共同受賞団体名]

・精密林業計測株式会社(https://www.prefore.org)

・ウッドステーション株式会社(https://woodstation.co.jp/)

・信州大学 農学部 森林計測・計画学研究室(http://www.shinshu-u.ac.jp/faculty/agriculture/lab/finfo/)

・株式会社 森林連結経営(https://shinrinrenketsu.jp/)

 

(注1)精密林業計測 信州大学森林計測・計画学研究室発のベンチャー企業。研究室で開発した技術を社会に活用するために2017年に起業した。

 

まとめ 「塾頭の一言」 本郷浩二

ウッドデザイン賞2022の受賞、おめでとうございます。

木材の需要と山元からの供給を調整して合わせて林業を経営していくことは、言うは易し、行うは難し、と思っていましたが、航空レーザー計測、ドローンによるレーザー計測により、そのボトルネックの大きな部分が解決されてきています。

需要に合わせて、最適な伐採・造材を行う素材生産作業ができれば、生産性を上げつつ丸太の歩留まりも良くなって、立木の価格も上がり、素材生産を行う方の賃金を上げることができるのではないかとの希望をこれまで関係者に伝えてきました。

地域のマーケットの相場という大まかな需要と供給のバランスを反映したものではなく、明確な建築部材のオーダーに(1棟ごとでなくて数棟、数十棟単位で良いので)、ピンポイントで合わせることができれば、単木ごとに最適な丸太を生産し、川中部門と連携しつつ、しっかり関係者に利益を配分できる製品の販売を行うことができるのではないかと期待しています。

売るための貴重なデータですから、安易に買い手にオープンにしたりしないように考えてください。

 

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