森林管理の担い手

椎野潤ブログ(塩地研究会第三回) 森林管理の担い手

文責:文月恵理

2022年10月8日~9日、岡山県の西粟倉村で「フォレスターギャザリング2022」が開催されました。この集いは「日本型フォレスターの相互交流のためのプラットフォーム」で、2015年から毎年、場所を変えて実施されています。(2020・2021はオンライン開催)森林管理を仕事にしているプロだけでなく、研究者や民間企業の人間など、森林管理について学びたい人なら誰でも参加可能です。

今年は岐阜・長野・高知・徳島・兵庫ほか、各地から16名が参加し、現地で山林の管理や活用に取り組む株式会社百森(ひゃくもり)株式会社百森 (hyakumori.com) スタッフの方達の案内で、村内の現場や施設を見学しました。

西粟倉村では、森林所有者1400人のうちの約半数と10年契約を結び、その1500haと村有林1000ha、そして百森の社有林を合わせた2600haを管理しています。村にも森林組合はありますが存在感は薄く、百森はいわば森林組合の進化系株式会社と言っても良いでしょう。そこに村外から10名ほどの、ユニークな個性と能力を持つ人材が集まって、試行錯誤しながら森林の管理と活用に取り組んでいます。

西粟倉村は、林業のみならず、地方創生・地域振興といったテーマで必ず名前が出てくる、先進的な試みで知られる村です。平成の大合併の動きに反して自立を選択し、村の面積の95%を占める森林を活用した「百年の森林(もり)構想」を打ち出して、情熱を持った多くの人材を引き寄せてきました。木材製品や家具、バイオマスによる地域熱供給など様々な事業が生まれ、移住者によって人口減少の進行が緩やかになっています。

村では二年前、国の補助金を活用し、木材生産の適否や防災上の観点から森林を区分したゾーニング図と、それに基づいて今後どのように事業を進めていくかをまとめたアクションプランを策定しました。資料は111ページに及ぶ膨大なもので、内容は木材生産に適した林分とそうでない場所を更に細かく分類し、マトリックスに沿って基準作りや所有者との交渉、木材生産以外の体験事業の導入なども含めて書かれています。貴重な資料で、百森の人達も、当然その指針に沿って事業を進めようとしているのでしょう。

一方、山の現場を見学すると、皆伐地では予定していた天然更新は見込めず、専門家から見ると初歩的な課題を指摘されるなど、森林管理に通じているとは言い難い状況も見えてきました。それを自覚し、失敗に学んで前に進もうとする百森スタッフの姿勢は大きな希望ではあります。ただ、私が改めて感じたのは、「頭で考える仕事をする人より、現場で汗をかく人間が圧倒的に足りない」という事実でした。

奇しくも、前日には東京で、都市の木造化を進め、それによって林業を元気にしようという主旨の華々しいイベントが開かれていました。需要側が国産材に目を向けること自体は、もちろん悪いことではありません。しかし、登壇者・参加者の多くは林業現場の実態をほとんど知らないのではと、私には思えました。長いスパンを飛ばすために特注の梁を集めるとか、歩留まりの悪いCLT製造に原木を安く買うことが、地域の森林の継続的な利用と林業振興につながるのでしょうか。

地方創生の成功事例として語られる西粟倉村でさえ、林業の現場では鹿柵の見回りと補修、広葉樹の種を集めて自前での稚樹育成に挑むなど、地道な作業と奮闘する毎日です。そのような担い手が誇りを持ち、十分な待遇と着実な成果を得られるようにするには、相場に振り回されず、地域で循環する経済が必要です。木造大型パネル(私たちの製品|ウッドステーション株式会社 (woodstation.co.jp))工場を地域に導入することは、供給者側が主導権を持つ真のサプライチェーン構築に貢献するでしょう。大工さんと林業従事者、どちらも「現場で汗をかく人」です。このような人々が報われる経済の在り方を目指して、発信を続けていきます。

 

まとめ 「塾頭の一言」 本郷浩二

森林地域や林業の振興の解は一つではありませんが、西粟倉村の取組について私が感心しているところは、村が主体的に取り組みつつ、専門の民間コンサルタントとタイアップして成し遂げてきているところです。そして、両者が片方に依存せず、常に連携して前進していることです。このような村とコンサルタントとの信頼関係が大事だし、素晴らしいと思っています。民間フォレスター(森林総合管理士)にもそのような自治体へのコンサルティングの役割を担う関係性を築いてもらいたいと思っています。

木材の需要は間違いなく街にあります。その需要を国産材に取り戻し、地域地域における山元と街の需要を結びつける1000箇所のローカルなサプライチェーンをしっかり作ることが焦眉の急ということです。

一方で、人口減少という我が国の桎梏の中、いろんな局面での前進が必要です。

国産材需要の持続は循環経済のエンジンですから、人口が減っても何とかしなければなりません。そのうえ、すでに人口減少のボディブローは、まさに汗をかく人間がいなくなるということで効いてきています。これを克服するため、人間の代わりをするIOTやAI、ドローンなどの飛び道具、機械力に頼ることになると思っていますが、そのような時代には、人間が手をかけている、かけられることが付加価値になると思います。

 

 

返信を残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です