主伐地の地域性とビジネスの創意工夫

椎野潤ブログ(加藤研究会) 主伐地の地域性とビジネスの創意工夫

 

国内の林業動向と地域の林業現場の違いを認識した直近の話題です。読者のみなさんの地域では如何でしょうか?

森林資源が利用期を迎える中、ウッドショックで国産材の利用ニーズが強まる中で木材需要に応えていくために、21年度の国有林材の供給量は前年度より3割増(林政ニュース第685号)、民有林の主伐面積並びに木材自給率も48年ぶりに4割を超えて増加している(森林・林業白書 令和4年版)。森林・林業再生プランでは木材自給率50%以上を掲げており、今後も主伐面積が増えていくことが予想されます。

2022年3月にウッドステーション㈱主催の佐伯広域森林組合・中国木材日向工場視察ツアーに参加、また6月に女満別空港から北見に帰省した際に、いくつもの伐採跡地や造林地を多く目にして、林業生産が全国的に活発化していると感じました。こうした背景から、信州でも主伐地は増えており、研究開発の実証地として主伐地の確保は難しくないと考えていました。

今回、信州の森林組合と「主伐による収益性増加と木材流通、再造林と保育作業の効率化により適正な山元還元を実現するための実証事業」に申請するにあたり、森林組合では主伐地の確保に苦労しました。信州の森林組合は、スマート林業の導入では先進的取組を進めてきました。林野庁スマート林業構築実践事業で長野県が事務局の「スマート林業タスクフォースNAGANO」において現場実証の中心的な役割を担ってきました。しかし、地域内森林の多くが80年を越えつつあり、主伐すべき森林が増加しているにも関わらず、森林組合の主伐量は増加していません。

 

疑問1 なぜ、信州で主伐地を確保するのは難しいのでしょうか。信州の複数の森林組合に伺いました。信州は広いので、北信、東信、中信、南信の4地域に分けられています。

一つには、木材を収穫する主伐には補助金が出ないことです。人工林を育成するための間伐作業には約7割の間伐補助金があるので、山主である森林所有者と組合の経費(伐採や造材、輸送費)を削減します。補助金の有無は大きな違いになります。二つ目に、地域ごとの樹種ごとの樹木の生長と材積の違いが大きいことです。積雪と冷涼な気候にある北信(長野市・中野市)の人工林はスギとカラマツが主です。スギに関して、レーザ計測の解析データでは、不適地の林分でなければ、60年生で1ヘクタール当り600立法メートルくらいが標準であることが分かってきました。好成績林分や70年生超の林分では600立法メートル/ヘクタールを超えています。カラマツが人工林の大半を占める東信地域(上田市・佐久市)では民有林においても主伐が進んでいますが、主伐時の材積は1ヘクタール当り300~400 立法メートルです。信州の木材市況は、山元立木価格はスギ約3000円/立法メートル、カラマツ約5000円、地域によってはスギのトビ腐れ病による変色と腐れにより、半値以下になることもあります。
主伐地の確保が難しい要因は、「森林所有者から見て主伐で得られる収入が低く、再造林をした場合には植林と下刈りの育林費用で無くなってしまうことです。主伐が増えているのは、国有林の立木買取地であり、民有林の個人有林では増えていません。また、運送費が割高だとの指摘もあります。域内の製品生産業態の規模が小さく、輸送コスト負担が大きい県外業者に頼らざるを得ないため、合板メーカーへの出荷では5,000円/ 立法メートル超の運賃負担となる場合があります。これらを踏まえて各森林組合は山主還元策を考えているところです。

信州大学から主伐に関する研究開発は、木材供給量を増やしている国有林の中部森林管理局が中心で、県有林や市有林、財産区などの公有林に依頼することが多くなっています。

 

疑問2  なぜ、九州は主伐が多いのでしょうか。佐伯広域森林組合に伺いました。

佐伯では人工林の伐期50~60年で、今が旬である。年間350ヘクタールの主伐と再造林を実施しています。主伐適期を逃すと大径材となりメリットが少なくなります。伐倒時の危険と生産効率の低下、大径材の加工設備が整っている事業者が少ないこと、梁などの建築材には強度の問題があり需要が少ないことです。立木材積を毎木調査して、立木の評価額を森林所有者に提示し、立木買取契約後に伐採しています。3月に視察した九州の佐伯広域森林組合の85年生スギ主伐地の材積は1ヘクタール当り800立法メートルを超えていました。

立木買取価格は、宇目共販所と佐伯共販所、佐伯木材協同組合でのスギの原木平均単価の推移から、12,500円を目安として、伐採と造材の林業事業体4,000円/立法メートル、組合手数料2,000円/立法メートル、運送費1,500円/立法メートル、森林所有者に4,000円~/立法メートルとしています。

佐伯森林組合は、100%再造林の循環型林業経営を目指しています。再造林費用(15~20万/ヘクタール)は再造林の補助金で賄えない森林所有者負担額と5年後までの下刈りの補助金を引いた負担額とし、再造林と鳥獣防護ネット設置、5年間の下刈りまでを組合が責任をもって行います。

 

まとめ 

主伐地の確保について、先進的取組を進めている信州の森林組合と九州の佐伯広域森林組合に伺うことで、疑問が解けて課題が見えてきました。主伐には収穫量、面積、材価の違いによる地域性がありました。それぞれの森林組合は経営の黒字と山主の森林所有者への利益還元を考えていました。山元立木価格の向上と公的補助金に頼らない自立した林業経営は、林業関係者と国民が求めている将来の日本林業の姿です。

他産業や研究開発は、グローバルな競争社会の中にあります。林業にも新しい技術と人材、スタートアップや企業が新規参入して、大きな壁を超えて若者や女性に魅力ある林業に変えていく必要があります。主伐は補助金に依存しないので、経営体にとってビジネスの創意工夫の機会でもあります。志をもつ読者の皆様と一緒に、前に進んでいきたいと思います。

 

まとめ 「塾頭の一言」 本郷浩二

全国にたくさんの(手入れが十分ではない)並材中心の人工林資源を有して、減っている木材需要に対して潜在的に供給過剰の状態にある我が国の林業の場合、全体的に付加価値や木材の価格を上げることは難しいと言わざるを得ません。

ですから、全国の林業を立て直すためには、木材需要全体を増やし輸入材のシェアも奪い返し、それに応じて常に供給していくことが大事になります。誤解を恐れずに言うと、それぞれの地域において、需要よりちょっと少ない程度の供給を常に維持することが秘訣になりますが、これを実践する知恵と工夫が要ります。

補助金をあてにした間伐で木材供給するというのでは、行政の財政制約上補助金が減らされれば供給も減り、需要に対応することはできず、資源の利用も一部にとどまります。これでは、地域が従前からの停滞した林業から抜け出すことはできないものと思います。

立木価格を上げ山元へ利益還元することは、地域の条件に応じて林業・木材産業や運送の生産性を向上させることで実現できると思います。働く人の給与の改善も同じです。信州では4,000円/立法メートルで伐採、造材ができないでしょうか。大きな壁を乗り越えるべく、変えてゆかなければなりません。

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