ぎふ フォレスター協会設立 岐阜 小森胤樹さんの次世代林業を目指した活躍 (その6)

林業再生・山村振興への一言(再開)

 

2020年9月(№37)

 

□椎野潤(続)ブログ(248)なぜ、一般社団法人 ぎふフォレスター協会を設立したのか(その6) 九州木材ロジステティクス改革プロジェクト(2)実証実験 2020年9月22日

 

☆前書き

今日のブログは、前回(その5)の続きです。今回は、2004年秋に実施した、九州木材ロジステティクス改革プロジェクトの実証実験について述べます。これは、2005年に執筆した著作(参考資料1、注1)から引用して記述します。

 

☆本文

[国土交通省の実証実験]

2004年の秋、国土交通省の委託で実証実験を行いました。実験の目標は、サプライチェーン内の無駄を徹底的に排除し、低価格で良質なものを提供するとともに、生産者にも相応の利益が配分される仕組みを作ることでした。

実証実験は次の通りに行われました。まず、鹿児島のCADセンターからベネフィットへ、CADデータから変換されたTDI(注1)のデータを送信し、根占町、田代町等の山主に注文を出しました。

山主が必要な立木を伐採し、ベネフィットの製材センターで製材し、近くの乾燥炉で乾燥を終えたあと鹿児島市内のプレカット工場へ搬送しました。この運賃は建築市場持ちとして、製材は工場軒先渡しの価格で売買しました。プレカット工場には、材料支給で加工してもらいました。また、山主の出し値、丸太運搬費、製材費、製材運搬費、乾燥費は、そのコスト内容を透明に開示してもらい、建築市場側もその中で、出来るだけ山主の収入が増加する体制作りに協力しました。

 

これが実現したのは、建築市場側(工務店側)が、「商流・物流を合理化して出た利益は、出来るだけ山主に返して、以後の育林費を確保し、森林の永続的維持を図る」という理念を、完全に理解していたからです。それが、なされねば、日本の未来社会は、永続できないことを関係者は知っていました。

 

2棟の木造住宅を建設する実験をおこなった結果、5、000円/に止まっていた山主の手取りは、13、000円にまで回復させることが出来ました。建築市場が69、000円で買っていた杉材は、63、000円で買うことができました。すなわち、買い手も売り手もウイン・ウインになったのです。

 

☆まとめ

2004年9月、私は鹿児島県大隅半島のベネフィットを訪問して、再調査を行いました。ここで新しい発見があったのです。以下の諸点です。

(1)顧客起点サプライチェーンマネジメントのビルド・ツウ・オーダー生産が、サプライチェーン改革が遅れていると思われていた木材流通の中で、すでに行われており、これは筆者にとって、大きな驚きでした。

(2)「木材は、1年の中で伐るのに適した時期と不適な時期がある」、また、「葉枯らしと言って、伐採後、しばらく天然乾燥させる期間が必要である」と聞いていました。従って、リードタイムを最小化するビルド・ツウ・オーダー生産は、木材生産においては、技術的に困難であると考えていました。しかし、そうでもないことがわかったのです。杉の伐採適期は11月から3月ですが、雨の多い一時期除いて、伐採には基本的には支障がないことがわかりました。また、人工乾燥させる場合には、むしろ、葉枯しを実施しない方が、水が抜けやすいことがわかりました。すなわち、木材生産のビルド・ツウ・オーダー生産は技術的に実施可能なのです。

 

このプロジェクトでは、流通が原木市場や製品市場を省略してしまうので、当初は、その方面から反発があると、危惧していました。でも、現実には、両者は共生するのです。原木市場が、最も恐れるのは原木価格の下落でした。

元来、買入者は安いうちに買いだめするものなのです。でも、一向に値上がりしなくなってしまったのです。この頃すでに、あまりにも安くなりすぎて、採算があわないので、原木生産者は、安値の時期には品物を出さなくなってしまったのです。購入者は、価格が下がると木材が入手できなかったのです。

この状況下でベネフィットは、約束した一定価格で供給していました。これが原木価格の買い支えとなって、原木市場に安定供給されていたのです。これは、新しい仕組みと古くからの仕組みの共利共存でした。

 

木材のユーザーである建築市場にとって原木市場は上流に位置しています。この上流の林業生産の改革を可能にする下流の建築生産の改善活動は、世界最大の量販店のウォールマートが、メーカーのP&Gに実施している戦略と同じでした。これは当時すでに、流通研究の専門家の間では、凄く注目されていたのです(参考資料2から引用)。

私は、ウォールマートとP&Gの協働の成功に強く共感し、「サプライチェーン下流の住宅作りの改革を進め、これにより上流の林業の改革を進めさせる」アプローチに力を注ぎました。すなわち、この実験に成功してから、建築市場側の改革に全力を傾注しましたが、ベネフィット側、すなわち林業側の改革に参加することはなかったのです。それが、この2004年の実験の後、この林業〜家作りサプライチェーンの構築が停滞してしまった、大きな原因だったと、2020年の現在に至って、ようやく気が付いたのです。

現在は南大隅町の町長になっておられる森田俊彦さんに電話しました。今、小森さんが、ぎふフォレスター協会で実施されている仕事を説明しました。そして、「南大隅町が、『地域林政アドバイサー制度』を、一番、熱心に活用し、完璧に近い体制を築く町になること」を目指してくれませんかと、期待を述べました。森田さんは「是非やらせてください」と言われていました。それで小森さんに、さっそく南大隅町の森田町長と、連携してもらうことにしたのです。この結果は、次回のブログで報告します。

 

(注1)参考資料1、pp.117〜121。

(注2)TDI(Technical Data Ineterchange):作られる製品(ここでは建築物、部材・部品)の内容を示すデータを、CADデータから変換作成する仕組み。

 

参考資料

(1)椎野潤著:生きている地球と共生する建築生産、日刊建設工業新聞社、平成17年月7月27日。

(2)椎野潤:環境変化の中で生存し続ける生命的システムに学ぶシステム設計に関する研究、早稲田大学システム科学研究所、紀要29、1998.03。

 

[付記]2020年9月22日、椎野潤記]

返信を残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です