世界の医療新時代を開く富士フイルム 勇敢な投資で異業種から僅か参入数年で 世界のトップへ

富士フイルムは、僅か5年で、異業種から先進医療分野に転身し、世界の先端医薬のトップメーカーになりました。社長の偉大な決断が、好循環を生みました。

 

林業再生・山村振興への一言(再開)

 

2020年11月(№52)

 

□ 椎野潤(続)ブログ(263) 世界の医療新時代を開く富士フイルム 勇敢な投資で異業種から僅か参入数年で 世界のトップへ 2020年11月17日

 

☆前書き

富士フイルムは、新型コロナウイルス感染症治療薬製造販売の、国内第1号の承認者になります。2020年10月16日の日本経済新聞夕刊(参考資料1)が、これを書いていました。ここでは、この記事を取り上げてブログを書き始めます。記事は、以下のように書いています。

 

☆引用

「富士フイルムホールディングスは、2020年10月16日、新型コロナウイルス感染症の治療薬として「アビガン」の製造販売を厚生労働省に申請したと発表した。厚労省は有効性や安全性を審査した上で、11月にも承認する可能性がある。承認されれば「レムデシビル」と「デキサメタゾン」に続き、新型コロナ薬として国内3例目で、国内の製薬会社が開発した薬としては初めてとなる。」(参考資料1、日本経済新聞、2020年10月16日夕刊から引用)

 

☆解説

アビガンは、富士フイルム富山化学が開発したもので、新型インフルエンザ治療薬として承認されています。新型コロナ薬としての承認を目指して3月末から臨床試験(治験)を実施し、症状が改善して陰性になるまでの日数が、短くなる効果を確認しました。厚労省には、申請から1カ月程度で、承認を出すことが期待されています。

アビガンは、観察研究と呼ばれる枠組みで、既に一部の医療機関で新型コロナの治療に使われています。インフルエンザとの同時流行も懸念されている中、治療薬として承認されれば、幅広い医療機関で使用されるようになり、国民の希望の星になります。(参考資料1、日本経済新聞、2020年10月16日夕刊を参照して記述)

 

☆まとめ

私は、富士フイルムについては、13編のブログを書いています(参考資料2〜14)。富士フイルムは創業以来フイルム産業の盟主でした。しかし、写真機はデジタル化して、フイルムは使われなくなりました。さらに、デジタルカメラですら、今や成熟産業になっています。その中で、同社は社名にフイルムの名を残しつつ、全くの異業種の先端医療産業へ移行したのです。

 

[2014年]

私が、先端医療産業の富士フイルムを、最初にブログに書いたのは、2014年です。富士フイルムの医薬品産業参入は、2007年ですが、2014年が本格活動開始の年です。まだ本格的な製薬工場はなく、その建設の計画の年でした(参考資料2)。

 

[2015年]

この年、同社は歴史に名を遺す大きな買収をしました。それは、米国のセルラー・ダイナミクス・インターナショナル(CDI、注1)の買収です。Busines Journalは、「富士フイルム大ばくち 巨額赤字企業買収「再生医療世界一」へ英断or暴挙」と言う見出しで、この記事を書いています(参考資料6)。

CDI社は世界で初めて、ヒトのES細胞(注2)を開発した会社です。ウィスコンシン大学のジェームス・トムソン教授が、2004年に設立しました。同社はiPS細胞(注3)を大量・安定的に製造する技術を確立しています。富士フイルムは、この会社を370億円で買収しました。

この会社は、未来を見ると素晴らしい会社でした。でも、同社は2014年度の業績が、3000万ドル(約36億円)の赤字でした。自社の年間利益を越える赤字の企業を、高額で買収した社長の決断に市場は驚愕したのです。(参考資料7)。

 

[2016年]

この勇断の総まとめのように、2016年12月には、武田薬品工業の特別の子会社和光純薬工業(注4)を買収しました。この和光純薬工業は、武田が高額な資金を手に入れられることを見込んで、手放す決断をした重要な子会社です。重要技術を持っていることは明らかでした。激しい争奪戦になりました。富士フイルムは、2000億円を投じて競り勝ちました。

この和光純薬工業は、研究用試薬の国内最大手です。同社は難病治療の鍵を握る、ES細胞やiPS細胞に使う試薬について、有望技術を持っていました。抗体医薬品やゲノム薬品の開発に、強い意欲を持つ富士フイルムにとっては、極めて重要な技術でした。ここでようやく富士フイルムの「総合ヘルスケア企業」への脱皮は、先に灯が見えたのです。(参考資料6)。

 

[2017年]

iPS細胞は無限に増やせ、欲しい時に必要なだけ量を確保できます。iPS細胞の活用が有効なのは、既に知られていました。でも健康な人から採取して移植するため、大量に得るのは難しかったのです。富士フイルムは、この様な困難な治験を、どんどん、進めました(参考資料8)。

 

[2018年]

2018年10月には、世界で注目を浴びていたスタートアップのエルピクセルに30億円を出資しましした。これが2019年のAI診断の幕開けにつながりました。2019年の診断機器市場での世界3強は、米国のGE、ドイツのシーメンス、オランダのフィリップスでした。日本の富士フイルムは、これを追う世界4位に躍進したのです。(参考資料10)。

 

[2019年]

バイオ医療業界では、新薬開発と製造とを分業する流れが進んでいました。新薬開発は巨額な投資が必要で成功率は低いのです。そこで製薬会社は、製造を委託する動きが加速しました。

富士フイルムは、受託事業で一気に世界一を目指しました。この結果、同社はドイツの製薬大手ベーリンガーインゲルハイムと並び、製造受託で世界2位になったのです。(参考資料12)。

富士フイルムは、2015年から僅か5年で、世界のトップ集団に踊り出ました。2015年の決断は英断だったのです。あれが企業の大転換の起点でした。英断が英断を呼び、急成長しました。進化の著しい世界が到来する中で、日本各社は、まさに、この決断に学ぶべきです。

 

(注1)セルラー・ダイナミクス・インターナショナル(CDI):iPS細胞および同細胞から分化したヒトの細胞を開発・製造する米国のベンチャービジネス。米ウィスコンシン州とカリフォルニア州に研究施設。設立2004年。

(注2)ES細胞:動物の発生初期段階の胚盤胞期の、胚の一部に属する内部細胞塊で作る、幹細胞の細胞株。分化万能性を持つ。

(注3)iPS細胞(人工多能性幹細胞): 体細胞へ数種類の遺伝子を導入すること、ES細胞(胚性幹細胞)のように多くの細胞に分化できる分化万能性と、分裂増殖を経てもそれを維持できる自己複製能を持たせた細胞のこと。

(注4)和光純薬工業:武田薬品工業から分社して「武田化学薬品株式会社」として発足。国内試薬メーカー最大手。試薬の取扱数60万品目超。高純度に強み。他社に先駆け、抗体検索可能サイトを整備。本社、大坂(中央)。設立1922年。

 

参考資料、

(1)日本経済新聞、2020年10月16日夕刊。

(2)椎野潤ブログ:アルツハイマー検査薬開発、2014年12月5日。

(3)椎野潤ブログ:再生医療薬 日本での開発 規制緩和で急増、2015年1月9日。

(4)椎野潤ブログ:iPS 進む世界の応用研究 再生医療 日本も頑張らねばならない、2016年4月10日

(5)椎野潤ブログ:富士フイルム 武田の重要子会社買収、2016年11月24日。

(6)椎野潤ブログ:富士フイルム企業創生 総合ヘルスケア企業へ脱皮、2017年1月14日。

(7)富士フイルム大ばくち 巨額赤字企業買収「再生医療世界一」へ英断or暴挙、Busines Journal、2015年5月3日。

(8)椎野潤ブログ:富士フイルム 武田の重要子会社買収、2016年11月24日。

(9)椎野潤ブログ:他人のiPS細胞使い治験 富士フイルム、2017年3月23日。

(10)椎野潤ブログ:パーキンソン病 脳にiPS細胞を移植 難病治療 実用化へ、2018年11月23日。

(11)椎野潤ブログ:2019年 AI診断幕あけ スタートアップが牽引、2018年11月24日。

(12)椎野潤ブログ:iPS再生技術 治療から創薬へ スタートアップ 研究キット販売、2019年3月9日。

(13)椎野潤ブログ:富士フイルム バイオ医薬品製造委託大手に 米バイオ薬 子会社を買収、2019年3月18日。

(14)椎野潤ブログ:認知症薬「脳を掃除」に着目 グリア細胞 老廃物除去 富士フイルム、2019年7月10日。

(15)椎野潤ブログ:注目のがん治療薬 オプチーボ 効き目予測技術 進展、2016年9月12日。

 

[付記]2020年11月17日、椎野潤記

 

[コメント(山村振興 異分野の改革から学ぶ 〜先端医学から学ぶもの〜)]

治療が困難になった末期がんに、驚異的に効果がある新薬オプジーボが開発されました(参考資料14)。でも、そのコストが超高いのです。健康保健の対象にすると健康医療制度を破壊します。また、この新薬は、未来の医療の扉を拓く超先端薬ですから、医療保険から外すと、日本の医療の世界一のポジションの維持はできません。

日本の医学界は、一時、騒然となりました。これは2016年の秋のことです。富士フイルムが、武田薬品工業の重要子会社、和光純薬工業を買収して、「総合ヘルスケア企業としての脱皮」に、灯(あかり)を灯(とも)した頃なのです。

それまで開発された新薬の承認は、以下の手順で行われていました。すなわち、その薬が効果あるか、重大な副作用がないかを、まず、動物実験で確認します。そこで効果と安全性が確認されると、次に人間に、注意深くテストします。これが治験です。これに合格すると認可され、人の治療に使われるのです。

ここでは人間は、基本的に一種類でした。でも、オプチーボは、主力の肺がんでも、2割ぐらいしか効かないのです。ですから、人間を薬の効く人と、効かない人の2種類に分けて、考えねばならないことになったのです。

これがコロナ危機で、一層、困難なことになりました。新型コロナウイルスは、人類が直面した最も対応に苦しむ難敵でした。種類が分化して進化する速度が、極めて速いのです。世界に広がったコロナウイルスは、凄い速度で多品種に拡大しています。それと、世界中の多種類の人類との組み合わせを、考えねばならないのです。

日本を除く、世界の多くの国々は、多民族国家です。ですから、本格的に取り組むとしたら、これは大変です。日本は、日本人だけの単民族国家ですから一番有利です。それでも、温帯から亜寒帯の間に長く伸びる島国に、住んでいますから、地域による差があるかもしれません。

文化の違う人々が同居している国々では、「文化」の違いも関係があるという意見もあります。日本も、全国各地の気候、生活、文明の違いなどを、良く調べておけば、弱点があれば補強し、長所は積極的に育て上げて、未来の日本人の幸福社会の建設に、これを資することが出来るでしょう。その点で、各地域の特徴を色濃く遺している山村と、新技術、新時代の発想の関係を、しっかり注目して見ておく必要があります。」

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