塩地博文寄稿ブログ「建築の近代化]大型パネル事業の進展(その3)2021年11月16日 佐伯型循環林業と大型パネル 山長商店グループも続く

☆巻頭の一言

今日は塩地ブログ第3号の報告です。今日登場するのは紀州山長材の供給者、モックさんです。モックさんは塩地さんの林業での期待の星です。佐伯広域森林組合に続いて急成長しそうです。大型パネルを担いで日本社会を変えることが期待される人材です。(椎野 潤記)

 

林業再生・山村振興への一言(再開)

 

2021年11月(№157)

 

□ 椎野潤(続)ブログ(368) 大型パネル事業の進展(その3)佐伯型循環林業と大型パネル 山長商店グループも続く 2021年11月16日

 

☆前書き

今日は、山長商店とモックさんについてお話しいただきます。

 

☆引用

「大型パネル事業の進展」〜山長商店も続く     文責 塩地 博文

 

山長商店さんは、江戸時代創業と聞いています。そのグループ企業であるモックさんは、埼玉県八潮市に本社を構え、関東圏への紀州山長材の供給をメインとする山長グループの中核企業です。そのモックさんより、「大型パネルの生産を開始したい」との申し込みがありました。

 

ある建築家は、「山長が大型パネルを始めると業界は一変するだろう」と、ウッドステーション起業時に予言されていましたが、「早くもその時が来たのか」と身が引き締まる思いがしました。モックさんは千葉県にある自社保有の土地に、新たに工場上屋を建設し、大型パネル生産設備を導入、2022年7月より、生産を開始する予定です。紀州山長材に特化した大型パネルの供給工場を計画しています。

 

「どうして大型パネルを始めたいのですか?」と、モック社長の榎本氏に率直に尋ねました。「山長材だけでなく国産無垢材の全ては、大工によってその事業価値を得たと言えます。大工をパートナーとして成立してきた事業なのです。その大工が急速に減少し、高齢化しています。大工は危機に瀕しているのです。その大工を支援するために、大型パネルは必要不可欠と判断しました。また、大工には下小屋のような加工場がなくなっています。加工場所がなくなれば、大工の技能は発揮しようがありません。大型パネル工場新設には大工達が集まって、一緒に加工する場所の提供という意味も含めています」と、答えられました。

既述した通り、ある建築家の予言とは、「在来木造の歴史的シンボルのような山長が、近代側のシンボルのような大型パネルという工業化と一体化するのか。もしもマッチングするのなら、在来木造の世界は大きな変換点を迎える」という示唆であったと思います。無垢材、在来木造、社寺仏閣建築の歴史、、、、。それは人為の結晶であり、職人技能の積み上げだとする歴史認識は、間違いではないでしょう。大工だからこそ成しえた偉業であり、伝承であります。大工とは日本が世界に誇る職能の一つなのでしょう。

 

一方で、職人とは「道具と共に生きる」人たちでもあります。使う道具が変われば、職能も変化していきます。昨今で言えば、電動工具が急速に多様化し、大工は「道具箱一つを背負って自転車で現場通い」する人ではなく、「ハイエースに山ほどの電動工具を積み込んで毎日その道具を上げ下ろしする」人になっているのです。大工を一面的に捉えて、歴史のシンボルとするのは、大工の本望だとは思えないのです。大工も生活していかねばなりません。歴史の継承者という前に、待遇改善や重量化対策などの近代化が必要ではないでしょうか。その対策不足が、大工不足の真犯人ではないかと思っています。

モックさんにとって必要不可欠なパートナーが大工であることに変わりはありません。大工が減少過程に入っていることも、疑う余地がありません。ならば、高齢になっても大工ライフを少しでも延長できる、しかも電動工具程度では賄えない領域をカバーする「新しい武器」を大工に用意することが、今やるべき最大限の支援と、モックさんは考えたと感じました。

 

大型パネルは、在来木造の象徴の一つである接合が、「オスメスの仕口」ではなく、「金物接合」です。この「オスメスの仕口」加工を、大工は「刻み」という技能で行ってきましたが、近年では90%以上、「プレカット工場での機械加工」に依頼し、自らが刻み加工する事は殆どありません。既に大工は、「刻み技能」と縁を切り始めているのです。さらに、この刻みとは、加工する断面を欠損させるという特徴があります。オスとメスに刻むとは、削り取って一体化する事を意味しており、この欠損が接合強度の低下を招いているのです。大型パネルでは、欠損を出来る限り起こさないために、「金物接合」を用いて、強度低下を防いでいます。

一体化するために欠損を作るオスメスの仕口とは、刻みという伝統を守る技能である一面と、耐震性能の弱体化という一面も持っているのです。大型パネルでは金物を、補強ツールとして欠損断面を減らす事、精度向上を果たす事の二つの機能強化を狙って採用しています。在来木造を進化させようとしているのです。

 

その前提条件の中、モックさんは、大型パネル事業への参加を決意したのです。大型パネルとの親和性において、集成材の方が優位で、無垢材は寸法安定性に欠けるとの、不利な条件を理解した上で、「無垢材金物接合」大型パネルに挑戦するのです。

それは「無垢材でも精度管理は集成材並みに可能である。むしろ、大型パネル化を通じて、無垢材のパネル化という技術が、精度貢献を高める」とのチャレンジと受け取っています。パネル化する生産過程では、パネル全体を引き寄せていきますが、その保形に関わる引き寄せ行為が、無垢材パネルの精度向上に寄与する可能性が高いと考えているのでしょう。要は、パネル化で無垢材はより使いやすくなり、精度を制御できるではないかという新たなる挑戦なのです。

この仮説は、小職とモックさんの仮説に過ぎません。無垢材パネルの生産を重ねながら、データを集積させて、「個々で開放的に使うよりも、材料を引き寄せながら生産するパネルの方が、精度管理に貢献する」との結論を得たいと考えています。それは、無垢材の新境地を開拓することに直結し、無垢材価値を飛躍的に向上させるだろうと思っています。

 

また、モックさんの新工場は、意匠面の多様性にも貢献するでしょう。「現し」という木材の表面を活かした建築手法がありますが、実際の建築現場では「雨に濡れて養生が大変」、「埃や手垢が付いたら取れない」と、「現し」への作業が極めてデリケートになっており、工事は難工事になっています。大型パネルでは事前に工場で生産し、パネル全体を養生した上、施工は一瞬で完成してしまうので、「現し」という意匠表現を容易にしていくでしょう。木造建築なのに、「木が表面に出てこない」のは、工事における養生が難関の一つでした、大型パネルで払しょくされて、一般的な意匠表現に返り咲くと思われます。

 

佐伯広域森林組合に続いて、山長商店グループでも大型パネル生産が開始されますが、その導入目的は、それぞれ個別の戦略から成り立っています。その広範囲の事業目的をカバーできうる技術として、大型パネルは評価を得たのです。さらに次なる国産材企業が手を上げていく予感に満ち始めています。(参考資料1、塩地論文を引用)

 

☆おわりに

ウッドステーションの起業のとき、ある建築家は予言のように言いました。「山長が大型パネルを始めると業界は一変するだろう」。塩地さんは、今、「こんなに早く、その時がきたのか」と身が引き締まる思いをされています。塩地さんが、モックさんの大型パネルへの参入で進展するだろうと見ているのは、以下のような処です。

(1)無垢材が価値を増してくる

(2)現しという木材の木肌を見せた意匠価値が簡便にできる

(3)パネル工場が大工の集まれる場所になる

(4)高齢大工が長く働ける

(5)日本各地の国産材企業が一斉に大型パネル事業への参加を検討し始める

いよいよ、これは凄いことになります。(椎野 潤記)

 

参考資料

(1)塩地博文著:「大型パネル事業の進展」〜山長商店も続く、2021年11月16日。

 

[付記]2021年11月16日。

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