椎野潤ブログ「林業再生と山村振興]林業の再生と山村復興への挑戦 対談 大谷恵理VS塩地博文 (その2) 椎野潤の教え

林業再生・山村振興への一言(再開)

2022年2月(№182)

 

□ 椎野潤(新)ブログ(393) 林業の再生と山村復興への挑戦 対談 大谷恵理VS塩地博文(その2) 椎野潤の教え 2022年2月15日

 

☆前書き

対談大谷恵理VS塩地博文(その2)を発信します。

 

☆引用

対談 大谷恵理VS塩地博文 林業再生への挑戦 (その2)椎野潤の教え

大谷恵理 塩地博文

 

塩地 : 大谷さんとの対談を続けます。(その2)では、お互いの師匠である椎野潤先生が、どんな指針を示されたのか、その具体とは何かを対談したいと思います。椎野先生は、僕の希望でした。多層的、多重的にひしめき合う建築業界で、先生の打ち出されたサプライチェーンの思想性は、輝く松明でした。商流などと称して、古き因習がひしめき合い、「誰がどんな責任範囲で仕事をしているのか」「何の役割を果たしているのか」と悩まされる複雑怪奇な取引形態に、深くため息をつく毎日でした。「貧しさ分割流通」とさえ思った時期もあります。

 

大谷 : 私は、木材団体の職員として働きました。それは林業や林産業の実務経験の無さを少しでも埋めたくて、申し出を受けたのです。そこで見たものは、民間企業とは真逆とも思える事務作業の在り方です。林業が活況を呈していた時代の、組織、団体、事務の在り方がそのまま残り、未だにFAXが重要な通信手段です。個人はスマホを持っているのに、日常取引の見積もりや発注、会合の案内や返信にも、メールでなくFAXを利用する事業者が少なくありません。それと、団体の数や種類の多さにも驚きました。国産木材が隆盛だった時代に比べて、売上も従業員数も激減しているのに、管理組織や幹部はそのまま残っているのです。更に組合、連合会といった上部組織も省庁OBを含む高齢者が多く、業界全体の非効率性を象徴しているようです。厳しい言い方をすると、個人や法人の事情を優先させ、業界全体の刷新は後回しにしている気がします。

 

塩地 : 椎野先生とのご縁は、書籍だけでした。僕は読者の一人に過ぎませんでした。サプライチェーンとは何か、その思想に突破口を求めたのです。その憧れであった、松明であった椎野先生から、直接お電話を頂いたのは、ウッドステーションを起業して直ぐの事でした。あの日の興奮は今も鮮やかな記憶です。昨年、大谷さんから、木材の流通改革を理解したいとの相談を受けた際、迷わず椎野先生をご紹介しました。

 

大谷 : 初めて塩地さんに椎野先生を紹介された時、先生のお名前すら知りませんでした。椎野塾の事務局長という大役を頂き、先生の著作にも触れていく度に、サプライチェーンという考え方の深さを知りました。また、椎野ブログの読者には多くの有識者がおられて、最初はメールのやりとりだけでしたが、何人かは実際にお会い出来たりと、多くの知的な刺激を受けました。中でも酒井秀夫東京大学名誉教授から頂いた、私の拙文「佐伯広域森林組合の成長の軌跡」に対するご感想は、大きな宝物です。改革に後ろ向きで、問題を認識しているのに、長年それを放置している国内林業の流通改革の遅れ、それは私を鼓舞し、変革のために自ら立ち上がろうという意欲が生まれました。

 

塩地 : 椎野理論は、複数が絡む企業取引を、その上位概念として冠に仮想企業を想定します。企業を部門として扱うのです。社内の部門取引なら、情報を共有化して、社内手続きを簡略化しようとします。業務改善を図らないと、人件費比率が右肩上がりになってしまうからです。この思想を突き詰めると、「連結経営」と考えられるのです。資本上の関わりが無いに関わらず、取引相手と連結でデータ交換を行い、相互の内部コストをスリム化します。上場企業の様に会計基準の標準化が進むと、データ品質の統一性が向上し、連結取引、ひいては連結経営に繋がりやすいのです。ただ、木材の場合、そして国産材の場合は、小口事業者が多く、家業者も多い。会計基準の統一性や標準化、品質基準の属人性などがサプライチェーンを阻むだろうと想定していました。そして、何よりも「木材市場」というアナログ取引が、大きな障害になると思いました。

 

大谷 : 先ほども言いましたが、活況を呈していた時代から、既に数十年の月日が流れています。林業従事者の数は減り、手足は衰えて弱まっているのに、頭でっかちの体制は不変です。森林の活用を先端産業にしたいなら、時代に合わせた組織の廃止や統合、再編を進めるべきなのです。全体最適の体制をつくるには指揮官が必要ですが、その改革にサプライチェーンの思想は最も有効で、バイブルとなると思っています。

 

塩地 : 椎野理論は、極めて先鋭的なのです。巷間言われている「新しい資本主義」そのものと思います。仮想企業を作るとは、現実企業を削除すると同義です。経営者という要素、資本家という要素を除けば、企業取引はシームレスに透明化し、連結していきます。現実企業の経営者と資本家を削除して、無限に連動する取引を実現し、それを仮想企業が統治する。これは、統治の否定でもあり、積極的な肯定でもあるのです。サプライチェーンの先鋭的な思想性は、経済の枠も飛び越えて、政治の世界まで進出しています。ある意味では、国家の喪失、世界政府の樹立とも繋がって行きます。椎野理論は、平和への道筋です。椎野塾の事務局長にお尋ねします。これは言い過ぎでしょうか?(笑)

 

大谷 : 椎野先生は、サプライチェーンの目覚めを辛抱強く待っておられます。例えその目覚めが高い水準でなくても、良い所を見つけ出しては褒めようと、ニュースや新聞にくまなく目を通す日々を過ごされています。新しい芽を見つけ出し、それを慈しむ日常を過ごす椎野先生は、企業体質を強化し、海外に負けない競争力を身につけて、その利益を若い人たちへ、豊かな国土へ還していく事を望まれています。その永続的な成長力が、平和に繋がる道だとお考えなのだと思います。

 

塩地 : 椎野理論は、木材市場のデジタル化を促しています。それはリアル木材市場が、サプライチェーンの障害になっていると帰結していきます。リアル木材市場を通じると、デジタル化は切れてしまい、トラック輸送は蛇行して、最終目的地を見失います。リアルな木材市場が無くなると、木材は直進性を増します。生産現場から施工現場にどんどん直行していくのです。直行すれば、仲介業者、仲介手数料、トラック輸送費、積み込み荷降ろし費、それをデータ化する入力費(人件費)なども消えていきます。この直進性ほど、サプライチェーンの力強さを示す指標はありません。すなわち、椎野理論とは、木材の蛇行性を忌避し、直進性を高める事を推奨しているのです。僕は、その直進性を建築分野まで伸ばす、木材流通に留まらず、建築部品の製造販売まで延長する事業として、大型パネルを開発するに至ったのです。

 

大谷 : 大型パネルを初めて知った際、その建築データが森林と一体になると教えて頂きました。それは将来、森林が直販される事だと気づいたのです。現状、木材は消費者に届くまで、いくつもの階層、沢山の事業者の手を経て流通していきます。ですから、野菜や果物のように、生産者の顔が見える直販は無理だと誰もが思ってきました。その構造は無責任体質を生み、JAS材と銘打ちながら、結束を解くと中に粗悪な製品が混じっている、という事が普通に起きるのです。それは、伐採や製材された時に、どこに使われるのか、いつ使われるのか、どんな大きさが必要なのか、誰が買ってくれるのか、事前にわからないために、起きてしまっています。仲買が悪ではなく、需要情報が分からない事が悪なのだと思ました。大型パネルのシステムを取り入れれば、いつだれがどこでどんな断面の木材が必要なのか、事前に知る事ができ、大幅な流通過程の短縮に繋がります。そして消費者まで繋がると、木材を最大価格で販売できます。中間流通の経費はなくなり、価格は最大化するのですから、確実に儲かります。長い間、国内林業は儲からない為に、補助金に依存していました。補助金は林業の産業化を阻み、自立性を歪めてきたのです。それが大型パネルの導入によって儲かるなら、国内林業は大きく変わっていくと思います。

 

塩地 : 椎野理論を突き詰めると、最終的な受益者は生活者になります。企業の独自性から生み出されるノイズを極小化し、それを価格競争力に転嫁した上で、産業構造全体を成長させ、海外との競争力を強化します。強化された価格、品質は海外への輸出力へと転換されるのですが、国内市場に目を転じると、その恩恵は消費者、生活者への豊かさに繋がるべきと思われます。サプライチェーンとは、新しい資本主義そのもので、富が偏在しやすい資本主義を修正しています。また、このサプライチェーンは、水膨れすればするほど、危険度を増してしまいます。地域地域に相応しいコンパクトで小さなサプライチェーンを作る事は、リスク回避策でもあります。日本にある数少ない資源で、それが各地に存在している森林は、この理想的なサプライチェーンの最大の有力事業だと思います。その成功の可否を握るのは、地元で暮らす生活者、地域住民なのです。その方々を味方に出来た時、その方々から支持を頂いた時、国産材サプライチェーンは大きな輝きを放つと思います。

 

☆まとめ

塩地さんは、以下のように述べておられます。「多層的、多重的にひしめき合う建築業界で、先生の打ち出されたサプライチェーンの思想性は、輝く松明でした。商流などと称して、古き因習がひしめき合い、「誰がどんな責任範囲で仕事をしているのか」「何の役割を果たしているのか」と悩まされる複雑怪奇な取引形態に、深くため息をつく毎日でした。「貧しさ分割流通」とさえ思った時期もあります。」

でも、私は、以下のように考えているのです。日本は国土が小さく、人口が多い江戸時代に、多段階の流通構造を作り、それぞれのプレーヤーが利ザヤというおこぼれを得ることで、皆が生きられる社会を作ってきたのだと思います。そのために足元の生産者が貧乏にされて搾取されたのだと思います。本当は、消費の需要に近いところで販売をみずから行うことが、利益を生んでいるのに、本当に残念です。このことに、皆が気がついて、いち早く改革に取り組まねばなりません。

 

大谷さんは、以下のように述べておられます。「私は、木材団体の職員として働きました。そこで見たものは、民間企業とは真逆の事務作業の在り方でした。林業が活況を呈していた時代の、組織、団体、事務の在り方がそのまま残り、未だにFAXが重要な通信手段です。個人はスマホを持っているのに、日常取引の見積もりや発注、会合の案内や返信にも、メールでなくFAXを利用する事業者が少なくありません。それと、団体の数や種類の多さにも驚きました。国産木材が隆盛だった時代に比べて、売上も従業員数も激減しているのに、管理組織や幹部はそのまま残っているのです。」

これは、江戸時代の時代特性にあわせて作られた体制が、たまたま、そのまま残ってきたために、一緒に残ったのです。大谷さんは、また、以下のように述べられています。「森林の活用を先端産業にしたいのなら、時代に合わせた組織の廃止や統合、再編を進めるべきなのです。全体最適の体制をつくるには指揮官が必要ですが、その改革にサプライチェーンの思想は最も有効で、バイブルとなると思っています。」

 

私は、以下のように考えます。ここで、まず必要なのは、「人である指揮官」ではなく、その「思想」です。サプライチェーンは、多くの人が集まった「組織」ですが、それを「人」として見るとよいのです。そして、ここで私は「サプライチェーン」が「思想」を持つと考えることにします。いま、この時、各地に、俄かに「サプライチェーンさん」が湧出すると思いますが、各地の「サプライチェーンさん」の「思想」を照らし合わせてみます。すると、改革を進めようとしている「モノ(ひと)」と、改革は進めないのとは、すぐ、区別がつくでしょう。

ですから、そこで、「改革を進めるサプライチェーンさん」が集まって、共同で改革をはじめれば良いのです。こうすれば、塩地さんの言われる「統治の積極的な肯定」が自然に生れます。「統治の積極的な肯定」の思想を原点に持つ「サプライチェーンさん」の行動は、結果として直進性集団になるでしょう。直行すれば、仲介業者、仲介手数料、トラック輸送費、積み込み荷降ろし費、それをデータ化する入力費(人件費)などは消えていきます。

このような現象が続々と出てくるようになれば、これはサプライチェーンの改革における力強さの指標になるでしょう。塩地さんは、これを木材流通に留めず、建築部品製造販売まで延長する事業として、大型パネルの開発に飛び込んだのです。ここでは技術としては、デジタル化が普通になって行きます。直進化思考の「サプライチェーンさん」達は、デシタル化が進めば進むほど、仕事は楽になり、儲かるからです。

 

日本では、労働人口が急速に減っていくことが分かっています。ですから、江戸時代からの知恵は知恵として、今の時代に合ったものに変えていくことが、凄く大事です。

たくさん人の手を介するこれまでの生産・流通・販売のやり方から、人手をできるだけ介さないやり方へ変えないと、誰もが利益(おこぼれ)を得られなくなる心配があります。この危うさを皆が感じることが、とても必要です。

ここでは、自分のおこぼれだけを守ろうとするエゴは、みっともない行いだと自分が感じることが出発点です。自分がこれに気がつくと、周囲のひとたちも、これに気づいてもらえるでしょう。

今の厳しい社会の中で、身を守っているエネルギーを、社会を新しい姿に変えるエネルギーに変換していかなければならないと思います。団体の役割も、自分たち業界の利益を死守するのではなく、今の時代に合った利益を得られるように業界を開いていくことにあるように思います。これが、私の意見です。

 

もう一つ、働く人の居場所の確保が重要です。サプライチェーンで果たす生身の人の役割を明らかにしてあげないと、みんなは安心できないと思います。人手のかからないやりしたに変えていくと仕事がなくなると、みんな、心配になりませんか。でも、そんな心配はないのです。

塩地さんは大型パネルの事業を立ち上げる際に、大工さんの仕事を「構造を組み立てること」から「大工技術を活かす造作中心」にすることを提案されました。

大工さん達にも、新しい時代の到来を期に引退してもらうのではなく、木材サプライチェ―ンの中での新たな活躍の場所を提供してあげる必要があります。塩地さんは、そこをとても心配して力を入れていたのです。

 

私は、大工さん達ばかりでなく、みんなに、日本社会が良くなるようにエネルギー使ってもらう居場所を、示してあげたいのです。それは地域の需要や個々のサプライチェーンに応じて付加価値が高まるような役割です。仕事量に余裕のでできた方々の新しい仕事を、皆で考えて創出しましょう。新しい時代には、新しい様々な仕事が必要になります。

 

私は、次回のブログで取り上げる伊佐ホームズの「サプライチェーンさん」の現場を歩いてみると、沢山ヒントが見つかる思っています。皆さん、歩いてみてください。

 

参考資料

(1)大谷恵理、塩地博文著 対談大谷恵理VS塩地博文 林業再生への挑戦 (その2)椎野潤の教え、2022年2月6日

 

[付記]2022年2月15日

 

 

 

[追記 東京大学名誉教授 酒井秀夫先生の指導文]

[指導を受けたブログ名:林業の再生と山村復興への挑戦 対談 大谷恵理VS塩地博文(その1)外から見た林業の世界、 2022年2月11日]

 

大谷恵理様

 

ブログ配信ありがとうございます。

今回から塩地さんとの対談が始まりました。ワクワクしています。

 

林業は、よく言えば伝統的で、自然を背景に環境や生活、文化など、いい面が語られますが、悪く言えば閉鎖的、保守的、時代の取り残されであり、外から見ると産業としてどう見られているのか大変興味があるところです。

大谷さんの、先導者がいない、指示待ち、受け身の体質というのは、まるで長槍で急所を突かれたようなご指摘です。

木材は生活に欠かせないものであることから、今まではそれでも済んでいました。

林業のサプライチェーンはブラックボックス同士でおつきあいしていました。ブラックボックスの中身自体も知らない当事者自身もおられるかと思います。共通言語もなく、あいまいなまま進んできました(これからデジタル化、情報化が進んでいくとこのあいまいさは排除されていくと思います)。

塩地さんのあいまいさをまとった商流がサプライチェーンを避けている、大敵となっているというご指摘は、理由をつけて何もしない林業界のサボタージュであると思います。そこを椎野先生はそういう人たちはすごいエネルギーを持っておられると喝破しておられます。いつも時代の終わりは、平安も鎌倉も室町も江戸も下剋上、新興勢力があり、息詰まった社会を変えた革命児が生まれました。

お二人のこのままではいけない、何とかしなければいけない、という思いが伝わってきて、それが林業関係者よりも強く、コロナ禍のこのタイミングで光っています。

次回楽しみにしています。

 

酒井秀夫

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