林業の再生と山村復興への挑戦 対談 大谷恵理VS塩地博文 (その1) 外から見た林業の世界

林業再生・山村振興への一言(再開)

 

2022年2月(№181)

 

□ 椎野潤(新)ブログ(392) 林業の再生と山村復興への挑戦 対談 大谷恵理VS塩地博文(その1)外から見た林業の世界 2022年2月11日

 

☆前書き

楽しみにしていました大谷恵理さんと塩地博文さんの対談が始まります。私がブログで書いてきた「林業再生と山村復興の挑戦」について、深く話し合って下さるとのことです。この上ない楽しみです。

 

☆引用

対談 大谷恵理VS塩地博文 林業再生への挑戦(その1)外から見た林業の世界

大谷恵理 塩地博文

 

塩地 : ウッドステーションの代表を務めています塩地です。椎野ブログにおいて、「佐伯森林組合の成長の軌跡」と称して、本日対談して頂く大谷恵理さんに、大型パネル事業の地域展開をレポートして頂きました。その大谷さんと、椎野ブログの掲げる大テーマ「林業の再生と山村復興への挑戦」を、語り合ってみたいと椎野先生にご許可を頂き、本日対談させて頂く運びになりました。

 

大谷 : 私は、旅行会社に勤務していました。その仕事は主に経理や営業管理業務で、林業にも林産業にも全く無縁の生活を送ってきました。それがあるきっかけで、林業の世界に強く惹きつけられ、ライフワークと思うまでになりました。そのご縁で椎野先生に出会い、椎野塾の事務局長も拝命したりと、なんだか今でも夢の中にいるようです。

 

塩地 : 椎野先生とのご縁は、(その2)で改めてお聞きするととして、今日は偶然にも林業や林産業に関わられた経験を通じて、旅行会社を始めとする一般的な企業と何が大きく違うのか、そこから対談を開始したいと思います。

 

大谷 : 旅行会社は定年まで勤務しましたが、その間も15年以上、林業に関するセミナーの受講や関連団体での活動を続けてきました。家づくり体験塾、林業塾での学び、多くの書籍などを通じて、国内林業の厳しい実情を知ることになりました。旅行会社の後は、直接現場の実態に触れたいと木材団体勤務も経験したのですが、一般企業との違いで、大きな違和感を感じたのは、現状の大きな課題を認識していながら、果敢に立ち向かって変えようとする雰囲気がなく、先導者もいないことです。森林事業から利益を得ているにも関わらず、木材業者は森林価値の向上に正面から立ち向かっていると思えませんでした。一般企業では、自由競争の中、行政から規制を受けたり、指導を受けたりと、自由な企業活動を制約されるのが通常の行政と企業との関係です。しかし、林業や林産業は、行政の指示待ち、もしくは行政に頼るばかりで、自らの領域を広げようとしない受け身の体質のようです。むしろ行政と企業が一体化しているのではとさえ思えました。

 

塩地 : 僕と木材の関わりは、ある住宅会社から「国産材でサプライチェーンを組んで欲しい」との依頼がきっかけです。国産材も海外材も何も知らない、加えて木材取引の基本知識さえない状態からのスタートでした。先ず、何もかもが「ハッキリしてない」との印象を受けました。品質、受け渡し基準など、取引を円滑に完了するための合意が不明瞭との印象でした。勢い、言った言わない、合ってる合ってないと、泥沼化しやすくなります。厳しい言い方をすると、「信用」という言葉の軽さが目につきました。「天然品だから」という逃げが底流に流れていそうです。

 

大谷 : そんな中、業界紙や研究会の中で、「大型パネル」を知り、塩地さんと出会うことになりました。私が、「国産材改革の出口戦略を本気で考えている」と伝えた際に、「椎野先生の元を訪ねたら」と紹介いただき、椎野先生に直接お会いする事が出来たのです。木材市場を通じる事で、サプライチェーンが途切れる事、合法性確認などのトレーサビリティーが難しくなる事などを深く知ることになりました。この椎野理論を知った時、このままでは国産材は大きく取り残される、人生の目標にしてきた森林の復活はままならない、もしかしたらバイオマス燃料になってしまうと、かねてから心配してきた懸念がより現実味を帯びました。バイオマス発電などを知るために、ボイラー技士二級の免許まで取得して、知識を深めてきましたので、恐ろしい現実がよりリアルに迫ってきました。そこで、再び塩地さんを訪ねて、大型パネルと国産材は一体化出来ないのかと、是非一体化して欲しいと迫ったのです。そこで、「では佐伯広域森林組合に行きませんか。自分の目で見てみてください」と言われて佐伯を訪ね、新しい改革の萌芽を目にしました。その感動は椎野ブログに掲載した通りです。

 

塩地 : 木材が天然品であるとは、紛れもない事実ですが、天然品だから「銘木」と言われる、高級品も生まれてきます。天然品を言い訳にして、品質、供給に無責任になってしまうなら、天然品利益のみを受け取り、天然品リスクを不可抗力として、産業責任を果たせていません。もう一つは、責任分担が不明瞭な自称仲買人が、数多く存在しています。商流という不定義な介在者は、サプライチェーンの大敵の上、品質責任を不明瞭にしています。佐伯広域森林組合には、「仲買を一切外す。消費者のギリギリまで迫る。木材の付加価値を最大化する。そのためには大型パネル化する事だ」と、技術移転を行いました。多くの苦労がありましたが、やっと順調に進んでおり、その様子を大谷さんにレポートして頂きました。その際には、敢えて僕は大谷視察には同席せず、別の旅程でその場を離れました。大谷さんご自身の目で見たままを評価してもらいたかったからです。

 

大谷 : 佐伯広域森林組合の話は重複するので、ここでは詳細を省きますが、一言だけ言えば、「全員で明日を作っている」姿に感動しました。一般企業では、今日の収益を上げる一方で、明日のために、人材、設備、システムなどに投資していきます。明日を生み出さなければ、企業の継続は見込めません。企業が存続していくためには、明日を作りだすことが、今日の収益をあげることと同じ価値、いえそれ以上の価値を持ちます。行政の指示待ちや、大きな声の人の指示、話題になった手法のコピーを待っていては、明日の種はどんどん消え去ってしまいます。伐採という収穫に時間のかかる林業でも基本は同じです。絶え間ない不断の努力が、明日を生み出します。椎野理論を学んだ今、私は、「林業には経営継続のサプライチェーンが乏しい」と感じています。サプライチェーンとは、モノの売り買いだけではありません。経営の連続性も重要なのです。絶え間なく継続されていく経営こそ林業にもっとも必要で、それは「全員で明日を作る」事だと思うのです。

 

塩地 : 結論めいてますが、僕は木材業界はサプライチェーンを避けている気がしています。サプライチェーンが最も効力を発揮するのに、いやそれを知っているからこそ、サプライチェーンを避けていると思っています。すなわち、人為によるサプライチェーン化への遅延行為だと思われるのです。木材資源は地上資源であり、目視資源とも言い換えられます。従って、資源量が捕捉できるのです。捕捉可能な資源を有しながらも、その生産・流通は、各駅停車のアナログ列車。多層的で多重的な利害関係者が介在して、取引をただただ複雑化し、責任主体を明確にしません。明確にしないための共通語は、「天然品だから」という隠語に近い慣用句です。外から木材の世界に入ってみて、その言葉が木材業界の真の課題を表していると思いました。

 

大谷 : 今日だけの事業は、林業の大敵です。林業こそ、子孫のために明日を育てる産業なのですから。林業に従事する人は、もともと少ない上に、高齢化で更に減少しています。従事する全員が力を発揮する、いわゆる全員野球だけが、林業再生の道だと思います。佐伯広域森林組合で見た「全員で明日を作っている」姿は、日本各地でいつでも、今日からでも始められます。大型パネルでもたらされる利益は、その取り組みの原資になるでしょう。この佐伯スピリットを日本各地へ広めていけばいい、それが私の見つけ出した林業再生への糸口なのです。

 

塩地 :では、次はサプライチェーンの本家、椎野潤先生の教えから、学んだことを話し合ってみたいと思います。

 

 

☆まとめ

この対談を読んでいて、私は「椎野潤ブログ」という名の「人」が「塩地×大谷=対談」という「人」と対談している気持ちになりました。すなわち、私が人生の最終期を迎え、日々ブログと苦闘している自分の姿の実像を、垣間見たと思ったのです。今日は、これを書くことにします。

 

大谷さんは「林業・山村関連の企業と一般の企業との間で、違いが大きいと感じたのは、「現状の大きな課題を認識していながら、果敢に立ち向かって変えようとする雰囲気がなく、先導者もいないことです」と、言われていました。それは日本は島国で、この産業・業界が、「立ち向かう雰囲気がなくても」「先導者がいなくても」、生きていけたからだと思います。

 

新型コロナがやってきて、日本と日本人は、これまで営々と築き上げてきた大切なものの多くを壊されました。ここで日本人が失ったものはとても大きかったのですが、助かった点も、また、大きかったのです。

コロナは長い間、日本列島に居すわっていた「立ち向かう雰囲気がなくても、先導者がいなくても生きていける」長閑な環境を吹き飛ばしてくれたのです。すなわち、日本人が改革を進めようとすると、常にたちはだかっていた高い壁を、打ち壊してくれました。

 

大谷さんは、流通が木材市場を通ることで、はからずも、サプライチェーンが途切れることに気がつきました。この木材市場は、江戸時代から続いていた、木材の売り買いを安定させる装置でした。でも、これは林業から製材をへて家作りに至る「モノ」の流れ、金銭の流れ、取引の流れ、情報の流れを一時停止させていたのです。

 

塩地さんは、林業・山村社会には、責任分担が良くわからない人が大勢いると指摘されています。残念ながら、その人達のなかには、日本全体が進めている改革の障害になっている人もいるのです。この人たちは、その能力は、とても鍛えられています。この人たちのエネルギーは、凄いものがあるのです。この人たちは、これまで林業の発展と成長を支えてきた人の一人だからです。

 

でも、今、時代が急変しています。日本国は、いままでとは違う次世代社会へと、急速な転移が求められています。その急速な国の転移に、自分がブレーキをかける力の一部になっているのに、まだ、気がついていないのです。

すなわち、取引先と駆け引きをしたり、ライバルの裏をかく作戦とかに凄い能力を発揮している日常の仕事が、国の改革へのブレーキの一部として働いていることに、まだ、気がついていないのです。また、その能力、エネルギーが、サプライチェーンで繋がって、全ての利益になるようにするのが、地域、林業・木材産業の成長にとって大切であることにも、気がついていない人がいるのです。

 

ですから、日本の林業・山村を支えてきてくれた、エネルギーのある人たちに、サプライチェーンで結んで次世代に向う道へ、方向転換してもらうのが、今、なによりも大事なのです。塩地さんと大谷さんには、今、なすべきことが明瞭に見えてきたようです。この討論で、現状と対策が明確になってきました。

 

この私は、新聞記事を読んで、日本が未来に向けて良い方向に進むように、また、それが永続していけるように、積極的に推進している自治体や企業の事例を取り上げ、その背中を押そうと考え、ブログを書き続けています。この討論が湧出してくれる知見で、私のブログは、これからも、さらに一層、具体的な姿と対策を浮かび上がらせることが出来るでしょう。

私は、林業・山村改革の出口を、日々、探し求めていますが、なかなか明瞭には解りません。でも、長いトンネルの出口の光は、いよいよ、見えてきたと感じています。ようやく、チャンスが到来しました。次回の討論が、ますます、楽しみになりました。

 

参考資料

(1)大谷恵理、塩地博文著:対談大谷恵理VS塩地博文 林業再生への挑戦(その1)外から見た林業の世界、2022年2月1日。

 

[付記]2022年2月11日。

 

 

 

[追記 東京大学名誉教授 酒井秀夫先生の指導文]

[指導を受けたブログ名:次世代産業社会の完全自動実験を革新の起爆剤に、 2022年2月8日]

 

大谷恵理様

 

ブログ配信ありがとうございます。

 

ロボットは、無数の組み合実験とか繰り返し実験などは得意と思います。

ヨーロッパの大学の土木工学科などでは、土質実験などは、学生実験用、大学院・研究用、学内共同利用用とレベルに応じた施設を取りそろえています。高額な機械は、学内他学部と共同利用していましたが、これからインターネット回線でさらに利用範囲が広がると思います。これは予算の効率的配分にもつながります。また、大量に実験処理ができますので、工事現場からの依頼などにも対応して収入源にもなっています。

さて、森林組合でも、帳簿のデータから、AIを使って木材の価格変動やコストなどの法則性や異常値を発見することが容易になるでしょう。育種の遺伝子解析などもAIは得意だと思います。

林業機械も、カメラとセンサーで現場をデジタル化し、オフィスから自動運転または遠隔操作ができるようになると思います。最初は人間が操作していてもやがて機械が学習して半自動化していくと思います。

椎野先生が予言しておられたように、自動車の自動運転や空飛ぶタクシーも実用の域に入ってきましたね。

 

酒井秀夫

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