☆巻頭の一言
私が楽しみにしていた、塩地博文さんの統括論文が発表になりました。私は、塩地さんに、最近数年間で述べられてきた塩地理論の「総まとめ論文」を、書いて欲しいと要望していました。それが三連載ブログとして実現しました。題して、2022年の「初夏の総まとめ論文(その1〜3)」です。
林業再生・山村振興への一言(再開)
2022年6月(№215)
□ 椎野潤(新)ブログ(426) 林産複合体企業を目指せ〜港湾から森林へ生産場所の遷都(その1) 2022年6月10日
☆前書き
このブログは、塩地博文さんの2022年初夏総まとめ論文(その1)「林業再生と山村振興]林産複合体企業を目指せ〜港湾から森林へ生産場所の遷都です。
☆引用
塩地博文著 初夏総まとめ論文(その1)「林業再生と山村振興]林産複合体企業を目指せ〜港湾から森林へ生産場所の遷都 2022年6月10日
[林産複合体]林産複合体とは、聞きなれない言葉だと思う。筆者が勝手に名付けた言葉である。複合体という言葉から、軍産複合体を想像する読者も多いだろう。軍需産業を中心として、私企業、軍隊が絡み合い、政治的または経済的な勢力が結集する様を、また、その圧力をも指している。今や、大学などの研究機関も加わり、更には情報産業も加わり、軍産学複合体と進化している。
ここで、その是非を問う事はない。また、森林を中心とする林業・林産業が平和を証する産業である事も、そこから派生する住宅産業等も平和産業の延長線にある事も、疑う余地もない。
では何を言いたいのか。それは分業が進み過ぎた林業・林産業のままでは、個々の事業成立のために、その利益獲得の内部圧のために、「森林は永遠に買い叩かれる」と警告を発したいのである。それを防ぐには、サプライチェーンの強化では足りない、分業された機能を一気に集約すべきと言いたいのである。
戦後の日本の木材産業は、港湾型と定義できる。「海からやってくる木材」に対応する形で、湾岸地帯に海外木材が集積され、製材されて、建設地へと送られていった。港湾型とは、海外の木材をいかに効率的に生産するかに焦点が当てられていた生産シフトを指している。
加えて、河川を使った木材運搬の歴史が、河口部に木材業者が多数存在したことが港湾型を加速したことは間違いない。しかし、建設地での刻み加工では、雨天の影響、加工場所の確保困難等と課題が山積しており、スピードと品質を重んじる近代的な建設方法には馴染まない。そこで、プレカットという加工事業が隆盛し、建設現場では組み立てるだけというスタイルが確立した。
この港湾型インフラの構えは、この30年間のプレカット加工業の隆盛で、少しづつ変質している。プレカット業の隆盛は、消費地(建設地)への近接の方が、輸送コストが低くてすむ。すなわち、港湾型より消費地近接型の方がコストメリットが高い。「海から陸へ移動し始めている」と考えられる。
国産材は、その港湾型インフラ整備の蚊帳の外にあった。まとまった物量に乏しい国産材は、港湾型には馴染まない。長く低迷してきたが、伐採期の到来と、プレカット業の隆盛に伴う内陸型へ生産シフトが進み、徐々に存在感を高め始めている。この結果、国産材比率は次第に上昇に転じており、存在感を増している。加えて、昨今のウッドショックと欧州での争乱は、海外材が入手できない事態を暗示し始めた。それは、港湾型林産業の終焉とも考えられるのだ。
国産材が主役となる林業林産業の未来予想図は、港湾型の「物量を背景とする」供給体制から離脱し、「情報を背景とする」供給体制への変化でもある。これは、森林のオンディマンド供給(注1)であり、木材のジャストインタイム供給(注2)を指す。林業地に近接した場所で、消費地をカバーする場所で、一気に建築部品まで組み立てる「木造プレファブ工場」を作り、分業生産から統合生産へ切り替える事が求められている。
分業生産とは、生産に関わるリスクの分散でもある。リスクを分散するということは、言い換えれば、「売り買い」を多発することであり、「所有権を限りなく移転し続ける」行為でもある。ここでは100キロメートル圏内で売買されるのに、多数の仲買人、多数の分離事業者、市場、輸送業者などを経ている。そうなれば、付加価値は分散し続け、その低付加価値は、「森林を永遠に買い叩く」圧力のマグマとなる。
これは「山林価格で帳尻を合わせる」という生活習慣病でもある。森林を中心とする「林産複合体」を結成して、付加価値の集約と、オンディマンド生産(注1)の徹底で、価値を逃がさない生産体制への変化を始めるべきである。
軍産複合体が暗黙の内に醸成された歴史を見ると、そこには共有の敵がいたことが解る。すなわち、林産複合体を結成するのには、相応しい敵がいるのである。それは「気候変動」である。森林の炭素固定能力を最上位に置く、生産体制への変化こそ、その敵への備えなのである。木材供給の価値順位を、物量から情報へ、炭素拡散から炭素固定へ、港湾から内陸さらには森林へと、シフトすることは、人類の最大の敵かもしれない気候変動への対応と思えるのである。
生産場所を遷都せよ。
港湾型から森林近接地型への生産シフトとは、海外材から国産材主語への移行そのものであり、掛け声ばかりでは国産材は主役の座を射止める事は出来ないだろう。(塩地博文著 初夏総まとめ論文(その1)林産複合体企業を目指せ〜港湾から森林へ生産場所の遷都)
☆まとめ
塩地博文さんは、この論文の中で以下のように述べられています。
国産材が主役となる林業林産業の未来予想図は、港湾型の「物量を背景とする」供給体制から離脱し、「情報を背景とする」供給体制への変化です。
ここにおける供給は、森林において、利用者の要求に応じて供給する「オンディマンド供給」です。これは「必要な時に、必要なモノを必要な量だけ供給する木材のジャストインタイム供給でもあります。
これはさらに、林業地に近い場所で、消費地をカバーする場所で、一気に建築部品まで組み立てる「木造住宅(部品)生産工場」を作り、分業生産から統合生産へ切り替えることです。
これまで行なってきた分業生産は、生産におけるリスクの分散のために行ってきたのです。リスクを分散するということは、「売り買い」を多発することです。すなわち、「所有権を限りなく移転し続ける」行動です。
ここでは100キロメートル圏内で売買されるのに、多数の仲買人、多数の分離事業者、市場、輸送業者などを経ているのです。ここでは、付加価値は分散し続け、その低付加価値のもとで、「森林を永遠に買い叩く」圧力が燃え盛ることになります。これは「山林価格で帳尻を合わせる」という生活習慣病でもあるのです。
今、ここで、森林を中心とする「林産複合体」を結成して、付加価値を集約し、オンディマンド生産を徹底させ、価値を逃がさない体制へ改革しなければなりません。(塩地博文論文の要約)
ここまで書いてきて、私は、以下のことに気がつきました。
軍産複合体は、これまで、粛々と醸成されてきました。その歴史を見ていきますと、そこにはなにか敵がいたことが解ります。
すなわち、今、林産複合体の結成が切迫して求められている時代背景の中では、それを強烈に求めている地球規模の敵がいたのです。それは「気候変動」です。
今、人類が強力に推し進めようとしている「森林の炭素固定能力を最上位に置く、生産体制への変化」は、その敵への備えなのです。木材供給の価値順位を、物量から情報へ、炭素拡散から炭素固定へ、港湾から森林へとシフトすることは、人類の最大の敵である気候変動への対応にほかならないのです。
日本は長い間、気候変動への対応で、常に苦戦してきました。これまで、地球温暖化防止に対する対策は、いつも掛け声ばかりだったのです。最近、ようやく、進むべき目標は、垣間見えるようになりましたが、具体策となると、企業は常に躊躇して、常に先進国に遅れをとってきました。
私は、この日本の未来について、心配し続けてきましたが、この塩地論文を読んで、大いなる自信を持ちました。
ここで日本人は、地球温暖化防止対策で、世界で一番の民族になれるのです。それは、林産複合産業を熱心に推進する民族になれば良いのです。具体的には、港湾型の「物量を背景とする」供給体制から脱出し、「情報を背景とする」供給体制へ変化させれば良いのです。林業地に近接し消費地をカバーする場所で、一気に住宅(部品)まで組み立てる「木造プレファブ工場」を作り、分業生産から統合生産へ切り替えれば良いのです。
こうして、森林を起点とする統合生産を国家的に確立できるようになれれば、世界一は実現できるのです。でも、これは「産業」を変換するだけでなく、国民の深い理解を進め、国民を広く変身させていく必要があります。でも、国民の理解が深く進めば、日本国と日本人は、世界の気候変動対策を牽引する存在になれるのです。
ブログ読者のみなさま、塩地論文を良く読んで、一緒に、この方向へ歩みましょう。きっと立派な社会を作れます。(参考資料1を参照引用して椎野潤が記述)
(注1)オンディマンド(on demand):「要求に応じて」という意味の英語表現。利用者の要求に応じてその都度サービスや製品を提供する方式のこと。
(注2)ジャストインタイム:「必要なものを、必要なときに、必要な量だけ」生産するという考えの生産管理システム。
参考資料
(1)塩地博文著 初夏総まとめ論文(その1)「林業再生と山村振興]林産複合体企業を目指せ〜港湾から森林へ生産場所の遷都 2022年6月10日
[付記]2022年6月10日。
[追記 東京大学名誉教授 酒井秀夫先生の指導文]
[指導を受けたブログ名:□椎野潤(新)ブログ(425) 国産材活用 木造公共施設建設(その2) 関東1都7県版 首都圏地域 善戦 2022年6月7日
大谷恵理様
ブログ配信ありがとうございます。
北関東と山梨が、全国平均を大きく上回って、木材を使った公共施設が増えているというのは朗報です。
学校や体育館だけでなく、道路設備や牛舎など、県をあげて多方面で取り組まれているとのことで心強いです。
埼玉県では、年間の目標を掲げていますが、関東全体で安定需要が生まれるようになると、木材流通も活発になっていくと思います。
東京や神奈川などの大都市では、建築工法の進化に伴って、住宅、非住宅などの木造率が上がっていけば、私たちの健康や都市部での炭素固定に大きく貢献していくと思います。今世紀半ばには、そんな森林都市に生まれ変わっていければいいですね。
酒井秀夫