☆巻頭の一言
「生きているシステム」の構築として、私が力を入れていたものに「建築市場(けんちくいちば)」があります。建築市場では「生きているシステム」で、一番重要な要素の一つである「自己組織化」を実現させ、当時、「定時運行管理方式」と呼んでいた生産管理を実施し、建築現場で働いていた職人を1/3に削減させました(参考資料1)。
この自己組織化(注2)は、2022年2月22日のブログでの「生きているものは何か」の中で最重要事項でした。今日は、これを取り上げて書きます。
林業再生・山村振興への一言(再出発)
2022年2月(№185)
□ 椎野潤(続)ブログ(396) 過去の研究(その2)建築市場研究 自己組織化 定時運行管理方式で職人たちの仕事は3倍できる 2022年2月25日
☆前書き
2001年〜2006年頃、建築市場で実施していた「定時運行管理方式」の工事管理については、2009年に出版した「建設業の明日を拓く4 実践的情報技術」と題する書(参考資料1、注1)に記載さています。ここては、これを引用してブログを書きます。
☆引用
ここで「定時運行管理方式」と呼んでいる管理は、自動化が進んでいる工場などで実施しているフィードフォワード制御(注1)の生産管理です。ここでは、一度策定した計画は、基本的に変えない管理なのです。「鹿児島建築市場」では、工事開始前に、主要9業種の代表者がCADセンターに集まって、工程会議を開催していました。ここで決めた工程は、もう変更しないというやり方をしていました。
建設現場は、雨降りなど天候の影響を受けます。ですから、木造住宅建設の60日の工程において、屋根葺きと外壁工事が完了するまでの間に、雨のための予備日を7日間とっていました。でも幸い、雨が降らないと、この管理モードでは、予定より早く終わってしまいます。それでも、次工程は決して早く着手しないのです。
これはバスの運行に似ています。バスは、道路の渋滞などを見越してダイヤを組んでいますが、道路状態が良いと、バスは早くに停留所についてしまいます。ここでバスは時間まで待って発車するのです。早く発車すると、時間に合わせて停留場にきた人が乗り遅れるからです。
このような定時運行管理方式を実施すると、職人さんたちは予定がたつようになりました。手帖を持ち予定日を書いておき、予定日に予定通り行けば仕事が出来るようになった
のです。それまでは、職人さんたちは予定がたちませんでした。予定の日を聞いていても、その予定通りに仕事が出来ることは少なく、あてになりませんでした。そのため事前に、何度も確認しなければならず、仕事の前日に現場に確認に行く必要があったのです。また、そのように準備していても、当日仕事にならず帰ることもしばしばでした。このようなことがなくなって、1つの現場の仕事が1日か2日で終わってしまう職種の職人たちは、仕事が3倍出来るようになったのです。
でもこの管理は、ITを高度に使った管理なのです。末端の職人の一人一人に至るまで、全員がコンピューターを使用することが前提でした。ここでは全員が、インターネットで結ばれており、日常の仕事においてインターネットの掲示板を用いて、毎日、情報交換をおこなっていました。これによって、現場で毎日起きていることと進捗度合いが関係者全員にわかっていたのです。
Webの情報管理システムの掲示板に、職人さん達は、毎日、翌日の仕事の予定を書き、その日ごとの完了の状況を記載していました。そして、その情報と、Webカメラの画像により、各職人さんたちは、自分がいつ仕事をすれば全体からみて最適であるかを、自分で判断できたのです。すなわち、職人さん各自の頭の中で、自分の仕事の工程は、自己組織化(注2)していたのです。(参考資料1、注3を参照して記述)
☆まとめ
ここでは、細かい日程指示を管理者が行う必要がなくなっていました。ここでは、働く人たちはコンピューターネットワークで結ばれ頻繁に情報を交換する集団に現れる自己組織化(注2)が生成していました。これにより計画した通り、実に見事に工事が進捗し、計画を変更しない「定時運行管理方式」が成立していたのです。
当時、この体制の実施の最盛期には、その活動が行われていた中心地、鹿児島県では、ほとんど全現場が、当初計画した現場の工程を一日も変えない「定時運行管理方式」を実現していました。
この実験的な改革では、仕事が早く進みすぎたときは、予定日まで、その次工程の着手を待ちました。ここでは早く進めば喜んで前に進める普通の工程管理に比べて、遥かに早く工事が完了していました。システムを生きた姿にして、自己組織化(注2)が、ずんずん現れるようにすると、仕事は、どんどんはかどるのです。みんな一人一人が、工夫をして個別改善をどんどん実施して自己組織化(注2)が、ずんずん、進んでいくようになると、
また、それをみんなが、競って実施するようになると、この人たちの集団は「生きている」状態になるのです。どんどん改革が進む空気が醸成されるのです。
このような状況になると、仕事のロボット君との交代も、とても容易になるはずなのです。20年前の、この頃は、まだ、コンピュータリテラシー(注4)が低く、あまり実施できませんでしたが、現在のAI・IoTの進化のもとでは容易にできます。これが、どんどん具体的に出来るようになれば、人手不足に悩む、これからの日本の社会では、凄く大きな戦力になるはずです。
この頃「定時運行管理方式」で実施していた仕事は、小規模企業、零細企業、個人企業で働く熟練職人の手仕事でした。建築の木造住宅作りでの現場改革でしたが、これは、どんな産業・業種でも、実現できるはずです。林業再生・山村新興では、小規模零細事業者の熟練工が多く、その活用はもってこいです。
過日「椎野先生に学ぶ」と題する対談を、実施していただいたにも係わらず、私が開示すべき理論・技術を何も開示できなかったことを反省しています。また、その紹介を永きにわたり怠っていたことも猛省しています。今、ようやく、気になっていたことが終わり、安堵しています。そして古い昔の研究を、現代の読者諸兄に読んでいただけましたことは、とても嬉しいです。みなさん、これをどうか、現代に復活してください。塩地さん、大谷さんには、この2編のブログを、スポリと呑み込んで、ふたたび、熱い熱い対談を実施して欲しいと熱望しています。大谷さん、それを実業界に、早々に展開してください。それが、大きな希望です。(参考資料1から引用して記述)
(注1)フィードフォワード制御:目的を定め、これを達成するあるべき状態を推定し、これと合わせる制御。
(注2)自己組織化(self-organization):物質や個体が、系全体を俯瞰する能力を持たないのに関わらず、個々の自律的な振る舞いの結果として、秩序を持つ大きな構造を作り出す現象のこと。自発的秩序形成とも言う。
(注3)参考資料1、pp.79〜82から引用。
(注4)コンピュータ・リテラシー : コンピュータを操作して、目的とする作業を行い、必要な情報を得ることができる 知識と能力を持っていること。
参考資料
(1)椎野潤著:建設業の明日を拓く4 実践的情報技術、メディア.ポート、2009年10月26日。
[付記]2022年2月25日
[追記 東京大学名誉教授 酒井秀夫先生の指導文]
[指導を受けたブログ名:過去の研究(その1)生きていることの徹底的な究明(1) 生物的システムの特徴 2022年2月22日]
大谷恵理様
ブログ配信ありがとうございます。
今回、大谷さんと塩地さんとの対話に出てきた椎野理論とは何だろうかの解説です。椎野先生は企業活動や地球を生命体として捉えておられます。
生命は種の維持が何よりも大事な使命です。
そこで生命的システムの特徴をあげておられますが、なかでも「内部不安定性の保有」は種の存続のために重要だと思います。環境に適応するだけでは、限られた環境でしか生きられず、環境が変わったときに死滅してしまいます。その点で佐伯広域森林組合の柳井流通部長さんはすごいと思います。
システムが完結したと思い込むと、その時点で組織や産業は周囲から取り残され、滅亡の道を歩むことになります。
生命的特徴を物差しにして、企業活動を点検すると、いろいろな気づきがあるのではないでしょうか。
酒井秀夫