未来社会牽引銭湯の出現 牽引しているのは 老舗銭湯の息子のシステムエンジニア 

林業再生・山村振興への一言(再開)

2021年2月(№81)

 

□ 椎野潤(続)ブログ(292) 未来社会牽引銭湯の出現 牽引しているのは 老舗銭湯の息子のシステムエンジニア 2021年2月26日

 

☆前書き

今後一層進化して、人類を襲撃してくるコロナの悪魔に対抗し、疲れを癒し、コミュニケーションを進化させていく社会を作って行く上での中核装置「未来銭湯」が生まれています。これを構築しているスタートアップ(注1)は、老舗銭湯の息子のシステムエンジニア(注2)です。日本経済新聞の1月24日の朝刊は、以下のように書き出していました。

 

☆引用

「JR大崎駅(東京・品川)近くの住宅街にある銭湯「金春湯」。午後3時半の開店と同時に、角屋文隆さん(35)が作ったシステムが動き出す。

角屋さんはシステムエンジニア(SE、注2)だ。大学院を出て光学機器メーカーに勤め、研究用顕微鏡を巡るプロジェクトに加わり、パソコン操作で顕微鏡を操作するシステムを構築した。がんの発見などのため、顕微鏡画像をクラウド(注3)上で解析するシステムの開発を束ねた経験もある。

仕事は肌に合っていたが、2017年夏に転機が訪れる。家業の金春湯を支えていた母が怪我で入院。家業を継ぐつもりはなかったものの、人手がたりないからと銭湯の手伝いを始めると、エンジニアの目が銭湯の「伸びしろ」に向いた。

昔ながらの家族経営の金春湯では、毎日の来客数を数えていなかった。近隣では珍しくサウナを備えているのが売りだったのに、水風呂の冷え具合はイマイチだった。完成したアプリ(注4)を細かくアップデート(注5)するうちに、改善を重ねる余地がたくさん見つかった。」(参考資料1から引用)

 

☆解説

角屋文隆さんは、2019年の夏、意を決して、9年間勤務した会社をやめて、銭湯に専念することにしました。まずは、経営状況を把握するため、時間別の来客数や性別を集計するシステムを、1週間ほどかけて自分で作りました。ここで浮き彫りになったのは女性と子供の客が少ないという実体でした。

角屋さんは、女性や子供向けの対策を、次々と講じました。高性能のドライヤーや、柔らかい貸しタオルを用意しました。子供が入りやすいように、温度をぬるめに設定しました。さらに、子連れ客限定のイベントを開催しました。また、新たな客層を呼び込もうと、クラフトビールの醸造所を、自ら訪ね、好みのビールを買い集め、冷蔵庫を拡大して、豊富に準備しました。

これにより、売り上げは、1年間に8割増えました。こうして、ようやく経営が軌道に乗ろうとしていたのですが、この時、コロナの悪魔の襲撃を受けました。2020年4〜5月の売上は、前年に比べ半減しました。6月からサウナを再開したのですが、人数制限をはじめたので、せっかく来てくれた客を断ることもありました。

そこで作成したのが、来店者の状況を、番台に置いたタブレット(注8)からホームページに反映するシステムです。ここで、顕微鏡の画像を、クラウド(注3)で共有するシステムにたずさわった、メーカー時代のスキル(注6)が生きたのです。

システムは一晩で完成しました。交流サイト(SNS、注7)を通じて、顧客かち「お風呂へ行きやすくなった」「空いている時に行けるから、とても良い」と、多くの喜びの声が殺到しました。これも、会社時代に、SNSを愛用していたのが、凄く役立ったのです。(参考資料1、2021年1月24日、日本経済新聞、大蔵寛人を参照して記述)

 

☆まとめ

2020年度経済財政報告によりますと、日本のIT人材のうち、72.3%はソフトウエア業、情報処理・サービス業といったIT産業に従事しています。米国やドイツは逆で、IT人材の6割以上が、IT技術を活用する側の「非IT産業」で働いています。すなわち、日本のIT人材の配置の偏りが、ここに浮き彫りになっているのです。

これは、わが国では、新卒の採用の際にIT産業に人材が集中し、転職も業界内が多いため、非IT産業に人材が流れないためです。

これは企業内に当て嵌めてみても同様です。新卒で採用したITエンジニアは、情報システム部門に配属され、営業、製造・販売、メンテナンスなどの現業部門には、あまり配置されません。入社して経験を積んだあとも、現業部門への転勤は少ないのです。このことが、社会や産業が、次世代にむかって、激しく進化していく中で、会社が、これに対応していくのを難しくしています。特に、中小の企業では、これが著しいのです。

企業を次世代に向けて進化させていくには、従業員全員のITスキル(注6)を、向上させていく必要があります。角屋さんは、今、フリーのITエンジニアとしても活動しています。企業の委託を受けて、システム開発を続けています。どんどん進化し続けるITエンジニアリングの世界から、取り残されないように、頑張っているのです。

角屋さんが、銭湯の現場に、ITエンジニアとして入って見ますと、熟練の技が必要な風呂炊きの効率化、機械による浴槽の掃除など、ITを活用した金春湯のアップテート(注5)には、終わりがないことが分かりました。

また、角屋さんが進めている銭湯の改革は、実は、次世代産業の改革の骨格をなす核なのです。すなわち、この先も、どんどん進化して、古いものを壊して新しいものに入れ換えていく、社会・産業の改革が進む中で、人々の疲れを癒し、コミュニケーションを深化させていく「次世代の金春湯」は、その中核をなす重要な装置の一つとも言えるものなのです。すなわち、角屋さんは、次世代を牽引するスタートアップを誘導する、スタートアップリーダーなのです。(参考資料1、2021年1月24日、日本経済新聞、大蔵寛人を参照して記述)

 

(注1)スタートアップ:「始める」「起こす」「立ち上げる」という意味を持つ英語表現。スタートアップ=スタートアップ企業。スタートアップ企業:新しく設立された会社のこと。特に、新規事業領域を開拓する会社のこと。

(注2)システムエンジニア(SE、System Engineer):情報システムの企画、設計、開発、試験、構築、導入、運用、更新、修正、廃棄などに携わる技術者の総称。

(注3)クラウド=クラウドコンピューティング( cloud computing):インターネットなどのコンピュータネットワークを経由して、コンピュータ資源をサービスの形で提供する利用形態。略してクラウドと呼ばれることも多い。cloud とは英語で「雲」を意味する。クラウドの世界的な普及で、オンラインであれば必要な時に必要なサービスを受けられるようになり、あらゆる作業が効率化され、社会の創造性を高めることに成功した。

(注4)アプリ=アプリケーションソフトウエア:ソフトウエアには、アプリケーションソフトウエアとオペレーションソフトウエアがある。アプリケーションソフトウエアは、ワープロソフトなど何らかの特定の作業や業務を目的にしたソフトウエアである。

(注5)アップデート:(UD 、update):更新する、改訂する、最新の状態にするという意味の英単語。

(注6)スキル(skill):教養や訓練を通して獲得した能力のこと。日本語では技能と呼ばれることもある。生まれ持った才能に技術をプラスして磨きあげたもの、音楽家の作曲能力など。ここではシステムエンジニアの能力。

(注7)交流サイト(SNS:Social Networking Service):人と人との社会的な繋がりを維持・促進する様々な機能を提供する、会員制のオンラインサービス。

(注8)タブレット:コンピューターの入力装置のひとつ。板状のボードの上に、スタイラスペンと呼ばれる専用のペンで描くと、その軌跡の座標情報がコンピューターに入力される。普通のペンと同じ感覚で文字や絵を描ける。

 

参考資料

(1)日本経済新聞、2021年1月24日。

 

[付記]2021年2月26日。

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