クラウド(注6)からエッジ(注8)へ――。人工知能(AI、注7)の活用の舞台が、利用者に近い末端(エッジ)に広がってきました。今日は、障害者雇用を重点的に取り組む、テクノプロ・スマイルという会社をとりあげます。障害者たちも、凄い事業を進めています。ここにもエッジAIは、どんどん入っていくはずです。
林業再生・山村振興への一言(再開)
2021年9月 (№142)
□ 椎野潤(続)ブログ(353) 障害者雇用重点取り組み特例会社 テクノポリス・スマイル 大阪在住身障者リーダー 長野・三重・福岡在住身障者とネットで結び 顧客企業のソフト開発 2021年9月24日。
☆前書き
股関節を病んで、殆ど歩けない大阪市在住の山本智恵美さんは、長野、三重、福岡の各県に居住する6人の身障者の同僚と、ネットのチャット(注3)で、日々雑談をおこない、深いコミュニケーション関係を築き、顧客企業の社内ネットワークの設定作業をチームで実施しています。2021年8月9日の日本経済新聞がこれを書いていました。今日はこれを読んでブログを書きます。記事は以下のように書き出しています。
☆引用
「障害者のテレワーク(注1)に改めて関心が高まっている。新型コロナウイルスの感染拡大を背景に、就労意欲のある地方在住の障害者と、障害者雇用ニーズが高い都市圏の企業とをつなぐ効果のさが再認識されているためだ。十分に生かされてこなかった障害者の力を開花させ、企業の多様な人材活用を加速させる可能性がある。(参考資料1、2021年8月9日、日本経済新聞から引用)
☆解説
今日のブログは、技術者派遣大手のテクノプロ・ホールディングス傘下のテクノプロ・スマイル(東京・港)という会社を取り上げてブログを書きます。同社は、障害者雇用に重点的に取り組む「特例子会社」です。
テクノプロ・スマイルでは、2021年5月1日時点で、障害を抱える社員の2割に当たる60人が、14道府県でフルリモートで働いています。精神障害をもつ社員などは地域の支援機関に頼んで支援体勢を整えています。
通信事故を障害者が報告できないトラブルがありましたが、状況を丁寧に説明するように指導して対応しました。
また、求職者が内定に至たらない場合でも、半年の就労に向けた訓練のもと、再応募できる「リトライ制度」を設け、人材を逃がさない工夫も凝らしています。
今日の主人公は、同社にリーダー職で勤務する山本智栄美(51)さんです。智栄美さんは、幼少期にリウマチを患ったため、股関節が殆ど動きません。大学卒業後、障害者雇用で、一般企業に入社しました。それから20年以上、合計3社で働きましたが、関節痛が悪化して、2年ほど療養に専念せざるをえなくなりました。
関節痛は良くなりましたが「通勤は難しい」と考え、2018年春から、在宅勤務で働ける職場を探しました。
山本さんは、大阪在住ですが、東京のテクノプロ・スマイルとのご縁がありました。採用面接は全てオンラインでした。2019年3月に入社しました。研修も遠隔で、社内の人と直接対面したことはないのです。
今、山本さんのチームにいるのは、身体障害がある人が4人、精神障害がある人が2人の計6人です。いずれも、東京の本社にはいません。皆、各地におりネットワークでつながって仕事をしています。山本さんは、大阪の自宅から、長野、三重、福岡の各県で働く同僚に、仕事を割り振っています。山本さんの仕事は、仕事のクオリティの責任をもつディレクター(注2)です。
今では毎日20件程度の顧客企業の、社内ネットワーク設定作業などを、チームでこなしています。ネット上の朝礼で顔を合わせ、聴覚障害を持つ同僚とは、チャット(注3)でやりとりしています。
新型コロナの感染拡大の影響で外出を控える山本さんですが、パソコンがあれば仕事はできます。山本さんは「通信や感染リスクを気にせずに働ける。それに地域を問わずに、企業を自由に選べて頼めるのは素晴らしい」と言っています。(参考資料1、2020年8月9日の日本経済新聞を参照引用して記述)
☆まとめ
今日読んだ日本経済新聞には、「一人ひとり違った「普通」」と題した貴重な一文が出ていました。この記事は以下のようなことを書いていました。
「テレワーク(注1)が障害者の雇用機会を広げています。投稿プラットフォーム「COMEMO」では、究極のバリアフリー(注5)とは何かを意見募集しました。
小島雄一郎さんは、「バリア」とは障害のことで、障害とは「人」ではなく「社会」にあるといっています。そして物理的なバリアフリーが進んだ先にある心理的なバリアフリーにとって必要な視点が、「歩けるのが普通」といった「普通」という発想をなくすことです。「人には一人ひとり異なる普通があるのです。社会から「普通」をなくすことが、究極のバリアフリーつくることです」と指摘しています。」
このブログを書いて痛感しました。山本智栄美さんは、股関節を病んでいて、殆ど歩けません。でも、同僚とネットのチャット(注3)で、日々雑談を重ね、長野、三重、福岡に住む同僚と、心の中の壁をなくす努力を重ねています。その結果、山本さんは、この3県に住む同僚と、皆が2拠点居住(注4)をして、常に接し会っているように、心が通い会っているのです。
考え直してみますと、障害者は健常者から常に、心の壁を作られていますから、心が通じ合える人とは、できるだけ濃密なコミュニケーションを形成したいと思っていることでしょう。それは、人間にとって、本来、あるべき姿です。こう考えると山本さんと6人の仲間たちこそ「普通」であり、一般の健常者は、むしろ「普通でない」とも言えるのです。
この「普通」という言葉は、人々の心に壁をもたらしています。私は、これを徹底的に深く考えてみなければならないと思っています。(参考資料1、2020年8月9日の日本経済新聞「一人ひとり違った「普通」」を参照引用して記述)
(注1)テレワーク:勤労形態の一種で、情報通信技術(ICT、Information and Communication Technology)を活用し時間や場所の制約を受けずに、柔軟に働く形態をいう。tel (離れたところで)とwork(働く)の合成語。
(注2)ディレクター:制作物のクオリティに責任を持つ人のこと。制作現場において指揮を執る役割を担う。
(注3)チャット (Chat): インターネットを含むコンピュータネットワーク上での、データ通信回線を利用したリアルタイムコミュニケーション。チャットは英語での雑談のこと。ネットワーク上のチャットも雑談同様に、気楽に会話を楽しむ手段。
(注4)2拠点居住:都会に暮らす人が、週末や、一年のうちの一定期間を農山漁村等で暮らす居住形態。近年では、さまざまな2拠点での居住が行われている。
(注5)バリアフリー(Barrier-free):対象者である障害者を含む高齢者等が、社会生活に参加する上で生活の支障となる物理的な障害や精神的な障壁を取り除くための施策。若しくは具体的に障害を取り除いた事物および状態を指す語。
(注6)クラウドコンピューティング(cloud computing):インターネットなどのコンピュータネットワークを経由して、コンピュータ資源をサービスの形で提供する利用形態。略してクラウドと呼ばれることが多い。クラウドとは英語で「雲」を意味する。
(注7)人工知能(AI):AI(artificial intelligence)=人工知能:「『計算(computation)』という概念と『コンピュータ(computer)』という道具を用いて『知能』を研究する計算機科学(computer science)の一分野を指す語。人の頭脳の代わりに、記憶し考える機械システム。
(注8)エッジAI:クラウドで運用している人工知能(AI)と異なり、カメラ、ドローンなど利用者に近い端末(エッジ)で画像解析などを担うAI。あらかじめ多量のデータで学習させたAIを使って予測や分析をする利用方法が一般的。小型の端末でもデータをリアルタイムに高速処理できる。略してエッジと言う。
(注9)共生社会:障害者を含む全ての人々が、お互いの権利を尊重し、支え合う社会。地域住民や地域の多様な主体が、わが事として参画し、人と人、人と資源が世代や分野を超えて、丸ごとつながることで、住民一人ひとりの暮らし、生きがいと地域を共に創っていく社会。
参考資料
(1)日本経済新聞、2021年8月9日。
(2)椎野潤(続)ブログ(345特別) パラと歩む共生社会 夏期パラリンピック東京大会開会 2021年8月27日。
(3)椎野潤(続)ブログ(345) 多様な働き方できる自治体 10万人都市が上位を占める 2021年8月27日。ブログ(345特別)内に登載。
[付記]2021年9月24日。
[コメント]
[共生社会について]
夏期パラリンピック東京大会が、遺してくれたものは大きかったのです(参考資料2)。2121年8月27日のブログ(参考資料3)に書きましたが、パラリンピックでは、世界中から集まったアスリート達が、未来に向けて共生社会(注9)を築いていくことを目指していました。
すなわち、共生社会を目指すと言うことは、障害者を含む全ての人々が、お互いの権利を尊重し支え合う社会を作ることを目指すと言うことです。
ここでは、地域住民や地域の多様な主体が、わが事として、丸ごとつながることで、住民一人ひとりの暮らし、生き甲斐と地域を、共に作っていく、共生社会(注9)の形成を目指しています。
このブログで山本智恵美三さんが長野・三重・福岡の3県に住む6人の身障者と築いていた凄いチームワークは、それ自体が、この上なく素晴らしいのですが、そればかりではなく、地域社会全体を共生社会(注9)にしていく原動力にもなれるのです。
ここで解ったことは、身体に不自由なところを持つ人々の共同隊は、未来を構築していく時に必要な、強い信念とコミュニケーション力を持っています。社会改革のリーダーとして凄く期待される貴重な宝なのです。ですから、山本さんのチームのような集団が、共生社会形成に向けた社会改革を担ってもらう先導者に、育ってもらう事は、この上ない良策なのです。