森田俊彦ブ ログ 南九州の林業再生・山村振興(その2)「おおすみ100年の 森」サプライチェーン川中グループの討論

☆巻頭の一言

今日は、森田俊彦ブログ南九州の林業再成・山村振興。日本の未来社会作りで鍵を握る、林業から製材・プレカットを経て、家作りに至る「森林〜家作りサプライチェーン(注1)」の中で中核の一角を占める「中流の改革」について、報告します。(椎野潤記述)

 

林業再生・山村振興への一言(再開)

 

2022年4月(№202)

 

□ 椎野潤(新)ブログ(413) 森田俊彦ブログ 南九州の林業再生・山村振興(その2)「おおすみ100年の森」サプライチェーン川中グループの討論 2022年4月26日

 

☆前書き

今回は、第2回目の報告として、森田俊彦さんから寄稿された「おおすみ100年の森」サプライチェーン(注1)川中グループの討論(参考資料1)」を引用して報告をします。(椎野潤記述)

 

☆引用

「おおすみ100年の森」サプライチェーン川中グループの討論

森田俊彦

 

[川中グループの討論]前回に続きまして、今回は川中グループの木材搬出、流通、市場等に関与する3名の方々にお願いします。(森田俊彦)

 

討論参加者: 肝属木材工業 亀甲陽海   岡本産業 岡本孝志  大隅素材生産事業協同組合 吉重英生

 

森田: 先ずは自己紹介からお願いします。

亀甲: 木材チップ工場で仕事をしています。役職は、大隅銘木市場、九州素材生産事業体理事、木事協理事等です。

岡本: 素材生産と木材流通を実施しています。大隅森林組合理事です。

吉重: 素材生産と製材業を実施しています。大隅素材生産協同組合代表理事です。

 

森田: 木材価格、消費動向を今後どう見ていますか。物流の変化や市場機能は?

亀甲: 燃料(バイオマス)としての木材の年間消費量は変わらないだろうと思います。一方で、紙の原料としての丸太消費量は減っていて、この先の消費量の見込みは分かりません。

岡本: 物流の変化としては、トレーラーが足りないほど動いています。木材自体は、丸太も製品も以前に比べて多く動いていると思います。今後の木材消費を考えますと、やはり木材界も適正価格を作るべきだと思います。今回のウッドショックで住宅価格の木材比率が大きくなったと言われていますが、一棟あたりの木材比率からすると当たり前の比率になっただけです。われわれ木材界も相場動向に左右されない利益率を考えた適正価格で売る努力をしないといけないと思います。

 

森田:昭和から令和へと物流の変化を皆さんはどうみていらっしゃいますか?

吉重: 材の流れが大きく変わったと感じています。今回のウッドショックでその流れは更に明らかになりました。大手など企業体力の強い所へ、材が一極集中しているようです。銘木市場も島への材の流れが止まってしまったと聞いています。地元市場を通して材を手に入れる問屋さんの様な製材所は、材が手に入らず、ちょっとしたリフォームに対応していると聞きます。

 

森田: 母屋角などの小径木は搬出されていますか?また流通していますか?

亀甲: 市場からも母屋角(注2)が欲しいと聞きます。でも、実際には、山から出てこないのです。何故なら、仕分ける手間のいらない、バイオマス用C材として出しているからだと思います。

 

森田: 流通の改善点とスマート化(注3)をどの様に考えていますか?

亀甲: 正直言って、市場機能を変化させる時代にきていると思います。大形木や広葉樹などコアな材の取引は残した上で、大手製材所などへは山から直接搬出するようなシステム販売が良いのではないかと思っています。そのための「大型中間土場」があっても良いと思います。その際に重要なポイントとなるのが、市場機能の「安心・信用」をどう担保するかです。選別機能を第三者的な存在として市場が担っても良いのではないかと思います。

 

森田: 今は伐採現場で大型重機等で造材した時に、丸太のサイズや材積が一本一本分かる時代です。そんな中でスマート化、情報の共有はどう考えますか?

亀甲、岡本: 製材所と素材生産者の信頼があればスマート化(注3)は可能です。今は市場という第三者が山土場で検知し、川上川下両方から信頼されています。これが直接流れるようになった時、機械による選別とはいえ、川上と川下の数字に誤差がないと言う信頼が必要です。ここでは市場的役割をどうするかが鍵です。

 

森田: サプライチェーンのあるべき姿をどう考えますか?

亀甲、岡本、吉重: 木材界も適正価格を作るべきです。そのためにもサプライチェーン(注1)によるシステム販売は価格安定に必要です。

 

森田: 価格が安定し、連携するシステムができた時、川下は毎月安定的に数量が欲しいと思います。しかし気象状況等でそう言うわけにもいきません。その数量の確保はどうしたら良いと思いますか?

亀甲: 2度3度の仕分けは必要ですが、数量を確保するためにも中間土場が必要となるでしょう。

森田: 大型工場はある程度ストックを抱える必要があると思います。このストックの中から小さな製材所などが必要本数買うと言う構想は可能ですか?

亀甲: ありだと思います。そうなってきた時に、選別機があって信頼される仕分けができる大型製材所が有利になります。

 

森田: 川下事業体同士の横のつながり、川上と川下の縦のつながり。どちらにしても互いの信頼の上に連携する必要があるようですね。川上川下に願う事は何ですか?

亀甲: 川下に対して、とにかく原木を安定消費して欲しいと願っています。

 

森田: バイオマスや輸出材についての動向はどう見ていらっしゃいますか?

亀甲: バイオマス材は輸出材価格や量に左右されていると思います。

森田: そうなると、国内向けの一般材(A材)も輸出材に左右されるわけですか?

亀甲: 国内向けの一般材はあまりバイオマス材や輸出材の影響は受けていません。

岡本: 需要と供給のバランスがあるからです。大径木についても、今は安く取引されていますが、需要が増えて来れば値は上がるでしょう。

 

森田: 森林環境税の有益な活用策は?

岡本: 森林環境税(注4)は、林道整備に是非使って欲しいと思います。木材生産の物流は元より、観光、環境の観点からも大型トラックが安全に通れる程度の林道が必要です。道があるところに人は集まる。そして、山に携わる人を増やすという面では、移住者や仕事人に対して支援して欲しいと思います。地域おこし協力隊の「林業版」みたいな形が良いのではないかと思います。例えば林業を通して地域興しをする一般法人に対しての人材確保をする。山で働きたい都会の人たちと人材が欲しい山村の企業がマッチングする。その支援に国、県、あるいは自治体が直接森林環境税(注4)を使っても良いのではないかと思います。山を維持するにはさまざまな人材が必要です。このままでは地方の人だけでは、山は守りきれません。

 

森田: 脱炭素の取り組みは?

岡本: バイオマスが人気ですが、正直、原材料が足りるのか?と疑問に思います。バイオマス材は一本の木から一般向けの材を取った残り材が使われますが、山の状態を把握できていない現状で、どんどんバイオマス工場だけができても果たしてどうなのかと思います。

亀甲、吉重: 燃やす、と言うだけでなくへミセルロース(注5)や工業用リグニン(注6)など、木をもっと有効性のある使い方にしていく研究取り組みが、ここで特に重要だと思います。

 

森田: おおすみ「100年の森」構想協議会が目指すものは?

亀甲: 再造林を当たり前にしたい。全国的に伐期が来ているが、さまざまな要因で再造林が進まない状況です。なんとか、おおすみ「100年の森」で再造林を当たり前の事としたい。そのための取り組みを、さまざま行っていきます。

岡本: 山が人の目から見て、有益なものになること。地域の幸福社会構築に資するものになることが必要です。今は山は鬱蒼として、なかなか足を踏み入れる機会がないのです。整備されれば山と人が近くなります。

吉重 そして更に、山に、人々の目がいくようになれば、山で働く人への見方が変わってくると思います。山で働く人の地位が上がっていけばと思います。

 

☆まとめ

以下は、森田俊彦さんの「まとめ」です。

ありがとうございました。今回の川中グループお三名の方は、伐採、チップ、製材、市場理事など、ほぼ全般に精通されている方々でした。

サプライチェーンの構築には、やはり情報の共有と信頼関係、そして安定した価格と消費が望まれるものでした。

ハード面の市場機能、中間土場、山土場は、ソフトシステムの構築と共に、変化の時に来ていると理解できました。(森田俊彦記述)

 

(注1)サプライチェーン:部材の製造から製品の流れ、情報の流れを合理化して、顧客に提供する価値の増大を図り続ける総合的な活動。サプライチェーンマネジメント:サプライチェーンをマネジメントすること。森林〜家作りサプライチェーン:林業から製材・プレカットを経て、家作りに至る長大なサプライチェーン。上流・中流・下流の3段階を形成する。

(注2)母屋角: 母屋(もや)に用いる角材。母屋とは屋根の部材の一部で、屋根の最も高いところにある棟木と平行して配され、軒桁との間で垂木を支える部材のこと。

(注3)スマート化: 情報システムや各種装置に、高度な情報処理能力、管理・制御能力を持たせること。社会インフラのスマート化は、ICT(情報通信技術)が実現を目指す目標の一つといえる 。 スマート化された送電網はスマートグリッド、地区全体においてスマート化が進んだ都市は、スマートシティと呼ばれる 。

(注4)森林環境税: 森林環境税及び森林環境譲与税に関する法律(平成31年3月29日法律第3号)に基づき、市町村及び都道府県が実施する森林の整備及びその促進に関する施策の財源に充てるため、個人住民税均等割に上乗せして課される税金である。国の課す税金であるが、実際の徴収は個人住民税に併せて市町村が行う。その収入額は、森林環境譲与税とし、市町村及び都道府県に対して譲与される。

(注5)ヘミセルロース:セルロースとヘミセルロースは、植物の細胞壁に見られる2種類の天然高分子である。天然のリグノセルロース材料の重要な成分。ただし、この2つのコンポーネントは化学組成と構造が異なる。セルロースが有機多糖類分子であるのに対し、ヘミセルロースは多糖類のマトリックスである。

(注6)リグニン:光合成により同化された炭素化合物が、更なる代謝を受けて合成される。高度重合して三次元網目構造を形成した巨大な生命高分子体である。

 

参考資料

(1)森田俊彦著:「おおすみ100年の森」サプライチェーン川中グループの討論、2022年3月16日。

 

[付記]2022年4月26日。

 

 

 

[追記 東京大学名誉教授 酒井秀夫先生の指導文]

[指導を受けたブログ名:□ 椎野潤(新)ブログ(412) 森田俊彦ブログ 南九州の林業再生・山村振興(その1)「おおすみ100年の森」サプライチェーン川下グループの討論 2022年4月22日

 

文月恵理様

 

ブログ配信ありがとうございます。

 

林業に精通しておられる森田町長が、鹿児島県内の全市町村長を個別に訪問されて、「林業再生」と「山村振興」を説いてまわられたのはすごいことだと思います。地域の特色を生かして、林業だけでなく、耕畜林連携がこれからは必要だと思います。

有馬さんと森田さんの対談で述べられているスーパーゼネコンとの共同開発による建材の需要が山を動かしていくと思います。

また、都市部の若いご夫婦が、木を伐ることが森林を破壊することだと思っている一方で、木造の家に住みたいという潜在需要があるとのことで、都市部と地域をマッチングさせるまさに森林環境譲与税の出番だと思います。そのためには、木材が多様に使用できる環境を整備し、大きな価格変動にも対応できるシステムを備えるとともに、文月さんもかつてご指摘のように、山側ではどんな質の丸太が、どのくらいの量あるかのリアルタイムの情報が必要になってくると思います。

 

酒井秀夫

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