林業再生・山村振興への一言(再開)
2022年5月(№207)
□ 椎野潤(新)ブログ(418) 林業の再生と山村復興への挑戦 対談 文月恵理VS塩地博文 再造林への道筋(その2) 2022年5月13日
☆前書き
今日のブログは、待望のブログの続きです。「再造林の高み」を目指して上り始めたブログの「再造林への道筋(その2)」です。
☆引用
対談 文月恵理 VS 塩地博文 再造林への道筋 (その2)
文月恵理 塩地博文
塩地 : 結論を急ぎたいと思います。文月さんの主張する「垂直型協同組合」とは、再造林や森林資源の維持のために、関係者が協同して一つの組織を作り、その利益を森林資源へ優先して戻させ、さもなくば森林は資源として活用出来なくなるとの警告と受け取りました。
文月 : 森林資源の活用には、山の持ち主(山主)、伐採をしている人、製材している人、建築している人、バイオマス発電を行っている人、その仲買を行っている人、運搬している人と、多数の利益相反者の方々が絡まっています。至る場所で、「高く売りたい」「安く買いたい」がひしめき合っています。例えば、高性能の林業機械を導入すると、その減価償却費またはリース料に収益が圧迫され、伐採量が優先されて、林業の継続性を無視した乱暴な作業が行われることもあります。装備や設備一つで、あるいは補助金の内容で、新しい利害が生まれては先鋭化することを繰り返してきました。それを相場という価格決定方式で、双方の折り合いをつけてきたのです。しかし、サプライチェーンの進化で、市場を経由しない取引が急増していて、相場取引というよりも、「相場価格を参考にした相対取引」が進んでいます。コロナ・戦争・円安の影響による海外からのバイオマス燃料の高騰もあり、大量発注を条件にして、安く買う人達が力を持つことを危惧しています。付加価値の高い製品を作る、要は儲けられる仕組みを作らないと、森林が投げ売りされてしまうという危機感があるのです。
塩地 : 「高く買う」仕組みを作るという事ですね。協同組合形式が最終目的ではなく、大型パネル技術を導入して、建材利益までも取り込み、地域内木造建築需要を押さえて、収益性を高める、その利益を高く買う原資とする、その流れだと良材も集まり、林業従事者にも応分の利益が回ってくる、そんな正の循環が始まるという理論ですね。それを難しくしているのは関係者の利益相反なので、一体化の組織を作り、もたらされる森林資源の範囲内で、利益分割していけば、争いは沈静化するとお考えなのですね。
文月 : 昨年のウッドショック、今年のロシア問題と、海外材の不足が長期化する可能性の高い今が、ゲームチェンジの最大のチャンスと思えます。他国から入手できないのだから、自国資源で賄うしかないのですが、それを進めるには山主を納得させる価格で買う必要があります。しかし一方的に高くなり過ぎれば、需要は鉄など別の部材に移ってしまう、だからコスト低減と高付加価値を両立させる生産イノベーションが必要なのです。そして、今までの林業成功モデルは、極端な言い方をすれば点の成功に過ぎないのではと思っています。その方々を貶めるつもりはありませんが、ある特殊事情、ある特定の人だから出来たイノベーションであり、他の地域や他の方々に応用できるモデルではないのです。誰もが再現可能な事業モデルとして成立しなければ、産業構造は変わりません。減っていくばかりの林業・林産業従事者の絶対数、それとは反比例する森林の資源量や成長量を考えても、一刻の余裕もないと思ってきました。
塩地 : 大型パネルが、文月さんの危機感を叶える万能薬だとは、決して思えませんが、一つの解になりえるのではないかと自負しています。垂直型協同組合も一つの解かもしれませんが、例えば、FSC認証木材(注1)に限定して高く買い取る方式、森林組合を解散して地域株式会社として地域生活者までも株式を取得してもらって利害相反を防いだりと、方法は色々ありそうですね。要は、文月さんの主張は、個益でもなく、公益でもなく、『共益』という事ですね。
文月 : そう言えるかもしれません。森林が個の財産でありながら、公益性をも担う対象であるために、個と公の間の力学に翻弄され続けています。補助金などもその一例です。しかし、補助金頼みだと自立性も創意も失われ、補助金の枠内でしか仕事をしなくなります。急激な人口減少が予見される日本で、何もしなければ地域から人はますますいなくなり、森を生かしつつ守ることが難しくなるでしょう。地域で暮らす人達の暮らしを安定させる『共益』を探し出す工夫がなければ、森林資源の維持も活用も進まないのではないかと思うのです。地域の荒廃が都市の劣化にもつながることは、前回述べたとおりです。
塩地 : 三回を重ねて、やっと垂直型協同組合の骨子が理解出来ました(笑)。また、大型パネル技術に何故に目を向けられたのか、それも無垢材活用を強く求められたのか、腹に落ちました。大型パネルは、オープン技術である事が、事業ライフラインです。誰でも参入して、誰もが事業者になれると、そのオープン性に開発者の魂をかけています。一方では、使用する木材に海外か国産かという産地を問いません。また、森林事業者にも開かれた技術ですが、住宅・建築事業者にも開かれています。従って、建築事業者が、海外木材を使って大型パネルにすることを阻みません。技術とは、そういうもので、排除ではなく、包含する能力を競うものです。この技術をオープンにし、広く世の中に訴求している以上、ウッドステーションが国産材に専念する事はありません。ウッドショック、ロシア問題の今は、多くの方々が国産材に関心を向けるでしょう。その期待に応えるだけと思っています。
文月 : その立場は何度も聞いていますし、理解しています。だから、自分自身が先頭に立って、国産材の普及を急ぎたいと思っています。専門家ではなくとも、木材を高く買い、無駄なく使うという解決の方向性に迷いはありません。その流れを示すことで、数々の知見や周辺技術を持った人々が集まって合流し、個別の課題解決の糸口を見つけてくれるでしょう。そう信じて、真っ直ぐ前に進みたいと思います。
☆まとめ
塩地博文さんは、以下のように述べておられます。「高く買う」仕組みを作ることが重要です。大型パネル技術を導入して、建材利益までも取り込みます。地域内木造建築需要を押さえて、収益性を高めます。そして、この利益を、高く買う原資とするのです。この流れにすることにより、良材が集まります。林業従事者にも応分の利益が回ってきます。正の循環が始まるのです。
これを難しくしているのは関係者の利益相反です。ですから、これを解決するには、一体化の組織を作り、もたらされる森林資源の範囲内で、利益分割していけば良いのです。争いは沈静化します。
結局、垂直型協同組合も一つの解かもしれません。でも、FSC認証木材(注1)に限定して高く買い取る方式とか、森林組合を解散して地域株式会社として地域生活者までも株式を取得してもらうなど、方法は色々あります。これは個益でも公益でもなく、『共益』です。
ウッドショック、ロシア問題の今は、多くの方々が国産材に関心を向けるでしょう。その期待に応えることが重要だと思っています。
文月さんの最後の一言は、以下でした。木材を高く買い、無駄なく使うという解決の方向性に迷いはありません。その流れを示すことで、数々の知見や周辺技術を持った人々が集まって合流し、個別の課題解決の糸口を見つけてくれるでしょう。そう信じて、真っ直ぐ前に進みたいと思います。
(注1)FSC=森林管理協議会:国際的な森林管理の認証を行う協議会。1993年10月にカナダで創設されたNGO。生産を行う森林や製品、流通過程の評価、認定、監督を行う。機関の構成員は、世界各国の環境保護団体、林業経営者、木材業者、先住民族、森林組合など。 現在の国際本部はドイツのボンにある。FSC認証木材:FSCで認証された木材。
[付記]2022年5月13日。
[追記 東京大学名誉教授 酒井秀夫先生の指導文]
[指導を受けたブログ名:□ 椎野潤(新)ブログ(417) 林業の再生と山村復興への挑戦 対談 文月恵理VS塩地博文 再造林への道筋(その1) 2022年5月10日
文月恵理様
ブログ配信ありがとうございます。
今回は、塩地さんと文月さんの対談ですが、文月さんの「山村の荒廃は都市の荒廃へと連続していく」というご指摘は極めて重要だと思います。
塩地さんは、「木材が相場価格で変動し、コスト構造がブラックボックスになっていて、損益分岐点が発注量で大きく変わる」とズバリご指摘されています。
林業のこの根源的な課題に対して、林業界ではどう考えているのか、いろいろな方にご意見を聞きたいところですが、文月さんは、「収益構造を強化するしかなく、そのためには、大型パネルを活用して利益を拡大し、収益事業として安定することが必要である」と明快にこたえておられます。
大型パネルは、斬新な建築スタイルで、コストダウンも大きいことから木材の流通改革であるともとらえることができますが、それだけではなく、このことが、再造林や森林の維持にも直結しているのだと、文月さんは再造林ができる種明かしをされています。
酒井秀夫