IT人材難 低賃金が拍車 求人倍率10倍 需要映さぬ待遇 転職の壁

☆巻頭の一言

今、世界は、人工知能(AI、注2)、IoT(注3)を中心にした先端IT技術が牽引して、急速な進化を続けています。一方、我が国の企業は、デジタル技術で事業を変革するDX(注1)を中核におき、既存の価値観や枠組みを根底から覆す革新的なイノベーションを起こそうと考えています。しかし、その大革新を牽引するはずのIT職が、驚くことに、日本国内企業で結局、人事的にあまり重用されていない扱いなのです。このままでは、日本の未来は、きわめて厳しい姿になると、私は、強く危惧しています。今日は、この危機感を持って、このブログを書きます。

 

林業再生・山村振興への一言(再開)

 

2022年7月(№221)

 

□ 椎野潤(新)ブログ(432)  IT人材難 IT職の低賃金に拍車 求人倍率10倍 需要映さぬ待遇 転職の壁 2022年7月1日

 

☆前書き

このブログは、日本の人事制度は、IT職のような特殊能力者の採用に対応しておらず、これにより、IT関連の人材難が続いていることを述べています。日本では、IT職への就職希望者がきわめて低調です。そのため求人倍率は10倍を越しています。結局、IT職になるのは、勉強が大変なのに、賃金が他職と比して低額なのです。それで応募者が少ないのが原因です。2022年5月29日の日本経済新聞が、この記事を書いています。記事は、以下のように書き出しています。

 

☆引用

「企業のデジタルトランスフォメーション(DX、注1)が加速するなか、IT(情報技術)人材の不足が強まっている。求人者数に対する求職者数の割合である求人倍率は、約10倍に急上昇し、全職種で突出して高い。IT職種の賃金が相対的に低いことが人材を集めにくくしている。背景には日本企業の賃金が欧米のように職種の市場価値に応じて決まらず、年功序列の要素が根強いことがある。DX推進(注1)の障害になりかねない。」(参考資料1、2022年5月29日、日本経済新聞(松井基一)から引用)

 

☆解説

パーソナルキャリア(東京・千代田)の大手転職情報サイト「doda」によりますと、IT技術職の毎月の新規求人率は、2019年には3〜5倍でしたが、2020年には初めて10倍を超えました。2022年3月は9.5倍と営業職(2.8倍)や販売職(0.4倍)を大きく上回っています。でも、新型コロナウイルス下にあって、あらゆる業種でデジタル化が進み、IT技術職の求人は拡大する一方で、求職者は伸び悩んでいるのです。

旭化成は2021年、DXエンジニア(注1)に特化した採用サイトを設け、素材開発への人工知能(AI、注2)活用など、自社のIT業務の魅力を訴えています。でも、従来の中途採用条件では、採用は難しいのです。

旺盛な需要に、人材供給が追いつかない理由の一つは、日本のIT職種の賃金が相対的に低く、働き手にとって魅力的ではないからです。dodaによれば、2021年のIT職種の平均年収は、438万円と2019年比で4%減ったのです。ITスキルを持っていても、充分に評価されないため、人材が流入しにくいのです。

 

海外では、職種ごとに賃金体系が異なるジョブ型雇用(注4)が浸透しており、賃金が各職種の市場の需給で決まります。米コンサルタント大手マーサーの2021年の調査によりますと、人材不足の米国や中国のIT・ネット職(上級専門職)の中央値は、全職種の中央値を8〜10%上回っています。一方、日本は2%低いのです。すなち、市場の需給が賃金に反映されていないのです。

日本でも、一部では、ジョブ型雇用(注4)が始まっていますが、なお、職種に限定されないメンバーシップ型雇用(注5)が多いのです。経団連の2019年の調査では、社外から専門人材を採用する場合、65%の企業が「一般社員と同じ人事制度を適用している」と答えました。「個別に処遇を決定(28%)」や「独自の賃金制度を設けている(6%)」は、少数派なのです。(参考資料1、2022年5月29日の日本経済新聞(松井基一)を参照引用して記述)

 

☆まとめ

ITスキル習得のコストは、割高なのです。転職のための基本知識を習得する専門学校などの講座は、通常3〜6カ月かかります。料金も30万〜60万円が相場です。コストに見合うだけの賃金が得にくいため、積極的にスキルを習得して転職しようという動機づけが働きにくいのです。

dodaによりますと2021年に、IT技術職に転じた人のうち、異業種出身は24%でした。販売・サービス職(50%)事務職(56%)の半分に止まっています。

総務省によりますと、DX(注1)を推進する際の課題として日本の企業の53%が「人材不足」をあげています。これは米国の27%やドイツの31%よりも凄く高い値なのです。すなわち、「人材不足」は、日本企業にとって最大の懸案になっているのです。

日本は、今、対策を急がねばなりません。官民をあげて、早急に、ジョブ型雇用(注4)を浸透させねばなりません。賃金に市場メカニズムが働くようにしないとIT人材の不足は解消されないのです。

現在、世界の技術進歩が、人工知能(注2)・IoT(注3)中心で、急速に進展している現状のなかで、日本企業は、DX(注1)の強力な推進を目指しています。でも現状は、すでに立ち遅れ始めています。これが一段と深刻なるに違いないと、私は強い危機感をもっています。

 

新時代は年功序列型では、対応できないと言うことは、古くから言われていました。現代社会で最も進化が著しく、日本の高い技術進化の推進を牽引しているIT職が、このような状況では、今後の日本の技術進化が、世界の中で更に遅れると危惧されます。国も企業も、ここで思考を大転換して、力強く走り出さねばなりません。企業の大転換は、もとより重要ですが、日本人、国民全員の意識の大転換が求められます。

林業再生・山村振興も、断じて蚊帳の外にいては、なりません。今こそ頑張り処です。(参考資料1、2022年5月29日の日本経済新聞(松井基一)を参照引用して記述)

 

(注1)DX(デジタルトランスフォーメーション、digital transformation、略語DX):トランスフォーメーション (transformation): 物の形態、外観、性質などをかえること。変革・変形。デジタルトランスフォーメーション: デジタル技術で事業を変革すること。既存の価値観や枠組みを根底から覆すような革新的なイノベーションをもたらすもの。略語がDXである理由は、「Trans」を「X」と略すことが一般的な、英語圏の表記に準じているため。

(注2)人工知能=AI(artificial intelligence):「計算(computation)」という概念と「コンピューター(computer)」という道具を用いて「知能」を研究する計算機科学(computer science)の一分野」を指す語。言語の理解や推論、問題解決などの知的行動を人間に代わってコンピューターに行わせる技術。計算機(コンピュータ)による知的な情報処理システムの設計や実現に関する研究分野。

(注3)IoT(Internet of Things):様々な「モノ(物)」がインターネットに接続され(単に繋がるだけではなく、モノがインターネットのように繋がる)、情報交換することにより相互に 制御する仕組みである。それによるデジタル社会の実現を指す。人とモノの間、およびモノ同士の間の新しい形の通信を可能にする。

(注4)ジョブ型雇用:従業員に対して職務内容を明確に定義し、労働時間ではなく成果で評価する雇用制度。欧米諸国では広く普及している。

(注5)メンバーシップ型雇用:従来の日本企業で取り入れられていた総合職採用・年功序列制度・終身雇用の雇用システム。メンバーシップ型雇用は新卒一括採用という特徴も持つ。職務内容や勤務地を限定せず、スキルよりも会社に合う人材を雇用する制度。

 

参考資料

(1)日本経済新聞、2022年5月29日。

 

[付記]2022年7月1日。

 

 

 

[追記 東京大学名誉教授 酒井秀夫先生の指導文]

[指導を受けたブログ名:□ 椎野潤(新)ブログ(431) 森林直販へ(その2)(司会)文月恵理 パネリスト 戸高壽生 柳井康彦(佐伯広域森林組合)椎野潤(椎野塾) 2022年6月28日]

 

文月恵理様

 

ブログ配信ありがとうございます。

 

今回は、佐伯広域森林組合戸高壽生組合長、柳井康彦流通部長をお迎えしての、森林直販へ(その2)、「佐伯スピリットのその先」です。

柳井さんは、諸先輩たちの歴史と苦労の上に、今の自分や佐伯広域森林組合があるとされ、戸高さんは、昨今の木材価格値上がりを一時的なボーナスとして、ここで生まれた利益を、佐伯循環型林業へ再投資し、大径材の有効活用、苗木の生産性改善、大型パネルの施主への直販に結びつけ、林業の本質を理解する、林業の未来を託せる人材の育成こそが責務だとしておられます。

柳井さんは、耐えるばかりでは人は育たない、「笑って前に進む」人間を育てていくことが、現場の責務だとされています。

日々、自然との格闘の中で、この精神を学んだとされています。自然から直接学ぶことに偽りはないと思います。

ここで、内村鑑三『デンマルク国の話』を思い出しました。デンマークがプロシアとの戦に敗れ、肥沃な土地を奪われました。士官だったダルガスは残された荒野にトウヒを植えますが、失敗の連続です。そこで、高山に生えているモンタナマツを植え、その間にトウヒを植えます。しかし、トウヒが根付くものの育ちません。そこで息子がある程度トウヒが育ったところでマツを伐ることを思いつき、トウヒが育つようになります。親子2代にわたってようやく造林に成功します。

ダルガス父子にはつねに希望がありました。ちなみにダルガスが立ち上げた事業体は現在は大きな林業会社に発展し、林業学校・造園学校も経営しています。

佐伯広域森林組合は、「笑って前に進む」スピリットで、サプライチェーンの最大価値の実現に挑戦して、大型パネルを施主までつなげようとしておられます。

椎野先生によれば、儲けが外部に流出することなく、佐伯内部に蓄積され、もはやサプライチェーンという枠を超えて、垂直統合に近づいています。

先導者は常に孤独で、遠くの松明を求めて孤独に耐えながらも前に進む人達が先導者になるとされておられます。

佐伯広域森林組合の先導者たる力は、「伐ったら植える」という精神に潜んで、それを「笑って前に進む」力に換えています。

文月さんは、「森林直販」は、地元の木で家を建てるという、私達の先祖が普通にやってきたことを、デジタルの力を利用して復活させることであるとされています。すなわち、健全な森を維持しながら木材を届ける人々とつなげ、快適な住宅を得る資金を、山と地域に循環させる試みです。是非、前進していきましょう。

 

酒井秀夫

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